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『配信者としてのコーチングは裏で受けさせてもらう』……アイギスケープのある意味衝撃的な雑談デビューを終えたあと、シラハエルたちと少女の話し合いの末出た結論は、これだった。
それでも、まだ配信上で直接絡むという点には頭を下げながらも固辞した、アイギスケープの頑なさ。
そこはすでにシラハエルはもちろん、コンジキたちも予想していた範疇だったので、まずは彼女の最低限のフォローができそうだと言うことに、ほっと胸を撫で下ろす。
その上で、このタイミングでシラハエルは、アイギスケープと周りに向けて、金色に輝く長髪ごと深々と頭を下げた。
「本題のコーチングに行く前に。……申し訳ございません、アイギスケープさんに雑談配信を提案したのは自分ですが……ある程度こうした問題が出る可能性を考えた上でのことでした。
……今回配信視聴を止めたリスナーの方々にも申し訳無いですし、何らかの形で埋め合わせが出来れば、と…………」
「そ、それを言うなら、雑談がいいって勧めたのは私もなんだから、ママ一人の責任じゃないわ。……私もごめんなさい、アイギスケープ。ちょっと……今どきのみんなの見切りの早さを甘く見てたかもしれないわ」
「いえいえいえいえ! とんでもないですっ! 雑談をするべきって決めたのは私ですし、ああいう形じゃなかったらもっと大事なタイミングでみなさん居なくなってたかもしれませんし……!」
シラハエルとフローヴェールの自責の言葉を、アイギスケープは恐縮しながら否定する。
ただ、シラハエルたちにしても、アイギスケープが今はまだ独りで配信を回し切るのが難しい、と。
そう感じるきっかけになれば、という狙いも込めた提案たった一回で、ここまで劇的な結果が出たことは想定外だったのだ。
そして、最もショックを感じているのは当然アイギスケープ本人で、彼女は身を縮めながら口にした。
「それに……おかげで分かりました。盾として、そうあれとして生まれた私は戦い以外何もない、空っぽです。
そのこと自体は当然なのですが……それで肝心の視聴者さんたちが楽しめず、魔力が滞るようではダメです。
役割を……果たせません」
そう一度切ると、少女はだから、と続ける。
「だから、改めて聞きたいです。みなさんのように配信者として魅力的となるためには、どうすればいいのでしょうか」
「ふ……むむ…………」
「ん、う~ん…………」
真っ直ぐな物言いで水を向けられたシラハエルとフローヴェールだが、予期できていた質問でありながら唸るように考え込む。
「自分は……ご存知の通り、成人男性が偶然の事故のような形でデビューした形で……その特異性こそ注目されてはいますが、堅物なだけの人間性は、どちらかというとつまらないものに映っている可能性がありますね……」
「ママが堅物なだけっていう点には大いに議論の余地があるとは思うけど。……ただ、私は私で計算でキャラクター付けやってたからなあ……キャラ変えの難しさと繊細さは知ってるし、私がパッと考えられる対策を、慣れていないアイギスケープさんがすぐ取れるかっていうと……うーん…………」
そんな二人はもちろん、残るメンバーからしてもキャラクター性は重要な問題と理解出来るだけに。
すぐには答えを出しづらい、そんなひとときの沈黙が訪れていた。
「あ、改めて聞かれると難しいのう……根本的なところというか……どうすれば魅力的かなどが分かるなら、配信者は誰も苦労しとらんというか……
