人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
「ピュグマリオン商店のヨォー! ミックススパイス! あれやべーよな! もうアレなしで遠征とかできねぇよ俺!」
「私は湿潤液と保湿液! あれ使い始めてからもう肌がもちもちプルプルでさぁ!」
「お買い上げありがとうなのです! 今後ともご贔屓に……」
イレギュラーによって現れたハード・アーマードの強化種に苦戦していたヴィーザル・ファミリアの面々を助けた迷宮組は、そのままリヴィラの街まで同行していた。
索敵はピュグマリオン・ファミリアに一任されている。カラクリに関しては「スキル」とだけ言っておけば深く追及はしてこなかった。実際に角から出てくるモンスターの種類と数を当ててやったのも効いたらしい。
特段騒がしくしてても問題ないと伝えると、荒っぽくはあるが気のいい連中であるからか、あっという間に和気藹々とし始めた。なにせ団長のベートと副団長のヒガントーナがおよそ同格なのだから、ヴィーザル・ファミリアの団員はピュグマリオン・ファミリアに敬意を持って接していた。
「しっかし、そんだけ強くて商業系ってんだからヒデーよなぁ。俺らだって頑張ってんのによォ」
「ん……それは何を第一に考えるかの問題。私たちは
「フレイヤ・ファミリアのとこみたいなもんか。あっちはバリバリの探索系だけど」
「今のお前らンとこの店見てると稼げてんだろーなって思うもん……そう言えば、『
「奥方様は今回は不参加なのです。
「マジかー! いっぺん見てみたいんだけどなぁ〜」
そんな会話をしながらも、モンスターが現れれば前のめり気味なヴィーザル・ファミリアが一蹴する。相性的に不利でなければ、この辺りの敵は問題なく処理できるらしい。
ちなみに、負傷していた
「しかし良かったのか? 強化種の魔石もドロップアイテムも貰ってしまって」
「ハッ! テメェらがいなかったら、少なくともオレたちの誰かは死んでたんだ。守られた上に治療までされて何か要求できるほど恥知らずじゃねえよ」
「そういうこと。この借りは絶対に返すからさ」
手に入ったのはハード・アーマード強化種の甲殻だった。これは開発部門に回され、詳しい解析がなされるだろう。魔石はヒガントーナのLv3ランクアップに使われることとなる。
リヴィラの街に着くと、ヴィーザル・ファミリアとは解散になった。ヒガントーナたちはリヴィラの街へは入らないからだ。
この場でやることは、拾っておいた魔石をリヴィラの街で待機していた配達部隊に渡して地上へ届けさせるくらいで、補給が必要ないリビングドールはこのまま休憩無しで19階層へ向かう。
なお、配達部隊、別名隠密部隊とはその名の通り隠密行動に特化した人形たちだ。基本的に戦闘は避け、荷物を送り届けることを優先する。魔石を受け取ったリヴィラ待機組配達部隊がリヴィラの街を出発すると同時に、迷宮入口から中間受け取り組が出発し、途中で合流して荷物を受け渡す。
荷物を渡したリヴィラ待機組は再びリヴィラへ引き返し、中間受け取り組は迷宮を出て本拠地へ持ち帰るというのが彼女たちの役割である。
なお、その他にもオラリオ内での配達活動も、普通に彼女たちの仕事となっている。
さて、19階層から始まるのが『大樹の迷宮』。その名の通り森林地帯が広がっており、索敵の難易度が格段に上がる。
そして、昆虫系を中心としたモンスターの多くは多彩な状態異常を操り冒険者を苦しめてくる。ただ強いだけでなく厄介なのがここからの特徴だ。
「なんか、言うほど強くないのです」
が。
「油断するなメリー。本格的に難易度が上がるのは21から先だ」
『お姉様たちー! 左から
彼女たちには規格外な索敵手段と、9割の状態異常を遮断する耐性がある。
「ん、
「ここ、制空権、大事」
言ってしまえば、この『大樹の迷宮』はリビングドールにとって、非常に相性のいい狩場だったのだ。
「いいですね! 今度からここに狩場移します?」
「まずは目的達成するまで、嫌でもここで狩ることになるさ。とはいえ、まずは21階層まで進まなければな」
一行はそのまままっすぐ、目的のモンスターが出没する21階層へと潜っていく。果たして、降りてすぐにそれはコッペリアの索敵に引っかかった。
臙脂色の長い体毛に、5〜6
そう、そのモンスターの名はマンモス・フール。象牙をドロップするモンスターである。
