人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
ピュグマリオンは敗北し続けていた。
多くのリビングドールを作り続け、多くの常識を殺してきたピュグマリオンだったが、『ギルド』地下での会話内容をコッペリアに聞いた時から作ってみたい人形があったのだ。
しかし、どうにもこうにもそれが上手くいかなかった。作れども作れども魂が宿らない。すなわち『完成』と判断されていないようなのだ。
「うーん……やっぱりそもそも完成品の全体像への理解力不足か……?」
「いかがしましょうか、
側に侍っていたガラテアが尋ねる。なんか嫌な予感はしているが、ピュグマリオンの望みならばガラテアは叶えるだけである。
そして、ピュグマリオンは己の欲望を満たすために、様々な懸念もリスクも完全に無視し、行動を決定した。
「よし、迷宮行こう」
「で、なんでリリが?」
迷宮前。集められたメンバーのうちのひとり、リリルカ・アーデがヒクリと頬を動かす。愛想笑いが失敗しているのである。
今まで散々趣味神である主神ソーマに振り回されてきたリリルカ。今度は盟主の主神に振り回されているのである。南無。
ちなみに、彼女の最近のルーティンはソーマ・ファミリアの傘下入り前。すなわち暗黒時代よりも大幅に待遇が改善された状態になっている。
まずそもそも、迷宮に潜ることが日銭を稼ぐための苦肉の策ではなく、冒険欲を満たすための半ば趣味扱いになっているというだけで随分舐め腐った環境と言っていいだろう。既に冒険者嫌いが正史ほどではないとはいえ染み付いていたリリルカだったが、それに反して冒険への憧れは捨てきれなかったのである。
そういうわけで、普段はピュグマリオン商会や、ソーマ・ファミリアと同じくピュグマリオン傘下であるミアハ・ファミリアの本拠地兼店舗『青の薬舗』にて板についてきた事務仕事、あるいは同じく傘下のハトホル・ファミリア本拠地『デンデラ牧場複合殿』にて家畜たちの世話。
たまにサポーターとして、ハトホル・ファミリアの団員と共に迷宮に潜り上層後半〜中層前半で活動というのが彼女の日常である。
余談だが、彼女には『
支給されているのは『胡桃割り』と同じ形状*1ではあるが『
弾丸も、爆破の『魔剣』以外に麻痺や煙幕などのサポーターに向いた効果を持つ魔剣も渡されている。『王女の指先』には嵩張るし重くなるので配られていない魔剣だが、『縁下力持』があるため様々な弾丸を持てるリリルカには関係ないのだ。
閑話休題。
そんなリリルカ、本日は上司であるガラテアによる呼び出しでサポーターとしての任務を言い渡され、普段背負っているものよりも大幅に質のいい巨大バックパックを背負っての出勤である。
「あの……リリはLv1なので、普段ガラテア様たちが潜っている階層まではとてもとても……」
「安心してください。今日は18階層にあるベースキャンプが目的地ですし、我々が護衛につく予定なので」
それでもめちゃくちゃ中層なのだが、護衛の豪華さと装備の性能のせいで「なら割と……」と思ってしまうリリルカ(Lv1オールE偉業なし)は毒され始めていた。目を覚ませ。
そして始まった迷宮探索。しかしパーティーの半分以上がLv4である以上、上層で危険などあるはずもなく、出てくるモンスターは飽きっぽいパラケルススが遊び半分に殲滅しているため、ぶっちゃけ暇である。
「えーと、他のパーティーの皆さまは……そちらの御三方は見覚えがありませんね」
間が保たなくなったリリルカが会話の種に示したのは3人。
ひとりは、目深にフードをかぶり全身を隠した少女で、白髪が見えていることからピュグマリオンの団員であることはわかるが、魔導具か何かのせいかどうにも印象が薄い。
ひとりは同じく白髪と、灰眼も見せておりこちらもピュグマリオンの団員だと一目でわかる。肩にフクロウを乗せていることから、非常に珍しいテイマー職なのだろう。
そして最後のひとりは、ピュグマリオン・ファミリアの団員とは特徴を異にしている。ボサボサとした長髪を後ろで縛っているがその色は黒。瞳もグリーンで、共通しているのはその生白い肌だけだ。着ている服は迷宮を舐めているのかと言わんばかりの舐めた服装で、フリフリのワンピースドレスである。顔には、ハトホルと同じ牛の面を着けている。
「まずこちらが、特殊渉外部門長であるアダム≒イブです。Lv4で一応非戦闘員になります」
「リリっちよろでーす☆」
「あ……ハイ」
「ちなみに、性別的には男性です」
「エッ」
