人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
つまりアンチ・ヘイト回です。
ご注意を。
ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナは頭を抱えていた。フィンだけではない。リヴェリアとガレス、果てにはロキでさえも頭を抱えていた。
ここ最近、ロキ・ファミリアには喜ばしいことがいくつかあった。そのひとつが、将来有望な新人の獲得である。
元ヴィーザル・ファミリア団長、ベート・ローガと、副団長セレニア・ローガの
そんなある日、またもとんでもない新人を発掘できた。自身を倒せたファミリアに入団するとオラリオで決闘を繰り返していた
その存在を聞いた時は、ロキなどは「ホンマにおるんや……ピュグマリオンとこみたいな即戦力……」と驚愕を隠せていなかった有望株を、フィンがティオネ、ガレスがティオナをひねることで、ロキ・ファミリアへと引き込むことができた。
ティオナはともかく、ティオネは少々問題児ではあるが、ロキ・ファミリアは順調に成長していると言っていいだろう。
喜ばしいことはまだある。ピュグマリオン・ファミリアを遠征に誘うことが叶ったのだ。
これまで、こちらから差し出せるものがないからと過度な接触は控え、あくまで客として店舗を利用するに留めてきた*1ピュグマリオン・ファミリアとの付き合いだったが、ここにきてあちらから遠征への同行の申し出があったのだ。
あちらの理由としては技術交流である。彼女たちはランクアップによる身体能力と、驚異的な身体制御能力で同レベル帯でも上位の実力を誇っている。また、各々の連携も言葉なくして一流と言ってもいい。しかしやはり、経験が欠けている。そこを、ロキ・ファミリアの幹部の戦いを見て学びたいということだった。
一方、彼女たちの技術自体は一流であるため、ロキ・ファミリアの新人たちにはいい刺激になるだろう。さらに親睦を深められるとなれば、断る理由はない。
「本来なら二つ返事で頷くんだけどね……」
「というより、頷いた後に気づいたじゃろ」
そう問題があった。かなり危険な爆弾のような問題が。
アマゾネスの本能からかフィンにベタ惚れしてしまったティオネは、フィンに近寄る女を敵認定する。それこそ、殺気を放ちながら殺しにかかるレベルで。にも関わらず、ピュグマリオン・ファミリアの団員は全員女性*2なのだ。
「ティオネが万が一ピュグマリオン・ファミリアに突っかかっていって殺気でも出そうものなら、終わりだ……」
「流石に即敵認定にはならないと思いたいけど、彼女たちの性格からして間違いなく厳しい処罰を求めてくるだろうね……鎮圧も手荒になりそうだ……」
だからと言って、ヒリュテ姉妹を連れて行かないというのも難しい。そもそも、今回の遠征の目的のひとつが、彼女たちの連携確認なのだから。
「あっちのパーティーメンバーが軒並みティオネの癪に障りそうなんがなー……
「いや、僕としてはもう狙う狙わないよりもそれで生じる不利益が怖くて下手に誘いもかけられないよ……」
『大抗争』辺りまではメリーや菊に目をつけていたフィンだったが、今はもうそんなことを言っていられない。あれと身内になるのは拙いと親指が張り裂けんばかりに忠告しているのだ。
だがロキが言う通り、そんなことはティオネには関係ないのだろう。フィンが注意しても無駄だったのだ、本格的に暴走というべきだ。
「それで我々に直接相談を?」
「……申し訳ない。どうか知恵を貸してもらえないだろうか……」
リヴェリアがその日のうちにやってきたのは、ピュグマリオン商会の応接室だ。遠征が決まった直後から相談したいと予定を取っておき、ギリギリまで身内だけで解決しようとしたがダメだったために、直接相談することになった。
「……そのティオネ・ヒリュテというのは、聞く限りまだ12の子供なのでしょう? いくらなんでも子供の癇癪にいちいち目くじらは立てませんよ。我々よりレベルも低いのですし」
