人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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『ヒータル』

「……………………」

 

 ハエ越しに一部始終を見ていたコッペリアは頭を抱えていた。

 なんと運の悪い。

 

 始まりはと言えば、しかしこれに関してはコッペリアも後悔はしていない。愛する主人(マスター)が作ると言ったのだからそれに否はない。

 だから、魔法特化型のリビングドールを作るために『ハイエルフの血』をコッペリアの使役した吸血昆虫で採取し、人形の素材として献上した。アイズ・ヴァレンシュタインが精霊の血を引いていると知ってからは、アイズの血も採取した。

 それに加え、体の素材はワシリーサが発明した、魔石の魔力を蓄積し、複数の魔石をひとつに纏めてしまう、現代で言う充電バッテリーのような魔導具、『魔晶石』を使う。

 そのうえで、さらに人形作成の際に《神秘》を発動させての作成。リビングドールとしてのスペックはガラテアを優に超えると考えてもいい。*1

 

 そうして出来上がったのが彼女、魔法特化型ハイエルフモデルリビングドール、パラケルスス・トリスメギストス、()()()

 

 さて、ハイエルフがハイエルフたる由縁は何か。エルフの王族であることは知るとおりだが、もう誰も知らないかもしれないその始まりは、確かに精霊が関係している。

 要するに、精霊がそうであると認めたから彼らはハイエルフなのだ。そして、そんなハイエルフの血を継ぐ者に、半分とはいえ大精霊の血が混ざったことで、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

パラケルスス・T・ヒータル・アールヴ Lv1

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

魔法

《タブラ・スマラグディナ》

・召喚魔法。

・詠唱式【偉大なる、偉大なる、偉大なる我が造物主よ。フラスコの中の私に汎ゆる知識を与え給え。12の奥義、賢者の石、叡智湛えし緑玉板をここに】

・魔法学習。

・魔法解析。

・魔法所蔵。

 

スキル

人形生命(アイボリー・ハート)

・疑似生命。

・疑似恩恵。

・耐久に高補正。

・同スキル所持者同士での念話解放。

・精神異常、生理的異常の無効。

・神威耐性。

・魔石摂食により経験値獲得。

・一定品質以上の魔石摂食により偉業達成判定。

 

妖精人形(アールヴ・ホムンクルス)

・ハイエルフと定義される。

・精霊の血を継ぐ。

・出血可能。

・魔力を超域補正。

・精神力を常時回復。

・発展アビリティ《魔導》《魔防》《詠唱》《再生》《精霊体》を発現。

 

魔晶石体(スマラグドス)

・周囲に拡散する魔素を回収して精神力(マインド)を回復。

・魔石から魔素を回収して精神力回復。

・魔力効率向上。

・精神力譲渡権。

 

 

 

 彼女が、()()()()()()()()()()()()()()と認められてしまったのだ。

 ちなみに、この時点ではピュグマリオン・ファミリアは祝福一色で、誰もやべーとは思っていなかった。なにせピュグマリオンは村育ち、友達はだいたい人形である。エルフの国際事情など詳しく知るはずもない。

 とはいえ、材料の採取は無断だった。実際このオラリオのモラルというのは現代より低いとはいえ、今バレてしまえばトラブルには間違いなくなるだろう。ロキ・ファミリアとことを構えるのは拙い。

 そこで当然秘匿することにしたのだが、パラケルススの魔法が役に立った。

 

 彼女の魔法、《タブラ・スマラグディナ》は、魔本を召喚する魔法である。これは魔法を覚える魔導書とは違う。

 パラケルススが魔本を召喚している間に目の当たりにした他者の魔法を魔本が解析し、保存する。そして彼女は魔本を手にしている間、魔本が保存しているすべての魔法を使用できる。しかも、今後習熟すれば、保存した魔法の改造もできるだろうという無茶苦茶な魔法だ。

