人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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道化の眷属から見た人形たち

 オラリオ一等地、ロキ・ファミリアの本拠地『黄昏の館』。

 

「おう、おかえりーフィーン。どやった? 新入りのベートはぁ」

 

「あれは……凄まじいね。既にLv3でも上位の実力がある」

 

「ああ。それに、周りを巻き込んで強くなるという気概が見て取れた。少し前までの荒れてた様子とは大違いじゃなアレは」

 

「生い立ちも聞いたが……ベートの生い立ちはアイズとよく似ている。その上で乗り越えた者だ。ベートがアイズにいい影響を与えてくれることを祈るばかりだな」

 

 ベート・ローガは、オラリオを去ったヴィーザル・ファミリアの主神、ヴィーザルから秘密裏にベートを託されていたロキのファミリアへ改宗(コンバージョン)した。

 そのうえで、自分の過去、今の自分の望みすべてを打ち明けた。できるだけ多くの弱者を導き、死なないように鍛え上げたい。しかし、自分自身だけでは限界がある。

 その願いは、フィンたちからしても望ましいものだった。より多くの戦力が加わることは、悲願である黒竜討伐とダンジョン攻略に繋がることだ。

 ベートには才能がある。態度は荒いが、周りを巻き込んで引っ張っていく群れの長としての才能。そのノリに感化される者は、ロキ・ファミリアにも多いだろう。

 フィンともリヴェリアともガレスとも違う、人を惹きつけるカリスマの方向性。彼が、ロキ・ファミリアの4本目の柱になってくれるのではないかと、三幹部が期待するほどだった。

 

「セレニアたんの方もエエわぁ! 元が獣人ばっかの脳筋集団率いてただけあって、事務仕事バッチシや。リヴェリアの負担もだいぶ減るでアレ」

 

「ロキがしなければいけない仕事でもあるはずなんだが?」

 

 妙に上手い口笛で誤魔化しにかかるロキ。リヴェリアは頭を抱えて溜息を吐いた。

 だが実際、セレニアは優秀だった。これなら、リハビリの時間を除いてもファミリアには十分貢献してくれるだろう。

 

「ホンマ、ピュグマリオンのとこには感謝してもしきれんなぁ……」

 

「あぁ、結局借りも返せていない」

 

 無論、相手がそれを求めていないのもあるが、『大抗争』のときの借りについて話し合いに行った時に、結局「貸しのまま取っておいてくれ」という要望を通すことで借りを返させるという無茶を押し通してくるほど、ピュグマリオン・ファミリアは具体的な希望を出してこなかった。

 そうして、いざその件を出してきたと思ったらこれである。

 

「単に無欲なんか、狙いがあんのか、ホンマわからんやつやわ……」

 

「ロキ、神ピュグマリオンについては……」

 

「わーっとる、詮索せんて。フィンがピュグマリオン・ファミリアそのものより、ピュグマリオン・ファミリアを詮索することのほうが危険て警戒しとるくらいやからな」

 

 ロキという神は好奇心の塊だ。だから、フィンは強く釘を打ち続けている。だが、それでも漏れてしまっているのかもしれない。

 

「(僕が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……)」

 

 フィンが、ピュグマリオンを神だと考えていないことは。

 荒唐無稽な考えだとは思う。しかし、それならば辻褄が合うのだ。ピュグマリオンの眷属たちは、明らかに常軌を逸している。問題は、その常軌の()()()だ。

 単純にランクアップが早いというだけならば、権能による補助や才能の見極めなど、神の力(アルカナム)を使わない方法はいくらでも提示できる。

 しかし、統一された美しすぎる容姿や多彩すぎる才能を考えれば、それだけでは説明がつかない。明らかに作り物めいている。

 かつてフィンはそれを、己の知らない地域で育てられた統一民なのではないかと推測した。しかし、それだけでもまだ説明しきれない。それこそ、生まれからして操作されていなければ。