むむむ、ひとまず今こちらに向かってくれておる少女にも、ここまでの話は伝えてはいるが……」
「んあ、そういやあの子いませんでしたね。配信しとったんでしたっけ?」
そんな時、コンジキが呟いた言葉を気分転換とばかりに拾ったのはエターナルシーズだ。
そして、今目の前に置かれている問題に対し、からかい混じりに少女は続ける、と────
「そういや、アイギスケープは最初からめちゃ戦えとるけど、配信者適性は白紙って感じなんやな。そう考えてみたら、ちょうどあの子と────」
「────逆セレスティフローラが現れたと聞いてっ!! わたくしっ!! 参っ上っ!!!! ですわっっ!!!!!!」
バァンッ、とドアを開け放った少女、セレスティフローラが、全く空気を読まずにその場の淀みを吹き飛ばしたのだった。
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週末の昼下がり。
焼きたてのパンケーキとメープルシロップの甘い香りに包まれたそのカフェは、普段通りの穏やかな静けさ……だけではない、ちょっとした事件に見舞われていた。
事件とは、なんでも無かったはずの日常に、誰から見ても異様に華やかに輝く一角が生まれていた、ということ。
最初に客たちの目についたのはやはり、金色に輝く長い髪をハーフアップにまとめた、小柄で華奢な少女。
そろそろ暑くなる時期ながら、露出を抑えた服装に身を包み、神々しさを湛えた彼女は隠しきれない期待に口をゆるめながらメニューに目を通していた。
そんな彼女……いや彼を中心に、同じ目の覚めるような金髪をツインテールに纏めた快活そうな少女、パンケーキの濃い部分にも少し似た栗色の髪で幸せそうに微笑む少女、大和撫子を感じさせるさらりとした黒髪で力強さを表情に出す少女が周りを彩る。
そして最後は、グレイの髪に乗せた花冠と、他の魔法少女に比べすらっと高い背丈から大人びた印象……を醸し出しながらも、仕草の一つ一つに無邪気な可憐さを隠せない少女に引っ張られるように。
揺れる草のような柔らかな髪につけられた、曲がった硬質な二本角がアンバランスさを醸し出す小動物染みた少女が、キョロキョロと視線を回していた。
配信文化に明るくない身でも分かる、ただただ眩しく見える光景を作ったのは、魔法少女たち……その中でもとびきりの上澄みと言っていいだろう少女たち。
思わずスマートフォンを向けたりSNSに書き込んでしまいたくなる衝動を抑えさせたのは、ひとえに客たちの良識と忍耐の賜物と言えるだろう。
そんな一般人たちの苦闘を知るよしもなく、魔法少女たの中心にいる人物は、ちらりと周りの様子を窺いながら口にした。
「さすがに大人数ということもあり少し目立ってしまいますね……出来るだけ大きな声は出さずに楽しみましょう」
「ぅ……これほぼわたくし名指しですわね多分……承知しましたわおじさま。ささ、アイギスケープ様もごゆっくりお選びくださいませ」
「ぁ……はい、ありがとう、ございます……えっと、どうしようかな……」
そして、今回の主賓でもあるアイギスケープに対し、先輩ぶりながらも世話を焼くのはセレスティフローラだ。
配信者として魅力的になるにはどうすれば────先ほどそんな命題に当たっていた彼らの前に飛び込んできた少女は、迷いなく口にした。
「いきなり難しいことなんて後回し! 前は雑談のネタが無かったのですから、まずは喋れるネタを"楽しんで"仕入れるのが一番っ!
