人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
アルテミス現着1ヶ月前。ピュグマリオンとガラテアの話し合いは続いていた。
「オラリオ入りか……だが
「えぇ、ですが
それはそうなのだがなんともにべもない意見を返すガラテア。アフロディーテが聞けば嘆くだろうが、ガラテアにとってはピュグマリオン>>越えられない壁>>>アフロディーテであるため、正直に言ってアフロディーテへの敬意はほぼないと言っていいので、その辺りの気遣いは望めない。
これはまだこの世界の誰も知らないことだが、ピュグマリオンに刻まれた『
ただし、ピュグマリオンが死亡した場合はそれと同時にリビングドールたちの命も潰えるため、アフロディーテよりもピュグマリオンを優先するガラテアの判断は正しいと言っていいだろう。
「なるほど……しかし僕の人形はオラリオでは売れるのか? 話を聞く限り、あの都市の8割は冒険者とは名ばかりの蛮族だろう?」
酷い偏見であるが、おおむね事実だ。この考えは文化を尊ぶ『
一般人の民度も――特にこの何年かは――相応に低く、ただ金を稼ぐ目的であればメイルストラで金を稼ぎ、オラリオまで直接魔石を買い付けに行くほうが良いように思えた。
「
「なるほど道理だ。確かに今の収入を維持しつつ魔石も自前で調達できるようになるのならばそれに越したことはない」
「とはいえ私ひとりだけでは調達できる魔石の数もたかが知れていますし、そもそもオラリオに行って
「それはダメだ。僕はガラテアを愛でて過ごしたいのだから単独行動は許可できない」
「仰せのままに」
即決である。ガラテアにとってピュグマリオンは、フレイヤ・ファミリアにとってのフレイヤ……つまるところ、ガラテアはピュグマリオンの狂信者であった。
「僕がオラリオへ行ったところで、オラリオでの僕は無名の職人に過ぎないし、オラリオに着いてから一朝一夕で異常性がバレるということはあるまい。僕は冒険者ではないのだからギルドへ登録しなければレベルの報告義務もないしな。次に人形を売った資金でそれなりに安全性の高い宿を取ればいい」
「では、そのように」
「それでは僕は追加でふたり、リビングドールを作ってくることにしよう。ガラテアは都市外のモンスターを狩って発展アビリティの発現を目指してランクアップに備えてくれ。少なくとも一日一度顔を見せに戻ってくるように。そのときに食事を摂ることにしよう」
「かしこまりました」
そのような取り決めがアフロディーテの与り知らないところで決まってから1ヶ月後。アルテミスが現着したときには、手始めの戦力拡充である、ふたりのリビングドールの製造が完了していた。しかも小賢しいことに、ひとりずつ作っていたらアフロディーテになんやかんや言われて遅れるからと、ピュグマリオンはふたりを同時並行で作成していたのだ。
その結果が、前回最後のアフロディーテの嘆きであった。
白髪に白い肌、灰色の瞳まで、ガラテアと同じふたりの美少女。大きく違うのは顔つきや髪型、それと体格だろうか。顔つきに関しては、アフロディーテ・ファミリアの女性団員をモデルにしているのが、親しい者ならわかるだろう。そこにそれぞれ少しずつ、アフロディーテのエッセンスを混ぜているため――元々アフロディーテ・ファミリアはアフロディーテが才能面などを無視して集めた美男美女の集まりであるため顔面偏差値は著しく高いのだが――これまたエルフ並の美少女に仕上がっていた。
片方の名はヒガントーナ。モデルにしたのがアマゾネスだったこともあり、190
アマゾネスの特徴でもある褐色肌ではないのだが、そもそも神を相手にアマゾネスであるなどと言ってしまえば嘘だと看破されてしまうため、種族に関しては基本黙秘する予定である。
