「…………で。シラハ達が来たのって、"ワタシがおもい出した大事なこと"をききに来たから……ってことだけど」
自動ドアを抜けた先、受付で事前登録済みの来訪者確認を受け。
空調の効いた施設内に入ったことで、セレスティフローラが「ふわぁぁ~」と声をあげながら涼んでいるのを微笑ましく見ていると、ルクスリアの方から改めて確認される。
聞きに来た、とあるが正確には、ルクスリアが情報を伝える相手として自分を指名したため、協会……というかコンジキ様が申し訳無さそうに依頼をしてきた、という形だ。
とはいえ、自分としては配信をしていないオフの時間を彼女に使うことに、問題は何もない。
もとより彼女をアカデミーに引き入れた上、事を起こしたあとにも生存を願った立場として、定期的にルクスリアの状態を確認するべきと考えていた。
そんな自分にとっても、ちょうどいい機会と言えるだろう。
「………………ん~。えっとね、シラハ。……あと、まあ、ついでのセレスティフローラも。……その、さあ」
「…………」
「なんか雑ですが、呼ばれてるだけアカデミー時代より良くなってるんですよね……どうされましたの?」
そして、早速本題に入るかと思われた少女が、少し悩むように言葉を濁す。
アカデミーや先日のコラボ配信の経験などから、なんとなく彼女が言わんとすることを察してあえて黙り込む。
「……話ってのがね、いちおうわたしが今いる
「おお~いい提案、ですわっ。この機会にみんなで色々見れるなら素敵ですわねっ! 手が空いてて案内出来る職員さんとかいるですかしら、ブラウネ。お手数ですがちょっとコンタクトを────」
「ねえシラハやっぱこいつもう帰らせようよ!」
が、少女がなけなしの勇気を出す前に、自身の中に居るマスコットに声をかけ、善意の
憤慨するルクスリアをどうどうと抑えると、このまま意地を張ったりへそを曲げたりすることになっても不憫だ、と予定を変えて後押しすることにした。
「……そういえば、ルクスリアさんはここで生活されていましたね。自分たちも詳しいわけではないので、良ければルクスリアさんが知る範囲の案内などいただいてもよろしいでしょうか?」
「────っ!」
もとより、提供されるデータの貢献や比較的協力的な態度……そして何より、下手に悪感情を持たせて虚念としての自我を強めるぐらいなら、と。
監視下での一定の自由行動は問題なしとされている、と事前に本部側から聞かされていた。
それも踏まえた自分の提案に、ぱぁっ、と虚念の少女は表情を輝かせ──が、すぐにハッと気づいたように顔を背ける。
その直後、再びこちらを振り返った彼女の顔には、照れ隠しのようにどこか斜に構えた半笑いが張り付いていた。
「ん…………ま、時間あるからそれぐらいはいいよ。別に虚念のしごとじゃないとおもうけど? まあシラハが言うならちょっとぐらいはね」
……彼女が話す予定の"情報"を口にしたら、今日の用事はそれで済んでしまい、そこから無目的に連れ回すというのも彼女の立場上少しばかり難しい。
うっすらそれを感じ取っているルクスリアの、育まれつつある社会性を内心喜ばしく思いながらも、自分たちは彼女の案内を受けることとなったのだった。
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「じゃ、まずは今いるここね、中央棟? の受付ロビー。みての通りほとんど人はいません。ふつうの人が本部のここにくる用なんて無いからねー」
ルクスリアの紹介で改めて自分たちが眺めたのは、外の喧騒から隔絶されたような無機質さを感じるロビー。
彼女の言う通り、本部の中央管理棟にあたるここに今居るのは自分たちの他、受付カウンターの向こうに立つ女性スタッフ一人のみだ。
呼ばれるまでは邪魔しないように……とでも話が通っているのだろう、彼女は来訪者確認が済んでからは、自身は壁だとでも言わんばかりに存在感を消している。
「おねーさんの後ろにあるおっきな画面には、今は地図みたいなのがうつってるね。これは、魔力? とかからわたしたち虚獣がいつ出るのかって予想してるんだって」
