人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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 勘違いしてる人がいるようなので確認。
 ヴィーザル・ファミリアと邂逅したあのピンチは、ベートが擦れたのとはまた別です。
 ベートくん曇らせ事件が起こるのは大抗争後なので。


殺帝(アラクニア)

 『闇派閥』による散発的なテロ行為は、オラリオに被害を蓄積させている。人々の恐怖は日々高まり、それを守る冒険者たちは疲弊していっている。彼らの作戦は順調と言えた。

 

「で、なーんで『ピュグマリオン商会』だけは無傷なんだ? あ?」

 

 一箇所を除いて。

 

「そ、それが……『ピュグマリオン商会』を襲おうとした同志が皆、その直前に何者かに襲撃され阻止されてしまい……」

 

「何者かってなんだよ。()()そいつらを囮にして面割ってんだろ?」

 

「囮にはしたのですが……魔導具か何かで突然現れ、同志を殺してまた魔導具でどこかへ消えるというのを繰り返しているようでして……そ、そいつらは常に黒ローブと仮面で正体を隠しており……」

 

「あ〜〜〜〜面倒クセェ、用心棒かよ……商業系のクセによぉ……」

 

 『闇派閥』の一角、タナトス・ファミリアのLv5、『殺帝(アラクニア)』ヴァレッタ・グレーデは立ち上がると、得物である自然武器(ネイチャーウェポン)の大剣を担いで歩き出した。

 

「ヴァレッタ様!? いずこへ……」

 

「あぁん? 決まってんだろ。無傷の場所があったらそこが希望になっちまう……だから叩き壊すんだよ、私が直々にな……」

 

 行くぞと、自分の直属の部下を連れてねぐらを出ていこうとするヴァレッタを、他の『闇派閥』たちが止めにはいる。しかし、味方であっても邪魔をすれば斬り殺すのがヴァレッタという女であるからか、その制止は消極的だ。

 

「まぁいい、行かせてやれよ」

 

 そして、そんなヴァレッタを擁護する声もあがった。

 

「エレボス様!? な、なにを……」

 

「ピュグマリオン・ファミリア、気になってはいたんだ。奴らはこっちの切り札の存在を見抜いていた……恐らく、俺たちの知らない情報網がある。襲撃を察知しているのもそれが由来だろう……最悪、ザルドとアルフィアがいれば戦力はどうにでもなるんだ、不確定要素を潰すのが優先さ。ピュグマリオン・ファミリア、俺の知らない神の眷属たち、どんなものか見させてもらおう」

 

 ヴァレッタさえも囮にすると言い放ったエレボスに絶句する『闇派閥』たち。

 その様子を、ただ、ハエが見ていた。

 

 

 

 時間帯は昼頃。商店の利用客を巻き込んでやろうと敢えてこの時間帯を選んだヴァレッタとその部下たちが裏路地を行く。

 あと少しすればピュグマリオン商会が見える。そんなタイミングで、彼女たちの前に立ちはだかる影があった。

 

「はン、マジでバレてんのかよ、襲撃。テメェがうちの奴らを殺してくれやがった黒ローブか?」

 

「いいえ。本日は貴女がいましたので、私が直々に参りました」

 

 着ていたローブを脱ぐ。そこにいた女の、余りにも整った清廉な雰囲気に、ヴァレッタさえも息を呑んでしまった。

 

「『隠神の白妃(ハーミッツ・クイーン)』……!!」

 

「ヴァレッタ・グレーデですね。その首頂戴します」

 

 ガラテアが矛を構える。それに応じて、ヴァレッタも大剣を構え――ずに、右手を挙げて合図を出した。

 

「バァ〜カ!! 誰がバカ正直に相手するかよ!! ……あぁン?」

 

「教えてもらわずとも分かっていますが」

 

 しかし、何も起こらない。訝しげにヴァレッタが視線を後ろに向けると、ついてきていた部下たちがバタバタと倒れていく。

 

「ッ!! 毒かァ!?」

 

「正確には痺れ薬です。()()()()に路地裏を通ってきてくださったので、民間人に被害がいかず助かりました。貴女も倒れてくださってよかったのですが……腐ってもLv5、《耐異常》は持っていましたか……」

 

 ヴァレッタとともに来ていた者だけではない。他のルートから来ていた部下もいたはずだが、そちらが襲撃に成功した気配もない。完全に読まれている。

 ヴァレッタは怒りで逆に口角を上げて、足下に倒れた部下の頭を踏み砕いたのち、青筋を浮かべながらガラテアを睨みつけた。

 

「……ハン。雑魚を倒した程度で余裕ぶってんじゃねぇよ……まさかLv3のテメェがLv5の私を倒せるとでも思ってんのか?」

 

「苛立っているのが見てわかるのに自分の有利だと言い聞かせて落ち着こうとしているのは、傍から見て滑稽ですよ」

 

「……あぁ苛つくな。そのなんの苦労もしてきませんでしたって顔がムカつく。なんでも思い通りにして育ってきましたってツラしやがってよぉ……」

 

