人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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tips:戦闘力はガラテアとパラケルススがぶっちぎってるだけで、他団員は戦闘職同ランク帯のオラリオ冒険者よりは(スキルが優秀な分)上程度。非戦闘員は普通に同ランク帯下位。


第三章 日常への回帰
アフロディーテ・ファミリアからの出向者


 これは、酒神ソーマがピュグマリオン・ファミリアに傘下入りするひと月前。『大抗争』のさらに前の出来事である。

 

主人(マスター)主神様(グランドマスター)から、団員の念話を通して連絡が入りました。どうやら団員をふたり、こちらで預かってほしいそうです」

 

「このクソ治安の悪い時期に? 正気か?」

 

 口ではそう言いながらも、ピュグマリオンは受け入れ自体はこの時点で決めていた。自重する気はさらさらないとはいえ、流石にパラケルスス完成を事後報告した際に号泣しながら全力ビンタされたのは、ピュグマリオンにとっても悪いことをしたなぁと思っているので、主神からのお願いくらいは聞いてやりたいと感じる程度の人情は残っていた。

 あと、ピュグマリオンに《ウェヌス・クレメンティア》が発現したときの「ねえねえねえねえねえねえ!! このウェヌスって私のあだ名よ! これ私の名前入った魔法!!」とはしゃぎまわっていたのも普通にかわいいと思っていた。

 

「一応、片方はアフロディーテ・ファミリアでも珍しいLv2上位の団員で、自衛は可能だそうです」

 

「あの劇団アフロディーテにそんな有望株がいたのか」

 

「もうひとりは『お姉ちゃんだから大丈夫』と(のたま)っているようです」

 

「あぁ、誰だかわかった」

 

 ピュグマリオンの脳内にひとりの少女らしき女性が映し出される。妹分(メリー)に脳をこんがり焼かれ弾けてしまった一般小人族団員(29)である。

 自称姉は妹不足の禁断症状が出たためらしいが、もうひとりに関しては豪放な性格に反して対人恐怖症気味であり、本人が克服を決意しているからオラリオで荒療治に臨みたいという至極真面目な理由とのこと。

 と、まぁそんなわけでアフロディーテ・ファミリアからふたりの団員を一時的に預かることが決定したわけである。それから十数日後にやってきた団員と顔を合わせることになったピュグマリオン。なお、自称姉はすぐにメリーを拉致して消えていった。

 自称姉はおいといて、もう一人の団員は特徴的な褐色肌……というよりも浅黒い肌に、ヒガントーナに近い巨躯、極東由来の顔立ちに黒髪。そして、その額からは2()()()()()()()()()()

 

「おう、アンタがピュグマリオンか。アフロディーテ様から話は聞いてるよ。アタシはサカトケ・伊吹、見ての通りのアマゾネスで極東出身。アンタがオラリオに行った後にファミリアに入ったんだ。前はオオヤマツミ・ファミリアにいた。アタシにできることなら任せてくれ。よろしく頼むよ」

 

 伊吹は、母親のアマゾネスが野生の大鬼(オーガ)を逆強姦してスキルの効果*1で妊娠した結果生まれた子供である。つまり、モンスターと人間の間に生まれた、本来ありえない存在なのである。

 アフロディーテの鶴の一声によりアフロディーテ・ファミリアでは受け入れられたが、普通であればとてもじゃないが受け入れられない存在。普段は角を覆える顔上半分をカバーする面を着けることで、角も面の飾りであると誤魔化している。

 しかし、この場で伊吹はその面を外してピュグマリオンに会っていた。相手はあの自由奔放の化身である彼女の主神アフロディーテを振り回す存在。一体どのような反応を見せるのかと戦々恐々とする伊吹。

 

「あぁ、そうか。まぁ好きにしていってくれ。基本的に聞くことはガラテアに聞けば間違いないから」

 

 まぁピュグマリオンは気にしないのだが。

 

「……アタシが言うのもアレだけど大丈夫か? アイツ」

 

主人(マスター)の方が百倍問題児ですから。本人に責任がない問題程度では揺るぎませんよ我々は」

 

 そもそも、本来ありえないと言うのなら、リビングドールたちや『異端児(ゼノス)』も大概である。というか、『異端児』の方が数段ヤバい爆弾とも言える。伊吹は精々魔獣50%だが、『異端児』は100%魔獣生搾りである。

 予想外にスムーズに打ち解けてしまった伊吹は、それからしばらくは地下拡張の際に出る土砂運び出しや、空調設備の運び込みなど力仕事を頼まれていた。同僚はデカい虫と小さい人形である。

 

 そして、来たる『大抗争』では出稼ぎに来たアフロディーテ・ファミリアの上級冒険者としてそれなりに活躍し、仮面ありの状態でなら他の冒険者たちにも受け入れられた――憲兵のファミリアが仮面だらけであるために心理的ハードルが低かったのも理由――伊吹。

