「無尽、蔵…………」
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コンテンツ消費という感情の権化、という虚念に自分が強い意識を向けていると、対照的に深刻さを感じていない魔法少女が首をひねった。
「コンテンツ消費……それっていわゆるアレですわよね、最近SNSやショートでたまに見かける、なんとか中毒だとかなんとかガキとか言われるような────」
「セレスティフローラ、ストップ、ストップね」
淑女キャラで行きたい魔法少女が口にするには、少々危うい方向へ話が転がりそうだと悟ったのだろう。
セレスティフローラの相方マスコットブラウネが実体化しながら口を挟むと、「やっゔぇ」と少女は手を口に当てた。
ただ、それはそれとしてまだ納得しきれていないとばかりに、少女は疑問を呈する。
「し、失礼いたしましたわ。ただ……実際のところルクスリア様がそんな脅かすほどのやばい感じなのでしょうか? 今までの虚念と比べて、なんていうか……ええ、と」
「『悪意が感じられない』……セレスティフローラさんが覚える違和感はこれでしょうか?」
「そう、そうですわっ! 虚飾とか羨望なら人を騙したり嫉妬したり……っていかにも敵っぽい響きもしますけど、ただ楽しんでるってだけなら……なんならこの方も味方になったりとか……ねえ?」
「…………本当に、そう思う?」
自信なさげにしながらも、希望を持って
「逆だよ。
ルクスリアに視線で促された自分は、彼女の意図を引き継ぐように言葉を紡ぐ。
「これは良くない感情……そうわかっているのなら、無意識にしろそうでないにしろ、どこかでブレーキがかかります。
が、ただ楽しんでいるという感情にはそれがない、誰に咎められるいわれもない、と」
「…………あぁ~! なるほどですの、みんながみんな、忘れるのが悪いなんて思ってないから好きなように膨らんでいってっ! だぁから無尽蔵に近い、ですか……なぁるほど~~…………」
「……………………くっっっそやべーやつじゃねえですの!!!!」
そうして、理解が追いついたとばかりに大きなリアクションで少女は頭を抱えた。
そのまま、グネグネと身体を揺らす彼女の口からは危機感が漏れ出す。
「これまでの虚念も大概バケモンでしたのにそれ以上なんて……! こんなの、わたくしとルクスリア様が同時に戦っても果たして勝てるかどうか……」
「びみょーに自己評価高くなってんのなんかムカつくなあ……前みたいなわたしの結界無しで戦力になるの? ……ふふん、まあ心配しなくてもあなたにはそんな期待してないし、ビビる必要もないかもね」
「……もしかしてルクスリアさんには、何か対策の心当たりなどが?」
真剣に悩んでいながらも、どこかシリアスになりきれない少女たちの空気感に、むしろ安心感を覚えていると。
ルクスリアがこれまでの案内の様子と比較しても、どこか得意げな表情になったことに気づき、声をかけてみる。
「まあねー。虚獣の対策進めてるのは、シラハたちだけじゃないってこと。気になるならさっき言った関係してるってやつ……最後の
「してあげよっかも何も、ルクスリア様がここまでされてたのってめちゃくちゃ浅いとこだけの紹介なような…………」
「ぐっ、うるっさいなあ最後はちがうからっ! ていうか文句あるなら帰りなよさっさと!」
「普通に帰り道覚えてませんので、今見放されたら通路の隅で孤独死確定ですわ~~!!」
「っ、ふぅ────……」
「っ? シラハエル殿……?」
基本塩対応な虚念の少女と、たまに殴り返す天敵の少女。
そんな彼女たちの健全さも微笑ましいものだったが、それはそれとして、先程から自分がひっそりとしていた"とある重要な考え"。
頭の中を巡ったその熱を吐き出すように深呼吸をすると、自分は彼女たちの後をついて行った。
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「やあやあしょくん、やってるかね」
これまでと違い、我が物顔といった様相で一つのフロアに踏み込んだ少女ルクスリア。
各部屋に通っただろう彼女の声を聞くや、中から少し慌てたような声と足音が漏れ聞こえた。
「絶対あの子普段あんな肩で風切る感じでやってませんわ……」とはその様子を見たセレスティフローラの呟きだ。
自分が苦笑で返していると、程なくして白衣をまとった一人の青年が足早に現れる。
「あ、ああルクスリアさん、ようこそ研究室へ。お越しいただけるのは珍しいですがなるほど、そちらの方々が────」
