人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
ピュグマリオンの「最近ガラテアと一緒にいる時間が少ない」との訴えにより、ガラテアが迷宮探索を一時離脱することになったピュグマリオン・ファミリア戦闘部門は、先んじてパーティー入りしていたパラケルススに加え、ガラテア分の補充とピュグマリオンがロールアウトしたリビングドールとともに、新たな任務のため迷宮へ潜っていた。
「それでは、菊は後衛で後方からの襲撃も考え、いざという時にパラケルススを庇ってくれ」
「了解」
「いやぁ、しかしこれで端から見たら半数が
軽口を叩きながら迷宮を進む。今回の目的地はリヴィラの街を抜けた先、19階層から始まる『大樹の迷宮』と呼ばれる森林地帯だ。
ギルドが定める推奨レベルはLv2であるため、今回新規でギルド登録することとなった菊は都市外から合流したLv2として登録している。ステイタスは以下の通りである。
イチマツ・菊 Lv2
力 : I0
耐久 : I0
器用 : I0
敏捷 : I0
魔力 : I0
呪詛I
魔法
《》
スキル
《
・疑似生命。
・疑似恩恵。
・耐久に高域補正。
・同スキル所持者同士での念話解放。
・精神異常、生理的異常の無効。
・神威耐性。
・魔石摂食により経験値獲得。
・一定品質以上の魔石摂食により偉業達成判定。
《
・呪詛耐性。
・自身の頭髪伸縮自在。
・自身の頭髪操作権。
・頭髪強化。
・頭髪呪詛属性付与。
メリーと同じく小人族型の菊は、しかしメリーとは違い得意は肉弾戦だ。ただし、打ち合うのは自身の肉体ではなく、スキルによって自由自在に動かせる髪の毛である。
菊の髪が伸びて壁になり、杭になり、刃になり、鎚になり、本人は軽々と動きながらそれを振り回す。
さらにその髪には呪詛が絡みついており、触れると同時に動きを阻害する。呪詛を流す髪に本数は関係ないので、視認しにくい少量の髪を伸ばして味方をサポートすることもできる。
新しく入った菊との連携を確認しつつの攻略は順調。特に問題なく『
とはいえ、全員がLv2。また、スキルやリビングドールとしての特性を鑑みた彼女たちの推定戦力はLv3パーティー並で、このくらいではまだ苦戦はしていない。
途中、パーティーは行き止まりの小道へ入る。新人はここまで下ってこず、この階層に来る頃にはちゃんと地図を買っているので、自然誰も寄り付かなくなる単なる行き止まりだ。隠し部屋なども存在しない。
その小道の一番奥。岩で死角になる位置に、複数の板が置かれている。それぞれ材質が違い、それぞれ材質の名前が板に彫られている。
『えーと、前回から5日経過。やっぱり全滅だね』
『今回もダメでしたか……うーん《天啓》が下りてこない限り自身で探るしかないんですが……ダンジョン内で吸収されない物質、ドッグタグに作ろうかと思ったんですが、そう簡単に見つかりませんねぇ』
おおよその考えは今ワシリーサが言った通り、冒険者が斃れても現場に残るドッグタグを新たな商品として売り出そうとしているのだが、思いのほか迷宮が何でも吸収してしまい、今のところとっかかりもない状態だ。
「レウキの甲殻は試したんだっけ?」
『試しましたが駄目でしたねぇ……やはり迷宮からすれば裏切者だからでしょうか。むしろ真っ先に吸収されるみたいです。ひとまずまた素材の選考からやり直しです。ありがとうございました、皆様』
検証が終わり、次の階層へと足を進めようとした時、コッペリアが待ったをかけた。
『お姉様たち待って! 次階層に行く道の前で戦闘がおきてる。モンスターと冒険者……モンスターはハード・アーマードに似てるけど黒くて大きい! 多分強化種! 冒険者はヒューマンひとりに獣人5人のパーティー! 苦戦してるっぽいよ!』
「どうするヒーちゃん? 助ける?」
「コッペリア、ヒューマンの得物は?」
『長剣使ってるっぽい! あと、獣人は
「わかった。やはり、
ヒガントーナから指示が出ると同時に現場へと走り出す一行。現着すると、そこにはコッペリアが言っていた通りの光景が広がっていた。
見た様子だと全員が前衛。本来のハード・アーマードよりかなり大きい、それこそビッグボアほどもある巨体を取り囲み、爪や棒術、あるいは蹴りを食らわせているが、ハード・アーマードに効いている素振りはない。
「チッ……クソったれ!!」
「もういいから! 私を置いて逃げなさいよ!!」
「黙ってろジルナッ!! 団長はオレで、決めるのはオレだ!!」
どうやら、鹿人族の少女が脚を負傷しており、決定打が出ないのに逃げられない状況に陥っているらしい。パーティーメンバーも疲弊しているように見える。
やがてハード・アーマード強化種が、原種で考えられない速さで負傷者に迫る。それから庇おうとふたりの大柄な獣人が前に出て、各々棒と爪を構えるが……
「窮地と見て助太刀に入る! 無用なら文句は後で聞こう」
「ッ、助かる!!」
その突進をヒガントーナが壁盾で受け止めた。ヒガントーナだけではない。菊もまた、その髪をアンカーのように使ってヒガントーナを支える。
「うちに魔導師がいる! 詠唱の時間を稼いでくれ!」
「わかった! どのくらい待てばいい!」
「30秒!」
ヒガントーナと、恐らくはパーティーのリーダーと思われる狼人の少年との短いやり取りののち、各々が自分の役割に入る。
その中心、
「【滾れ炎よ。其れは森の怒り。己の身さえ焼くほどの、邪悪への憤怒の奔流】」
唱える魔法は名も知らぬ
「【いずれ緑が燃え尽きようと、遺された灰は恵みとなり、やがてはまた生命を芽吹かせるだろう。しかし、そこに汝は必要ない! この輪廻に置いて逝け!!】」
「発動するぞ! 射線を開けろ!!」
ヒガントーナの合図と同時に、ハード・アーマードの周りから人がはける。そうして、パラケルススが魔法名を解き放った。
「《カリ・ユガ》!!」
放たれた業火はハード・アーマードの表面を炙り、表層を燃え焦がすよりもむしろ、その内側を熱で焼いていく。黒い甲殻は赤熱し、ハード・アーマードは金切り声の悲鳴をあげた。
やがて生命活動が停止し、文字通りの灰になった跡にはガラス質に溶けた地面と、やはり原種のハード・アーマードよりも大幅に大きな魔石だけが残っていた。
「……っ、ふぅ……」
「あ゛ー! 助かったぁ!!」
「ジルナ、無事!?」
「え、えぇ、私は大丈夫……この人が守ってくれたし……あ、ふたりもね!」
先にいたパーティーは己の無事を喜びあう。そんな中、リーダーと思われる少年とそれに続いてヒューマンの少女が、ヒガントーナのもとまで歩いてきた。
「おう、助かったぜ。恩に着る。大方予想はついてんだが、名前聞いてもいいか?」
「なに、大したことではないさ。我々はピュグマリオン・ファミリアの迷宮部隊、私はリーダーで副団長のヒガントーナだ。『白壁』と言えば聞こえは良いかな?」
ヒガントーナの名乗りを訊いて、灰色の毛並みをした狼人族の少年は、粗野ながらも親しげに笑いながら手を差し出し、握手を求めた。
「ピュグマリオン・ファミリア……まさか迷宮でお目にかかれるとはな……オレたちは『ヴィーザル・ファミリア』。オレが団長の、ベート・ローガだ」