魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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大変お待たせいたしております
書籍二巻の作業はずいぶん前に一段落しており
インプット作業や書き溜めなど進めているところですが
ひとまず投稿できる分を投稿します


第六十七話 よわむしうさぎはナニ見てはねる-1

★★★

 

 

「む……むぅ……むむむむ…………」

 

 魔法少女エターナルシーズ、本名四季織巡(しきおりめぐる)

 虚念と戦える"今"以外を認められへんっていじけとったうちを救ってくれた、白羽さんが立ち上げたプロジェクト、ハロウズアカデミーが一段落した。

 

 虚念のルクスリアがやらかしよったり、うちも見てた生徒のセレスティフローラがめちゃ頑張ったり、それを思い返しうちが後方師匠ヅラでドヤ顔キメたり。

 そんな感じで、慌ただしく過ぎた日々も落ち着いた今日というこの日、うちは自室のPC前でむんむん唸り声を上げていた。

 

 モニターに映るのは、うち宛の打診メール……つまり、アカデミーに影響を受けた、コラボやコーチング希望メッセージの数々や。

 

「なんだなんだ、珍しく事務仕事もやってみたいって代わったかと思ったら。まさかまーだ他の魔法少女と関わるのにビビってんのか?」

 

 そんなうちに煽るような言葉をかけるのは、相方の赤い人魂みたいなマスコットセキオウ。

 確かに、白羽さんと出会う前のうちは信じてた居場所を失ったり、この子ならと思ってた魔法少女への期待を裏切られたりで散々やったが……今は違う。

 コイツ自身も口にした言葉ほどには、本気で思ってないんやろうなって伝わりながらも、うちはツッコまずに返した。

 

「ちゃうわちゃうわ。普通のコラボやコーチングもええんやけど、"そういうの"はアカデミーの方でやっちゃったからなあ、と思ってな。どうせ誰か選ぶなら、うちも得るもん多いほうがおもろいやん?」

「まあ……そりゃなあ。それにお前からしたら、シラハエルに関われるような何かに繋がるものが一番だろうしな」

 

 そう、訳知り顔で頷くセキオウに、少しほっぺたの熱を感じながらも補足の言葉を続けた。

 

「べ、別に前みたいに全部が全部白羽さんに向いてるわけやないし……うちの意識全部が自分に向いた言うて、喜ぶような人ちゃうって分かってるし……

ただまあ……うん。あの人と一対一で関われたんはアカデミーの打診で相談したときが最後って考えると……そろそろ、なあ?」

「そう思うならクリスマスんときの打診、変な意地張らずに受けときゃ良かったのになあ……あれからちっとは普通の遊び方も勉強してただろ? リベンジ申し込まねえのか?」

 

 苦渋の決断で申し入れを断ってからの、うちを見ていた相方から水を向けられても、うちは手放しでやろうやろう、とはなれない。

 

「……そりゃ、もし次の機会あったら最低限行けるようにはしたけど。よう考えたらあの人の『今どきの子の遊び方を知る』って目的は前回で果たしとるやろうし、じゃあにわか知識だけのガキを頼る理由なんて一個も無いわけやし。……うちから無理して言っても変な気遣わせるだけやし。あと……」

「あーわかったわかったっ! 多少前向きになれてもビビりなところは変わんねえからなあめぐるは」

 

 うちの理屈を切って捨てたセキオウに、ビビっとんちゃうわ、と口をとがらせる。

 ただ、こいつなりに心配しとるんやろうってことはわかるので、空元気とわかっていながらに展望を返した。

 

「だからこそ今は、ちゃんとうちに出来ることで役に立って白羽さんに見てもらうんが一番や。……よし、決めた。次や、次に来た打診は多少気分悪いって部分があっても無条件に受けたる。

見とれよセキオウ、今日のうちは事務から実務までバリバリこなせる、史上最優の魔法少女(キャリアウーマン)や」

 

 へいへい、と雑に流したセキオウへの、うちの反抗心に応えてくれたのやろうか。

 