「そ、そうか……」
「とはいえ、将来的なことを考えれば矯正すべきでしょうけど……」
「だよなぁ……」
本来はフィンが来るべきだったのだろうが、ティオネがべったりくっついているフィンがそのままピュグマリオン・ファミリアと密会しようものなら、そこでティオネが暴れかねない。
将来的には気性もマシになるのだが、この頃はまだ闘国から出てきたばかりとあって、ティオネは相当危ない性格をしていた。
「それで相談なのだが……お前たちならどうやって躾ける? 正直、自分たちの子育て下手は十分自覚していてな……」
主に
「ティオネも、闘国出身ということはかなり過酷な過去を過ごしてきていると考えると、手厳しいばかりではいけないような気がしてな……」
「私であればまず去勢しますね」
「……なんて?」
ガラテアは当たり前のような無表情で、自身の下腹部を突き刺すようなジェスチャーをとる。リヴェリアはさっと青褪めた。こいつ本気で言ってる。
「アマゾネスの生殖本能が思春期の恋愛観と変に混ざって暴走してるのですから、物理的に子供を産めなくすれば落ち着くでしょう。治療してもとに戻してやるかはそれからの行動次第ということで」
「……本当にちゃんと躾けるから勘弁してやってくれないか……」
「他所様にはやりませんよ。私をなんだと思ってるんですか」
身内にはやる時点でヤベーんだよ。リヴェリアはそんな言葉を飲み込んで顔を覆った。
と、会話が途切れたタイミングで、汎用型がやってきてガラテアに耳打ちする。この行為に必要性はないが、リヴェリアという客人がいるためポーズとして行っていることだ。
汎用型からの報告を聞いて、ガラテアは顔を顰め額に手をやる。ガラテアの珍しい表情に、リヴェリアは猛烈に嫌な予感がした。
「……これは、こちらが謝らねばならないかもしれません……」
「……何があった」
リヴェリアの問いに、ガラテアは非常に言いにくそうに答える。
「うちのチェレンが、ティオネ嬢を泣かせたようです」
リヴェリアはその場に突っ伏した。
時は巻き戻って『黄昏の館』。今日もチェレンは元気! ロキ・ファミリアに消耗品のお届けです。
「こんにちは〜! ピュグマリオン商会のお届けものぴょ〜ん!」
「ゲッ、『
「目ぇ合わせるな、煽りに煽られて泣かされんぞ……」
「誰かリヴェリア様呼んでこい! 役目だろ!」
「今日出かけてるぞ! 団長でいいんじゃねえか?」
戦犯、クルス。
「や、やぁ『煽り兎』……配達かな?」
「ぴょん! 食料品、美容品、常備薬、消耗品のお届けぴょん!」
配達員が台車から木箱を本拠地内へ運び込んでいく。チェレンはフィンに目録を渡し、受取証明にサインを求める。その瞬間、チェレンは強い殺気を感じた。
袖口から強臭玉を取り出し、いつでも投げられるようにしながら殺気の方を窺うチェレンの目に映ったのは、こちらを強く睨みつける褐色の少女の姿だった。
「あ〜……団長さん、アレって例の新人さんぴょん?」
「あっ……あ、うん、そうだよ。新しく入ったティオネさ……」
親指が痛まなかったから油断していたフィンは、ティオネの姿に動揺する。その様子を見て、チェレンはニマッと笑った。
「まーた女の子の初恋泥棒したぴょん? いい歳して節操ねーぴょん」
「人聞きの悪いことを言わないでくれるかな? 男として、女性相手には紳士に努めているだけだよ」
ぐいっと距離を詰めるチェレン。実態を知らなければ近所のショタをからかうお姉さんに見えるが、実態はおっさんをからかうメスガキである。
とうとう見ていて我慢できなくなったのか、Lv3のスピードで駆けてきたティオネがチェレンとフィンの間に割り込む。不穏さを感じ取ったのか、ティオネの眼はどこか据わっており、隠すことなく殺気をチェレンに向けている。
「……アンタ、なんなのよ……」
「なにもなんとも見ての通りの配達員だぴょん。毎度おなじみぴょん?」
「団長との距離が近すぎんだよ!」
「えー? でも団長さんが許してるからこの距離で話してるぴょん?