しかし、ガラテアと比べてややキツめの顔つきとうねるようなロングヘアは、色さえ見なければアマゾネスと言い張っても疑いないものであるだろう。
もう一方はメリーと名付けられ、こちらはモデルが
そしてアフロディーテが頭を抱えたステイタスがこちらである。
ヒガントーナ Lv1
力 : I0
耐久 : I0
器用 : I0
敏捷 : I0
魔力 : I0
魔法
《》
スキル
《
・疑似生命。
・疑似恩恵。
・耐久に高域補正。
・同スキル所持者同士での念話解放。
・精神異常、生理的異常の無効。
・神威耐性。
・魔石摂食により経験値獲得。
・一定品質以上の魔石摂食により偉業達成判定。
《
・力、耐久に高域補正。
・発展アビリティ《堅牢》《不動》《再生》の発現。
メリー Lv1
力 : I0
耐久 : I0
器用 : I0
敏捷 : I0
魔力 : I0
魔法
《アイ・アム・メリー》
・転移魔法。
・詠唱式【私、メリーさん。今あなたの後ろにいるの】
・目視限定。
・背後推奨。
・同行不可。
スキル
《
・疑似生命。
・疑似恩恵。
・耐久に高域補正。
・同スキル所持者同士での念話解放。
・精神異常、生理的異常の無効。
・神威耐性。
・魔石摂食により経験値獲得。
・一定品質以上の魔石摂食により偉業達成判定。
《
・不意打ち時に器用、敏捷に高域補正。
・不意打ち成功時、攻撃に貫通属性を付与。
・発展アビリティ《気配遮断》《気配察知》《奇襲》の発現。
まず案の定完全に同じスキル内容である《
その代わりと言ってはなんだが、ガラテアも含めて全員が魔法スロットひとつではある。しかしそれを踏まえても、このスキル群は破格と言える。
さらに言えば、魔法スロットがひとつだけとは言えその性能はまるで悪くない。ガラテアは自身の力量にあった武器を召喚するという鍛冶師泣かせの魔法であるし、メリーに至っては短文詠唱の短〜中距離転移魔法という非常に有用かつ珍しい魔法だ。
スキルとのコンボを狙って使ってもいいし、緊急離脱や偵察からの帰還とかなり応用が利く。強いて言うならば自身にしか使えない点と、連発すれば相応の
そしてそれらが、単純に考えれば彼女たちリビングドールの標準能力であるというかなり確度の高い憶測に、アフロディーテは胃をキリキリさせていた。
なお、その標準能力の原因が、明確なまでにピュグマリオンにあるということを、未だにアフロディーテは知らない。
「……おい、この話は私にする必要はあったか……?」
そして、これが以上の情報をほぼ余す所なく共有されたアルテミスの絞り出したうめき声のような問いかけである。
その表情は怒りと困惑がごちゃ混ぜになりすぎて引き攣った笑みに近くなっているが、こめかみには青筋が浮かんでいる。そしてその感情を読み解けば、もっとも近いものは「とんでもねぇ爆弾よこしやがって」である。
「そもそも何故私を呼んだのだ……っ!!」
「なによ!! 私が人にものを教えるのに向いてると思う!?」
「それはまかり間違っても向いていないが、眷属にやらせればよかっただろう!! いや、百歩譲って私にやらせるとしても、この事情を私に教える必要がどこにあった!? 細部は適当に誤魔化して世間知らずに常識を教えるように言えばよかったじゃないか!!」
「そんなの私だけ胃痛で悩んでるのがムカつくからに決まってるじゃない!! 堅物真面目ちゃんの喪女神なら今更胃に穴のふたつやみっつ増えたところで変わらないでしょ!!」
「よしわかったそこになおれ。お前の臀部の穴もみっつに増やしてやる」
「ふたつに増えてないわよ!!」