 まさにちょうど、というタイミングで新たに届いた打診メッセージにうちは目を向け、て。

 

「────────っっ」

「…………めぐる?」

 

 完全に数秒、固まってしまったことでセキオウからかけられた心配の声。

 

 それもどこか遠い世界のように思えながら、うちに宛てられた、見覚えのある名前────

 かつて、うちと一緒に魔法少女活動をしていて、その活動を踏み台にアイドルという道を選んだ子からのメッセージを凝視していたのやった。

 

 

------------

 

 

 『エターナルシーズさん、変わらずお元気そうで何よりです』

 『私もアイドル活動頑張ってます、今度小さい規模ですがライブやります』

 『良かったら観に来てください、あともっと良かったら今の話とか色々しましょう』

 

 

「気分、悪い~~~~~!!」

 

 丁寧、かつうちからしたら回りくどい表現をやたら使われたメッセージ。

 それを要約し終えたうちが、腹の底から漏らした声にセキオウはやれやれと頭を振った。

 

「…………で、どうすんだ。ライブの日にこっち側で予定はねえが、前言通り受けるのか?」

「ぅ…………まあ、そりゃあ……自分で無条件にって言うたし……ここで引くとか、それこそ負け……と思わん?」

「そこで自信持てずに聞いてくるあたり、もう普段通りじゃねえんだよなあ……」

 

 痛いところを突いてくる相方に、うちはぐぐぐと唸り声を上げる。

 セキオウの言う通り、うちはこの誘いに対して……どう言い繕っても全くもって前向きにはなれていない。

 

 ある種、魔法少女への不信感の決定打ともなり、この世界に「しょーもな」とイジケることになった理由の一つな相手。

 アイドルとしてライブ、とあるからには魔法少女に戻る、やり直すなんて話でも当然無いやろうし。

 そうじゃないなら、あの子との道は交わらない……どころか、下手したらもっと根深い問題があるかもしれなくて。

 

(…………だって、アイドルの子らって、魔法少女と違って虚獣と戦う魔力が必要なわけやないし。…………そう考えてみたらそうや、うちらからしたら、商売(がたき)って言い方も出来てまう。…………っ、あかん、なんちゅうやらしい考え方すんねん、うちは)

 

 ふっ、とよぎってしまった発想が、とんでもなく打算的で汚いものに思えて、ぶんっと振り払うように首を振る。

 実際に魔法少女として孤独になった、一番沈んでいた頃ですら無かったはずの発想に、なんで今になってこんなことを考えるようになったんだろう、と自分が少しだけ怖くなった。

 

「…………っ」

「ん……っ?」

 

 と、そんなことを考えていると突如、乱暴さすら感じる勢いでモニター前にセキオウが陣取ってくる。

 そして、困惑しながら退()いたうちをよそに、改めてメッセージをじっくり文末まで読み切ったかと思う、と。

 

「────ふんっ」

 

 鼻を鳴らし、不機嫌さをわざと押し出すかのように吐き捨てた。

 

「めぐるが考えるまでもねえ、マスコットとして俺が今決める。やめとけ、こんな依頼は無しだ無し。

相手さんに悪気があったわけじゃなくとも、おめーがしこりを抱えたまま受けるメリットはねえよ」

「む……ぐ……! …………むぅ……っ」

 

 変な意地張ったまま嫌々受けても、向こうだって良い気はしねえしな、と苦笑いしながら付け加えたセキオウ。

 なんとか反論しようにも、その材料があるわけもなく、口から出るのはくぐもった声ばかり。

 

 結局、相方にここまで言わせてしまったなら、と。

 どこかホッとしたようなしょーもない気持ちも自覚しながらに、うちは諦めの息をつく。

 

「はぁ…………弱いな、うちはまだまだ。ちょっと成長したおもて歩いてても、どっか穴空いてるの見つけたらすぐ足止まってまう」

「穴に気づかず落ちるだけよりいいだろ……と、また来たな、今度も打診か?」

「えぇ……またか、今日はえらい来るな」

 

