機械と虚念の特性を併せ持った存在、コードA.E.G.I.S。
魔法少女たちの盾……つまり、魔法少女のために戦う自分とある種同じような目的を与えられた彼女。
しかし、そんな少女の説明に用いられた言葉へ、自分は疑問を問いかける。
「『なるはずだった』……つまり、人造魔法少女として運用上の問題が発生した……ということでしょうか? 一見しただけでは、人と変わらない見た目となっているようですが……」
「そ、そうだよ。前にわたしが見たときより、ずっと完成にちかづいてるじゃん。前むずかし~ってなってた虚念体との融合もクリアできてるし……もうちょっとってかんじじゃないの?」
自分の言葉に追従したのは、虚念の少女ルクスリアだ。
以前から協力しており、この部屋にも自信満々に導いた彼女からして想定外だったのか、口から出たそれは焦りと困惑を隠せないものだった。
「おっしゃる通り素体……ハードウェアの出来は限りなく完璧に近いもの、と自負しています。なので、問題は彼女を動かすソフトウェア……つまり、中身の方となりますね。
……彼女は"この情勢において"虚獣と戦うにあたり、魔法少女として最も必要な素養を満たせなかったのです」
「……………………なるほど」
「必要な素養……? 戦わせるような操作が出来ないってことですの……? 以前のわたくしみたいに……」
「…………」
抱える問題のおおよそを察し自分が納得を返すと、セレスティフローラが問いかける。
主題である『必要な素養』を最初から身につけている少女が、ある種残酷な問いをするところを、ルクスリアは少しだけじっとりとした目で見ていた。
「人造魔法少女である彼女のソフトウェア……それは、AIとなります。
虚念体を用い頑丈さ、柔らかさを兼ね備えた身体に、配信により受け取る魔力。それらを最新の人工知能で御し、強敵相手に先陣を切ることで魔法少女の負荷を減らしたい……そんな願いで作られました」
「え……めっちゃ素敵なように聞こえるんですが、ダメ……ですの? メカっぽい子なんて漫画やアニメでよくお見かけしますし、最新のめっちゃ進化したAI? ならそれこそ、下手に慣れてない子よりもよっぽど上手く立ち回れそうな……」
「少々時期が……悪すぎますね。……もちろん、時期だけの問題とも限りませんが」
自分もまた惜しさが滲んだだろうつぶやきを返すと、彼も頷きながら続ける。
「セレスティフローラさんのおっしゃる通り、AIの進化はここ最近あまりにも目覚ましい。ただそのぶん、人々の受け止め方も落ち着いたものとはなっていないのが現実です。
その進化の過程と是非についてここで論ずることは不毛ですが……そうですね、この辺りの事情にはあまり触れられていないでしょうし、簡単に説明いたしますと。
現状、AIという存在には様々な意味と、様々な人の想いが複雑に絡み合いすぎていて、純粋な、魂からの応援を引き出すのに向かない媒体となってしまった……ということなんです」
「応援されるのに……向かない……」
至らなかった実力を、努力と応援の力をもってここまで這い上がったと自他ともに認めるセレスティフローラ。
納得を見せ始めた少女の神妙な様子に頷き、彼はそのまま結論を口にした。
「はい。そして、そういった課題をクリアする目処が立つ前に、人々の共有意識は強固になってしまいました。
なので優劣や是非の前、適性の段階でつまずいた"魔法少女として愛されづらい存在"……それが、彼女となってしまったわけなのです」
「……配信者としては、どうしても応援が不安定になる……ということですね。もし仮にそれら問題をパスしようと、あくまで普通の魔法少女としてデビューさせたとしても、上手くいく可能性は低そうです。
相手に求める理解が高いことからコラボも難しいですし、人と同じような扱いをしていては本来の強みも発揮出来ない、と」
あとを引き継ぐように自分が問題点を提示すると、「さすが、配信についてよくご存知です」と浦道さんは返す。
その後、みんなが考え込むように黙ったことで重い空気を感じたのか、彼はそのまま気を取り直すように笑いかけた。
「と……せっかく来ていただいたのに暗い話ばかりになりましたね。確かに彼女については運用は難しい、ということとなっていますが、それでもルクスリアさんの協力で得た成果は何も無駄になっていません。
このノウハウをもとに、魔法少女用の装具だったり、あるいは普通の人間でも使える虚獣対策の武器として、転用や再利用できないかなど模索し続けています。
きっと、魔法少女のための何かとして活かせるようにしてみせますよ」
「そう……ですの、転用……武器とかに変えられちゃうってことは、やっぱりこの子は……いえ、すみません、ですわ」
「…………」
思わず口に出かけた言葉を、恥じ入るように呑み込んだのはセレスティフローラ。
人造魔法少女としての利用が出来ず、転用という道が確定したならば、素材から再構成されるか、一部を分割して使うか……
いずれにせよ、この形のまま維持するというコストを支払う理由はない……というニュアンスは、彼女にも伝わったのだろう。
それに対し、例えば同じ魔法少女のような姿をしているからなんとなく嫌だ、かわいそうだというのは、個人の感傷によるものにすぎない。
そう、すぐに少女が切り替えられた理由は、この場に自分や浦道さんのような大人が揃っていることも関係しているのかもしれない。
(自分も……気持ちはよく分かる。しかし、結果的に魔法少女のためになるのならば、それも────)
「…………あ、あー。その、なんじゃ、浦道殿。彼女の再利用、ないし廃棄というのは……すでにそちらの結論として確定した話、なのじゃろうか?」
「…………コンジキ様?」
それも仕方のないことなのだろう────そう頭によぎったところで、口を開いたのはしばらく沈黙を守っていたパートナーのマスコットだ。
コンジキ様らしからぬ、歯切れの悪い途切れ途切れな口調ながら、強い意思も感じさせる問いかけ。
意外な横入りに驚く自分をよそに、会話は続いた。
「…………えっと、それ、は……」
「……そちらの都合ももちろんあるじゃろうが、その…………っ、もう少し保留、ということで止めてもらうわけには……いかぬじゃろうか?