 

「(そして、オラリオへの入ってきた目撃情報がないにも関わらず、いつの間にか現れている団員たち……オラリオ内で造られているとしか思えない)」

 

 ガネーシャ・ファミリアも疑問を抱いていた。あれほどの目立つ容姿でありながら、オラリオの門兵を務めている団員から、何の報告もないのだ。彼女たちの名前は、入場記録に確かに書かれているのに。

 最初は、彼女たちがいつか使っていた、透明化か何かの魔導具を使っているのだろうと思っていたが、考えてみればそうする意味が思い浮かばない。それならば、彼女たちがオラリオ内で造られていて、後から辻褄合わせのように何らかの手段で記録の方を改竄していると考えた方が自然だ。

 

「(人を作る、なんてほどの神の力を神ウラノスが見逃すとも思えない。そもそも、そんな力を持った神が他の神に知られていないなんてことも考えられない。ならば、それは『下界の未知』であると考えるほうが筋が通る)」

 

 それはある意味、神では思い浮かばない発想。誰よりも人間(じぶんたち)の可能性を信じることができるのは、人間なのだ。

 

「(()()()()()()()()()()()。彼女たちが自分たちの影響力を高め広めようとしていることにも、それで説明がつく)」

 

 そして、そこにはきっと信じられないほど多くの、さらに枝分かれした信じられない真実がついてくる。詮索すれば詮索するだけ、それこそ湯水のように。

 例えば、人を作るなどという偉業を成している人間ピュグマリオンが低レベルであるとは考えられない。場合によってはオッタルよりも早くLv7に至っていた可能性。それどころか、Lv8の可能性すらありうる。

 かのファミリアの本拠地にいる番犬や、触れ合いカフェ*1にいる摩訶不思議な動物たちは? ピュグマリオンが作れるのは人間だけではないのかもしれない。では、モンスターは? どこまでが彼の力の限界だ?

 

「(……やはり、ダメだ)」

 

 親指が痛む。いや、痛んでいるのは親指だけか? 掘れば掘るほど嫌な予感がする。フィンは胃のあたりを押さえる。最近はピュグマリオン・ファミリアの傘下に入ったミアハ・ファミリアの売り出した胃薬に助けられている。

 それこそが彼女たちの目的なのだとしても、彼女たちの存在は過度な干渉さえしないのであれば有益でしかない。周りを照らしている炎にわざわざ触れにいき火傷するなど馬鹿らしい。

 積極的に利用することを考える相手でもない。こちらには、あちらが満足する対価を用意できないのだから、意思の方向が合った時に相乗りするくらいが丁度いい。まぁ、利用はしなくともご利用はしているのだが。

 

「そーいや、こないだの『闇派閥』がやった大規模怪物進呈(パスパレード)。あれもピュグマリオンとこがなんかやったんやろ?」

 

「あぁ、『白鼠姫(コマンダー・プリンセス)』のパーティーだね」

 

 大規模な怪物進呈によって、ギルドの擁する多くの派閥の冒険者が、追っていた『闇派閥』残党ごと襲われた、後に27階層の悪夢と呼ばれることとなる事件。

 なかには階層主、アンフィス・バエナさえもいたにも関わらず、幸いなことに犠牲者は出たものの生存者もまた存在しており、その立役者が『白鼠姫』クララ・ピルリパート率いるパーティーだった。

 

「彼女たち自身は作戦に参加していたわけではなく、ただの通りすがりだったわけだけどね」

 

「ホンマ、パーティー全員をクララたんと同じLv4まで引き上げる魔法とか強力すぎやろ……」

 

「あぁ……なにより、彼女たちなら容易に隠せるはずのそれを微塵も隠していないのがね……」

 

 しかし、かの事件が早くに終息したお陰で、フィンは『闇派閥』の本当の狙いに気がつき多くの『闇派閥』の神を捕縛しただけではなく、逃しこそしたものの『殺帝(アラクネア)』ことヴァレッタが生きているという確信まで持つに至ったのだ。