「そだよー。話いっているよね? さいきん来てなかったから案内ついでに様子見に、ね」
ルクスリアの声掛けで現れた、インドア派という印象を隠そうともしない風体の青年。
彼はそのままこちらに若干ぼさついた頭を深々と下げ、少々早口に挨拶をした。
「ま、魔法少女の方々のご活躍は私たちも応援しております、いつもありがとうございます。研究室……正式には、『虚念動態解析室』の室長をさせていただいてます、
「こちらこそ、いつもサポートをいただきありがとうございます、シラハエルと申します」
「まあ……ご丁寧にありがとうございます、セレスティフローラですわっ! まだお若いのに室長だなんてすごいのですわね!」
一瞬、本名で名乗るべきかどうか迷ったが、あくまで魔法少女として迎えてくれている以上、ここはこの返しで問題ないだろう。
そんな自分に続いたセレスティフローラの賛辞に、浦道と名乗った彼は自嘲気味に返す。
「いやあははは……本来僕……私なんかより上に立つ実績のある人はいるのですが、みなさん配信カルチャーに明るくない方々ですので……消去法でお鉢が回ってきただけですよ」
「そーそー、実力っていうか成果だいいちだからねーここは。で、わたしも虚念として髪の毛とかのサンプル? あげたり、アドバイスしたげる代わりに自由に入ってるの」
「なるほど……ルクスリアさんは配信外でも普段からお役に立たれているんですね、とても素晴らしいことです」
虚念というこちらの常識が通用しない脅威に対抗するためには、型にはまった対応だけでは回らない……現場で戦う自分からしても、彼らの在り方は好意的に思えるものだった。
そういった色も込めた自分の素直な賛辞に、ルクスリアもまた「ふふーん」と胸を張る。
「で。最近あんまりこっちの
「ぅ……あー……それは、ですね」
「む……外しましょうか?」
ルクスリアがこの研究室が持つだろう何かしらの成果……当然機密であろうそれに触れたことで、一瞬言葉を濁らせた様子に声掛けをする。
が、室長の彼は少しだけ考えると、首を振って自分たちに向き直った。
「────いえ、ルクスリアさんの案内でいらっしゃった皆さまなら、むしろちょうどいいです。何より、このままだとどうしようもなかったところですし……良かったら、少し見ていかれますか?」
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「…………これは……」
「…………っ、むむ……」
そうして案内された部屋に鎮座していたものを見て、自分と、そして衝撃のあまりかいつの間にか実体化されたコンジキ様が同時に唸る。
ルクスリアが口にした「対策」という言葉と、ここが虚念をもとにした物質、データの研究をしていたということから。
おそらく何かしら虚念に有効な手段……それこそ、魔法少女に持たせる装具のようなものが開発されている、とは予想をしていた。
ただ、そんな自分たちが目にしたのは────
「え……これ……じゃなくてこの子? って……」
部屋の中央……ではなく、端の一角にある、透明な強化ガラスで仕切られた狭い空間。
大事に置かれている、というよりどこか押し込められたという印象も感じられるその場を、埋めるように据えられたシートに横たわっていたのは。
セレスティフローラが口にした通りの……少女の姿をしたものだった。
淡く、柔らかそうな植物をイメージさせるペールグリーンの髪で飾られた頭は、呼吸に伴う揺れ一つを見せずにただ静かに目を閉じている。
首から下は簡素なワンピースを着せられており、両腕や足はぴしっと伸ばされたものだ。
肌は全体的には自分や、セレスティフローラと同じような赤みがかった白色だったが、近くで見るとどこか人間や魔法少女とは違う、規則的な無機質感を感じさせるもので。
さらに見渡していると、関節を始めとした要所に、鉄でもプラスチックでもない不可思議な黒い物質が混ざっていることがわかった。
「────っ」
その物質が、尋常なものではないにもかかわらず、魔法少女としてこれまで何度も見慣れてきたもの……つまり、
自分たちの驚きを肯定するかのように、室長たる彼は口を開く。
「機械と虚念の特性を併せ持った彼女────コードA.E.G.I.S。開発途中、我々にそう呼ばれていたこの少女は。
その名の通り魔法少女たちの、そして世界の盾となって戦う願いをもとに作られた……史上初の人造魔法少女、と。
そう、なるはずでした」
そう、紹介した彼の口調は、悔しさと惜しさと……そしてこちらに対する申し訳なさを隠そうともしない、諦念に満ちたものとなっていた。