人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

1 / 68
他作品で詰まってるので生存報告を兼ねて手遊びを投稿。
そっちもエタらない予定なので気長に待ってね。


第一章 オラリオに現る人形の王
人形の王の誕生


 歌劇の国、メイルストラにほど近い森の中を進む一団。狩人と言うには森を知らず、兵士と言うには貧弱が過ぎ、旅人と言うには軽装で、商人と言うには荷を持たない。ただただ煌びやかさを必要以上に持っているその集団はあまりにも風景から浮いている。しかし、そんなこれ以上ないほど森歩きに向かない集団であるにも関わらず、その歩みはひどく順調だった。

 その理由は、彼らの先頭を歩くひとりの女性にある。およそ服と呼べるのは秘部を隠す部分とそれに付随する羽衣だけで、他に身に纏っているのは靴と装飾品程度。あまりにも露出の多い服装だけ見れば場末の踊り子にも見える。

 しかし、その身に纏う雰囲気は、ただの踊り子とは一線を画している。彼女を表現しようとしたならば古代三大詩人が言葉を尽くしたとしても、あらゆる修飾詞が酒場の酔った荒くれの呂律の回らぬナンパ文句よりも陳腐に成り下がるだろう。

 傷ひとつない白肌は青草の葉の(ふち)でさえ赤い線を描けるほど柔らかいが、彼女の足下に茂る草は自ら身を捩りその御足に触れようとせず、たおやかに伸びた細腕では襲い来る獣に抵抗することもできないだろうに、狼の群れも猪も、ただ彼女を遠目に茫然と見惚れながら立ち尽くすだけだ。

 

 彼女の名はアフロディーテ。全知零能に身を落としながらも外界へ降臨した『超越存在(デウスデア)』の一柱であり、愛と性、豊穣と生殖、植物と春、そしてなにより、美を司る女神である。

 

 彼女に付き従うのはいずれも彼女の恩恵を受けた眷属、すなわちアフロディーテ・ファミリアの面々であり、見た目は本当にただのホストの集団ではあるが、一応一般人とは比較のできない強さを誇るため、獣相手の護衛には十分だろう。*1

 そんな彼らは美の神に仕える眷属の例に漏れず、アフロディーテが突然言い始めた遠征になんの疑問も呈さず付き従ってきたが、遂に眷属筆頭のひとりである金の長髪を緩く編んだ青年、サンドロが、おずおずとアフロディーテに問いかけた。

 

「アフロディーテ様、此度はこのような場所に、一体どのようなご用向きで……?」

 

「んー、どのくらい前だったかしら。忘れちゃったんだけどね。確かこのあたりの村に、私が気まぐれに恩恵をあげた赤ちゃんがいたのよね。思い出したからちょっと見に行ってみようかなぁ〜って」

 

 アフロディーテという女神はこれまた美の女神にありがちなことに、享楽主義的で、自己中心的で、ひどく気まぐれだ。だから、赤子に『神の恩恵(ファルナ)』を刻むという危険行為も気に入ったものを自分のものにしたいという気まぐれの一環で、直後に「赤ちゃん育てるとか……無理!」と養育をその赤子の両親に押し付けて放置し、あまつさえ忘れていたなどという無軌道さも普段通りの行いであり、咎める者はいなかった。まぁ、いても権能である『魅了』で黙らせるのであるが。

 

 その後しばらくすると、森の中の小さな村に辿り着き、村人総勢での歓迎の宴が始まった。村人的には特段歓迎する理由もないのだが、そこに現れたのがアフロディーテだったというだけで酒宴、もといパーリー*2になるのは世の摂理であった。

 そして宴がたけなわになったあたりで、アフロディーテがその村の長に問いかけた。

 

「ねぇ、()()()()()に私が眷属にした子がこの村にいたでしょう? 見た限り宴には出ていないようだけど、知らないかしら」

 

「えぇ、えぇ、覚えていますとも。忘れもしない10年前のことですじゃ」

 