マスコットたちに送られる虚獣の出現予測データは、自分たちもよくお世話になるもの。
さすがにここで見られるのはあくまで傾向の色分けレベルで、より核心に近い情報は別所でまとめられているようだ。
それでも、セレスティフローラが興味深げに眺めているのを見ると、ルクスリアは「まあ、これで
誇るような、それでいて自嘲するような微妙なニュアンスで笑う。
その後は結局、この場で見られるものはこれくらい、とさっさと奥へ歩を進めた気まぐれな少女を追い、自分たちは施設見学を始めることとなった。
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「えー、ここは大人たちみんながあつまっててなんか書類とか色々ある……事務の部屋? です。正直何してるのかはわたしも大してわかってません。インフラづくり? みたいな感じなのかな」
下半分が曇ったガラス張りの部屋をぺしぺし叩きながら、早速曖昧になりはじめた講釈をするルクスリア。
外から見える情報は多くないが、広めのフロアに並んだデスクに座り、山積みの書類らしきものとディスプレイに向き合う大勢の職員の影……という光景は、確かに虚念の彼女が興味を惹かれやすいものでは無さそうだ。
そう納得していると、「ならばワシが補足するかの」とマスコットコンジキ様が実体化し、あとを引き継ぐ。
「彼女の言う通り魔法少女専用道路や、避難の手配といったインフラ整備……の他にも、様々な形で魔法少女の助力をしておる。
例えばシラハエル殿が以前やったようなファンミーティングイベント、あれもマスコットの要請により認可されたなら、精鋭スタッフの手配をしたり会場貸し出しの交渉で間に入ったり。
他にも、負傷した魔法少女の通院調整や、身元保護のための各所
「そうですね……」
自分にとっても関わりが深い話題が上がり、同意を示す。
設営の場や交渉は自分もある程度関わったが、目に見えていない部分でも彼らの尽力に助けられたことは多数あるだろう、と改めて頭が下がる思いだった。
「はえ~……魔法少女って、わたくしたちのマスコット以外にも、様々な方が関わっておられるんですのね……」
「あたりまえでしょ? 直接のマネージャーぎょうむ? 以外にも、裏でやることなんていくらでもあるんだから。『目に見える仕事や魔力が全部じゃない』ってがんばってる人のことぐらい、考えられないようじゃね。目標の立派なおとな? だとかいう姿には程遠いんじゃない?」
「ぅぎぐ……自分も大して知らないって言ったばかりのくせに……」
感嘆を口にしたセレスティフローラを見るや、ここぞとばかりにルクスリアがチクチクと刺す。
得意げに口にした途中のセリフは、おそらく本部のどこかで実際になされた会話を覚えたのだろう。
(……それに、彼女はセレスティフローラの目標もちゃんと認識しているのか)
「ちょ、もう、おじさまも顔だけで笑わないでくださいませ。次、次行きましょう」
自分が感じていた微笑ましさが、表情に出てしまっていたのだろう。
逃げるような早歩きを始めたセレスティフローラに、自分たちは着いて行った。
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「ええとここは大会議室。今日は……あ、マスコットたちへのセミナーやってるね。豆柴っぽいのとかコウモリっぽいのとか見たこと無い子がいっぱいだ」
「あらぎゃわいい……! やっゔぇ、すみませんつい大声を……」
「炎上対策やコンプライアンスを中心とした講習中のようですね……お邪魔してもなんですし、離れておきましょうか」
「えー……次はネットミームのうち特に危険といいますか……魔法少女マスコットとしてうかつに使うと不適切、あるいはいわゆる"営業"などと見
自分が小声で提案した直後、講師役の大人の男性がなんとも言えない表情で一つの分野をあげる。
「使うだけで不適切……? 営業呼ばわり……? そのような理不尽なものが……? ちょっと興味ありますわね……」
「離れるぞ、セレスティフローラ殿」