チェレンの煽りの途中で、ティオネから鋭い蹴りが飛んでくる。Lv1どころか、Lv2でも直撃していれば即死していたレベルの一撃を躊躇いなく放ってきたティオネに、チェレンはドン引きする。
「……『シンパスティック・カース』……団長さん? この子沸点低くないかぴょん?」
「はぁ……面目ない。ティオネ、止まるんだ。それ以上は看過できない」
「ッ!!」
念の為に因果応報の魔法を使ったチェレンを見て、フィンがティオネを制止しにかかる。ティオネはフィンの言葉だからこそギリギリ反応して動きを止めたが、呼吸は荒く、目は血走っており、歯がぎしりと軋んでいる。
一応、ティオネの擁護をしておこう。まず彼女は12歳であり、人間の子供であってもまだ自制心が育つ前であること。また、彼女自身闘国で育てられたことで通常よりも強くアマゾネスの本能が表出している状態であること。それに加え、相手が《挑発》のアビリティを持っているチェレンであることも、簡単に理性がトんだ原因だろう。
だが、ロキ・ファミリアという環境に身を置く以上、子供だからと言った理由は言い訳にしかならず、周りは結果しか見ない。それを理解しているからこそ、フィンは事あるごとにティオネに注意をしているのだが、ティオネは「団長に叱られた」という原因を周囲に転嫁してしまっていた。
チェレンはティオネのその様子を見て、フィンに尋ねる。
「ねぇねぇ団長さん。そいつ、今度の遠征に連れてくるぴょん?」
「……その予定ではあったんだが……ここまで酷いようなら、連携の確認以前の問題だ。他の派閥どころか、ファミリア内ですら問題が起こりそうな者を連れて行くのは難しいだろうね……」
「そ、そんなっ!!」
実際、フィンにこう言われてさえ、ティオネは「余計なこと言いやがって」という目をチェレンに向けてきた。
それを見て、またチェレンはにんまりと嗤う。
「団長さん、ちょ〜っと手出し無用で頼むぴょん?」
「『煽り兎』……? ……お手柔らかに頼むよ」
チェレンの様子を見て何かを察するフィン。親指がガンガン痛んでくる。しかし、先に手を出したのは(一応)こちら。
これがティオネにとって考えを改める――あるいはアマゾネスの本能を制御するきっかけになればと、ひとまずチェレンの行動を見守ることにした。いくらなんでも、他派閥に対して致命的なことはやらないだろうと考えて。
「コホン。あ〜、そこな発情ガキゾネス」
「ア゛ァ?」
「どうせお前が団長さんのお嫁さんになる可能性は皆無なんだからそんなカッカすんなぴょん」
ド地雷を踏み抜いたが?
「……コロ、ッ!!?」
「隙ありぴょん」
あっという間にティオネの怒りが沸点を大幅に超え、チェレンに再び襲いかかろうとしたその出掛かり。口を開けた瞬間に、何か小さな粒がチェレンの手から発射され、ティオネの体内へ飲み込まれていった。
「ゲホッゲホッ……なにしやがる!!」
「え? 堕胎薬飲ませたぴょん」
「…………………………は?」
平然と答えたチェレンの言葉を理解できず、ティオネは一瞬、本気で怒りを忘れて困惑に満たされる。
「堕胎薬、知らんぴょん? 簡単に言えば、妊娠した時にお腹の中の赤ちゃんを殺して妊娠を強制終了する薬ぴょん。暴漢に襲われて臨まぬ妊娠をしたときとかに使うやつぴょん」
「な、なんてもん飲ませてんだ!! 私は妊娠なんか……」
「でもこの薬、強力だからこそ副作用があるぴょん。子宮への負担が大きいが故に妊娠能力に大幅なダメージを……ま、簡単に言えば、赤ちゃんを産めなくなるぴょん」
「……………………なんて……?」
一瞬、沈黙。そのあとのティオネの行動は早かった。
すぐさま自身の喉奥へと手を突っ込み、刺激。反射反応によって胃酸が逆流し、食道の途中にあった錠剤を体の外へと運び出す。
地面に吐瀉物が撒き散らされ、ティオネはその場に膝をついて荒く息をした。
「ハッ……ハッ……ゲホ……ッ……ハァ……」
「セーフ。よかったぴょん? 溶ける前で。胃に辿り着いたらおしまいぴょん」
「ッッッ!!」
チェレンの物言いに再び怒りが湧き上がるティオネ。しかし先ほどのことも考え、今度は口を閉じたまま声を上げずにチェレンへと襲いかかる。
鞭のようにしなりながら迫るティオネの右脚による蹴撃。チェレンは躱すこともできるそれを、敢えて左腕で受ける。
袖の中で嫌な音が響く。チェレンの左腕が折れる音。同時に、ティオネの左腕にもまた、因果が届く。
「い゛っ!!? あああぁぁぁ、あ゛っ!!?」
「隙ありぴょん」
意識外すぎる、想定外すぎるダメージに思わず悲鳴をあげるティオネの口に、またもや錠剤が投げ込まれる。