好きな食べ物を聞かれて答えられなかったことですし、早速ここにいるみなさまで、ハイパースイーツタイム突入ですわ~~!!」
「そ、それは……私の問題の解決としては少し遠回りと言いますか……みなさんに余計なお手間を取らせるだけの────」
「賛成です。名案と言えます」
「し、シラハエルさん……?」
まずは、楽しむ。
かつて自身がエターナルシーズから受けた
こういう場面で一番真面目な判断をくだせそうな、頼みのシラハエルが真っ先に賛成したことで、退路を絶たれてしまう。
そうして、アイギスケープと同じように意外そうに目を丸めるミリアモールとエターナルシーズ。
対照的に、そりゃそうだろうなと苦い顔を見せるフローヴェールとコンジキを連れ立って、少女たちはパンケーキカフェにやってきたのだった。
「────ところで、連れてきておいて今さらですが。アイギスケープ様も他のマスコットの方々と同様、食事とかは摂れるんですよね……?」
「あ……それは大丈夫です。正確にはこの身体は食物からの栄養を必要とはしていませんが……
配信者としての活動を意識して、擬似的な食事は可能になっていて、あとは他のマスコットのみなさんと同じように味わえる……はずです」
「補足しよう。ワシらのような虚念に近しい、念生物とも言える存在は、素材や調理過程に込められた"美味しくあれ"、"身体のためにあれ"という想いをありがたくいただいておる。人々の共有意識も大いに影響するので、味の感じ方などは、おそらくみなとほぼ変わらんじゃろうな」
目立たないようテーブルの影に現れたコンジキの説明に、マスコットの生態にあまり詳しくなかった少女たちが納得を見せる。
そうこうしているうちに魔法少女たちは思い思いのメニューを選んでいった。
運ばれてきたものの中でまず特徴的と言えるのは、『敗因が濁るものは摂らない』という主張に違わないながらも、少し場の空気に合わせたエターナルシーズの注文である、プロテイン入りの高タンパクパンケーキ。
「まま、言うてみんなのと違って薄味にしとるやろうけ、ど……ッ! んまッ……! ふぇ、なにこれ、こんな美味いもんなんっ……!?」
冷めてしまう前に届いた方から遠慮なく食べていきましょう、というシラハエルの提案にならい。
「お先に」とパクついた少女は、初めて触れた健康食でありながらも妥協のないソレにたちまち目を輝かせ、周りを和ませる。
また、そんな中でもアイギスケープは特に興味深げに、自身に刻み込むように呟いていた。
「プロテイン入りの健康食……今を生きるみなさんの企業努力はやっぱりすごい……それに、食べたいもの一つでも、人としての特徴は出せるものなんですね……なるほど……」
次にその場の少女たちの目を引いたのは、シラハエルの注文である生クリームマシマシのパンケーキだ。
「お、おじ様……こんな、いかにもカロリーっ! 甘さ爆弾っ! て感じのもいただけますの……? わたくしたちに合わせてご無理をなさっていませんか……?」
見るからにこってりしたそれは、若いセレスティフローラやミリアモールからしても心配が先に勝つような代物ではあったが。
当の成人男性、シラハエルは全く問題ないとかけてもいないメガネを押し上げる、染み付いたポーズをしながら語る。
「ご心配ありがとうございます、もちろん問題ありません。
甘さの話ですが、思えばグルメ番組などで名店を取材した際、『甘すぎなくて美味しい』といった言い回しがよく使われますね。
具体的にはどういう味なのだろうと長年疑問に思っていたのですが、この形態で楽しめるようになり理解しました。
アレは甘さが控えめというような単純な話ではなく、甘味に負けないよう高品質な素材を用い、さらに素材本来の旨みを引き出す調理工夫があってのものであり、まさに今回注文した品がそれを体現するものであることはすでにリサーチ────」
「冷めちゃうわよママ。はいあーんして」
「むぐぐ……っ、~~~っ♪♪」
取り分け用のフォークに取り付けた黄金を、熱弁を振るう小さな口に押し込んだフローヴェール。
一足先に慣れていた少女は、初見である彼の趣味に唖然とする友人と、目を細めて味に夢中になる当の恩人を見比べ、ゆるい苦笑を浮かべた。
そうしていると、初めて相まみえたシラハエルの素顔の一つに、魔法少女たちは思い思いのリアクションを取る。
「????? こんなもんまで持っててさっき自分はつまらん堅物とか言うとったんかこの人は……? ってか……、ぐっ……! プロテインパンケといい、前回行ったとき知っとったら絶対もっと良いアプローチあったのにっ……!」