「離れましょう、こちらはブラウネさんに任せて構わないものです」
「…………」
より語句に強さを込めた自分とコンジキ様、そして目を瞑り眉根を寄せながら無言で引っ張るルクスリアの手により少女が引きずられる形で、その場は離れることとなったのだった。
その後も、このような感じで各区画の浅いところを自分たちは見て回る。
ルクスリアとしては詳しい案内を時間をかけて……と行きたかったようだが、セキュリティ権限の都合上、今自分たちを連れていけるようなところはそこまで多くない、と。
権限レベルを示す各ドアの認証ランプをうらめしそうに見上げ、むくれていた。
「…………んーこれで大体回ったかな。あと1つか2つぐらいかも。んで、いま来たここも中まで入れたりはしないんだけど」
「…………っ」
そうして彼女が少し名残惜しそうに紹介した区画は、『虚獣対策本部』。
リラックスした雰囲気となっていたセレスティフローラも、そこに立った瞬間ピクッと背筋を伸ばしていた。
それは、自分たち魔法少女にとって特に関係の深いところということもあるが、防音でありながらも、何かしらを強く議論している緊迫した様子がここからでもうかがえたからだろう。
「虚獣、虚念……。当たり前ですがわたくしたちが戦う相手に関しても、たくさんの人が真剣に考えておられるのですわね……未だ謎の多い敵対者を相手に、どうすれば負けないか、倒せるのか……っ」
「……………………」
「……ぁ、いえ、当たり前ですがルクスリア様はもう別ですわよっ? おじさまも信じてらしてるんですし、もう仲間、お友達ですわ」
セレスティフローラが口にした言葉と同時、しまったとばかりに慌てて弁明するが、フォロー相手はそれほど気にした様子もなく鼻で笑った。
「ふん、別にいいよ、虚念で虚獣なのはほんとうだし、そういうはなしはもう、前にシラハと一緒に配信出来ておわってるもん。
あと別にまだあなたと友達になったわけじゃないし……ただ、まあ、そうだね」
『まだ』の部分をことさら潜めて呟いたルクスリアは、そのまま少し息を吐いて続ける。
「ここまで来ちゃったし、も、いいか。今日来てくれた理由の……"五つの虚念の話"、しよっか。ここでなら聞いたコンジキちゃんが、そのあと部屋の中の人らにおしえたりできるんでしょ」
「むむ……それは助かるが」
「でしょ? じゃあ話すけど……そのまえに今、みんなは五つの虚念のことってどれだけ知ってるの?」
本題を後回しにここまで連れ回した、と無意識の負い目のようなものもあったのだろうか。
殊勝な態度でうかがうように問いかけるルクスリアに、自分は脳に刻み込まれた記憶のままにすぐさま返した。
「空虚な皮で塗り固められた『虚飾』。
誰に聞かせるでもなく発露する『偏愛』。
認知した全てに不平を叫ぶ『羨望』。
自壊の渦に沈みながら手招く『自罰』。
そしてあと一つ……と、そううかがっております」
「……っ、インヴィディアのやつが言ったんだよねそれ。よくちゃんと覚えてたねそんなの」
「当時のセキオウさんが、動揺しながらもとても大事な情報だ、としっかり記録していただいていたので。無駄には出来ませんね」
すでに共有されている情報を提示すると、偏愛たる少女は一瞬目を丸くしたあと、ならば話は早いと彼女だけが知る情報に入る。
「わたしも最近ようやく思い出せた……というか、今までモヤがかかっていたところが少しだけ晴れてきたような、変な感覚なんだけど。……残り一体の虚念のカタチならわかるよ。
ヒトに変身するヴァニタスとか、乗り移るインヴィディアみたいなこと、もしかしたらしてくるかもしれないって思って。
直接言ったほうがいいんだろうなってシラハを呼んだの」
「────っ」
「ごくり……」
そう、虚念の厄介さを知る少女は言葉を切ったあと、自分とセレスティフローラが固唾を呑むのを確認し……
その敵のカタチを、口にしたのだった。
「────忘失のカタチ『オブリビオン』。
配信のたのしさとか、悔しさとかうれしさとか感動とか、
まえのインヴィディアっぽく言うなら、
今この時代なら、