 セキオウが言うまでもなく、もう画面から離れてるうちにも届いた通知音。

 ただ、消沈した今のうちがそれを聞いて、すぐに気分を上げることなど出来るはずもなく。

 うちはくるんっ、と背中を向けて手を振りながら、相方に願い出た。

 

「まあ今日はもうええかな、負けや負け。ちょっと気晴らしに運動(きょじゅうがり)でもしてくるから。打診くれた人には悪いけど、見るのは明日ってことで────」

「差出人はシラハエル、用件は……配信を介さない特別コラボ? 前のクリスマスみたいなやつ……うおおわあぁッッ!?」

 

 そして、セキオウのセリフが耳に入ったと思った瞬間、気づけばうちは再びモニターの前にいた。

 思わず魔法少女体に変身し、身体ごと回転しながら元の位置についた速度がどれほどだったかは、風圧で吹き飛ばされたセキオウの悲鳴が物語ってる……ごめんて。

 

 そんな、セキオウの恨めしそうにしてるだろう顔にも目を向けられないぐらいに、うちはメッセージに釘付けになっていた。

 

 『魔法少女エターナルシーズ様 セキオウ様

 

 大変お世話になっております、魔法少女シラハエルです。

 改めての挨拶となりますが、第一弾のハロウズアカデミー企画へのご協力、誠にありがとうございました。

 おかげ様で多くの反響をいただき、また界隈内でも互助の流れが生まれつつあるのを感じております。

 

 さて、今回はお二人に、少々特別な協力のお願いがあって打診いたしました。

 内容としては虚獣との戦闘を伴うもので、是非ともエターナルシーズさんの力をお借りしたいと考えております。

 詳細は下記にまとめてありますが、所要時間はそれほど多いものではありませんので、エターナルシーズさん側でもご要望などありましたら────』

 

 書かれていたのは、変わらずビジネスっぽい内容ながら、出会った直後よりはずっと柔らかい印象が伝わる打診文。

 過去のメールと見比べて、アドレスや文体が違っていないかという検証すら、自分でもわけわからんぐらい楽しくこなしたうちは、それらが本物であることを確認する。

 

「……だってよ。日付は……さっきのアイドル志望がライブやるって日と同じか。つまり空いてるわけだが……」

「はーい、いきまーす!! いやー! アイドルの子の方も全然検討して良かってんけどなー! さすがに日付被ったなら白羽さん優先せんななー!!」

 

 自覚できるぐらいニッコニコの現金な笑顔で返したうちに、だろうな、とセキオウは苦笑する。

 そのまま早速、いつも通り了承の文を打ち込み始める彼の手を、うちは止めた。

 

「待って待って、うちやる、やらしてっ」

 

 普段はセキオウに頼んでいる返信も任せてほしいと胸を張り、うちはさっそく取り掛かる。

 学校の勉強とはまた違う難しさと緊張から、悪戦苦闘のうえ作ったのは、拙さにまみれたビジネス文。

 その送信に相方からGOの許可をもらえたのは、結局打診から一時間ぐらい経ったあとのことやった。

 

 

------------

 

 

「────で。コラボ討伐の方は……まあ、特殊な内容だがお前なら浮かれ過ぎなきゃなんとかするだろ。その後にこっちの要望を聞いてくれるって話はどうすんだ?」

 

 返信を終え、気分よく当日のことに頭を巡らせていたうちに、真面目な表情のセキオウが放った言葉。

 それはもちろん大事やけど、その前に気になることがあったうちは疑問をそのまま口にする。

 

「それやねんけど……実際どういうつもりで言うてくれたんやろ。白羽さんの方からデートっぽいの誘ってくれてるんやとしたら……なんや、嬉しいけどちょっと都合良すぎひんか、とも思ったり……」

「あー……それはアレだな、多分コンジキが進言したんだろうよ。前のクリスマスのコラボ打診のとき、めぐるが断った時の苦渋っぷりに同情的だったしな。あいつのことだし、他魔法少女とバランス取ってやろうって気遣ってんだろ」