 特にヴィーザル・ファミリアの面々からは案の定気に入られ、酒を酌み交わすまでになった。

 

 そして、そう。酒である。

 何を隠そう、伊吹の趣味は酒造りであった。

 元主神であるオオヤマツミ以外伊吹の事情を知らなかった前ファミリアの団員たちにその正体がバレ、圧のある不穏な視線に居た堪れなくなり出奔した前所属、オオヤマツミ・ファミリアは、清酒の酒造を主に活動するファミリアだった。

 そこで酒の旨さにはまった彼女は、自身でも清酒だけでなく様々な酒を造るに至っていた。

 そのことをピュグマリオン・ファミリアで話した翌日、事業拡大で新たに着手する酒類の研究、酒造チームに加わらないかと打診が来た。

 快く快諾した伊吹だったが、まさか外部からの――傘下のファミリアとはいえ――参加者がいるとは思わず、普段ピュグマリオン・ファミリア本拠地内では面を外していたこともあり、その外部協力者と素顔のままで邂逅してしまったのだ。

 

「彼女はアフロディーテ・ファミリアからの協力者で、酒造部門の一員であるサカトケ・伊吹です。角のことは気になさらず」

 

「そうか、よろしく頼む。それで、酒蔵はどっちだ」

 

 まぁソーマは気にしないのだが。

 

「こちらです。それと、これは理性あるモンスターで、毒歩茸(ダーク・ファンガス)の強化種、菌主歩茸(バクテリア・ロード・ファンガス)のジャイミニです。菌や酵母を操る能力を持っていて、酒の発酵を促進させ、研究の待ち時間や熟成に必要な時間を短縮できます」

 

「そうか、便利だな」

 

 キノキノも気にしないのだが。

 

「……えー……」

 

「伊吹ちゃん。あれは主人(マスター)とだいたい同種の神なのです。厳しいことを言うようだけど、あれを見て『もしかして案外オラリオなら受け入れてもらえるのかも?』とか思ったら痛い目見るのです」

 

「妹ちゃん……」

 

「私メリーさん、今自称姉が後ろにいるの」

 

 あまりにも異物を受け入れすぎている趣味神を見て呆ける伊吹。しかし、姉を名乗る不審者によるストーキングを受けていたメリーによって現実を見せられる。

 

「モンスターが近いということはすなわちモンスターによる死も近いということなのです。モンスターへのヘイトはむしろ外より大きいのですよ」

 

「うっ……」

 

「まぁ民間人に関しては結局は伝聞での情報による恐怖と本能的な生理的嫌悪が主なのでなんとかならないでもないのですが、冒険者相手には難しいのです。というか、スキルって言っておけば誤魔化せると思うのですけど」

 

「そう、なんだけどさぁ……」

 

 伊吹の角はスキルが原因である。伊吹のスキルではなく、母親のスキルだが。しかし嘘をついているわけではなく、神相手にも誤魔化せるだろう。

 しかし、伊吹にとっての鬼門は、モンスターとして見られることよりもむしろ、「騙していたのか」という視線にある。なにせ、前のファミリアでは実際スキルとして通しており、モンスターを察知するスキル持ちにそれを看破されたときの視線こそ、そんな視線だったのだから。

 

「ま、とりあえず当面は私メリーさんたちの繋がりからモンスターに耐性がある相手を付き合う相手に選んで、少しずつ交友を増やしていくのが無難なのです。理不尽なのは周りの対応ではなくあなたの母があなたに強いている生まれ。周りの対応は差別ではなく区別なのですから、逆恨みは……に関しては心配なさそうなのですね。逆恨みするような顔してないのです」

 

「ハハ……ま、自分のほうが異端だってのは散々思い知ってるからね。相手が悪いわけじゃないってのは納得してるさ」

 

「とにかく、今あなたはピュグマリオン・ファミリア預かりの身なのですから、問題起こしたらちゃんと報告するのですよ」

 

「問題起こすなじゃないんだ」

 

主人(マスター)が一番問題起こすからそんなこと言えないのです」

 

 メリーは肩を竦めると、自称姉を引きずりながらその場を去っていった。

 

「……………………」

 

「伊吹、何をしているのですか。説明を始めるから来てください」

 

「あっ、お、応!」

 

 

 

 先程も話に出たが、新設される酒造班は3人体制。伊吹とジャイミニ、そして外部協力者にして監督官の神ソーマだ。基本は生産部門の一部署として扱われ、普段は新たな酒の研究と既にレシピの確立された酒の製造を行い、開発部門のアイデアを検証する役割も担う。

 

「……あ〜……なるほどこれは……」

 