「ほら……ママはこういうところへの評価はあまり見せない方が長続きするって、コンジキ様もプロデュースしてるっぽいから……」
「はぅわわわ……天使様、こういうので喜んでくれるんだ……そっかぁ……へぇ……っ!」
「
でも、シラハエルさんたちは配信で見せずに隠していた……? ただ全部見せるだけがやり方じゃないってことでしょうか……なるほど……」
そんな驚き半分呆れ半分の密談をよそに最後に届いたのは、パンケーキセット。
注文していたのは、今もまた、学びを取り入れていたアイギスケープだ。
小柄な外見の彼女が注文をするには、不釣り合いと思えるようなサイズ感に、周りはシラハエルへ向けたそれとは別の心配が勝る。
「それでは……コンジキ様、ハクシキさん、アントンさん、ブラウネさん、セキオウさん。みなさんと私で分けて食べてもらえますか?」
「む」
「えっ」
「ああ~……」
「あ、は、はい……!」
「聞いてねえぞ……言われりゃ食うけどよ」
が、正確に六等分で取り分けながらの少女の言葉に、マスコットたちは実体化しながら驚きや納得の声を上げた。
魔法少女たちももちろんパートナーそれぞれに分けるつもりでいたが、最初から完全に等分のつもりで選んだアイギスケープの様子に思わず目を奪われている、と。
「────あ、ごめんなさいみなさんも食べられますか? 私の分からで良かったら……」
「いやいや違うよアイギスケープさんっ! その……それだけでいいの? せっかく初めての機会なんだからもっと食べても……」
平気で自分の分も差し出そうとするどこかズレた少女に、ミリアモールが問いかける。
すると修道服を纏った少女は穏やかに目を閉じながら、自身の胸に手を当てて口にした。
「もちろんです。マスコットである身に、このような機会までいただいているんです。ならば私だけでなく、たくさん苦労されている、同じ成り立ちの先輩たちも味わってもらえる方が嬉しいです。
……それに、感想が私一人の主観だと、またズレた出力をしてしまうかもしれませんから。
では行き渡ったので私もいただきます…………あ、美味しいっ……」
少しだけ自嘲するような言葉も挟むと、そのまま口にした瞬間顔をほころばせるマスコットの少女。
周りのマスコットたちも思い思いに堪能している様子に、魔法少女たちは目を細める。
「確かに、甘味だけじゃなくて……香ばしさ? というべきでしょうか、口にした瞬間より、むしろ咀嚼した後の方に滲み出る感じがしますね……。バターの塩気や卵のコクのおかげで、すぐに次に手が伸びてしまう感覚が……なるほど……」
「やっゔぁい、腹パンパンなのに見てるとあっちも食いたくなってきましたわ」
「これ以上は魔法少女といえど体型維持がヤバいから、私たちは次の機会にしましょ……。にしても、ちゃんと食レポ出来てるじゃないアイギスケープさん」
すでに食事を終えたセレスティフローラやフローヴェールたち魔法少女が見守る中、もきゅもきゅと口に入れていくマスコットたち。
そして、自らの言語化に納得出来たのかしばらく夢中になって食べていたアイギスケープだが。
間もなく食べ終わる、という段階になったところで突如ぴた、と身体を止めたかと思うと、周りを見渡しながら口を開いた。
「…………シラハエルさん、ミリアモールさん、フローヴェールさん、エターナルシーズさん、セレスティフローラさん」
「はい、なんでしょうか」
律儀に一人ひとりの名前を呼んだマスコットの少女に、代表して答えたのはシラハエルだ。
するとアイギスケープは、少しだけ考えをまとめるように悩んだかと思う、と。
意を決したように、その問いかけをしてきたのだった。
「────今、ここにいるみなさんを、この時間のことを……この機体に
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後日。
アレから一度討伐配信を挟み、さらにその次に行われた配信日。
その日は、人造魔法少女アイギスケープにとって極めて重要な機会を迎えることとなっていた。
「今日はお集まりいただきありがとうございます。……もう一度、話をしてもらえますか?」
その日とはつまり……二回目となるアイギスケープの鬼門、リスナーに向けた雑談回のリベンジだ。
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