人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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迷宮人形

 結論から言えば、ウラノスによる「迷宮は生きている(意訳)」発言を前提とした、ピュグマリオンによる『迷宮型リビングドール』の製作は成功した。

 報告で遂に血を吐いたアフロディーテ、空気がお通夜になった傘下ファミリア、酒同士を混ぜ合わせてみるのはどうかと考えるソーマなど色々あったが、無事、新たな特級品質のリビングドール、パポスが誕生し、ピュグマリオンはLv8(戦闘力据え置き(クソ雑魚))となったのである。

 

 人造迷宮と言えばご存知、千年の妄執が生んだ『闇派閥』の(ねぐら)、クノッソスであるが、クノッソスとパポスでは存在自体に大きく違いがある。というか、迷宮という共通点があるだけと言ったほうが正確なほどに別物と言っていい。

 クノッソスは、迷宮から拡張する形で掘られたが故に迷宮の性質を保持したまま作られた蟻の巣に近い。理論で言えば、既存の人体に新しい腕を接合して新たな肉体として脳に認識させたようなものなのだから、それがどれだけデタラメなのかわかるだろう。

 一方のパポスは、迷宮と概念的に接続して「迷宮である」と定義されたのをいいことに迷宮として振る舞っている。こちらは、クローンを作成したうえで世界に同一人物だと誤認させているようなもので、クノッソスとは別ベクトルでデタラメなのがわかる。

 クノッソスは地続きで繋がっており、パポスは世界を中継して繋がっていると言ったところか。

 故に、パポスはあくまでも迷宮という性質を持ったリビングドールである。そこに神への憎悪は存在しないし、伝播することもない。

 

 判明している彼女の能力はふたつ。

 まず土地を自身とリンクさせることで迷宮であると定義する能力。とはいえ、現在の彼女ではできることはそう多くない。領域の土木工事と環境の迷宮化が主だろうか。それでも、本拠地地下の拡張に役立つ点と、雲菓子(ハニークラウド)や迷宮にのみ自生する薬草などを栽培可能になったのは大きいのだが、例えば本家の迷宮へ、あるいは本家の迷宮からワープするなどと言った横紙破りはできないわけである。

 そしてもうひとつが、モンスター創造能力である。創造したところで制御もできないのも本家と同じであるが。こちらはパポスの、精神力(マインド)とはまた異なる気力を使っているようだ。

 あと、こちらはおまけだがモンスターから攻撃されないという能力も持っていた。『異端児(ゼノス)』ほどの知能と理性があれば「自身を生んだ迷宮(はは)とは別人だ」と判別できるようだが、本能のみに生きるモンスターには区別がつかないようだ。

 

 では、目の前にいる小人族はなんなのだろうか。彼女の言葉を信じるならば、彼女は星女神(アストレア)の眷属である『狡鼠(スライル)』であり、本日『闇派閥』の罠にかかって死んだのだという。

 何故そんな、本家迷宮の奥底で死んだはずの人間がここにいるのか、仮定に仮定を重ね、ワシリーサは考える。まずこの体は何かと聞かれれば、モンスターのものだと言わざるを得ない。それ以外に、パポスの能力から肉体を作り出しうるものはない。

 ただし、ワシリーサが作った魔石探知機の反応を見る限り、その体に魔石はない。現在のワシリーサ含むピュグマリオン・ファミリアは知る由もないことだが、この特徴に合致するモンスターが一種だけ存在する。そう、ジャガーノートである。

 通常、魔石という魂とエネルギー源を兼ねた核を持たないジャガーノートの寿命は極めて短い。しかしその部分を、何故か召喚できてしまったライラという死者の魂が補っている。

 では、ライラの魂を召喚できた理由は?

 

「完全に不明です」

 

「おい」

 

「いえ、仮説はいくらでも立てられるんですよ。迷宮内で死んだ魂は迷宮に囚われるから、そこから引っ張ってこられたとか。ただ単純に答え合わせができないので断言することができないというだけで」

 

 偶然、というほかない。再現性もないし、当のパポスは負荷が大きかったのか現在ダウンしている。そして結局、その後同じことをしてもパポスがダウンするだけで再現はできないままだ。

 

「と言うわけですので、他のファミリアの方々を同じように蘇生するのは難しいかと……」

 

「……そうかよ。……まぁ、アタシだけでも命を拾えたんだから、感謝しなきゃいけねーよな……悪い、少し一人にしといてくれ」

 

 当然、自身だけがなぜか生き返り、仲間は死んだままなどという事実がいきなり受け入れられるはずもなく、ライラはひとり、用意された部屋へ籠もってしまった。

 

「一応伝えておきます。『疾風』は生き残ったようですよ」

 

「……そうか、無駄じゃなかったんだな」

 

