人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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来店

「んで、ここがピュグマリオン商会かいな」

 

「見た限りは普通の商会のようだね」

 

「思ったよりは閑散としているが……」

 

「……ここ」

 

「なぁ、儂はなんで連れてこられたんじゃ」

 

 ピュグマリオン・ファミリアと間違いなく繋がっているピュグマリオン商会の視察に来たロキ、あわよくば『幻白(メリー)』に会えないかと来たフィン、普通にピュレソースを買いに来たリヴェリアとアイズ、またしても何も知らないガレス。

 ロキ・ファミリアの主神と三幹部、そして新進気鋭の大新人が連れ立っている様子に、通行人はざわついている。それだけで宣伝効果がありそうだ。

 

「んで、なんやこれ。入口ふたつあるやん。いや、どっちかが出口か?」

 

「出口はこの空き地の側にあるようだぞ?」

 

 店は大きめの空き地に隣接してあり、空き地にはベンチが置かれている。どうやって確保したやら、結構な面積が商会のものとされているらしい。

 そしてその空き地に向けてひとつと、通りに向けてふたつの扉がついている。ふたつの扉は、それぞれ店の端と端に離れて設置されているようだった。

 

「ま、入ってみればわかるやろ。邪魔すんで〜」

 

 流石に「邪魔するなら帰って〜」などと返事は返ってこなかった。

 店内は清潔であり、かつ明かりが十分につけられている。とはいえ、店内の様子自体はそれほど異様なものではなく、陳列棚に商品が並べられている極普通の商店といった様子だ。

 しかし、並んでいる商品はどれも、ロキたちの見たことのない商品ばかりだ。そのうちのひとつに、早速リヴェリアが食いついた。

 

「む!? こ、これは……」

 

「なんやどうしたリヴェリア?」

 

「まさか……いや、こんなところで見られるとはな……豆乳……」

 

 それはエルフにとっての母の味。豆乳であった。

 動物性タンパク質や動物性油脂が苦手な傾向にあるエルフにとって、豆乳というのは気軽に摂ることのできる身近な乳製品*1だ。しかし、それもエルフの里で暮らすエルフにとってのみである。

 里を出たエルフは森の外でまず愕然とする*2。豆乳が売っていないのだ。世界的なシェアは乳牛や乳山羊などの乳が主。わざわざ豆乳を作るのは非常に珍しいと言わざるを得ない。

 そんな豆乳が売っているのだ。エルフとして興奮せざるを得ない。

 

「こっちは……動物由来食材不使用!? む、むぅ……」

 

「おーい、リヴェリアー……あかん聞こえてへんわ。魔法についての発見したときとおんなじ顔しとる」

 

 リヴェリアが食いついたのは、正確には『極東食材コーナー』と銘打たれた一角。醤油、味噌、納豆。さらには海苔や緑茶などの加工食品が並べられていた。同じコーナー内の少し離れたところには、鰹節なども置かれている。

 これこそ、ピュグマリオン商会が目をつけたもうひとつの商材。『ふるさと商品』である。

 ロキ・ファミリアの三幹部もそうだが、オラリオというのは故郷から一旗揚げようと遠路はるばるやってきた者たちが非常に多い。そのため、なかには故郷ではポピュラーだった食品が売っていないというパターンも珍しいことではない。

 そこでガラテアはピュグマリオンが作った馬型リビングドールの疲れ知らず餌いらずという特徴を利用し、量産型汎用リビングドールに高速馬車で各地の商品を輸入して回らせたのだ。

 

「なんやここ、エルフ向け商品専門店かいな……」

 

「そういうわけでもないみたいだよ。おっ、ディリスク*3だ、懐かしいな。こっちは瓶詰めのコルカノン*4か。昔は自分でよく作ったな……どうやら、種族の郷土料理や食品が売っているようだね」

 

 やや離れたところに小人族(パルゥム)コーナーを見つけたフィンが、やや低めに作られた陳列棚を前にそう告げる。冷静に見えて、港街(メレン)でも売っていなかったディリスクに興奮気味のようだ。

 

「ふむ、ドワーフ向けの品は……なんじゃい、一番向こうではないか」

 

