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────もしご予定がないなら、活動の参考がてら、アイドルのライブでも観に行きますか?
うちが目に留めてしまった一つの広告に、追従するように興味を持ったシラハエルさんの提案。
やけど、急速に乾いたような感覚があるうちの口から出た言葉は、はいともいいえともつかないものやった。
「ぁ……やぁ……えっと、広告。……そう、そんなに大きなライブって感じや無いのに……駅に広告とかあるもん……なん、ですね……?」
それは、苦し紛れのごまかしのようでいて、うちの偽らざる本音の一つでもある。
なんでそんなに大きなイベントやないって話やったのに、最寄りとはいえ駅の中にまで広告なんてあんねん、と。
そんな、弱々しい恨み節を吐露したうちに、シラハエルさんは少し考えながらゆっくり回答する。
「ふむ……おそらくですがこれは、応援広告と呼ばれるもので。サイズや場所などにもよりますが、数万円ほどで出せたりするタイプもあるようですね。
主催者側が打つ広告の他、ファンが自発的にお金を持ち寄って広告を出す、という"推し活"文化が出て来ているようで、もしかしたらこちらもそうなのかもしれません」
「ファンが……広告を……あの子の…………」
「…………?」
本当にちいさく、か細く呟いたうちの声は、魔法少女体であってもシラハエルさんの耳にはちゃんと届かなかったやろう。
それでも、今のうちの様子にこれまでのテンパりとは違う何かを感じられたのか。
彼は、柔らかく微笑みながらうちに一つの提案をしてくれた。
「……ライブまではまだ少し時間があります。ライブに行くかどうかは一旦置いておいて、よろしければそこのカフェで少しお話でもしましょうか」
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「注文…………水だけで……いや、あかんな。えっと、ローストチキンサラダでお願いしますわ」
「そういえばエターナ……おほん、四季織さんはジュースやお菓子は口にされないんでしたね。……えー……では自分は……ぐっ、ベーコンレタスサンドで……」
静かなBGMが流れるカフェに入り、半分ぼーっと無意識になりながらも注文したうちに、シラハエルさんも合わせて伝える。
なんか、一瞬彼が注文したもんとは別のメニューに目を留めていたような、注文する際に変な未練みたいな間があったような気もしたけど。
彼のことやし、多分ブラックコーヒーみたいな大人なもん注文しようとして、今の背格好やと目立つから辞めたとかそんな感じやろう、きっと。
「────さて。先程お話していたこの後の予定、ですが。アイドルライブというのはあくまで仮の提案ですので、もちろん他のものでも大丈夫ですよ」
「ぁ……すんません、その、アイドルが嫌やとかいうわけやなくて…………っ」
そして、気を取り直してこっちへ気遣う言葉をかけてくれたシラハエルさん。
何かあったのか、とか他に行きたいところあるんか、とか彼からしたら聞きたくなって当然の言葉も出さない様子に、救われたような居心地の良さを感じつつ。
「…………いや。そう、やな……違うわ。多分……嫌やったんかもしれません」
「…………」
その距離感に甘えて、曖昧に誤魔化してしまいそうな返しを……うちの自我が、いや、と押し留める。
そして一度口にした素直な感傷は、このコラボ前にあったやり取りや、今朝見た夢の影響もあったのか。
自分でも驚くほど、スラスラと流れ出た。
「アイドル。……シラハエルさんもさっき言われはったけど、あの子らってうちらと似てる部分ありますよね。ファンが大事で、応援されて活動出来るってこととか。あの子らのこと、どう思ってますか」
「そうですね、仰っている通り共通する部分は多くあります。……ふむ……どう思うか、ですか」
「うちは────」
聞いておいて、答えを待たずに。
まるで追い立てられるように、溜まったもんを吐き出すようにうちの口は勝手に回り続ける。
「うちは……前に、ちょっとアイドルのライブについて考える機会があって……すごいヤなこと思ってもうたんです。
………………っその、『魔法少女からしたらアイドルって、似たようなことやってて、客奪いあってるみたいなもんやのに、向こうは命とか賭けてるわけやないやん』、みたいな……」
「……………………」
「────っ! 普段からこんなん思ってるわけやないですっ! その時、ちょっと嫌なこと思い出したりして変な気分になってたとかあって……! …………でも」
話を聞くシラハエルさんの沈黙に、勝手に耐えられんで出た言い訳みたいなセリフ。
それに、でもと一度区切ったうちはそのまま続けた。
「……自分でも、不思議なんです。魔法少女始めてしばらく、いろんな子と関わろうとしてた時とかも、こんな気持ちになることなんて無くて。
うちはうち、ヨソはヨソ。変な期待せんと自分がちゃんとやってりゃそれでええやん、で済んでた話やったのに。
最近になって、こんなこと考えるようになったうちは……成長しとるどころか、急にすごい嫌なやつになってもうたんやないか、て……っ」
話しているうちに、いつの間にかうちの視界は眼の前の人ではなく、まだ料理も運ばれてないテーブルだけを映していた。
…………また、ミスったって思った。
せっかくコラボ討伐も上手いこといって、シラハエルさんも機嫌良さそうに見えたのに、こんな重苦しい自分語りで空気を悪くしてしまった、と。
しかもその内容も、自分の醜い個人的な感情から来てるもので……彼からしたら気分のええもんやないやろう。
もし、シラハエルさんがアイドルのこと好きやったり応援しとったりしたらなおさらや。
言葉が切れたタイミングで、おそるおそる顔を上げようとするが、その動きも怖さから、亀か何かのような緩慢さになる。