 そして、伊吹はソーマによる『試し』を受けていた。

 

「……ピュグマリオンの連中はともかく、お前も平気なのか……」

 

 既に傘下に入っていることで、ピュグマリオン・ファミリアの秘匿事項をおおよそ教えられたソーマは、酒の魔力を精神異常無効で、酔いを生理的異常無効で弾くリビングドールはともかく、伊吹も神酒(ソーマ)の誘惑を乗り越えたことに驚愕していた。

 一方、伊吹は神酒を飲んだその感覚に覚えがあった。他でもない、オオヤマツミ・ファミリアにいた頃に散々浴びた感覚だ。

 

「……ソーマ様。アタシは以前、オオヤマツミ・ファミリアっていう酒造ファミリアにいました。そこでは主神だけでなく団員も協力して、神便鬼毒酒*2っていう神酒を造ってたんですが……これに関われる団員は、最低でもLv2になっていることが条件でした。理由は、Lv2以上の恩恵があれば、神酒の魔力から逃れられるからです」

 

「なっ……!?」

 

「もちろん、個人の精神性や精神状況によっては、Lv2以上でも神酒に飲まれることはあります。それでも、Lv2になっていれば、ひとまず神酒を飲むのに必要な耐性としては十分なんです」

 

 伊吹もまた、ソーマの事情を説明された上で、この『試し』をさせられた。だから、ソーマの事情を汲んだ上で、しっかりと自分の知っていることを話す。例えばだが、ザニスが神酒を飲んでいたら、その魔力に取り憑かれただろうかと聞かれれば、それは否である。当然あいつは自身では飲んでいなかったが、仮に飲んでもギリギリで酒に飲まれることはなかっただろう。

 

「神酒を飲む条件は、Lv2の耐性に平静の精神状況と最低限の精神性。あるいは、Lv1の耐性に強固な精神性と、健全な精神状況。例え英雄のような精神を持っていても、Lv1で追い詰められた者に対しては、神酒は精神の毒にしかならない。というのが、元主神であるオオヤマツミの研究結果でした。神便鬼毒酒と神酒(ソーマ)とは、厳密には効能がやや異なりますが……」

 

「……いや、間違いなく、俺が未熟だったのだろう……俺が知るべきだったのは、人間(こども)の醜さではなく、人間(こども)の弱さだった。結局俺は、酒にしか興味がなかっただけだな……下界に降りるべきではなかったのだ……」

 

 ソーマの目に映るのはなんだろうか。神酒に飲まれながらも非道には手を染めなかった現団長か、あるいは自身が人生を狂わせてしまった少女か。

 ソーマは、近いうちに団員に謝罪しようと決めた。そして、希望者は改宗(コンバージョン)も許可しようと。神酒の魅了から抜け出せるような()()()も造って、自分のできる限り償おうと決めたのだった。

 

「……それはそれとして、確かに美味しいですが雑味が多すぎっす。強烈な多幸感で粗を隠してる感じがして……酒造りは洗い半分って知ってますかい?」

 

「む……だが、酒の中では食中毒菌は発生しないから……」

 

「そりゃ最低限中の最低限でしょうが!! これ材料の選別もろくにしてませんね? 純然たる酒の状態の見極めの腕だけでここまで完成度高めてんの逆に怖いんですけど……ここまで来ると飲料ってより薬ですよ。度数も弱めだし」

 

「ぬぐぅ……度数は……言い訳できんな……ハオマのやつはもっと強くしていたんだが……」

 

「あぁ……ハオマ神のザクロ酒……オオヤマツミに聞いたことありますわ……」

 

 ひとまず、今はこの、下界の子と酒を造れる幸運を噛み締めながら。

*1
性交時に血液を取り込むことで妊娠できる。

*2
酒呑童子に振る舞われた酒が神便鬼毒酒という名であるという描写は原典にはなく、後世に御伽草子で語られたことであるとされている。また、山中で源頼光らに神便鬼毒酒を渡したのは3人の老爺であり、これらは神仏の化身であり少なくとも1人は八幡大菩薩の化身であるとされているが、他2人を明言されている資料は見つからなかった。八幡神に酒造の逸話はないため、ここでは老爺のうちひとりが、山の神であり酒造の神であるオオヤマツミであると解釈した。余談だが、オオヤマツミの娘のひとりこそ、鎮山と繁栄の女神であり美しき娘で有名なコノハナサクヤヒメ。同時にもうひとりが、出戻りブサイクで有名なイワナガヒメである。オオヤマツミが伊吹の容姿で差別せず恩恵を与えたのはこれが理由であった。




tips:《人形生命》の偉業判定でマトモに上がるのはLv5まで。そこから先は最低でもアンフィス・バエナ級の魔石が複数必要。
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