それを吐き出そうとまた口に手を入れるため腕を持ち上げたところで、折れた左腕に激痛。小さく呻いたティオネは、左ではなく右で喉を刺激し、なんとかまた錠剤を吐き出した。
2度の嘔吐に左腕へのダメージ。Lv3の耐久があるから身体自体にはまだ余裕があれど、精神的な疲労はピークに達し始めるティオネに、チェレンは追い討ちをかける。
「ちょっと考えればわかるぴょん。世間体を何より大事にする団長さん(37)が、お前みたいなガキ相手にしてドン引きされるような最悪の一手打つわけないぴょん。25歳差は普通に犯罪ぴょん」
流れ弾が37歳独身男性(素人童貞)に刺さった。
「で、でも……」
「それに、団長さんの目標は小人族の復興で、お嫁さん探ししてるのは優秀な跡取りを産んでもらうことが目的ぴょん? 小人族を産めないアマゾネスなんか嫁にする意味がないぴょん」
「あ……う……」
「と、ここまでが団長さんの
「ち、違う……私は団長が……好きで……」
「んなもんが通ると思ってんのかぴょん? お前がどう考えてようと周囲がどう思うか〜なんて当たり前のことをさておいて、あーしからすりゃお前も他のアマゾネス同様本能に支配された猿にしか見えねえぴょん。てか、自分のことを頭いいと思ってる男の恋愛第一条件なんて自分の行動の邪魔をしない女一択なんだから*3、自分の言う事ガン無視して周りに襲いかかる女とかその時点で恋愛的にもまずダメダメぴょん」
「う、うう……うあああああああああぁぁぁぁぁぁ」
ティオネ、号泣である。どんなに身体が強くても12歳。大人でも号泣する『煽り兎』の口撃になすすべもなく精神が崩壊した。
「……『煽り兎』、いや、あの、今回の件は間違いなくこちらに非があるんだが……その……子供相手にああいう薬は……」
「あ、これ? これただの砂糖菓子ぴょん」
「は?」
「つーか堕胎薬なんてパッと出せる場所に持ってるわけねーぴょん。常識的に考えて」
常識から程遠い存在に常識を説かれ目眩がするフィンをよそに、チェレンは弱りきったティオネに近づく。
「ティオネ、よく聞くぴょん。団長さんが目指すものを考えれば、どうあがいてもお前を娶るのは無理ぴょん。でも、それは第一夫人ならという話ぴょん」
「……は?」
すっ頓狂な声を上げたのはフィンだ。ティオネは絶望の貼り付いていた顔にわずかな希望を抱いてチェレンを見上げる。
「英雄、色を好む。地位のあるものが2人目の妻を娶るなんてそう珍しくはないぴょん」
「あの……」
「ただし、それが成立するのはお前が第一夫人と仲が良いことが条件だぴょん。脅すんじゃダメ。英雄とその夫人がアマゾネスの脅しに屈したとかいう風聞を団長が許すはずないぴょん」
「おーい……」
「逆にお前と第一夫人が仲良くなって、第一夫人の口から『ティオネのことも認めてあげたら?』と言わせるのがベストぴょん。世間的にも、アマゾネスの尻に敷かれる男はNGだけど、アマゾネスの暴走を抑え込んで第一夫人を大切にし、アマゾネスもそれを認めて大人しく一歩控えるような男なら憧れの的ぴょん!」
それは確かにそうだな。フィンは思った。彼もまた男である。
「第二夫人なんて年の差あってなんぼぴょん! でもそれには、若いから選んだんじゃなくて、それだけの絆があるから選んだと世間が納得するほど団長さんや来たる第一夫人と仲良くならなきゃダメぴょん。
「……師匠と……」
「ぴょん?」
「師匠と呼ばせてください!!」
ティオネ・ヒリュテ、陥落。
児童虐待すぎる鞭とフィンの意思ガン無視の飴という身内にはいろんな意味で不可能な方法でティオネを調伏しピースサインを送るチェレンを、フィンは引き攣った笑顔で見ていた。
頑張れフィン・ディムナ! 頑張れ『勇者』! 100人を救うためにひとりを見殺しにする指示を出すよりは気が楽なはずだ! それともベル・クラネル(未来)の真似事は君には荷が重いか!?
「……ティオネが『煽り兎』と揉めたと聞いて戻ってきたんだが……?」
そして、またしても何も知らないリヴェリアなのであった。
作者のド地雷は『愛してるとか言う割に相手の意向ガン無視で暴走するヤンデレとは名ばかりのメンヘラ』と『周りの集団記憶喪失で仲間が他人行儀になる展開とその状況を作り出した黒幕』です。
ヤンデレって言うなら少なくとも旦那様の言うことは絶対であれ。(個人の感想です)
ダンまちで嫁にするならリリ、春姫、オッタル、アスフィが四天王だと思ってます。
自分に従順な寡黙脳筋天然高身長褐色全身ムッチムチケモミミ(32)が常に一歩後ろに控えてくれてるの想像したら最高すぎんか?