彼女は……"魔法少女のためと、そうあれと願われて形作られたこの子"は、まだ何も出来ておらん。
まだ具体的な策があるわけでもないのじゃが、もう少し、もう少しだけでも……」
「ぼ、ぼ、僕も同感ですっ……!」
そう追従しながら実体化した茶色いネズミのマスコットの姿に、「ブラウネまで……」とセレスティフローラも呆気にとられたように呟く。
「この子の在り方は……僕らマスコットと同じ、ですっ……! それにセレスティフローラだって、本人すら見限っていた自身を変えることが出来たんですっ……! なのにこの子が、一度も機会を与えられないまま終わってしまうなんてっ……!」
「道理も何もない、はた迷惑な感情論を口にしておるのは百も承知じゃが……すまぬ、どうしても共感というべきか……本能的な忌避感が拭えぬのじゃ」
本能的な、忌避感。
話し合うまでもなくその想いを共有しているかのように、マスコット二人は頭を下げた。
「無論、ただで負担せよなどとは言わぬ。ワシらの身勝手な独断によるものゆえ、パートナーの魔法少女は巻き込めぬがワシらに出来ることなら────」
「────いえ、そこは巻き込みましょう。自分からも個人的に維持コストの負担……とまでいくと、あまりにそちらの領分を侵すことになりますが、出来る協力は是非したいと考えます。……セレスティフローラさんも、よろしいでしょうか?」
「ふぇっ!? は、はい、もちろんですわっ! 嬉しいですわっ! ていうかなんならブラウネ関係なくわたくしが言おうと思ってたところですわ~~!」
とはいえ、これまで散々世話になったパートナーたちにここまで言わせて、他人事でいる選択肢など無い。
これは彼らが自嘲したような青い感情論……というだけでは無く。
ここ最近で自分が強く実感することが多い『そうあれという想いを軽視するべきではない』、という確かな感覚にも押されてのものだ。
……ただ、この話を経た上で室長たる彼、浦道さんの顔色は……返答に窮した者のそれ。
気まずそうな表情で口を開くか開くまいか、と葛藤している様子に、少し性急すぎたことを詫びながら促す。
「────と、失礼いたしました。……やはり、中々難しそうでしょうか?」
「そ……う、です、ね。皆さまにだから話せる内情を少しだけ言ってしまいますと、彼女は虚念由来の素材を内部にも多く使っていることから……本来、維持コストのほとんどを配信魔力でまかなう想定だったのです。
なのでそれが出来ない現状、維持そのものがかなり困難な話となっており……そうでなくとも虚獣の強力化が進む昨今、目に見えた成果を早期にあげる必要性に────と、申し訳ございません、こちらは忘れてください」
「…………すまぬ、感情論で出過ぎた口出しをした。ぬしらの立場の難しさも、理解しておる……つもりじゃ」
「うぅ……すみません……」
室長としてはまだまだ若い彼が頭を下げると、それ以上にコンジキ様たちマスコットが頭を下げる。
強権をふるって要望を通そうとしたわけでもなし、あくまで一意見に対し、ここまで重く捉えられているのは……ここしばらくの何かを背負おうとされている姿勢と関係があるのだろうか。
予期せぬ形で重い空気となったためか、彼は気を取り直したようにいえいえ、と笑いかけると、今度は少し胸を張った。
「確かに、現状は難しいという話となっていますが、最前線という現場で活躍される皆さまからの意見、というのは貴重なものです。
上に話を通せば方針も変わる……とまでは約束出来ませんが、検討の猶予がもらえて、その間に新たな方策が見つかる可能性もある……かもしれません。
…………それに、私だってこの子をこのまま…………いえ、失礼」
そして、最後の方は囁くような小声で何事かつぶやくと。
ふっ、と肩の力を抜いたように、緩く笑いかける。
「コンジキ様は自嘲されましたが……いいじゃないですか、感情論。私たちは魔法少女やマスコットの方々と、人々の感情に日々の命を繋いでもらっている立場です。
それを
ご意見、確かに頂戴しました。必ずなんとかなる、とは言えませんが、正式な手続きに入る前にもう一度活かす道を探ってみますね」
その精一杯の明るさを乗せた鼓舞の言葉を最後に、協会の案内も一区切りとなった。
大人としての気遣いを感じる彼の言い回しは、決してA.E.G.I.Sの今後に明るい見通しが立ったわけではない、と想像させられるものだったが。
それでも、それぞれが出来る範囲で可能性を探すという方針で解散し────自分たちは、それぞれの日常に帰ることとなったのだった。
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「────これで、五体目ッ……!」
<うおおおお>
<やったか!?>
<OK LETS GOOOO>
最後に現れた虚獣の猛攻をかいくぐり、致命の一撃を蹴り放った自分は、虚獣の消滅を確認した。
協会に呼ばれた日から二日後、通常通りの討伐配信をしていた自分は、増援や予期せぬ事態に備える。
……幸い、六回目となる襲撃は確認できず、自分は警戒の糸は切らさないながらも小さく息をついた。
<ラストの虚獣結構強かったけどさすがです>
<締めの蹴りかっこよかったークリップ保存するわ>
<いやー今日は特にすごいもんみた>
(お疲れ様じゃ、シラハエル殿。四体目、五体目はかなりの手練じゃったが大事ないか?)
