魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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第六十八話 よわむしうさぎはナニ見てはねる-2

 

★★★

 

 

 そうして、うちは白羽さんとのコラボ当日を迎えた。

 コラボ相手は普段通りの輝く金髪と、純白のレオタードみたいな魔法少女姿で現れる。

 

 キラキラした……それこそ本物のアイドルにも負けてないような姿を前に、うちは上手く喋ることも出来へん。

 いや、喋れんどころかいざ始まった虚獣との戦いも普段では考えられんようなひどい有り様や。

 

 心は急いでいるつもりなのに、身体が全然ついていかずに、どの行動もモタモタノロノロ。

 違う、おかしい、こんなはずやないって言い訳の口も回らずに時間ばかりが過ぎていく。

 それなら考えておいた作戦……作戦、なんやっけ、なんやっけとパニクり出したあたりで、白羽さんが口を開いた。

 

「ふむ……十分です。本日はありがとうございました、エターナルシーズさん。おかげで一つ分かったことがあります」

 

 いつも通りの優しげな表情と声色で伝えられた礼の言葉。

 なのに、どこか寒々しさを覚えたうちが疑問を返す間もなく、彼は続ける。

 

「ここしばらく界隈を見渡してみて感じたのですが……やはり魔法少女という構造には問題が多く、このまま続けていても先の見通しは決して良いものではないでしょう。強者で知られるエターナルシーズさんでもこの有り様となるならば、なおさらですね」

 

 彼から投げられた、失望とも取れる言葉にひゅっ、と小さく息を呑む。

 それに、それは……今さらというか、今まさにそういう状況をなんとかしよう、てみんなで対策してるところのはず。

 

 もしかしてアカデミー以外にも何か考えが……とうちが弱々しい希望を持とうとした途端。

 彼は今までの凛、とした真面目な顔を崩した、へらりとした照れ笑いでうちに言い放ち────

 

 

「────なので……これからは魔法少女ではなく、アイドルとして頑張らせていただこう、と思います。幸い、これまでの活動のおかげで着いてきてくれるファンはたくさん居ますし、彼らも自分が危険から離れることにもちろん賛同してくれるでしょう。それでは、短い間でしたがお世話に────」

 

 

「────ッッッッ!!!!」

 

 

 ガバァっとベッドから跳ね起きたうちは。

 汗だくになった身体と、まだ薄暗い部屋を見渡して、ようやく状況の理解に至り。

 安堵とかそういうのも通り越した、おかしな羞恥心すら感じながら頭を抱えた。

 

 

「………………会う日にこんな夢見るて……コテコテすぎるやろ……」

 

 

------------

 

 

「……で、大丈夫なんかよお前」

「……大丈夫や、それよりほんまに顔色とかおかしなってないよな? いつも通りやんな?」

 

 そして、コラボ当日の朝。

 今度こそ現実であることを確かめるように、力強く地面を踏みしめて歩きながら、うちは隣のセキオウに繰り返し尋ねる。

 

 正直なところ、大事なイベント当日にいらんもん見せられて、影響なんて無いって言ったら強がりになるやろう。

 夢の中身が、うちが昔関わった子を意識させるかのような、よりによって白羽さんがアイドルに転向する、なんてもんやったならなおさらや。

 かといって、白羽さん当人にそんな腑抜けた表情も見せられん、となんとか気合を入れ直した。

 

「ちょっと……はよ来すぎたな」

 

 が、変な時間に目が覚めてそのまま起き出したうちは、まだ約束の時間の40分も前に着いてしまう。

 ため息をつくうちの身体は、ここが虚獣の発生が増加傾向にある区域に立っていることもあって、すでに魔法少女の姿になっていた。

 

「時間空いたけど……コラボ前に勝手に討伐始めるんはあかんよな。……準備運動でもして待っとくか」

 

 そう独り言がてらセキオウに伝えたうちは、トンットンッとその場で軽く跳ねる。

 そうして心を落ち着かせながら、今回のコラボで少しでもうちを好きになってもらうためにも、会ったときに何て言うか、どう会話を進めるかと改めてシミュレーションしようとして────

 

「あっ」

「むっ」

 

 すぃーっと、低空飛行をしていた白羽さん……いや天使の魔法少女、シラハエルさんと特に何のドラマも感慨も無く、ばったり遭遇してしまった。

 