 もちろん、魔本を出している間は常に精神力を消費するという代償はあるが、精神力タンクと言っていいほどの精神力を蓄えているパラケルススの前には些事である。

 しかし、当然この魔法、魔法のストックがなければ宝の持ち腐れである。仲間内で有用なのはピュグマリオンの第2魔法とコッペリアの変身魔法、メリーの転移魔法くらいか。

 というわけで、目当てである結界魔法を手に入れるために、パラケルススは念の為に《変身魔法(スワニルダ)》でハイエルフの血族の証である翠の髪色を変え、普通のエルフとして迷宮活動に勤しんでいた。

 

 そしてその迷宮帰り。眠気から《スワニルダ》の維持が途切れ、認識阻害の魔導具を落とすという二重のポカをやらかしたタイミングで、リヴェリアに発見されたのだった。

 

「…………」

 

 沈黙が場を占拠する。リヴェリアは全力で脳を回す。間違いなく彼女は『アールヴ』だと言い切った。ただ、『ヒータル・アールヴ』。『リヨス・アールヴ』ではない。

 ハイエルフの『アールヴ』とは、すなわちハイエルフであることを示している。そもそも『エルフ』という種族名自体が『アールヴ』から来ているのだからわかるだろう。

 では『リヨス』や『ヒータル』が何かと問われれば、これは氏族名に当たる。要するにリヴェリア・リヨス・アールヴであれば、『リヨス(氏族)』の『リヴェリア(名前)』と言う名の『アールヴ(ハイエルフ)』なのだ。

 つまり目の前の彼女はリヴェリアにとって、『アールヴ(血縁)』ではあるがリヨス(近い親戚)ではない。ハイエルフの始祖から枝分かれした、どこかの氏族のお姫様であるという認識が自然であった。

 問題は、リヴェリアがその『ヒータル』という氏族を聞いたことがないことだった。リヴェリアの氏族名『リヨス』は古いエルフの言葉で『光』を意味している。そう考えれば、『ヒータル』は『白』を表す。

 ダークハイエルフの氏族に『闇』を表す『デック』や『黒』を表す『スヴェルク』があることを考えれば、その氏族にも疑わしいところはない。だが、出奔したとは言え70年ほども王族教育をされてきたリヴェリアが知らないハイエルフの氏族がいたということに、リヴェリアは驚いていたのだ。

 念の為に、後ろにいたロキに目線を送り確認する。しかし、その目は「すべて本当だった」と語っていた。リヴェリアは意を決して、少し突っ込んでみることにした。

 

「あ、あぁすまない。無学なもので、知らない氏族名だったんだ。貴女の氏族は……」

 

「『ヒータル』は私以外いない」

 

「ッ!! ……そうか、すまない。辛いことを訊いたな……」

 

「?」

 

 パラケルススの返答に、リヴェリアは痛ましい顔をする。今このふたりの間に、認識のすれ違いが起きていた。

 パラケルススは自身が新たに生まれたハイエルフの氏族『ヒータル』の始祖であり、パラケルスス以外に『ヒータル』は生まれていないということを端的に述べている。

 一方リヴェリアは、「既に彼女以外、『ヒータル』の氏族は残っていない」と解釈した。つまり、何らかの事情で『ヒータル』の氏族は全滅してしまい、パラケルススはその唯一の生き残りであると勘違いしたのだ。

 

「(その唯一の氏族が何故神ピュグマリオンの眷属になっているかはわからない。しかし、先程の名乗りを考えるに、少なくともパラケルススは神ピュグマリオンを慕っている様子だった。となると、神ピュグマリオンが『ヒータル』の氏族を滅ぼしたのではなく、生き残ったパラケルススを神ピュグマリオンが保護したと考えるべきだろう)」

 

 リヴェリアがそう考えている一方で、コッペリアはやや安堵しながらも緊張を続けていた。

 偶発的なパラケルススのハイエルフバレ。拙いことになったと思ったが、パラケルススが無闇に口数が少ないタイプだったことが幸いして、リヴェリアの方が勝手に勘違いしてくれた。これなら嘘を吐かずに切り抜けられると。

 

 しかしここで、パラケルススが自身の《スワニルダ》が切れていることを思い出し、その場でかけ直そうと思ってしまったからまぁ大変。

 

「……【偉大なる、偉大なる、偉大なる我が造物主よ】……」

 

「ッ!!? 何をッ!!? 【木霊せよ――】」

 