 物心ついてからは一度も会っていないとはいえ、己の眷属が己の宴に出ていないことを不満に、そしてその眷属の両親が宴に出させていないことに疑問を持ったアフロディーテが、すわ盗賊にでも売ったかと村長へ探りを入れると、村長はすぐに答え、「ついてきてくだされ」とアフロディーテを村の片隅にある粗末な家に案内した。

 

「儂らは皆、何度も諌めているのですが……あの子の両親が死ぬ前からずっとあの()()は直らんもんで……主神様の言うことならあるいは……」

 

 悪癖という言葉にアフロディーテが疑問を持つ前に、村長は家の扉を開く。その直後、アフロディーテの目に飛び込んできたのは、背を向けて座り込むひとりの少年と、()()()()()()()だった。

 少年が振り上げた右手――その手に握られた木槌を振り下ろすたびに部屋に響く木と木の、あるいは鉄と石のぶつかる音を聞きながら、アフロディーテは部屋中の人影を観察する。

 最も大きいものは、扉の真正面にある成人女性ほどの大きさのもので、それ以外は大きくとも小人族(パルゥム)、あるいは小鬼(ゴブリン)ほどで、ほとんどはそれどころか片手で持てる程度の大きさしかない。

 さりとて種類は様々で、人を模したものが主だが老若男女は種々、中には獣の姿をしたものもあり、材質も石や木、あるいは骨か牙と多種多様だ。

 

「これ……全部、人形……?」

 

 そう、それは俗に広義でもって『人形』と呼ばれるものたちであった。それが目に見えるだけでも百数体、あるいは数百体、部屋の中を所狭しと並んでいる。

 おそらく、部屋の奥にある扉を開けば、その先にもまた、いやより多くの人形があるのだろうと、アフロディーテは直感した。

 

「ハァ……()()()()()()()。お主、今度は何日寝ておらんつもりだ」

 

「んー、3日くらい? 数えてないし数える気もないけど」

 

1()0()()()()。その様子だと()()()()()()()()()()? いい加減死ぬぞお主……」

 

 口調の軽さに反して、栄養不足からか水分不足からか、年齢の割にしゃがれた声で返してきた少年――ピュグマリオンに対して、村長が怒り半分呆れ半分で告げた、十日十晩飲まず食わず眠らずという衝撃的な言葉に、アフロディーテが思考を停止する。

 そしてその思考は、さらなる衝撃によって再び動き始めた。

 

「……美しい……」

 

「っ!?」

 

「……ハッ! も、申し訳ありません!! アフロディーテ様!!」

 

 アフロディーテの周りでは日常的に飛び交う、美を讃える言葉。問題は、それを呟いたのが美神の眷属(サンドロ)であり、讃えられたのが美の女神(アフロディーテ)ではなく、目の前の()()()()()()()()()()()()という異常事態だった。

 それはつまり、恩恵を刻まれているとはいえ一度も更新していない少年が、アビリティにもスキルにも頼らずに2桁にも満たない年数で培った技術だけで作り上げた人形の『美』が、美の女神の魅力をたとえ一瞬だけとはいえ上回ったということなのだから。

 戦慄するアフロディーテをよそに、「お主の主神様がいらっしゃっておるのだぞ、挨拶くらいせんか!」という村長の叱責を聞き流し、ピュグマリオンは一心不乱に槌を振るい続ける。その様子を見て、アフロディーテはふと思いついた。

 

 もしも、今この段階でも神の美に並びうる技量を持つこの少年が、この人生で蓄えてきた『経験値(エクセリア)』をステイタスに反映したならば、一体どのような『美』が生まれるのか?