 

「あっ、え、は、すぅっ、ここ、こんちはっすシラハエルさんっ。えっと……えらい、早いですね??」

 

 心の準備をしようとした矢先の遭遇に、慌ててアホなガキ丸出しの上ずった声を出してしまう女、四季織巡(しきおりめぐる)

 開始マイナス40分時点ですでに減点1がついた、と自分のアホさ加減に内心うなだれていると。

 意外やったのは向こうも同じのようで、青紫の宝石のような目を少し丸くしながら口を開いた。

 

「こんにちはエターナルシーズさん、来てくださってありがとうございます。自分はせっかくなので企画発案……おほん、言い出しっぺとして周囲の地形を軽く見渡していたところですね。もしかして、待たせてしまいましたか?」

「いやいやいや! なんとなく目が覚めたからはよ来てもうただけですし、全然っ! 大丈夫です!」

「承知いたしました。それではせっかく合流できたということで。少し予定を早めて、虚獣討伐を始めるのもいいかと思いますが……お二人は大丈夫でしょうか?」

 

 未だにテンパった返しをするうちだけでなく、律儀にもセキオウ含め問いかけるシラハエルさん。

 当然、うちらからしたら文句なんてあるはずもない。

 

 というか、このままここであたふたしてても恥の上塗りしかしなさそうやし、話題を変えてなんとかシラハエルさんからのポイントを稼がなあかん。

 と、そんな内心は隠しながらも、うちの中に姿を隠してたセキオウの許諾も出た、と伝えるとシラハエルさんは一瞬顔を緩め……そして、すぐに真剣な表情になる。

 

 

「ありがとうございます。それでは、肝心の討伐内容ですが……打診の文でもお伝えした通り、今回は特殊な形────"あえて配信をつけない、最低限の魔力だけで虚獣と戦う"というものにしたいと考えています」

「…………っ」

 

 そう、シラハエルさんの依頼はコラボという形ながら、実際にはコラボ配信を行わない魔法少女変身体で戦う、というもの。

 以前ルクスリアの結界に配信を封じられたことや、魔法少女ミリアモールが最低限の魔力で無駄無く討伐する姿を見せたことから、この発想に至ったようや。

 

 配信無しで自分らがどれほど戦うことが出来るのかってリミットテストと、もしもの際の予行演習を兼ねた、シラハエルさんらしい対策。

 戦いに関するひらめきがうちに関係ないところから出た、ということだけはちょっと複雑やったけど、それでもうちを頼ってくれてることは……嬉しい。

 

 やけど、会ってからのうちの緊張っぷりを見たか、やっぱり顔色やらに不安要素でもあったのか。

 シラハエルさんはもうひと段階顔を険しくし、心配そうに潜めた声でうちに問いかけようとした。

 

「……ただ、すみません。この企画はおそらく考えられているよりも難しく、重いものとなります。なのでもし、体調など少しでも懸念────」

「────待った、シラハエルさん。……もうおるわ、虚獣」

「むっ…………」

 

 が、うちはその話を途中でピシャリと切る。

 そして、先にうちの感知に引っかかった虚獣に意識を送ると、シラハエルさんもそっちに目を向けた。

 

 虚獣は……ひと目見た感じ、普段戦っている虚獣と比べても下の上ってぐらいで、ありふれた形のそれ。

 おそらくやけど、魔法少女体の今なら配信が無くとも十分勝ちは狙える、手頃な相手に見えた。

 

「事前の話通り、一人が戦って一人があと詰めでええですね? 今回うちが前出ますんで、難しいあと詰めの方はお任せしてええですか?」

「……! ええ、承知しました。責任を持って詰めますので、お好きな形で戦ってください」

 

 やけど、だからこそ。

 うちはその虚獣から一切目を切らすことなく、極限まで集中したまま問いかける。

 それに対するシラハエルさんの返事も聞こえていながら遠いところにあるかのように、クリアになった思考はエターナルシーズ(うち)の全てを戦闘に没頭させた。

 

 この依頼をもらったときから感じ取っていたこと……それは、この討伐において敗北は当然、討ち漏らしやヨソ様に被害を出すことも、絶対に、絶対に許されへんということ。

 通常の手段なら確実に倒せる相手に対し、こっちが勝手に縛るって形で戦う以上、完璧な勝利は最低限の義務であり、それ以外のことは何も考えるべきやない。

 