「加害者のくせに被害妄想は達者ですね。『勇者(ブレイバー)』を勝手に一方的にライバル視して策士気取りしてるくらいだから妄想癖があるのは知っていましたが」

 

 ヴァレッタの青筋が増える。口元がヒクつき、大剣を握る手が血を滴らせるほどに強く締められる。ヴァレッタの怒りのゲージはとうに限界点を超え、彼女が今襲いかからずにいられるのは、小娘に口で負けたくないという意地だけであった。

 なお、ガラテアは念話で送られてきた煽りをそのまま口に出しているだけである。

 

「策士気取りねぇ……その策士気取りにまんまと襲撃成功させられてるやつらもいるわけだがぁ?」

 

「あんなの策でもなんでもなくただの人海戦術でしょう。捨て駒を数用意して突撃なんて猿でもできます。防げるか防げないかはまた策の上等さとは別問題です。策士気取りと言っているのは、()()()()()()()がバレているのにいつ使おうかとほくそ笑んでることを言っているのですよ」

 

 ヴァレッタの目が見開かれる。ギルドの内通者、バレていないはずだった。なにせ、接触以来一度も連絡を取っていない。本当に重要な情報をピンポイントで密告させるための伏せ札として、それ以外でバレることがないようにしてきたのだ。

 その様子を見て、ガラテアはあまりにも美しく微笑んだ。

 

「カマをかけました」

 

「〜〜ッッッッ!!! このアバズレがぁぁあああああ!!」

 

 ヴァレッタの怒り任せ――に見せかけた鋭い一撃をガラテアが冷静に避ける。激昂しているように見せて油断を誘ったのだが、ガラテアはそこまで見通していた。

 ヴァレッタの連撃をガラテアは矛の柄を使って受け流し、いなしていく。レベル差が2つもあるとは思えない攻防に、ヴァレッタはガラテアのレベルが3ではないことを覚った。

 

「テメェ、Lv3ってのはウソかよッ!!」

 

「情報が遅いですね」

 

「クソが!!」

 

 ヴァレッタが不意打ちで『魔剣』を起動、あらぬ角度から発射された爆炎がガラテアの顔面を捉える。しかし、一瞬の赤と煙の黒の下から現れたガラテアの顔は無傷。フェイスベールこそ焼けてなくなったが、顔自体には煤しかついていない。

 それどころかたじろぎすらせず、逆にそれを隙と見てか、ガラテアはヴァレッタに矛を振るった。ヴァレッタの連撃が途切れ間合いが開く。一瞬の膠着、ヴァレッタは冷や汗を垂らした。

 

「(なんだコイツ!? Lv4にしたってこんなに動けるのか!? まさか、Lv5!?)」

 

 否、ガラテアはLv4である。しかも、スキル構成は発展アビリティに《秘書》が追加されただけ。Lv3からの戦闘的な変化はランクアップ分の身体能力増加だけだ。

 それなのにヴァレッタがそう勘違いした理由は主にふたつ。ひとつはガラテアが《ウェヌス・クレメンティア》によって完成度が向上したことによる、《ディア・ガラテア》の効力上昇からくるスペックアップ。そしてもうひとつが、《人形王妃(クイーン・オブ・キプロス)》の『思いの丈によって力・耐久・敏捷に高域補正』による超強化。

 そう、ほぼこの《人形王妃》に注ぎ込まれたピュグマリオンへの愛情のみによって、ガラテアはLv4になったばかりでありながら、Lv5上位ほどの能力を獲得していた――!!

 更に言えば、ヴァレッタがランクアップ可能になったらオールD付近でもすぐにランクアップしていたのに対し、ガラテアははじめこそCからBでのランクアップだったものの、それ以降はオールBからSでのランクアップを続けている。

 

「フッ――!!」

 

「チィッ!!」

 

 攻守交代。ガラテアが繰り出した矛での連撃を躱しながら、反撃の機を窺うヴァレッタ。

 その、回避しようと踏み込んだ足が、突然、地面に沈み込んだ。

 

「なぁッ!?」

 

「いつから私ひとりだと?」

 

 今彼女たちが戦闘を行っている路地裏に面した、すぐ隣の建物に潜んでいたパラケルススによる、極小範囲の地面をぬかるませる魔法による不意の妨害。

 回避が一手遅れたヴァレッタに、ガラテアの突きが襲いかかる。

 

「ナメんなぁッ!!」

 

 ヴァレッタは力任せに大剣を振り抜き、その突きを払い除け――

 

 

 

「――あァ?」

 

 ――ようとして、刃と刃がぶつかった瞬間に叩き折れた自身の得物を茫然と見ながら、胴体を真一文字に突き刺された。

 

 幅の広い、鑿のようなガラテアの矛。あと少しで胴体が上下に両断されていたであろう一撃は、ヴァレッタの背骨までで止まり、その勢いのままヴァレッタを吹き飛ばす。

 反射的に回復薬を使用したものの焼け石に水。命を繋ぐことにはなったが、ヴァレッタの戦闘不能は明らかだ。

 

「な……ぁ……?」

 

「さて、では死になさい」

 