 

 アフロディーテは、美を司る女神である。

 それは、彼女自身が美しいということ()()を意味しない。フレイヤとは異なり、アフロディーテはあらゆる『美しいものを生み出す』ということを司る、真の意味での『美神』。だからこそ、そんな考えに至るのは至極当たり前のことであった。

 

 アフロディーテの白魚のような指が、床に放られていたナイフ*3を掴むと、ピュグマリオンの服の背中部分を切り裂いて恩恵を露出させ、自らの指先を薄く切って『神血(イコル)』を滲ませた。

 恩恵を刻み直し更新が進むにつれ、アフロディーテの端正な顔に冷や汗が増える。

 

「(力と敏捷は10にも届いてないのに、器用と耐久は999(カンスト)させてもまだ経験値が余ってる!? ランクアップもできるわけ!? しかも、ランクアップに必要な上位の経験値(偉業)が複数回分溜まってるって、聞いたことないわよ!?)」

 

 それはおそらく、冒険者では絶対にあり得ない成長の仕方だ。しかしそれも納得はできる。人形作りに傾倒する毎日であれば力と敏捷は伸びないし、器用は加速度的に伸びるだろう。耐久も、こんな無茶苦茶な生活を続けていれば上がるのは不思議ではない。

 ランクアップに関しても、少なくとも先程の『美神に迫る人形』の件で1回分のランクアップには十分な偉業である。

 しかし、2段階以上のランクアップなど聞いたことがない。*4さらにはそれだけではない。

 

「(これ、とりあえず器用をD(ランクアップ必要以上最低限)まで上げてランクアップすれば連続昇華も狙えるけど、全部突っ込んじゃえば限界突破(1000超え)するじゃない……! み、見たい! どっちも見たい!)」

 

 将来的にはヘラ・ファミリアの『静寂』が、あるいはヘスティア・ファミリアの『未完の新人(リトル・ルーキー)』が達成する基本アビリティの限界突破だが、現状はこちらも連続昇華と同じく他に知られていないまさしく興味をそそられる『未知』。

 高まる興奮とともにどこか冷静さが戻って来るアフロディーテ。そもそも更新自体なんの相談もなしにやってしまってよかったのか?

 普通であればこういう場合は眷属と相談の上で決めるわけだが、今回は当の本人が人形作りに夢中であり、どうしたいか訊いたところで生返事が返ってくるばかりだ。

 だが、なら終わるまで待つべきでは? いや我、女神ぞ? 主神が今やりたいというのだから眷属は甘んじてやらせるべきでは?

 

「ちょっと、私の海豚(イルカ)。恩恵の更新をするから『話を聞きなさい』!」

 

「ん? あぁ、好きにやってくれ。特段興味がない」

 

「」

 

 【悲報】アフロさん、『魅了』をガン無視される。

 与り知らないうちに天界の神々の間でそんなスレが立ったアフロディーテは再び戦慄する。自身の『魅了』が効かない相手に出会ったときに美の女神が受ける衝撃は計り知れないものである。

 とはいえ、事前に人形狂いであることは見て取れていたわけで、アフロディーテは即座に「自分の魅力がわからない可哀想な海豚」と考え直す。なにはともあれ、ステイタス更新の許可は出たのだ。

 

「(これは私が独断で決めちゃっていいわよね? うーん……この様子なら器用の経験値はまた爆速で溜まるような気がするし、限界突破の機会はこれからもありそうだけど、連続昇華はそうもいかないわよね……)」

 

 ただし、その場合はLv2からLv3のランクアップ時、器用と耐久以外の基本アビリティがI0(最低値)でランクアップするため、同ランク帯ではまず勝てないし、場合によってはLv2にも負ける力しかないという事態に陥るのだが、それはもう考えないことにした。そもそも、魔力がI0の状態でランクアップするのは魔法が使えない冒険者などでよくある現象だ。

 そういうわけで、まずはランクアップ可能なところまで基本アビリティを上げていく。Lv1での最終ステイタスは以下の通りとなった。

 

力:I7

耐久:S999

器用:D500

敏捷:I3

魔力:I0

 

 驚くほど極端なステータスだが、ここまではまぁいい。ランクアップに伴い提示された発展アビリティはおおよそ予想通りである《人形》《彫刻》《細工》などに加え。

 