(はい、幸いダメージはほぼありません。強力な虚獣だった分、
……今回の出没の仕方はいつもと少し違うもの……でした、が……)
そしてコンジキ様からのねぎらいにも念話で応えようとして……少し、考えに詰まるというか、引っかかるものがあることに自分は気づいた。
自分が返した通り、今回の配信はあくまで通常の討伐でトラブル無く進行したが、終わってみれば虚獣の出方に違和感があったように思える。
というのも普段戦う虚獣は、よほど強力なものでない限り本能任せで力を振るう習性がある。
そのため、彼らが特別な連携などを見せて戦うことはほぼ無い。
増援があった場合は、初めてミリアモールとコラボ配信した時のような、乱戦となるのが常なのだ。
だが、今回は一体目から五体目まで、まるで順番待ちをしていたかのように倒すたびに現れた。
おまけにその強さは、一体目から段階的に強くなっていくという、まるで配信にあつらえたかのような規則性を持つ。
当然、ランダムで現れるのならこれも偶然の範疇、と言ってしまえばそうなのだが、自分の勘はこの状況にそれこそ
────と、その時だ。
「────悪くないものを観た」
「ッッッ!!!?」
聞き覚えのない声と同時、空間そのものが引力を持ったように思えるほどの、存在感を持つモノが現れた。
弾かれたように自分とコンジキ様が振り返った先にあったのは、スマートフォンと思われる小さな液晶を弄ぶ、ヒトのような何か。
それは、男性のような女性のような、大人なような子どもなような。
中性的……というより、大量の様々な人間を混ぜ合わせて平均化したような、一見すると記憶に残りづらい作りの顔と体格。
髪の色はすべてのペンキをぶちまけたような、いっそ清々しさすら覚える黒で、首から下は徹底的に特徴を排したようなプレーンな作りのパーカー、ズボンを纏っている。
その上で、ひどく目を引く特徴が、大きく二つ。
一つは、インヴィディアとの戦いで見た冷笑の仮面に似たつくりの、感情様々な仮面たち。
それらは、重力に縛られない動きで彼あるいは彼女の周りを、グルグルと目まぐるしく回っている。
あらゆるコンテンツを貪り、消費する虚念────ルクスリアが伝えた在り方を体現するかのように。
仮面の感情が移り変わる間も、ただ薄い笑顔を貼り付けこちらを凝視する本体に、自分は寒々しさを覚えた。
そして、特徴のもう一つは。
「────…………っっ」
バチバチ、バチバチ、バチバチと。
今にも弾け飛びそうな危うさを感じさせる音と火花は、忘れもしない。
膨大すぎる魔力を注ぎ込まれたセレスティフローラが、一時的に起こしていた現象に瓜二つで……それより遥かに禍々しい激しさを伴うもの。
仮面の動きに連動するかのように明滅する光は、それだけで人や虚獣に害を成すには十分過ぎるもの、とそう思わせるほどだった。
<これわかる、やばい>
<絶対虚念だ>
<大丈夫? 一旦離れない?>
自分が最大限の警戒をもとに構えていると、先ほどまでの弛緩した空気から一転、危機感に支配されたコメントが脳裏に流れる。
配信画面を通しても感じるその存在の異様さは、次の言葉を待たずして、自分と彼らに眼の前の現実を語るものとなっていた。
「
「…………魔法少女シラハエルです。義務、と言いますと?」
単なる性格の違いか、それとも消費の権化たる在り方がそうさせるのだろうか。
インヴィディアと比べ、その虚念の語り口調は端的で断定的に聞こえるもの。
ただ、その上で目と表情だけは純真な少年のように、爛々とこちらへの興味を隠さないものとなっている。
そんな虚念の歪さに、内心覚えた戸惑いを抑えながら。
情報を少しでも引き出そうと、投げられた単語を返す、と。
虚念は、そのまま期待感をありありと見せながら……臨戦体勢に入ったのだった。
「もちろん、"私たち"忘失の消費を
────私たちも舞台で付き合ってあげるから、