 お約束であろうタネ明かし――鑿矛『アイボリー・チゼル』に付随する非生物特効による武装破壊の説明などせず、その生命を刈り取ろうと矛を振り下ろす。

 しかし、僅かな時間空いた距離。そこに飛び込んでくる影があった。

 

「アアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーっ!!!」

 

「……間に合いませんでしたか」

 

 ガラテアの矛を食い止めたのは、屈強な猪人(ボアズ)の男。しかし、その双眸は爛々と光っており、目は充血して血涙が流れている。咆哮のあとギリギリと食いしばられた歯からは、血と涎が混じり合って滴り落ちていた。

 

団長(おかあさん)、ソイツ、精霊の気配する』

 

『えぇ。アパテー・ファミリアのバスラムが作り出した『狂化兵』です。コッペリアから向かってきていると聞いてはいましたが、少し時間が足りませんでしたね……』

 

 ガラテアの攻撃が止められた隙を突いて、ヴァレッタが懐の小瓶を口に含む。すると、裂けていた腹が繋がり、上がっていた息さえも元通りになる。その効果はまさに『人魚の生き血』、どんな重傷も治し、疲労さえ取り去る秘薬のものだ。

 2対1になったことで、機と見たヴァレッタだったが、ガラテアがチゼルで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、狂化兵を包み込んだ()()()()()によって狂化兵が沈静化されたのを見ると、得物を失ったヴァレッタはひとりでは無理だと判断し、舌打ちをしながらも煙幕を焚き、逃げの一手を打った。

 

「クソッ、全部知られてんのかよ、的確な対処しやがって……『隠神の白妃』ンン!! 次は絶対に殺ジィっ!!?」

 

 煙幕の中を走り去りながらも捨て台詞を残そうとしたヴァレッタの右肩に、深々とダーク*1が突き刺さる。

 完全な敗走。最上級の屈辱に、ヴァレッタは悪態をつきながらもダミーの拠点を通って念入りに追手を撒きながら、クノッソスへと帰還するのだった。

 

 

 

 一方ガラテアは、パラケルススによってコピーされた《ディア・フラーテル》によって薬と呪詛を完全に治癒された狂化兵と、先程の攻防の只中でかろうじて生きていた『闇派閥』の残党を捕縛し、駆けつけてくるだろうガネーシャ・ファミリアを待っていた。

 

『追わなくていいの?』

 

『得物がないとはいえ、人魚の生き血でバイタルは万全なLv5と戦えるのは私だけでしょうし、私にとって優先されるのはここの守護です。とはいえ、やられっぱなしも癪に障りますから、報復はしますけどね』

 

 

 

「クソッ!! クソがっ!! あの████の████が!! 舐めやがってェッ!!」

 

 ヴァレッタは荒れていた。格下だと思っていた相手に、完全にしてやられたのだ。鬱憤の噴き出すままに壁を壊し、部下を殺し、人魚の生き血で回復した体力を使い果たしてようやくその場に座り込んだかと思ったら、ガリガリと血が出るほどに頭を掻きむしる。

 

「ぁああぁぁあぁあ〜〜〜〜の女ァ? クソクソクソクソクソクソクソッ! 次会ったら臓物引きずり出して縄跳びしてやる……あいつの子宮でオカリナ作って目の前で吹き鳴らしてやるっ……!」

 

 そんなものはない。

 

「バルカァ!! 作戦決行までにあの女を愉快なオブジェにするカースウェポン用意しとけ!! 私は寝る、起こしたら殺す!!」

 

 クノッソスの主でありダイダロスの末裔、タナトス・ファミリアのLv4、バルカ・ペルディクスにそう言い残すと、ヴァレッタは自身の部屋に閉じこもり不貞寝を始めた。

 

「は〜、随分荒れてたねぇ、ヴァレッタ」

 

「…………」

 

「アレ、スルー? 俺一応主神なんだけどぉ?」

 

 軽薄な態度で茶化すタナトスを無視して、バルカも己の部屋に戻ってカースウェポンの選別に入った。

 

「ちぇ〜……にしても、なんなんだろうねぇ、あのピュグマリオン・ファミリアとやらは……」

 

 この世界で死が蔑ろにされていることに。あるべき死が否定され、生き長らえている命が増えすぎていることに不満を持ち、あるべき姿に正そうとしている死の神、タナトス。

 ヴァレッタの肩に突き刺さっていたダークによって縫い止められていた一枚の布には、こう書かれていた。

 

『そんなに仕事熱心なら、天界に帰って働けばいい。仕事を放棄して降りてきたくせに文句を言うな』

 

「ハハッ、どこまで知ってんだよ、マジで……まぁ俺って捻くれ者だから? こんなこと言われたら余計やりたくなるんだけど……やだなぁ、こいつら相手にしたくねぇ……ヴァレッタは殺る気満々だし、どうすっかなぁ……」

 

 タナトスは物憂げで妖しい色気がある顔面でそう憂い、溜息を吐いて報告に向かうのだった。

 

 

 

 闇の奥で幽冥が揺らめく。

 

「どうやらこちらのことは筒抜けらしい……ならいっそ、直接会いに行ってみるか……? その神意を確かめるために……」

*1
投擲に向いた短剣の一種。

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