魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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第二章
第九話 おとなのたいさく


 

 ────────ピッ。

 

<お>

<また>

<はじまた?>

<きたああああ?>

<今は待機中?>

<さすがに部屋キレイだわね>

<まずどっちの姿でやるのかが問題だ>

 

 

 配信設定をONにして一分ほど。

 画面に映らず待機している間に、続々とリスナーがコメント欄に現れる。

 こういう枠は配信ONからいきなり始めるのではなく、いわゆる入場時間を設けたほうがいいようなので、先人にならうとした。

 

「……ふぅ…………」

 

 ……正直、緊張する。

 普段の姿での業務や、魔法少女としての戦いとは全く別物だ。

 

 だが、魔法少女の配信という形でリスナーの力を借り、望みを叶えさせてもらっている以上、文句などつけようもない。

 これもまた、一つの業務として腹をくくってやるだけだ。

 

「あ……あーあー……マイクテストしています。聞こえますか?」

 

<うおおおおお>

<シラハエルだああああ>

<きこえる>

<やっぱ声かわいいい頭バグるうううう>

<なぜ女なんだ……>

<顔も見せて はやく 寒い>

 

「『きこえる』、ありがとうございます。はい、シラハエルです。

声……えっとありがとうございます。

なぜ女なんだ……男です。

顔もすぐ……少々お待ちください、映します。服は着ましょう」

 

 ONにしたカメラの位置が問題ないことを改めて確認すると、横からスッと入って配信画面に映る。

 自分の今の姿はシラハエルのものであり……そして。

 

<きt>

<おおおおおおお>

<!!!!?????>

<メガネだああああああ>

<メガネ!?>

<わあ>

<もどし……もどすな>

<この格好だと少女の背格好なのに先生っぽさあってやばい>

<あのアンケートやっぱこれかwwww>

<出会ったのがこんな教師だったら今頃……俺は……>

 

「……えー、ご覧いただきました通り、事前にコンジキ様が実施されたアンケートにより今回の……報告兼雑談枠は、こういう形で取らせていただきます。

この姿は視力がいいので伊達ですが……」

 

 予想以上に怒涛のごとく流れた反応に気圧されながらも、なんとか表に出さないよう視聴者に説明をすると。

 度の入っていないメガネをかけた自分は、魔法少女としてはもちろん、人生初となる雑談枠配信を始めたのだった。

 

 

------------

 

 

「えっと、『食べ物の好き嫌いおしえて』……特に避けている食べ物はありません。

強いて言うなら果物を好んで食べることが多いですね。リンゴやブドウあたりでしょうか」

 

<はいかわいい>

<男のままだとどうとも思わなかったけどこの姿だとなんか"ぽさ"がある>

<他意は無いけどバナナ食べる配信とかしませんか?>

 

 『リスナーの共感や想いの強さは大事じゃぞ。ただ数を増やすのではなく、応援の熱が高まるよう普段からつとめることが虚獣との戦いの鍵となるのじゃ』

 とは、コンジキ様の言だ。

 

 普通の配信者も人気を切り売りする商売ではあるが、戦闘能力=生存に直結する魔法少女は、人気のあるなしは文字通りの死活問題といえるだろう。

 その意味ではこういった他愛もないような雑談配信も、実戦の準備、あるいはトレーニングの一環と言えるのかも知れない。

 改めて、彼女たちがしている苦労の一端が垣間見えた。

 

 ……それは、いいんだが。

 

<今まで戦闘でしか見れなかったけど改めて顔よすぎ>

<すみません自分ガチ恋いいですか>

<虚獣に向ける顔と今のゆるめの顔とのギャップ すこ>

 

(うぐぐぐ……!)