「(《耐眠》、《耐渇》、《耐飢餓》……これ、取らせないと死ぬわね……)」

 

 アフロディーテは、ピュグマリオンがこれからも無茶を改めないことを察していたため、ここの発展アビリティで《耐渇》を選択した。

 次いで、再び基本アビリティを上げていく。今度は耐久の経験値は既になく、器用の値だけが上がっていく。

 

力:I0

耐久:I0

器用:B749

敏捷:I0

魔力:I0

 

 これまた極端ではあるが、先程の耐久まで上がっていた基本アビリティに比べれば、恩恵を受けた鍛冶以外の職人にはあり得なくない偏り方である。

 Lv3に上げ、発展アビリティには《耐飢餓》を選んだ。これでとりあえず、アビリティに関してはおしまい。

 続いて魔法とスキルだが、ピュグマリオンには2つの魔法スロットがあり、そのどちらにも魔法は発現していない。ここはまぁいい。冒険者としては優秀程度だ。

 問題は発現していた明らかなレアスキル。

 

人形偏愛(キング・オブ・キプロス)

・人形製作時の獲得経験値増加。

・人形製作時以外での経験値獲得不能。

・人形製作時に発展アビリティ《工芸》《彫刻》《裁縫》《細工》の一時発現。

・人形製作時に耐久、器用、魔力を超域補正。

・人形製作時に精神力(マインド)を自動回復。

・ランクアップ時のステイタス向上幅超域減少。基本アビリティの値により軽減。

・人形への愛が続く限り効果持続。

・偏愛の丈により効果向上。

・精神異常完全無効。神威耐性。

 

「(経験値の獲得量増加に発展アビリティの発現はまだいいわ。経験値補正は聞いたことない効果だけど、代わりについてるデメリットが大きすぎる。これ、人形作り以外で経験値貰えないし、ランクアップしても基本アビリティの経験値が稼げてない部分は据え置きってことじゃない! 同レベルどころか下のレベルにも負けるわよこれ!? まぁでも、結局メリット部分は人形作ってる時以外はなんにもならない効果ばかりだし……問題は『神威耐性』よね……これも聞いたことないし、人形製作時限定の効果でもない……まぁ本体が雑魚過ぎて、耐性があったからって何? って話だけど。多分、Lv3なのに全知零能の神相手に取っ組み合いで負けるでしょこの子)」

 

 自身のクソザコ加減は棚に上げて辛辣な評価をするアフロディーテ。だが実際、世間一般的に見れば『神の恩恵』を受ける理由など8割が冒険か冒険のための生産活動のためなのだから、そのどちらにもほぼ絡むことができないスキルの評価はどれだけデタラメでも高くないし、器用と耐久以外はほぼ一般人と変わらないままランクアップしたピュグマリオンの身体能力もまた、ただただ打たれ強いだけの一般人並である。

 

「(――でも、私がこの子に求めるのはそうじゃない。この子の作る人形が、どこまで(わたし)に迫れるか……どうせオラリオに行く気もないし、冒険なんてどうでもいいわ!)」

 

 オラリオには元カノと最恐(トラウマたち)がいるので――正確に言えば既に最恐の方はオラリオから出ていっているのだが――現状行く気にならないアフロディーテ的には、ダンジョンに潜ることがない以上戦闘能力はそれほど問題にならない。アフロディーテはただピュグマリオンが欲望のままに人形を作り、その腕を磨いた先にある『未知』と『美』を見せてくれればいい。

 

 

 

 アフロディーテは後に知ることになる。

 狂った人間の妄執が何を齎すのかと、普段彼女が振り回してきた周りの神々が抱えていたであろう、胃痛を。

*1
所詮Lv1の集まりであるので、冒険者同士での諍いならば戦力には乏しいが。

*2
あるいはパーチー。パーティーではない。

*3
危険なので床の上に刃物を放置しないでください。

*4
原作ではとあるキャラクターがLv4からLv6への連続昇華を達成しているため不可能ではないはず。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。