「ふむ……? もしかして、この離れた2つの扉は、仲の悪いエルフとドワーフが鉢合わせしないよう店内の陳列を離したうえで扉も離したのかな? それでエルフと他の種族は、種族関係ない冒険者向けの商品を挟むことで緩衝する……よく考えられてるな……」

 

 続いてフィンの目が移ったのは冒険者向けの商品だ。『サンプル/試用』と書かれたタグが付いた商品が置かれており、近くに注文用のカードが置かれている。

 

「これは……『迷宮内用即席花畑』? ふむ……ここを動かすとリング状になるね」

 

 フィンが手に取ったのは湾曲した筒で、側面の突起をスライドさせることで筒の中身が伸び、最終的にはフラフープほどのリングが出来上がった。

 

「なるほど、ここに魔力を流すことで、リングの上部から簡易的な結界ができるのか」

 

「結界だと? ……ふむ、触ることもできないし、遮断できるのは光だけか……外からはまったく見えなくなり、中から外は薄っすらと見える……あぁ、なるほど。花を摘む(用を足す)のに使うから『花畑』か」

 

 リヴェリアが看破した通り、つまりは簡易トイレである。正確には周囲に見られないためのブラインドであるが。

 

「火を使わない湯沸かしに魔力を水に変える水筒……魔力を使った火打ち石か。何が面白いってこれ魔導具じゃなくて魔石製品だ。作ろうと思えば《神秘》がなくても作れるから、ここまで量産できてるのかな?」

 

「迷宮内で地味に欲しいものが多いな……いや、一部は迷宮でなくとも便利だ。小型乾燥機(ドライヤー)皺伸ばし器(アイロン)か……こっちのこれは……算盤(そろばん)? ふむ、極東由来の品か。使い方も付いてくるようだし、慣れれば帳簿をつけるのに役立つかもな……」

 

「ふぁ〜……なんや普通の店やなぁ。うまいことやっとるんはわかるけどそれだけやし……ん?」

 

 真面目に分析するフィンとリヴェリアだが、当のロキは思いの外普通の店だったことで飽き始めていた。そんなロキの隣を、なにやら大きな物を持ったアイズが通りかかった。

 

「なんや? アイズたんそれ欲しいんか?」

 

「……ふわふわ」

 

 それは一抱えほどある大きめのウサギのぬいぐるみだった。デフォルメされており、確かに小さな子供や可愛いもの好きには人気が出そうだ。

 そしてロキは、あのアイズが普通の子供が欲しがりそうなものを欲しがっていることに胸が熱くなった。実際、アイズはこう見えて可愛いもの好きなのだが、最近まではそんな場合ではなかったのだ。

 

「よっしゃ! ウチが買うたる!! ナンボや?」

 

 アイズが無言で指を指した先は、ぬいぐるみコーナーと銘打たれた、大小様々なぬいぐるみの並んだ一角。

 同じぬいぐるみにつけられた値札を見て、一瞬ロキの顔が引きつった。

 

「(2000ヴァリス……い、いや、そんなビックリするほど高いわけやないけど……かなりえぇ素材使っとるんか? それとも作っとるんが名の通った職人なんか? し、しかしここで買うたる言うた以上引き下がるのは神の名が廃る……!)」

 

 ロキが葛藤している後ろで、フィンとリヴェリアがふと人の気配に気づく。何気なくそちらへ目をやって、一瞬呆けた。そこにいたのは、白だったからだ。

 髪も、肌も、着ている服も白を基調としていて、瞳だけが灰色なヒューマンの少女。エルフに届きうる十分な美少女と言えるだろう。

 なお、彼女は店員として派遣された汎用型(4級品質)であり、基本的には没個性的となっている。

 

「いらっしゃいませ。ロキ・ファミリアの主神様、団長様、副団長様、それに『重傑(エルガルム)』に『剣姫』。少々失礼致します」

 

 一礼し、店の中央に置かれていた商品の陳列されていないテーブルに何かを置く従業員。ドワーフのコーナー*5から戻ってきたガレスは、それが加熱鉄板(ホットプレート)という魔石製品であると気づいた。

 フィンたちが疑問を呈する前に、従業員は加熱鉄板を起動して熱し、油を引いて取り出した肉を焼き始める。

 何の変哲もない焼き肉の光景。しかし、従業員が取り出した何かを肉にかけた瞬間、彼らの鼻腔をスパイスの香りが駆け巡った。

 