 少なくとも、うちが余裕やと気ぃ抜いてほんの僅かでも不要な被害を出そうものなら。

 シラハエルさんは確実にうち……やなくて、この企画をした自分自身を許せへんやろう。

 それが分かっとるうちは、それこそ五つの虚念(クィンク・ネブラ)と対峙する時にも負けないぐらいの覚悟をもって────虚獣との戦いに挑んだ。

 

 

------------

 

 

「────よっし。なんとか行けたな。……ムズいなあ、ミリアモールとか最初大変やったんやろな……」

 

 動体視力、身体の反応速度、単純な力……

 今まで無意識に振るっていたいろんなもんが、視聴者(みんな)からの魔力に頼っていたことを再認識させられるような、そんな戦いが終わる。

 今回の虚獣なら、身体に残っている分の魔力でも無理やりゴリ押し出来なくもなかったけど。

 より強敵相手でも通じるように、確実な回避とカウンターや連打を重視する……結果的にやけどシラハエルさんに近いような戦い方を意識した。

 

 そんな調子やったからか、まだ倒したのは一体だけやけど、中々にええ感じの疲労感がある。

 さすがにいつもやってるようにすぐに次……とはならずに、一度落ち着いて息を入れた。

 特殊な企画やしあっちからも確認したいこと……つまり、フィードバック的なもんもあるかもしれん。

 

 そう思って、シラハエルさんの方を振り向こうとして────

 

(…………あっ)

 

 うちはようやく、さっきシラハエルさんの話を切ったまま、なし崩しに戦いを始めてしまったことを思い出し……冷や汗をかきながら固まった。

 

 やばい、やばい。

 ポイントがどうとか考えてた矢先に、大事な話っぽいのを途中でぶった切ってしまうとか、なにやっとんねんうちは……と。

 

 自分がよく視聴者とかに言われてるように、戦闘狂であることは否定することは出来んけど。

 シラハエルさんに見せたいのは、戦いのことしか考えてないような浅い姿やないのに、と。

 

 そう思い、引かれていないか、それとも怒られたり呆れられたりしていないか。

 恐る恐るうちを見てたはずのシラハエルさんの方を振り返る。

 

「…………」

「…………ふふん」

 

 が、目を向けた先にあったのは……気のせいで無いなら、やけに嬉しそうに目を細めている天使の魔法少女の姿と。

 その横でさらに分かりやすく、いつの間にかシラハエルさんの横でドヤ顔をしているセキオウやった……何やっとんやあいつ。

 

「えっと、あの……シラハエルさん、さっきなんか言おうとされとったみたいですけど……」

「ああ……あれは何でもありません。自分が浅い杞憂をしていただけなので、お気になさらず。……ふふ」

「???」

 

 単に虚獣を倒せたから喜んでいるにしても、そこまで満足そうな感じになるもんやろうか。

 とりあえず怒られていなさそうなことにホッとしつつも、結局、二人してどういう感情でいるのか全然分からず、うちは首を傾げた。

 

 

------------

 

 

「…………ふぅ~~っ……」

「ふむ……これでなんとか感知範囲の虚獣は一掃出来ましたね。慣れない身体で戦っては移動の繰り返しで大変お手数をおかけしました。改めて、ありがとうございますエターナルシーズさん」

「いやいや、全然! こっちもええ勉強なりましたし……」

 

 大きく息をついたうちに、同じく慣れない戦いに滲んだ汗を拭いながら、シラハエルさんが声をかける。

 普段の虚獣との戦いは楽しさやとか、やり甲斐やとかが前に出るうちも、さすがに今回は緊張が勝った。

 もちろん、普段とは違う感覚で戦うことと、何よりシラハエルさんが後ろについててくれてるってことで別の喜びはあったけど。

 

 そしてうちが返した言葉も建前やない。

 いつもとは違う環境に身をおいた戦いは、身体の使い方や足運び一つとっても学べることはたくさんあった。

 直感のままに身体を大きく動かすのも、配信映えやったり威圧感を与えられたりで強みはあるから、完全に捨てることは無いと思うけど。

 力を使えないこういう場面で、必要なときだけ最小限で動くって引き出しが増やせたことは、うちにとっても想定外の収穫やった。

 