 正義は巡った。ひとまず、それだけでライラの胸は少し軽くなった。

 

「……仮説でしかありませんからね」

 

 だから、伝える必要などない。あのライラに宿っている魂が『ライラ』のものではなく、同一のデータを持たされただけの、まったく新しい魂である可能性は。

 結局のところ、答え合わせなどできないのが『下界の未知』というものなのだから。

 

 

 

「『隠神の白妃(ハーミッツ・クイーン)』、今後の身の振り方を決めたい。ちょっとツラ貸してくれ」

 

「……かしこまりました」

 

 ライラがあてがわれた部屋から出てきたのは翌日のことだった。正義の眷属の中でも随一の修羅場を潜ってきただけあり、立ち直りは早かった。

 観察する限り、空腹にはなるし喉も渇く。睡眠も必要と、モンスターや『異端児』、リビングドールとも異なる、人間としての性質を持っているようだ。

 

「少なくとも、今後アタシが『ライラ』として過ごすことはできないだろうな……」

 

 理由は複数ある。ひとつは、間違いなくライラはあのとき、ジャガーノートの襲撃によって死んだという点。死体が残されており、埋葬されたことはガラテアに聞かされて知っている。さらに背中を確認してみたが、『神の恩恵(ファルナ)』の繋がりも切れている。つまり今の彼女は、正義の眷属でさえない。

 とはいえ、恩恵についてはそれほど気にすることはない。ライラさえ望めば、ピュグマリオン傘下の3柱はライラに恩恵を刻むことを拒まないだろう。勿論それが、再度アストレアに恩恵を刻んでもらうまでの場繋ぎだとしても。

 

「現在、女神アストレアは剣製都市ゾーリンゲンに身を移し、『闇派閥』から身を隠しているそうです。会いに行きますか?」

 

「いや、それもやめておく。アストレア様との関わりは、今はないほうがいい」

 

 死んだふりをして実は生きていた、ができない以上、ライラの『復活』には事情の説明が伴う。ピュグマリオン・ファミリアがそれを看過しないことは、ライラも気づいていた。

 ピュグマリオン・ファミリアにしてみれば自分は偶然の産物であり、なくなっても困らない存在だ。最低でも身内程度の認識になるまで懐に潜り込まなければ、容易に切り捨てられるだろう。ライラは、ピュグマリオンという神を中心に回る狂信者たちの派閥(ピュグマリオン・ファミリア)の危険性を、正確に見抜いていた。

 

「あと、リューとも会いたくない。今アタシがアイツの前に出てけば、間違いなく依存する。場合によっては、アリーゼや輝夜も生きてんじゃねえかっていう希望に縋るようになっちまうかもしれん。できれば、本気で全部吹っ切れて寛解するまでは会わないほうがいいと思う」

 

 その言葉の裏に、アリーゼや輝夜の生存(それ)を望んでいるのはライラもなのだということをガラテアは感じ取る。比較的鍛えられたメンタルを持つ彼女でさえそうなのだから、エルフとしてはまだ幼子と言ってもいいリューでは、まず割り切れることではないだろう。時間が必要だ。

 

「わかりました。では、貴女にはオラリオ外の交渉を依頼しましょう。今度寄港する『学区』もありますし、海国ディザーラ、闘国テルスキュラもそうですね。我々は知識を共有できますが、貴女の経験が役立つこともあるでしょう。問題は……容姿はある程度変えられますが、名前や神の直感対策ですね……」

 

「名前に関しちゃ問題ねえよ。『ライラ』ってのはアタシが自分でつけた名前だ。他に名がないから本名だと認識されてるが、広義では偽名になる。他の名を名乗っても嘘ってことにはならねぇよ」

 

 結局、ライラはヘルガという名で、改めて女神ハトホルの恩恵を受け、オラリオ外で活動することになる。

 なお、彼女が新たに手に入れたスキルのせいでハトホルの胃が破壊されたのは、完全に余談である。




人魔混成(ジャガーノート)
・人である。
・モンスターである。
・力、敏捷に高域補正。
・魔の自覚を持つほどに効果向上。
・人の自覚を忘れぬ限り効果持続。



 ちなみにライラの魂はちゃんとライラです。
 本家迷宮に引っかかってたライラの魂を、まだ迷宮としての定義があやふやだったパポスが奇跡的に釣り上げてジャガーノート(人型)に入れただけなので。
 今はもうパポスという迷宮が確立しているので、本家迷宮内の魂には手出しできません。
 魔石がないのでエネルギー源として魂を利用していて、魂の回復のために食事も休息も必要ですが、肉体的には小人族じゃなくてモンスターになります。
 魂が本人なのでフレイヤ辺りから見ても魂はしっかり人間。逆にアミッドあたりの人体に詳しい人間から見たら違和感があるかもしれませんね。
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