 

 こういったコメントが目についてしまうと。

 ゾクゾク、と背中を何かが撫でるような感覚を受け、口元に手を持っていくことで表情の歪みを必死に隠す。

 

 身だしなみは以前から社会人相応に気を遣ってはいたが、ここまでストレートに容姿に言及された経験などあるはずもない。

 ましてやコメントの送り主はおそらく元の姿と同性相手なのだ。

 喜ぶのも不快に思うのもまずい気がするという、この奇妙すぎる感覚には、いつまで経っても慣れる気がしなかった。

 

(な、なにか、なにか違う話題になりそうなコメントを……)

 

<前回のコラボ配信よかったです! またミリアモールとコラボの予定はありますか?>

 

(いい仕事だ!)

 

 ちょうどよく、自分を救ってくれそうな話題が流れたことに、内心でも感謝しながらすかさず拾う。

 

「はい、ありがとうございます。コラボは……はい、今コンジキ様から言っていい範囲のカンペが出ました。

誰々と、などの具体的なお話は出来かねますが、今後コラボをしていく予定は……あります」

 

<おおおおお>

<また見せろ 神話を>

<こーれクラリティベルコラボです>

 

「────と、言ったところで本日の配信は以上となります。

……えっと、まだまだ不慣れ、不勉強な内容で恐縮ですが、ご視聴いただきありがとうございました」

 

<かっっっっった>

<ぜんぜんよかったよー>

<クソカワ少女の姿で思いっきり固い挨拶なの すき>

<もっと不慣れろ 今しか味わえない栄養をすすりにきてるんだ>

 

 ちょこちょこ怪異も混じっていたものの、概ね好意的なムードに終始したコメント。

 胸をなでおろしながら配信を閉じ、変身解除した自分はコンジキ様からのねぎらいを受けた。

 

「うむ。特にトラブルもなく、第一回目の雑談として上々だったと言えるじゃろう。

……ときに白羽殿よ、途中で一度、かわいいと評すコメントに表情を歪ませていた時間があったが……」

「む……やはり伝わってしまいますね、申し訳ない。

次回からは何とか表情を変えずスルー出来るよう心構えを────」

 

 早速心当たりのある問題に言及され、自省の色を見せる素人配信者だったが。

 コンジキ様の反応は、そんな自分の想像と全く違っていた。

 

「あれをかえるなど とんでもない!

あの喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか複雑に揺れ動きながらも、確かに"在”る照れに歪んだ表情!

あれはぬしだけが持てる唯一無二のキャラクター性であり、魔法少女としての力の大元となるものじゃ、間違いない!」

「ぜ、全然理解できない……!」

 

 眼の前にも居た怪異の、前のめりがすぎるその忠言。

 配信と魔法少女にかける熱は本物だが、時々何が見えているのか分からないことがあるコンジキ様と、この話を続けることに本能的な危機感を覚え。

 自分は先程のように無理やり話題を変えることを選んだのだった。

 

「と、とりあえず自分の話はいいとして……もうすぐ"例の彼女"の配信が始まります。

勉強のためにも、観ておかないと……」

 

 むぅ、と語り足りなそうなコンジキ様を置いて配信画面に行くと。

 ちょうど自分の配信との入れ替わりのようなタイミングで、一人の魔法少女の配信が始まった。

 自分が雑談枠配信をこの時間で終えたのは、この配信を見るためでもあったのだ。

 

 

「────はいはーい! 雑魚どもぉ、元気ぃー?

あんたらのご主人、フローヴェール様の配信が始まったよー」

 

<きちゃああああ>

<元気です!おかげさまで!>

<配信たすかります>

<は? 雑魚じゃないが? ビキビキ>

<時間通り! ありがとうございます!>

 

 配信に姿を表したのは、『ファンタジー世界の良家の騎士』をイメージさせる格好で、生意気そうな表情と見下す視線を隠そうともしない一人の少女。

 いわゆるお嬢様然としたツインテールの金髪を、指で弄びながら。

 その魔法少女、フローヴェールは雑談配信を始めた。

 

 

 おそらく次の……コラボ予定相手だ。

 

 

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