リビングドールを作るときに使用している材料は多岐にわたる。例えばヒガントーナは御影石*1で作られているし、コッペリアやメリーは磁器人形、菊は極東から輸入してきた桐塑*2と胡粉*3で作られている。パラケルススに至っては木材だ*4。
何故そんな彼女たちが、材料関係なく白く染まるのか。何故彼女たちを表すスキルの名がアイボリー・ハート――象牙の心臓なのか。
それは、彼女たちの祖であるガラテアの材料こそが、象牙だったからである。
彼女たちの
彼女たちの目的はモンスターのドロップアイテムである象牙を使ってガラテアを強化するため、素材を乱獲しに来たのである。
「【滾れ炎よ。其れは森の怒り。己の身さえ焼くほどの、邪悪への憤怒の奔流。いずれ緑が燃え尽きようと、遺された灰は恵みとなり、やがてはまた生命を芽吹かせるだろう。しかし、そこに汝は必要ない。この輪廻に置いて逝け】……《カリ・ユガ》!!」
小声で唱えられた魔法は炎となり、不意打ちにマンモス・フールの牙へ放たれた。マンモス・フールは唐突に襲いかかってきた炎に激昂し下手人を探すも、視界は森の木々と炎に遮られ、マンモス・フールより遥かに小さなパラケルススたちがその眼に映ることはない。
《カリ・ユガ》の魔法としての性質は『燃やす』ことではなく、『熱を与える』ことにある。その結果として燃えることはあれど、本質的には効率的に熱を与えることを目的とした魔法だ。
耐えかねたマンモス・フールがめちゃくちゃに暴れ出す。しかしその牙がパラケルススたちを捉えることはなく、足は無関係なところを踏みつける。
そう時間もかからず、マンモス・フールの牙の根元が赤熱し光を放ち始めると、パラケルススは別の魔法を詠唱し始める。ヒガントーナとメリーはそんな無抵抗状態のパラケルススを他のモンスターから守り、菊は髪でパラケルススを持ち上げて逃げ回りながら上空の敵を打ち落としている。
「【日は落ち、実りは枯れ、命は凍え伏す。それは悲嘆の証、罪顧みぬことなき者へ与えられる罰。精々祈り踊るがいい、岩戸の扉開くまで】《アマノイワト》!!」
続けて放たれた魔法が周囲の熱を急激に奪い始める。熱して冷やす、焼入れの話を思い出した者もいるかもしれないが、話はもっと単純だ。それに伴って起こる物質の膨張と収縮。熱を奪われて鈍くなるマンモス・フールの牙の根本にヒビが入った。
「行くぞ」
「はいなのです」
先行したのはメリー。本来ヒビが入っていようと刺さるはずもないダガーを、奇襲による貫通属性付与を乗せて、ヒビ割れたマンモス・フールの牙へ楔のように突き入れる。
「【私、メリーさん。今あなたの後ろにいるの】」
「ハァアアアアアアッ!!」
魔法でメリーが離脱し、残されたダガーの柄に向けて、ヒガントーナが壁盾を振り下ろす。ヒビは広がり、そうしてついにマンモス・フールの牙が片方へし折れた。
「ぶぅもぉおぉおおおおおおお!!」
「【天地ひしゃげる赤雷、其は人々を見限った】!! 《レッド・スプライト》!!」
怒り狂うマンモス・フールを意に介さず、パラケルススは、もう片方の牙に雷の魔法を叩き込む。一種の明滅と轟音。脆くなった箇所に超高圧電流を流された牙はそれが全体に広がる前に崩壊し、もう片方の牙も地面に転がる。
「牙、両方とも折れた」
「よし、トドメ!」
ヒガントーナの指示とともに菊が刃物状にした髪で近くの木を切る。倒れ始めた木に、メリーが蹴りを放ち方向を修正すると、木の倒れる先はマンモス・フールへと変わった。
そして、それはメリーが先の不意打ちのあと再び身を隠していたために、再度奇襲判定となり武器に貫通属性を付与する。そう、今マンモス・フールを打ち据えんとしている倒木に。
貫通属性がついた木が、倒れる勢いそのままにマンモス・フールへと襲いかかる。一瞬の間の後、轟音。倒木がマンモス・フールの胴体に半ばまでめり込みながら、地面まで押し倒し叩きつけたことで、マンモス・フールの命は尽きるのだった。
灰になって消えていくマンモス・フールの体。残されたのは魔石と、折られた2本の牙。
「よし、牙確保!」
「ところで、これはどうやって地上に持ち込むのです?」
「護衛部隊にピノッキオと『
「で、リヴィラまでは?」
「【星々よ、お見守りください。我々は今、貴方がたの手を離れ旅立ちます。どうかお祈りください】《リリース・グラビティ》」
パラケルススの魔法によって牙が重さを失う。これで、あとは菊が髪の毛を巻き付けて引っ張ればいい。
「なんか……やっぱり無闇に便利なのです」
「ん、当然」
こうして、リビングドール一行は一度リヴィラの街へ引き返すのであった。