人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
「と言うことで
「お初にお目にかかります、
メイルストラにあるアフロディーテ・ファミリアの拠点にて、アフロディーテ・ファミリアの団員たちはざわついていた。アフロディーテに至っては白目を剥いている。
ピュグマリオンによって紹介されたのは象牙のような白髪のツーサイドアップに白い肌と灰色の瞳を持つ、目の覚めるような美少女。無表情に抑揚の薄い口調にこそ無機質さがあるものの、滑らかに動いている姿には人形であると思える要素はひとつもない。
だが、団員たちがざわついているのも、アフロディーテが絶句しているのもそこではなく――いや、間違いなくガラテアの容姿に絶句しているのではあるが――別の要因にあった。
「なっ、なんで
そう、ガラテアは
もちろん、文字通り神懸かり的な黄金比の容姿を持つアフロディーテそのものとは言えない――Lv5に上がった際の偉業としてほぼ完璧なアフロディーテの偶像を作れたのは、それが動かない彫刻であったからだ――のだが、それでもアフロディーテを知っている者が見れば関係を疑う程に*1似ているし、その美しさはハイエルフのそれを優に超えるほどのものだった。
アフロディーテの絶叫に対して、しかしピュグマリオンはなんの不思議があるのかと言った表情を浮かべながら、平然と答える。
「何故って……彼女は僕の伴侶にするのだから、知る限り最も美しいものをモデルにするのは当然だろう」
「ぐ、ぐぅ……」
ぐうの音が出た。13歳の子供の口から当たり前のように人形に対して俺の嫁宣言が出たこともまぁおかしいと言えばおかしいのだが、その愛が本物であるとわかる以上、アフロディーテは文句が言えない。
そもそも、これまでアフロディーテはピュグマリオンに散々自分の人形を作らせて、それを売ってファミリアの資金にしてきたのだから、今更自分をモデルにするなとは言えない。まさかそれが嫁にされるとは思っていなかったが、しかし、よくよく考えてみれば想定できる範疇だった。
「ち、ちょっとこの子のステイタスについて話すから、貴方たちは部屋を出なさい!」
「わ、わかりました、アフロディーテ様!」
外見についてそれ以上の追求は諦め、アフロディーテはガラテアのステイタスについて問い詰めることにした。なお、団員たちにはピュグマリオンが人形に命を吹き込めることはいずれバレるだろうから教えているが、疑似恩恵を与えられることは話しておらず、ガラテアはアフロディーテの眷属ということになっている。
ガラテアの背中の恩恵は、
その驚きは、ひとえに《
『一定品質以上』がどの程度かはわからないが、つまりこれはガラテアの成長、およびランクアップへのハードルが、他の冒険者よりも著しく低いことを示している。Lv6に上がるためにバロールやゴライアスの魔石が必要とかであればまだマシだが、それでもそれを
そう、それはランクアップだけでなく、経験値稼ぎであってもそうだ。今目の前で行われているように、資金に物を言わせて魔石を購入し、それを食べさせるだけで基本アビリティがモリモリ上がっている――
「上がっているぅ!!?」
ちょっと物思いに耽っている間に、ピュグマリオンに渡された魔石をガラテアがスナック感覚でポリポリと食べていた。
当然、ダンジョンがないメイルストラでは魔石は発掘されてはいないのだが、魔石製品という文明の利器がある以上魔石無しでの生活をするわけにもいかず、いやむしろ歌劇の舞台セットや機材に使うために他の都市よりもやや多めに消費するため、オラリオから輸入してきた魔石をメイルストラでも買うことができる。とはいえ、もちろんオラリオよりもかなり割高だが。
ピュグマリオンはガラテアのスキルを確認してすぐ、ほぼ人形の材料費と工具の点検費にしか使わないため貯め込んでいた個人資産を使って、大小の魔石を買い込んできていた。
「ナ、ナニシテンノォー!?」
「何って、今後どうするにしろ、どの程度の魔石でどの程度経験値を得るのかの検証は必要でしょう」
「い、いやそうだけど!! 事前に相談とか!! ねぇ!!」
「これは僕の個人資産ですし、ガラテアは
「そ・う・だ・け・どぉー!!」
ピュグマリオンの正論返しに地団駄を踏むアフロディーテ。わかってはいた。この3年間で、いやむしろ村で出会った頃からわかってはいたのだが、ピュグマリオンは筋金入りの社会不適合者でありコミュ障で陰キャだった。
大きく息を切らしながらその場に突っ伏したアフロディーテをよそに、ピュグマリオンとガラテアは淡々とステイタスを更新する。
「むっ……やはり効率はよろしくないな。オールI0から3000万ヴァリス分の魔石を注ぎ込んでようやくオールC程度か……