顔を上げたら今度こそ、今度こそ失望してたり怒ってたりする顔があるかもしれん……いや、むしろそれが普通や。
そう思いながらも、判決を待つ囚人みたいな気持ちになりながらなんとか顔を上げると。
「………………"ありがとうございます"、四季織さん」
「…………ふぇ…………?」
なぜか、またも。
満足そうな笑顔を浮かべているシラハエルさんに……お礼を、言われた。
「おっと、すみません感情が先走ってしまいましたね。……念のため一点、確認なのですが。あなたがこういった感情を持つようになったのは……具体的には、アカデミーのコーチ枠として活動をした辺り……だったりするのではないですか?」
「え……あ、まあ……確かに、言われてみればそんぐらいから……ですね」
シラハエルさんの質問の意図が読めず、ふんわりした返答をしながらも。
言われてみれば、具体的な言葉となって出たのはアイドルからの打診を見たタイミングやけど、モヤモヤした感情自体はその頃から出始めていたように思う、と返す。
ますますよく分からない、アカデミーに参加するのがストレスで余裕が無くなってた、なんてことは無いと思いたいけど……と。
考え込みそうになったうちと対象的に、天使で大人の魔法少女はこざっぱりしたシンプルな笑顔で、言い切った。
「ならば、原因は一つですね。四季織さんがとても成長されたから、だと自分は思います」
「成……長……?」
呆けたうちのオウム返しにええ、と頷いたシラハエルさんは、そのまま続ける。
「四季織さんは、これまでのようなソロ討伐と違い、アカデミーで様々な魔法少女とコラボし……特に、セレスティフローラさんという生徒が一から成長する様を間近で見続けました。
それに加え、皆からの虚念の供給が不安定になり、存在が揺らいだルクスリアさんの苦悩も目の当たりにされています」
「…………」
彼の言葉で、ずきりっ、と胸が痛むような感覚があったのは。
まさにその通りで、あの子らのことを想ったときが一番、モヤモヤした気持ちが強くなるのを自覚したからや。
でもシラハエルさんは、そんなうちの濁った部分にまで手を差し伸べ続ける。
「今までは理屈として分かっていても、そこまで深く気に留める機会も無かった、ファンの応援という魔力がもたらすものの大きさ。
そして、それを得るために多くの魔法少女がしている努力。それを実感したあなたはきっと……自身のためじゃなく彼女たちのために、怒ってくださっているんだ、と。
…………今回、嫌な気持ちになって、その気持ちのまま誰かを傷つけたり、いたずらにぶつけたりはしましたか?」
質問にぶんぶんぶん、と首を横に振ることで否定すると、シラハエルさんは安心したように笑った。
「それならばなおさらです。あなたが感じたそれは醜い怒りなんかじゃなくて、新しく身につけた強さと優しさから来てるものなんだ、と。
勝手な推測もありますが、少なくとも自分はそう感じました。だから、ありがとう、なんです」
「────────っ」
照れ隠しからか、もしくはうちを安心させるためにしているのか。
へにゃ、と崩した緩いシラハエルさんの微笑みは、今朝の夢で見た顔と似てるけど、全然違う温かさがあった。
自分の嫌だ、醜い部分だと思ったところも成長の証やと、視野を広げることが出来たからやと。
うちよりずっと経験を積んでて、いろんなこと考えとる人に言われたら……自分がうじうじダラダラ悩んでるのなんて、アホらしいとすら思えてくる。
(……………………好き、やなあ。この人のこと、やっぱ)
以前、コラボで協力したり、組手って形で思いっきり殴り
そういう事をした時とは、全く違う大事な部分にじゅ~っ、て焼きごてでもつけられてるような。
そんな感覚に呆けながらも、うちはふと思った。
(ああ……多分、今なんやろうな。あの……作戦、やるべきなんは)
────
駅中やってことを忘れそうになるくらい、周りの人もまばらでBGMに集中できる環境もあって。
何より当初予定していた流れとは全然違ったけど、うちの弱い部分まで見せて、それにシラハエルさんが真剣に向き合ってくれたこのタイミング。
ここでなら、今頭に思い浮かべたことを、そのままポロっと言ってしまうっていうのも全然不自然じゃないし。
何より、うちが弱っていることが彼も分かってるからこそ……普通のタイミングで言う以上に深く刺さって、意識させるって目論見が叶う、と。
うちが戦いのときに頼りにしとる勘みたいなのは、そう強く囁いていた。
……………………でも。
「ありがとうございます、シラハエルさん。……シラハエルさんがうちらのことちゃんと見てくれてるのは……フローヴェールから聞かせてもらいました、昔あった千景さんとの出来事がやっぱ大きいんですよね」
「う……そ、そうですね。……改めて言われると中々にお恥ずかしい話ではありますが……ただ、ああした出会いで苦い経験も得たからこそ、今の活動に繋げられている、というのは事実ですね」
「同感ですわ。……色んな人のこと知るのって、やっぱ大事ですよね」
だからこそ、今のうちはその本能を抑えつけて。
四季織巡の弱みを武器にして同情を引くんじゃなくて、シラハエルさんが強いって言ってくれたエターナルシーズとして。
カッコ悪いところばかり見せた今日ぐらいは、意地を張りたいって思った。
「……んじゃあ、せっかくですし。うちだけが一方的に昔のこと知ってるんは不公平ってことで。良かったら、うちが魔法少女になるまでの話とか、聞いてもらったり出来ますか?」
この人なら、うちのこれまでのことを知ったって失望なんてせえへん。
どうせ弱み見せたんなら、いっそ出し切ってしまえ。
そうしてうちのことを知って、シラハエルさんがこれからもいろんな魔法少女を見る糧に、ほんのちょっとでも使ってもらえたら……今はそれでええ、それで十分。
作戦は……また、今度や。
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