人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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配達(おんみつ)部隊』

 その事象に、全員が呆けていた。

 轟音、突風、灼熱、不意の出来事に反応すらできず、戦場だというのに尻餅をつく者までいる始末。

 先の会議で『闇派閥』が爆発物を使うという想定はされていた。だからこそいくつかの対策は練られていたのだ。しかし、これは正常な思考の人間が思いつくものではなかった。

 

「…………自爆した……?」

 

 正義の眷属でもっとも蛇の道に精通した小人族(パルゥム)が看破する。『闇派閥』の恐るべき作戦。そこに集まった皆が理解を拒み、しかし現実は刻一刻と進んでいく。

 

「……おいおい」

 

 そして、呆けていたのは『()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()

 

 死の神に誑かされた少女によってもたらされた圧倒的破壊の爆心地。そこに倒れていたのは、左腕を失った青銅色の髪の少女。ガネーシャ・ファミリアのLv3であり『象神の詩(ヴィヤーサ)』の二つ名を持つ団員、アーディ・ヴァルマ。

 床が抉れるほどの爆発だったにも関わらず、いやまさに爆弾を持っていた少女は跡形もなく吹き飛んだのにも関わらず、アーディは五体満足とはいかずとも、命の灯火どころか意識を保ったままそこに倒れていた。

 

「……おいおいおい!! なんで生きてやがる!? Lv3どころかLv4も楽に殺せる程度には爆薬を持たせてやったんだぜ!? どこぞのクソ商会のせいで弾数が減って爆薬が余ってたからなぁ!! なのになんの冗談だ!?」

 

「(『纏化(スペリオライゼーション)』による爆発耐性か……マジピュグマリオン・ファミリア様々だなおい!)」

 

 ヴァレッタが喚く。そこで真っ先に気づいたのも、やはり『狡鼠(スライル)』ライラだった。

 一瞬の安堵、しかし、それと同時に都市全体で散発的に響き始めた爆発音に、再び表情を固くする。

 

「……まぁいい、最初の一発は『合図』だ。もう止まらねぇし……こいつに関しては私が直接殺してやればいい」

 

「なっ、やめろおおおお!!」

 

 カースウェポンの大剣を振り上げたヴァレッタにリューが叫ぶ。同時に駆け出すが、その位置では届かない。

 しかし、大剣がアーディに振り下ろされることはなかった。

 

「――あぁ?」

 

「やぁ……ギリッギリ間に合ったぴょん」

 

 アーディは横抱きに抱えられていた。白髪に白装束と、瞳だけが赤い。ピュグマリオン・ファミリアの自称配達員。芻靈(チェレン)によって。

 とはいえそれは本人も言っている通りギリギリ、まさに紙一重での回避。チェレン本人も大きくのけぞり、ようやく大剣の太刀筋から逃れていた。

 

「し、締まらねぇ〜ぴょん……」

 

「クッ……ククク……また……またテメェらか、ピュグマリオン・ファミリアァァァアアア!!!」

 

 思惑を幾度も阻止され、ギリギリのところで精神の均衡を保っていたヴァレッタの堪忍袋の尾はあっという間に切れた。

 素早く翻した大剣が地面から切り上げられ、チェレンの首を狙う。チェレンはギリギリでそれに反応し、さらに体を反らすが、剣の軌道上にあった右手首から先が宙を舞った。

 

「ヒャハハハ!! ザマァ見やがれ!! このカースウェポンでつけた傷はコイツが壊れるまで治らねぇ!! つまりテメェの右手は――」

 

「よいしょっと」

 

「――ハァ?」

 

 愉快そうにネタバラシをするヴァレッタをよそに、宙に舞っていた右手を左手で掴み取り、そのまま右手にくっつけて手をグーパーと動かしてみせるチェレン。

 唖然とするヴァレッタに、チェレンはニマリと馬鹿にするように笑った。

 

「右手が、なにぴょん?」

 

「〜〜〜〜〜〜殺、スゥ……!!?」

 

 何故。そう考える前に殺意が噴出するヴァレッタ。彼女は知る由もないだろう。リビングドールにつけた傷が治るのを阻害するには『治癒阻害』ではなく『修復阻害』でなければ阻害できないなど。

 そうして再び剣を振るおうとしたヴァレッタは、振るった腕の軽さに驚く。軽くて当然だ、ヴァレッタの右手首から先には何もなかったのだから。

 

「なっ……にィ!!?」

 