そう、外見的には露出多めで、首や肩、腰など局所的に厚着をしたツインテ少女である彼、アダムは、れっきとした男性として作られた、唯一の男性型リビングドールである。ただし、性自認もきちんと男であり、そのうえでただの少女趣味である。言わば男の娘寄りの女装男子だ。
その能力は『ゴーレムクリエイター』であり、命令を実行する人形の作成という点では主人であるピュグマリオンに近いが、彼のゴーレムはあくまで非生物であり、魂も恩恵もなく命令がないと行動しない。
なお、同時期に完成したのが何を隠そうクララ・ピルリパートであり、彼女はアダムに並々ならぬ感情を向けているとか。
「それで、こっちのフードは……覚えなくていいですよ。もう会うこともありませんし、今回の役割も人数かさ増しの欺瞞要員です」
「……………………ハイ」
リリルカは詮索を止めた。明らかにヤバいヤマに首を突っ込みそうだったからだ。なお、フードの中身は汎用型のモブリビングドールである。
「そして最後にこちらのお方ですが、我らの
「は?」
「名前で呼ぶといけないので、以後は姓であるキプロスとお呼びください。今回の主目的はこのお方のベースキャンプへの護送です」
「…………」
突然のラスボス。リリルカの思考が止まった。
まさか自分のところの主神よりも先に自分が盟主の主人に会うことになるとは。しかも女装している。
「アダムを入れたのも
「……あぁ、キプロス様の容姿がピュグマリオン・ファミリアの外見と違うから、傘下の団員を連れているという事実が必要だったんですね……」
幸いなことに、(何故か)オラリオには主神と同じ仮面を着けている眷属が少なくない。何も言わなければ勝手にハトホル・ファミリアの眷属と判断されるだろう。
ピュグマリオン、御年16歳。不摂生とレベル効果により成長が遅いために声変わりもせず、女で押し通せる程度には女顔なため、体型さえ誤魔化せばどうにでもなるのである。
「……リリルカ・アーデだっけ」
「え!? あ、はい……どうも……」
「人形のモデルにしていい?」
「いきなりなんなんですか!?」
リリルカ、無事気に入られたようである。*3
なお1ヶ月後、リリルカを姉と慕う謎の小人族がピュグマリオン・ファミリアに加入することとなる。別の小人族の因子が混入した模様。
特にイベントもなく18階層のベースキャンプに到着し、リリルカの背負っていたバックパックから次々と取り出される工具と素材。
「あの……これは?」
「それは『大抗争』で『邪神官』に使役されていた狂化兵に使われていた武器化精霊を鋳熔かしてインゴット化したものだね。命名『精霊鋼』」
「エルフに殺されますよ? ……これは?」
「竜の谷近くの廃村からガメてきた黒竜の鱗」
「道中やけにモンスターと遭遇しなかったのってこれが原因では? こちらは?」
「
「何があったんですか……これは……血ですか?
「それは
「なんで残ってるんですか!? それって『大抗争』の首謀者ですよね!? 送還されたんでは!?」
「いやぁ、血液は送還の適応範囲外なんだよね。モンスターの返り血とかも、モンスターが消滅した後も残るだろう?」
「それは一緒にしていいのですか!?」
取り出される常軌を逸した素材の数々に、リリルカは戦慄する。そんなん担がせないでほしかった。いろんな意味で重い。
「ていうか、よく加工できますね? いえ、工具的な意味で……」
「あぁ、この工具は神ヘファイストスに依頼して打ってもらっていてね。総オリハルコン製の
「
「いやぁ、他の工具は眷属で用意しても問題ないんだけど、やっぱりこの辺りは本職に用意してもらわないと完成度に影響してね。売上2年分くらいがほとんどここにつぎ込まれたことになるね」
大人気商会の年商級の工具。先程までの
「
「おぉ、ありがとう。このくらいあればできるかな?」
「えっと……これはなんでしょうか。リリには普通の岩に見えますが……」
「まぁ、普通の岩といえば普通の岩かな。正確には迷宮の岩壁かな?」
そうして、すべての材料が揃ったピュグマリオンは、作業着に着替えて人形作りに取り掛かる。リリルカは先に地上に返され、ピュグマリオンが迷宮を出るのは4ヶ月経ってからと相成った。
そうして、正義の眷属たちの最期が訪れる。
「……なぁ、アタシ、死んだよな? 目も見えるし、どうなってんだ……アンタ、なんか知らねぇか……?」
同時に、泡の美神の胃もまた。
「汝は、我が呼び出した」
「は? いや、なんの……」
「我が名はパポス。父ピュグマリオンの子であり――人の形を模した
今回のピュグマリオンは
・リリルカ・シアワーセ(胃痛)
・【朗報】オリオンの矢編ナレ死
・ひとりは決まってるけどあと何人残そう
の3本でお送りしました。
なお、リューの豊穣入りは既定路線です。