「……………………菓子折りとか、持っていくわ当日。好きなもん知ってる?」

 

 セキオウや白羽さんはもちろん、気づかんところでいろんな人に見てもらえてることを再確認したうちが、なんとか絞り出した言葉。

 返した相方いわく、どうもコンジキさんは最近差し入れのケーキを食べすぎたと愚痴っていたらしく、甘い物よりはセンベイ辺りが無難だろう、とのこと。

 お菓子やらを普段避けてるうちにはあまり分からない感覚やけど、そういうことならと頭に入れ、改めてさっきの質問に答えることにした。

 

「で、その後やねんけど。とりあえず他の子みたいにスイーツ的なんの案内は出来へんわけやん。だからその代わりせっかくの魔法少女二人ってことで、どっか高い山とかキレイなもん見れるところ誘おうかなって。とりあえずムードあるところ行ってみるわ」

「なんかもうすでにふわふわだな……で、ムードあるところとやらに行った後はどうすんだ?」

「ふふーん、それやねんけどなー……なんと、とっておきの秘密の策があります」

 

 自信満々に腕組みをしたうちに、ほうっと意外そうな声を漏らした相方。

 どうせこいつのことや、うちがこういう対人の距離の詰め方なんてわからん、助けて~と泣きつくのを予想していたんやろう。

 

 しかしうちも成長する。

 白羽さんの一番になるために妥協無く考えることを決めたからには、いつまでもあわあわしとるわけにも行かへん。

 そんな強い意志を込めたうちは、口を引き結んだドヤ顔のまま腕組みし続けた。

 

「……………………言わねえのかよ!」

「言わへんよ、秘密の策やからな。これはサプライズ感も大事やから、事前に知ったセキオウの態度から漏れたりしてもあかん。……まあ見ててや、うちはやるで、セキオウ」

 

 セキオウのツッコミも想定内と返したうちは、改めて当初の予定通りうちの頭の中だけで組んだ作戦────

 その名も、春雷転進(しゅんらいてんしん)について考えていた。

 

 

 これは、まずうちという存在を白羽さんにただの魔法少女、ただの子ども以外と認識させるための計画や。

 

 やることは単純。

 十分なムードがありつつも、そこまで重苦しくもならない絶妙なタイミングを見計らって、一度うちは「結婚してみませんか」と口にしてみる。

 もちろんこれに白羽さんはOKなんてせんやろう、うちも彼が困る前にすぐ冗談ですと流して別の話題に移る。

 当日はこれだけで十分、後は無難に終わったとしても、思慮深い白羽さんなら後からでもきっとこう考えるやろう、「あれはただの冗談だったのか」「彼女はもしかして真剣だったのではないか」と。

 

 この作戦に至った理由は当然、フローヴェールから聞かせてもらった白羽さんの過去話がある。

 …………正直、あんなもん当の新雪千景さんが今その気になったら、うちらに勝ち目なんてあるわけ無いやんふざけんなや、と目眩が起こった。

 だからこそ今、彼女がその気になっていないだろう間に、なんとしても最低限同じ土俵に上がるのがマストや、とうちは思ったんや。

 

 とにもかくにも、まずはこれで意識させることが大事、そうでなくては始まらん。

 そうして、うちのことを意識してもらえる時間が増えたら、その後のあらゆる行動が彼にとって大きな意味を伴うようになる……はず。

 ……うちの口からはすぐに冗談や、と言ってるわけやしリスクは最小限、これは戦術的にやり得と言って良いやろう。

 

 

「完璧やな。…………完璧やんな?」

 

 大体本能任せな虚獣との戦いでは、それほど行わない事前シミュレートも、この大一番を前には欠かすことは出来ない。

 一人目を瞑って口を緩めながらもうちは、なぜかそわそわと動く身体を不思議に思いながらも、決行のその日を待ち望んだのやった。

 

 

★★★

 

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