人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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薬神との取引

 ミアハ・ファミリアは、オラリオにおいて中堅の医療系ファミリアとされている。ディアンケヒト・ファミリアにライバル視されながらも規模を拡大し、順風満帆の活動を送ってきた。

 この日、副団長であるナァーザ・エリスイスが迷宮で大怪我を負ったと報告が入るまでは。

 

「ナァーザ!! ナァーザはどこだ!!」

 

 ナァーザが保護されているというギルドへ、主神であるミアハが乗り込んだ時には、ナァーザの症状は幸いなことに安定していた。

 団長のスレーンが言うには、ギルドで保護された時には既に、大きな傷は治療された状態だったという。しかし、治療痕――皮膚や細胞の新しさや機能の一時的不全の痕跡から、元々の怪我の規模はかなりの大きさで、最低でも皮膚全域と内臓に大きなダメージを受けていたことが、薬神であるミアハには察せられた。

 ミアハは顔を青褪めさせ、初期治療を施した者に内心で深く感謝しながら、後遺症が出ないように手を尽くした。しかし、どうしても骨ごと失くなっていた右腕だけは治らなかった。

 

 ミアハはディアンケヒト・ファミリアにナァーザの義手を作ってくれるように依頼した。その代金は莫大なものであり、ミアハ・ファミリアは多額の借金を負うこととなった。それによって、愛想を尽かしたスレーンをはじめとした団員たちは次々にファミリアを抜けていき、最後にはミアハとナァーザだけが残された。

 そうして多くの失ったものがありながらも、一柱とひとりがまた一から歩み出そうとした時に、彼女は現れた。

 

「神ミアハ。我々と取引いたしませんか?」

 

 

 

 場所はミアハ・ファミリアの本拠地、そこに集まったのは今回の当事者たちだ。

 ミアハ・ファミリアからは主神ミアハと、義手を受け取った団長、ナァーザ・エリスイス。一方義手の作成を行ったディアンケヒト・ファミリア主神、ディアンケヒトと、団長、アミッド・テアサナーレ。

 そして、ピュグマリオン・ファミリア開発部門長、ワシリーサである。

 

「で、なんのようかなミアハァー? 借金を一括で払って貰えるなら、儂はそれでも構わんが?」

 

 そんなことは無理とわかっていてもミアハを煽るディアンケヒトと、窘めるアミッド。そして、そんなディアンケヒトを親の仇を見るような目で睨むナァーザ。

 しかし、そんな構図を遮るように、ワシリーサが革袋をテーブルへ置いて差し出した。

 

「借金分のヴァリスが入っております。お受け取りを」

 

「……あのなぁ。儂だってやりたくて借金漬けにしたはしたんだが、これも必要なことなんだぞ? そもそもだ、命がかかってるならプライドなど捨てて頭を下げるのも致し方ない。しかし、腕一本なくなった程度で、自分の腕を磨いて治すこともせず、医神が他の医神に頭を下げて、自身の眷属の義手を作れと頼むなど恥でしかない。情に厚いと言えば聞こえはいいが、それで他の眷属にまで迷惑かけとるんじゃただの無責任だ。しかも、感覚に違和感のない最高級の『銀の腕(アガートラム)』だぞ? ランクを落とした義手でも着けて金を稼ぐか腕を磨くかで少しずつランクアップさせればいいところを無茶を通すんだからこの程度の金額はケジメとして必要なんだよ。言っておくが、この値段は義手としては適正価格だぞ。儂が情けで安くして、その後何が起こる? 自分も自分もと虫のようにタカリ共がやってくるに決まっとろうが」

 

 長々と講釈を垂れるディアンケヒトだが、その視線はバッチリとヴァリスの詰まった革袋に固定されている。

 そして、ディアンケヒトの言っていることもまた事実ではある。多分にディアンケヒトの敵愾心というか、アンチミアハ精神に溢れてはいるのだが。

 

「えぇ、もちろん我々も商人ですから、なんの対価もなく肩代わりなどいたしませんよ。ミアハ・ファミリアには、我々の傘下に入っていただきます」

 

「待て、それはむしろ得なんじゃないか?」

 

「彼らには我々の企業秘密を余すことなく知っていただきます」

 

「よし分かった。それでいいとしよう」

 

 ディアンケヒト渾身の手のひらドリル。なお、既に傘下となったハトホルは最近胃酸過多になっており、ソーマは酒造りを謳歌している。

 