「あーし、こー見えてピュグマリオン・ファミリアの配達部門長だからぁ……届け物は確実に届けるんだぴょん。商品は購入者に、怪我人は治療院に、()()()()()()。つまり、あーしにつけた傷は全く同じ傷が相手に跳ね返るぴょん」

 

 故に彼女は『芻靈(わらにんぎょう)』。人の意識の隙間に入り込む、あまねく因果の届け人。

 

呪詛(カース)かぁ!!? こっちには《耐異常》が……」

 

「因果応報のどこが異常だぴょん? エールを飲んでゲップが出るのを《耐異常》で防げるのかぴょ〜ん?」

 

「て、テメェの傷は治ってんだろうが!!」

 

「治したのはお前じゃなくてあーしだぴょん。なんでお前に跳ね返らなきゃいけないぴょん?」

 

「ッ、ガアアアアアア!! その腹立つ喋り方をやめろぉ!!」

 

 飛び退きざまに左手で落ちていた大剣を掴み取るヴァレッタ。再びそれをチェレンに抱かれているアーディに振るうが、今度こそ間に合ったリューと輝夜に阻まれる。

 

「アストレア・ファミリアッ……乳臭い小娘共がぁ!!」

 

「黙れ!! 貴様は、貴様らだけは赦さんぞ、『闇派閥』ぅ!!」

 

「怒ったら煽ってる側の思う壺だってわからんのかねぇこのポンコツエルフは……ぴょん」

 

 大きく邪魔されたものの、リューの反応でそもそもの目的自体は果たされたことを理解(おもいだ)したヴァレッタは嗤う。それを見て、チェレンがやれやれとため息を吐いた。

 

「しょーがねーぴょん、配達(おんみつ)部隊、総お届けぴょん!」

 

「イエスマム!! お届け完了だワン!」

 

 チェレンの掛け声に反応し、大きく開けていたヴァレッタの口内に、どこからともなく現れた犬人(シアンスロープ)の配達員がぶち撒けたのは、樹精花夢魔(ドリュアス・アルラウネ)のアナクサが高速品種改良によって作り出した辛さ特化のレッドペッパーに酸味特化の柑橘類をブレンドした特製タバスコ。

 第一級冒険者が激辛料理で悶絶しているのを見て、何故高レベルに対して(いた)みが通じてるのかという根本的(ラジカル)革新的(ラジカル)な疑問から生まれたのがこの『()()()()()()()*1

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

 

「『届ける』と思ったときには、既に配達は完了している……ニャン……」

 

 反射的に大剣を取り落として左手で口を覆い、前屈みに悶絶したヴァレッタの顔面に、猫人(キャットピープル)の配達員が吹き付けたのは、今朝できたばかりの『対魔導師兵器』の改良品。

 その性質はアンモニアに極めて近い。しかしアンモニアに比べて遥かに鼻の粘膜(みず)に溶けやすく、さらに鼻水の中に含まれる微小の糖タンパクと結びつくことで粘性を増す。

 対して空気中の水分にもあっという間に溶けるため至近距離でしか有効でない弱体化はあるが、全員が強度の高い隠密能力持ちである配達員にはそれで十分。

 

「!!??!???!?」

 

「そーれおとどけぇ〜、コーン!」

 

 狐人(ルナール)の配達員はヴァレッタの背中に液体を浴びせる。空気に触れることで急激に粘性を持つ、言わばトリモチである。Lv5の動きを阻害するには至らないだろうが、ただのトリモチと違い直撃当初はさらさらな液状である分、髪や服の細かいところに入り込んでから固まる。それは相当鬱陶しいことになるだろう。

 

「ぴ〜ひょろろ〜、これで最後ちゅん」

 

 口笛を吹きながらヴァレッタの頭上を通過したのは、鳥の翼が生えた少女*2。通過の瞬間、ヴァレッタの頭上で何かがひっくり返された。それは箱である。

 箱からボトボトとヴァレッタのもとに降ってきたのは、夥しい数の不快害虫。ゴキブリ、ムカデ、ゲジ、ヤスデ、ヒル、ウジ。コッペリアによる《生育》の仮定において、特に『登攀(とうはん)力』を底上げされた虫たちは、ヴァレッタの脚をウゾウゾと並でない力で這い上がり、トリモチに引っかかった虫はその場でウゴウゴと蠢いている。