(というか当たり前やけど、戦いって意味でもうちはまだまだ完成されとるわけやないねんな……そもそもインヴィディアに一杯食わされたり、シラハエルさんに負けたりしとるんやから今さらやけど)

 

 この企画にあたって、シラハエルさんもうちが考えているような不安などとっくに承知で、ガッチガチに対策されてたんやろう。

 敵の攻撃の起こりみたいなんを見極めての、無駄のないカウンターやうち以上に最小限の回避……

 全部の立ち回りが洗練されてて、純粋な魔力量で上回るはずの虚獣が、まともに触れることさえ出来とらんかった。

 

(……負けたなあ……またシラハエルさんに負けた……ふへっ)

 

 得意分野である虚獣討伐で、完全に上を行かれた敗北感に、悔しいって気持ちはもちろんあるけど、そこは前のインヴィディア戦での共闘と同じで。

 四季織巡って存在がただのガキ一匹やって、世界から浮いた存在でもなんでもないって改めて言ってもらえたみたいで……どっちかっていうと今は嬉しさのほうが大きい。

 

(特に……この人に負かされるのはなんかこう……っ)

 

 と、背中からゾクゾク来るような感覚に思わず没頭しそうになるけど、それやったらなんか顔がクソだらしないことになるらしいからがんばって抑える。

 それよりも今は、今身についたものをちゃんと考えるのが先決のはずやし。

 

「…………最初、慣れたらこの条件で虚獣の討伐数比べ~みたいなんもちょっと考えとったけど。現状やと比べるまでもないですね、シラハエルさんエグいですわ。……なるほどなあ、ちゃんと見とったら回避動作するまでもなくカウンターぶち込める瞬間も結構あんねんな……足らん魔力だからこそ、あえて攻撃だけに回す場面もある……なるほど……ふんふん……」

「…………っ、ありがとうございます。エターナルシーズさんも初回からとても素晴らしい動きでした。声をかけて大正解でしたね」

 

(…………ん? なんかシラハエルさん、今のほうがホッとしとる?)

 

 つい目の前のシラハエルさんを置いて、取り入れられそうなことに夢中になってもうてたうちに、かけられた言葉。

 その声色は、不思議なことに虚獣を無事倒せたってタイミングよりも嬉しそうなものに聞こえた。

 まさか、対抗意識があった相手より上手く動けてやったー……なんてうちみたいなこと考えてるわけでもあるまいし。

 仮にそういう気持ちあっても彼が表に出すこともあんまなさそうやし、さすがに気のせいやろうか。

 

 

「────さて、こちらで事前にお願いしていた用件、つまりコラボ討伐は無事完了いたしました。つきましては、エターナルシーズさんやセキオウさんの方で何かございましたらうかがいたいと思いますが……いかがでしょうか?」

 

「…………………………? おい、めぐる」

「────っ! ぁ……わ、そ、そうですね。そうや、それがあった……!」

 

 そして、戦い(にちじょう)から日常(たたかい)へ。

 シラハエルさんの言葉に思考の切り替えが追いつかず、一瞬フリーズしかけていたところをセキオウに突っ込まれ、正気に変える。

 

(……うちが今、やりたいこと……)

 

 そう、事前の予定やとここからは、魔法少女体のままで高い山やらへ行って、いい感じのムードにする……みたいな感じやった。

 虚獣討伐で場所動くから、具体的にどことかは決めとらんかったけど、今からでも空に飛び上がって探せばそれっぽいところは見つかる……気がする。

 

「………………っ」

 

 でも、シラハエルさんが言ってくれたように。

 今日のこれまでを踏まえたうちが、ほんまにやりたいことを最初に考えると。

 

 緊張しながらも、今の一番素直な気持ちは、そのまま口をついて出てくれた。

 

 

「……えっと、それならっなんですけど。せっかくなんで……ええですか?」

 

 

------------

 

 

「────すぅ、こんにちは、白羽さん……お待たせしましたかっ?」

「……ふふ、いいえ。自分もいま来たところですよ」

「…………うぇへへ…………」

 

 それから数分後。

 うちはその場所……中心部から少し外れた、駅中の一角に立っていたシラハエルさんに、笑いかけながら挨拶をしていた。

 