 パラケルススの詠唱にあわせて、リヴェリアが焦ってロキを後ろに隠し、自身の防御魔法を展開しようと呪文の詠唱を始める。コッペリアは焦って止めようとするが、この状態で止めればそれはそれで追及を受けるだろうと考え直し、せめてそれ単体では無害な魔法であることをリヴェリアたちに確認させようと、最後まで詠唱させることにした。

 

「【フラスコの中の私に汎ゆる知識を与え給え。12の奥義、賢者の石、叡智湛えし緑玉板をここに】」

 

「【心願(こえ)を届けよ。森の衣よ。集え、大地の息吹――我が名はアールヴ】!(詠唱速度が速い!? 第三階位は間に合わない――ッ!)」

 

 発展アビリティ《詠唱》の効果で高速詠唱するパラケルススに焦ったリヴェリアは、第三階位の防御魔法を諦め、第二階位の防御補助を自身にかけてロキを庇うように立った。

 

「【タブラ・スマラグディナ】」

 

「【ヴェール・ブレス】!!」

 

 魔法円は収束し、リヴェリアに護りと癒やしの加護がかかると同時に、パラケルススの右手に、真っ白な表紙に翠玉で装飾した本が現れる。

 そして、ことここに至ってパラケルススは、リヴェリアの前で魔法を使ったことは誤解の元だったのではないかと思い至った。

 

「ん、ん、違う……攻撃じゃ、ない……」

 

「……なんだそれは……? 本……魔導書か? 今の魔法はそれを召喚する魔法……?」

 

「(ん、ヤバい……)」

 

 このままではガラテア(おかあさん)にゲンコツを食らってしまう。冷や汗たっぷりのパラケルススが選んだのは、逃走だった。

 

「【私、メリーさん。今あなたの後ろにいるの】」

 

「ッ!! な、どこにっ!?」

 

 タブラ・スマラグディナを介してメリーの転移魔法を発動し、パラケルススは一気にリヴェリアとロキの視界の外へ転移してから、素早く認識阻害の魔導具を起動させて《スワニルダ》をかけ直した。

 一方、パラケルススの気配が完全になくなったことを確認して、リヴェリアは臨戦態勢を解く。

 

「な、なんやったんやあの子ぉ……あ、攻撃じゃないってのはホンマやったで」

 

「私が過剰反応してしまっただけ……とは言えんか。よほど箱入りだったのか? 直接被害を与える魔法でなくとも、町中であの規模の魔法円は警戒するに決まっているだろうに……ロキ、彼女のことについては後で話し合おう」

 

「せやなぁ……リヴェリアも知らん氏族の生き残りでハイエルフ……厄ネタの臭いしかせぇへんし、正直首突っ込みたくないねんけど……でも美少女やったしなぁ……ウチの傘下に入るか打診だけでもしてみるかぁ。改宗(コンバージョン)はあの子ぉの方が拒否るやろし」

 

 そう話し合うロキとリヴェリアのもとに、ガレスとアイズがやってくる。ふたりとも今の一悶着を見てはいたのだが、介入することはなかった。

 

「おう、無事かリヴェリア」

 

「ふん、高みの見物とはいいご身分だな」

 

「そういうな。アイズが固まって動かなくなってしもうての。儂も動くに動けんかったのだ」

 

 そう言って、固く分厚い手のひらでアイズの頭をガシガシと撫でるガレス。一方のアイズは、しきりにパラケルススの気配を探しているようだ。

 

「アイズたん、どうかしたん? さっきの子ぉになんか気になることでもあったんか?」

 

 ロキの問いにアイズは3人を呼び集めると、周りに聞こえないように小声で囁いた。

 

「あの人から、精霊の気配がした」

 

 

 

 なお、パラケルススは無事ガラテアのゲンコツを食らった。

*1
ただし、カタログスペック上はそうなるが、潜在的な面を考えればガラテアのほうが上である。




・謎接触 ← 事故! 仕方なし!

・アールヴ名乗り ← 本名! 仕方なし!

・無許可採血素材化ノンデリ国際問題 ← 言い訳のしようもない! 有罪!(バレたら)
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