 

「それに、あの彼女たちが持っていた武器……『胡桃割り(ナッツクラッカー)』と言ったか……アレは、拙いね」

 

「あぁ、せやな。元々魔剣があったとはいえ、あっちは一本一本作らなあかんから高くて当たり前やった。せやけど、アレは同一規格で量産しとる」

 

「流石に自分たちの利点を潰すことはないだろうからアレを売りに出すことはないだろうし、内部機構を分割することで盗難対策もしてはいる……しかし、本質的にアレは『闇派閥』の特攻兵に近いコンセプトの武器だ」

 

 つまり、『レベル貫通兵装』。Lv1でも不意打ちによってジャイアントキリングが狙える、ステイタスによる攻撃力を完全に無視した武器。

 

「なぁ、フィン、リヴェリア、ガレス……勝てるか?」

 

「『戦争遊戯(ウォーゲーム)』で総力戦になったとして、例えば『白鼠姫』の魔法が彼女たちの何人いるかわからない所属団員全員にかけられるほどの規模があるのなら、僕たちが局所的に勝てても全体で負ける」

 

「ただでさえ、私の魔法はあちらの姫君が持つ魔法無効化魔法で完封されかねないのだ。魔剣の飽和攻撃で私が防御魔法しか使えない状況にされる未来しか見えんな」

 

「こちらはLv6が3人にLv4がひとり、Lv3がある程度、Lv2が多数……一方相手はLv5がひとりに最低でもLv4が20人以上か……笑えんわい」

 

「技術力の差もある。ヴァレッタを完封したあの道具類を、僕らでも察知できない『煽り兎(チェシャ・バニー)』の隠密力で使われたらまず獣人と魔導師は使い物にならなくなる。それにおそらく、彼女たちには遠距離で正確に意思疎通ができる手段も持ち合わせている……」

 

「ハー……なんで探索系ちゃうねんっちゅー気持ちと、探索系やなくてよかったっちゅー気持ちがせめぎ合っとるわ……」

 

 とはいえ、彼女たちの戦いは対人に大きく傾いているようにも見える。理由はまぁ、明白なのだが。迷宮探索を主目的としていない彼女にとって、目下の仮想敵は『闇派閥』……いや、彼女たちを詮索しようとする敵対派閥なのだろう。

 

「はぁ……とにかく、今はまだ『質』のフレイヤ、『量』のロキと呼ばれているが、もはや実情的には『量』でピュグマリオン・ファミリアに追い抜かれている状況だ。遠征計画もそうだが、Lv2やLv1の団員たちをより効率的に強化する方法を模索しなければならないな……」

 

「ホンマ、ピュグマリオンの連中が羨ましいわ……」

 

 それでも、オラリオのトップ・ファミリアとしての意地がある。オラリオを守りきれなかった悔悟がある。持ち続けた野望がある。なにより、先人から託されたのだ。命を以て。

 

「商業系ファミリアに負けてはいられない」

 

 フィン・ディムナは止まらない。

 

「……ところで、動物に『神の恩恵(ファルナ)』を刻むのって、試したことないよね?」

 

「フィン?」

 

「ロキ、ちょっと大型犬を眷属にしてみないかい?」

 

 フィン・ディムナは止まれない。

*1
フィンもお世話になっている。




 フィンって若い言動や外見と、周りにいる二人があからさまにジジババな言動なんで騙されるんですけど、「夢を持って歩み続けてきたのに歳を経て迷走し始めかつて抱いた夢さえ固執する鎖に成り果てていたが、まだ若く自分でさえ見果てぬ夢を抱く後輩を見て奮起するなんだかんだ有能なおっさんキャラ」としてみると滅茶苦茶完成度高い造形してるんですよね。
 なのでそういう運用をします。
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