 迎えた彼の姿は、さっきまで着はってた白い魔法少女衣装(いつものヤツ)やなくて、その上に着込んだんやろう春っぽいコーデの服。

 落ち着いた色のハイネックニットと薄手コートを重ね、下はメンズとして履いても行けそうな感じある、パンツスタイルやった。

 金色の長髪は全体は帽子で隠しながらも、ひとつに結ばれたそれがキレイに下へと落ちていて、結局神秘的な感じは隠しきれずにある。

 

 対するうちは、ニットに膝下丈のスカート、黒いタイツにショートブーツという、多少はいい感じ……に見えるはずのお出かけ着を見繕っていた。

 露骨に大人ぶっても引かれるだけのはずやから、ただ少しだけ、半歩分だけ大人(そっち)側にうちも行くで、と。

 そんな雰囲気をシラハエルさんにも感じてもらえたらええな、と思った。

 

 そう、今回うちがシラハエルさんにお願いしたのは、なし崩しで風情もクソも無かった今日の出会いのやり直し。

 一旦その場で別れて、あえて移動に使ったわけでもない近くの駅中で、もう一度待ち合わせする。

 擬似的にでも"普通の男女のデート"っぽい雰囲気を作り上げることで、最終的にうちを意識させるって目的の取っ掛かりにする、というわけや。

 

 この提案自体を断られたらどうしようって不安は、そりゃあった。

 ただ、シラハエルさんはこういうことには意外と"ノ"ッてくれるというか……うちが配信追い始めた初期の頃に比べ、配信者的なノリやエンタメも分かって合わせる感じが増えてきとる。

 その期待通り、うちの挨拶にもそれっぽい返しをしてくれたシラハエルさんに、うちは作戦成功の嬉しさもあいまった笑いが溢れ出てしもうた。

 

 …………なんか、女の子として、というよりはどっちかというと微笑ましいものを見るような。

 それこそお遊戯(ママゴト)を頑張ってる子どもを応援するような目つきやった感じもあるのは……気のせいということにしておく。

 

 

「────んで、です。このあとぉ……なんですけど……えっと、山……やなくてぇ……どうしよっかな」

 

 そして、感傷のままに普通のデートに入ろうとしたうちやったが、ここでまたも問題が発生する。

 それは、お願いを聞いてもらったことで当初予定してた、適当な山なり高いところまで、魔法少女の力を使って飛ぶ……なんて。

 そんな向こうからしたらようわからんことを提案する空気では、全然無くなってしまっていたってことや。

 せっかく普通の男女のデートって感じでやり直して、うちなんて私服にまでなったのに、こっからまた魔法少女体でごちゃごちゃやろうなんて、恥ずかしくてよう提案出来ん。

 

(やっばい……今日何一つ思ってた感じにいかん。……どうしよ、モタモタしてたら用も無いってことで帰られても文句言えんやん……!)

 

 そうとなると、早く別のもんを見つけて、二人で楽しめる何かを提案せんなあかん。

 せや、せっかく駅中なんやから見渡したら何かあるはずや、とキョロキョロと周りを見渡して────

 

「────────っ」

「…………ふむ」

 

 うちが、吸い込まれるように目を"留めてしまった"、一つの小さな看板。

 それに、遅れて気づいたシラハエルさんが、うちが興味を持ったのだろうと判断して話しかける。

 

 

「これは……近くの会場で行うアイドルライブの応援広告、ですね」

 

 彼が口にするまでも無く、うちは自分が見たそれがどういうものか理解し……だからこそ、固まってしまっていた。

 

「なるほど、自分たち魔法少女とは似て非なる形でファンと共に在る方々……確かに、色々と参考になるかもしれません。

ライブはちょうど今日もうすぐ開始、ということなので、もし他にご予定が無ければ観に行きますか?」

 

 ……これは、偶然であって偶然だけやない。

 虚獣、つまり虚念の数が多いところから討伐を回していたうちらは、気づかん間に悲喜こもごもな感情がよう渦巻く会場に近づいていたんや。

 

「……………………っ」

 

 シラハエルさんが提案したのは、うちがこのコラボ直前に打診を受けて……袖にしてしまっていたアイドルの子も参加する、ライブイベント。

 善意で気を回す彼の提案が、今だけは少しありがたくないな、と。

 うちは、そう感じてしまっていた。

 

 

★★★

 

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