「おおぅ……」

 

「うぅむ……」

 

 特にロキとガレス(酒飲み)は唸る。これ絶対酒に合うやつ。

 

「こちら、ピュグマリオン商会特製のミックススパイス試食コーナーとなります。複数種類の塩に20種類以上のスパイスを独自の比率で調合し、肉に特に合いますが魚にも野菜にも合うミックススパイスを完成させました。ぜひ御賞味ください」

 

 ロキ・ファミリアの面々は楊枝に刺された肉――リヴェリアは素早く用意された蒸し野菜――をそれぞれ受け取り口に運ぶ。

 

「……この味が、かけるだけ、か……」

 

「はは……料理屋が破産するでこんなん……」

 

「くっ、酒が欲しいっ……」

 

「これは流石に脂が使われているな……だが、十分だ」

 

「これもじゃが丸くんにあう」

 

 各々が感想を口にする。やはり、劇的に美味いものというわけではない。美食とか、高級な料理店で口にするようなものではない。ただ、普段の家庭料理に比べれば一、二段上の味。それが、普通の焼き肉にかけるだけだ。

 

「これは食堂に置くのもそうだが……遠征に持っていけばそれだけで士気が上がるね……」

 

「さして荷物にもならんし、パンや肉にかけるだけでここまで複雑な味が出せるならそうだろうな。値段もそう高くない*6

 

「これは、ピュレソースや魔石製品もそうだけど、遠征用に大量発注すべきだね……すまない、ここの責任者にアポイントを取ることはできるかな?」

 

「はい、でしたら、応接室へご案内いたします。こちらへどうぞ」

 

 従業員に連れられ、店の奥へと向かうロキとフィンにリヴェリア。ぬいぐるみを買ってもらったアイズはガレスとともに店の外へ向かう。

 その時、リヴェリアが振り向いたのは虫の知らせだったのだろうか。それとも、何かを本能が察知したからなのか。

 リヴェリアが見たのは店の外を歩く、ここの従業員と同じく全身が白で包まれた少女の被るフードの下から覗く、()()()()()()()()()()

 

「ッ!!? すまん、そちらは任せるっ」

 

「へ? ちょ、リヴェリア!?」

 

「……ロキ、商談は僕がやるから、君はリヴェリアを追ってくれ。指が疼く」

 

 外へ飛び出したリヴェリアに注目が集まる。リヴェリアが見た少女は飛び出してきたリヴェリアに目を向けて立ち止まっていた。

 ボブカットの髪は白と緑が半々に分かれ、瞳は鮮やかな翠。特徴的な長耳こそ見えないが、リヴェリアの本能はそれが同族(エルフ)――いや、血縁(ハイエルフ)だと告げていた。

 しかしおかしい。リヴェリアは目の前の少女を知らない。少なくとも、リヴェリアが里にいた頃に彼女のような特徴を持つ少女を見たことはない。それに、白髪を持つ氏族など、ダークエルフ(黒妖精)でもなければみたことがないし、そんなところで子供が生まれていればもっと話題になって然るべきだ。

 

「……すまない、私は『エルフの王森』国王、ラーファル・リヨス・アールヴが子、リヴェリア・リヨス・アールヴ。君の名を、聞いても良いだろうか」

 

 リヴェリアは、ただ正面から彼女を見つめ、誰何を問うた。

 少女はなんもまたやましいこともないとそれを真正面から見返し、名乗る。

 

「ピュグマリオン・ファミリア所属。ピュグマリオンが子。()()()()()、パラケルスス・T(トリスメギストス)・ヒータル・アールヴ。それ以外に名乗る名も肩書もない」

 

 出てきたロキの神の直感は、その名乗りを真実だと訴えていた。

*1
乳製品だとエルフは主張している。

*2
極東の国へ行った場合を除く。

*3
ダルス。赤い海藻の一種。乾燥させたものを軽食やスナック菓子感覚で食す。アイルランドの定番商品。

*4
マッシュポテトにケールやキャベツ、バターを加えて作ったポテトサラダの一種。アイルランドの定番料理。

*5
現状、8割酒、2割ツマミ

*6
香辛料は普通に高いが、スパイス類はアナクサによって自給しているものを使用しているのと、塩が結構な割合を占めているため




ネタバラシは次回。
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