 見ているだけで怖気が走る光景。それを見ていた者たちは正義も悪も関係なく、その光景にドン引きしていた。リューなんて害虫の群れを一部浴びたせいで気絶寸前になって輝夜に陣地まで引っ張られてきた。

 

「あー、そうそう自爆兵の人たちー! 見ての通りさっきの子の爆弾で、冒険者はひとりも死ななかったぴょん! こっちは対策してるんだぴょん! ねぇ自爆兵さんたち、お前たちの爆弾じゃ冒険者は死なない……それって、お前たちの神様との約束を守ったことになるぴょん?」

 

「「「!!?」」」

 

「だって冒険者を巻き込んで自爆できたら〜ってのが約束ぴょん! こっちが死んでない以上お前らの自爆に巻き込めてないんだから、それって完全に無駄死にぴょん? あぁ、もちろん何回も爆発してたら死ぬかもしれないけど、それで約束守ったことになるのって、実際に殺した最後のひとりだけなんじゃないかぴょん?」

 

 さぁ、自爆してみろよ。こっちが死ななきゃ無駄死にだけど? ぴょん。

 チェレンはふざけた口調でそう煽る。それだけで、自爆兵は躊躇った。当然、相手が死なない可能性も考えてはいた。それでも、自分の爆発で殺せると信じていたから特攻できたのだ。

 しかし、見てしまった。実際に死んでいない冒険者。それどころか命にかすりすらせず、ただ腕一本だけで切り抜けてしまった冒険者。それで、自分は愛する者に会えるのか?

 

 その一瞬の隙で動ける者がいた。ライラが投げたブーメランは自爆兵の手首を切り裂き、自爆スイッチの操作を不可能にする。それに追従して、次々に自爆兵を無効化していく冒険者たち。

 もちろんここ以外では未だ爆発が起こってはいるが、本来起こるはずだった半分程度の数しか起こってない――無論、本来の数を知らない以上それだけでも脅威であり、冒険者の精神に著しく負担をかけているのだが。

 

 そうしているうちに、ヴァレッタから悍ましい殺気が膨れ上がった。自分をコケにしてくれたクソ獣人どもに対する殺気。取り落とした大剣を拾い、ユラリとダメージを堪えて立ち上がり、配達部門員たちを睨みつける。

 

「おーっとこれはマズいぴょん!! こうなったらあーしたちの合体必殺技を見せるしかないぴょん!!」

 

 そこでチェレンが叫ぶ。それと同時に、その場にいた配達員の姿がすべてかき消える。ヴァレッタは怒り狂いながらも警戒する。格下でもここまでのダメージを与えてきた以上、もはや格下の攻撃だからと無視することなどできない。

 油断なく、どこから攻撃されてもいいように感覚を研ぎ澄まし、大剣を構えるヴァレッタ。5秒経ち、10秒経ち……1分経って、ヴァレッタはようやく、ウサギどもがハッタリかまして逃げたことに気がついた。

 

「ッ!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ズゥッ!!?」

 

 そして発狂した瞬間、ヴァレッタの眼の前に落ちてきた見慣れた装置(ばくだん)。その場の遥か上空から、翼の少女によって投下されたそれは、周囲にいた自爆兵たち3人分。

 トリモチと害虫ごと焼き尽くされるヴァレッタは、爆風によって部下たちのところまで吹き飛ばされる。ピクリとも動かないヴァレッタを見て、部下たちが選んだのは撤退。なんとかヴァレッタを背負いながら、()()()()持っていた撃鉄装置の遠隔スイッチを押す。

 直後、逃げる『闇派閥』を追おうとしていた正義の眷属の近くの自爆兵が持っていた爆弾は、信号を受け取り爆発する。アーディのつけていたものと同じ爆発耐性の纏化装備によって死者こそ出なかったものの、多くの負傷者を出したうえに捕縛できた『闇派閥』はゼロ。

 しかし、Lv5の『闇派閥』幹部がLv3とLv1の非戦闘員によって戦闘不能に追い詰められたことは、最悪の始まりであるこの事件において唯一の希望として、あるいは「Lv1にもできたのに自分たちができなくていいのか」と奮起させる材料として、強く喧伝されることとなったのだった。

*1
断じてパクりではない。

*2
獣人ではない。鳥人のような獣人は存在しないため。彼女のこれはスキルとして換算される。




原作神「アーディのスキルは黒竜討伐に必須級」
ここの未来エレボス「あっぶねええええええええ!!」

 実際知らなかったとはいえ原作エレボス一番のポカはここだと思う。
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