「Lv2まではともかく、Lv3では
いや、それでも異常である。そもそも冒険者としての知識がまるでないピュグマリオンは、自身の器用と耐久を基準にしているのだろうが、Lv1オールCの冒険者だって一生かけてようやくそこに行き着くという者も少なくないのだ。
ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの壊滅から7年。原作8年前の時間軸である現在、『剣姫』によるランクアップの最短記録および最年少記録更新が達成されるのは数ヶ月後であるため、現在の常識でこのステイタスは、3〜4年かけて一握りの冒険者が辿り着く領域である。
合計3000万ヴァリス……オラリオ内ならもっと安い値段の魔石で、その数年を0にしてしまうのは。なにより冒険者の死亡率は、当然だが駆け出しから初心者が一番高い。そのもっとも危険な時期をスキップできるのは、明らかに
「ふむ、Lv2へのランクアップはミノタウロスの魔石3つで十分なようだな。ひとつでは無理だったか……まぁ今の段階でランクアップしても発展アビリティが発現しないだろうから保留にしておくか」
「
確かに普通、Lv1冒険者がミノタウロスを倒すのは天地がひっくり返っても無理だ。仮にそれを成せたのなら、満場一致で偉業判定だろう。ならばそのミノタウロスの魔石が3つなら偉業判定になるよね。うん納得。んなわけねぇよバカじゃねえの。
「海豚たちーっ!! 全力でアルテミスを探して連れてきなさい!! この馬鹿どもに常識を叩き込ませるのよっ!! そうじゃないと私の胃が保たないわ!!」
「「「か、かしこまりました、アフロディーテ様!!」」」
胃潰瘍で天界に送還されるなんて御免よ!! と言って、団員たちに指示したアフロディーテも部屋を出ていったところで、ガラテアはピュグマリオンに対して話を切り出した。
「
「さぁ……人形作りは愛しい人形を作る手段でしかなかったから、おそらくこれ以上は作れない最高傑作であるガラテアが完成した時点で目的は達したと言える。人形作りを続ける理由はないんだが……流石の僕も、ことここに至って目的のためだけに人形作りを続けてきたわけではない。それなりに楽しんで作っていたわけだし、今後はガラテアを愛でながら人形作りを続けようと思う」
「でしたら
ピュグマリオンの返答に対して、ガラテアは自身の考えを献ずる。
「まずひとつ。
ガラテアは淡々と説明する。創命魔法の詳細は、実際にそれを使ってみた現在でも、ピュグマリオンもガラテアも把握はしていない。だから、ガラテアに宿っている知識と智慧がどこから来たものなのかはまったくの不明だが、ガラテアはそれらを総動員して、現状の問題をつぶさに洗い出していく。
「確かに
「まぁ、ガラテアひとりを作るのに死にかけたんだけどね」
「私ほど完璧に作り上げる必要はありません。ここまで細部にこだわらなければ、5日もかからないうちに1体作れるでしょう。むしろ
事実、《ディア・ガラテア》は魔法の詠唱を始めてからは追句を繰り返し続けなければならない制約がつく以上、途中で食事や睡眠を摂るわけにはいかなくなるが、その詠唱を始めるタイミングは比較的自由だ。確かに追句を繰り返した回数分効果も上がりはする。しかし恐らくだからといって260万回近くも繰り返すことは想定されていないだろう。
「とにかく、そのために
「ふむ、わかった。それで、1つ目ということはそれ以降もあるのか?」
「はい。2つ目はそれに付随するものでもありますが、金銭面についてです。現在、中堅程度の基本アビリティでランクアップしたLv2ほどにリビングドールを育てるのに3000万ヴァリスかかっています。もちろんこれは、以降に生み出されるリビングドールも《
不幸中の幸いというべきか災い転じて福となすというべきか、ピュグマリオンはその寝食を忘れる悪癖と人形作り以外の無趣味のおかげで、生活費を極限まで切り詰めてきた。移住2年目からはピュグマリオンの技術も界隈では有名となり、人形1体がオークションで100万ヴァリスを超えることも珍しくない。
だからこそ、3000万ヴァリスという、個人で持つには巨額とも言える資産を持っていたのだが、とはいえそのレベルの完成度となると、流石にホイホイと作れるものではないため数が出せないが故に、貯めるのには3年かかっている。
「
「……と、なると」
「えぇ、
1ヶ月後、普段ならば情報を聞いたときに自ら出向いてちょっかいを掛けてくる程度のアフロディーテが、ほうぼうに眷属を散らせてまで自分を探して拠点に招くという異常事態に、堅物であるアルテミスが眷属を率いてメイルストラを訪ねると、
「遅いわよ!!
「……は?」
ナーフしました
3年間の貯金:5000万ヴァリス→3000万ヴァリス