「そういうわけで、ミアハ・ファミリアには我々ピュグマリオン・ファミリアの傘下として大きく運営方針を変えていただきます。主に並べる商品の展開ですが、先の『大抗争』や緊急時以外は治療には手を出さず、商品もポーション類は最低限、他はピュグマリオン・ファミリアの作る薬品類を並べていただく予定です。主に薬品とまではいかないハンドクリームやマニキュア、経口補水液に化粧品。薬品でも、湿布薬や胃薬のような民間人向けのものを主に扱う予定です。無論、委託販売になりますので売上は我々に入りますし、ミアハ・ファミリアに入るのは我々からのテナント代が主になりますね」

 

 ミアハ・ファミリアはディアンケヒトからの嫌がらせみたいな催促がなくなってよし。

 ディアンケヒト・ファミリアは一括で支払いされた上に商売敵が競合しなくなり、ついでにアミッドはディアンケヒトがミアハへの嫌がらせに向けていたリソースを本業に割けてよし。

 そしてピュグマリオン・ファミリアは医療品の出しどころをゲットできてよし。

 三方よしの取引である。

 

「まぁ、ピュグマリオンの傘下ということは同盟相手である我々の傘下でもあるということだ。精々これからこき使わせて貰うぞミアハァ〜?」

 

「……いや、まぁ私は構わないのだが……」

 

「クッ、あの髭面見なくて済むようになると思ったのに……」

 

 捨て台詞のような何かを残し、代金を持って帰っていくディアンケヒトと、最後に一礼して出ていったアミッドを睨みながら見送ったナァーザは、溜息をついてワシリーサに向きなおる。

 実際、ディアンケヒトの言っていることは筋が通っている。あの神はただ嫌がらせしたいだけだが、間違ってはいないのだ。

 医療系ファミリアはオラリオの生命線だ。その医療系ファミリアの主神であるミアハも、それだけの覚悟を持って自分に銀の腕を与える選択をしたのだろう。

 だから恨むべきは自身の至らなさであり、ディアンケヒトの性格の悪さである。あれ、間違ってなくね?まぁ間違いなくディアンケヒトの性格は悪い。

 

「さて、商談を致しましょうか。まず、店内にあるポーション類は初級ポーションを除き我々が買い取ります。初級ポーションは民間人が買うことも多いのでそのままでいいでしょう。新しく我々が委託販売させていただく商品については先ほど言ったとおりです。あぁ、新たな薬品の研究開発については特段禁止いたしませんので、テナント代と初級ポーションの売上でできた薬品については報告を行っていただいたあと、適切な値段でレシピを買い取らせていただきます」

 

「ちなみに、この店舗で売れる民間人向けの薬品であれば、我々が作った薬品も置いて構わないのか?」

 

「えぇ、店の方針にそぐうのならばそれで構いません。別にミアハ・ファミリアを潰したいわけではありませんしね」

 

 ミアハ・ファミリアにとっても利益は大きい。ピュグマリオン商会の商品が呼び水になり、そこから自ファミリアの商品を売って資金を稼ぎ、立て直しを図れるのだ。

 少なくとも、ディアンケヒト・ファミリアに売上を搾り取られながら眷属ひとりでやっていくよりも余程やりやすいだろう。

 ピュグマリオン・ファミリアとしては、元中堅ファミリアのネームバリューが傘下に加わることで影響力を増すこと。最近商店の混雑のもとになっていた品物を別店舗に移すことの2つの目的を果たせるので利はある。

 

「ついでですから、神ソーマと会ってみませんか? 神ミアハなら、薬草酒として相性のいい薬草をご存知でしょうし、なにかいい新商品が生まれるかもしれませんよ? 二日酔いの薬も、作れればオラリオでは需要が高いでしょうし」

 

「そこまでしてくれるのなら、こちらとしても助かる。これから、よろしく頼もう」

 

 ナァーザは複雑そうだが、ミアハは状況がいい方向に転がったため安堵したような顔をしている。実際、ピュグマリオン・ファミリアの実態を知った後の胃痛を除けば、状況は最善と言っていいだろう。

 

 なお、ミアハたちが最初に研究に着手したのは、胃薬であったという。




 原典では嫉妬の末に殺してるのでこれでもまだ関係が良好というディアンケヒトとミアハ。
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