アフロディーテの言いように、遂に表情が消えて弓を構えるアルテミス。一周回って冷静になったようだ。冷静にアフロディーテの尻を狙っている。一方アフロディーテは躊躇いなくピュグマリオンを遮蔽にした。基本クソ雑魚のピュグマリオンと言えども耐久に関してはカンストを4回経験したLv6である。外界に際して一般人レベルまで身体能力を制限されているアルテミスの矢であれば、ウニのようになってもまぁ無事だろう。
なお、眷属のステイタスの話をするということで、今いる部屋にはピュグマリオンを除いた互いの眷属は同席していない。リビングドールたちはアルテミスの眷属たちと、実力試しの立ち合いを行っている。アルテミス・ファミリアはオラリオ外で活動するファミリアの中では、かなり上位の実力を持っている。相手としては申し分なかった。
「なによ! 文句あるならあなたをモデルに水着衣装の
「過去最悪にノーモラルかつ他力本願な脅し文句だな!? 神として恥ずかしくないのか!?」
「いい歳して投げキッス程度で赤面する恋愛耐性I0女神より恥ずかしくありませんー! なんならあなたモデルでお花畑恋愛脳のスイーツ☆リビングドール作らせてやるんだから!!」
「おいそれは一線を超えているだろう! そんなことさせたらお前の出生を歌劇にしてメイルストラの有名劇団にリークするからな!」
「それこそ最後の一線でしょお!!? 話してるときに自分もダメージ食らうくせに!! ていうかウラノスにも飛び火するからやめなさいよ祈祷に影響出てオラリオ滅んだらどうすんの!!?」
ぎゃいぎゃいと喚きあうアフロディーテとアルテミスだったが、ピュグマリオンはその時、アフロディーテの言葉に引っかかりを感じていた。そしてそれこそが、ピュグマリオンの《ディア・ガラテア》に隠された『
『神の恩恵』もピュグマリオンの『疑似恩恵』もその仕組み自体は同じである。要するに、得た経験値を素に眷属の可能性を引き出し力とする。
よってこれらの恩恵で得ることのできる力は、ある程度、ほんの少しはそれを与えた神に左右される部分もあるが、そのほとんどは与えられた眷属の資質にこそ依存している。
だから例えるならば、『神の恩恵』は闇鍋ガチャと言える。外界の
例えば、完全に技巧派かつ指揮官タイプのフィン・ディムナに、全能力が向上する代わりに技巧も指揮も不可能になる《ヘル・フィネガス》が発現することもあれば、自尊心が高く己の弱みを見せることを嫌うベート・ローガやアレン・フローメルに、自身の本質を曝け出す詠唱式を必須とする《ハティ》や《グラリネーゼ・フローメル》が発現したりする。
まぁ、それこそが神々の射幸心を煽り、眷属づくりに精を出させる一因ともなっているのだが。
対して、ピュグマリオンの場合はどうか。ピュグマリオンが『疑似恩恵』を与えるのは、自身で作った人形だ。そしてその人形は、先ほどアフロディーテが口走ったように、作るときにおおよその性格の方向性や体格のような身体的資質を決定できる。
それ故に、『疑似恩恵』によって発現するスキルや魔法に、ある程度指向性を持たせることができるのだ。無意識ではあったものの、肉弾戦に有利な巨体を持つヒガントーナに力と耐久の補正スキルが、小柄で小回りが利くメリーに不意打ちに有利な転移魔法と不意打ちに補正入るスキルのデザイナーズコンボが発現したように。
当然、完全に考えた通りのスキルや魔法を発現させることはできないだろう。しかし、それが大雑把であっても、例えば
『軍団』を、あるいは『派閥』を作るうえで、《ディア・ガラテア》の反則的な部分は、育成が容易になる点や食費や睡眠時間などのランニングコストを押さえられることよりもむしろこの、『欲しいときに欲しい人材が手に入る』ことにある。
そして、まだ自覚こそしていないものの、アフロディーテの不用意な煽りでそのヒントがピュグマリオンの脳裏を掠めてしまった。ここまでくれば、程なくしてピュグマリオンもそのことに気がつくだろう。
アフロディーテは、また知らず知らずのうちに自分の首を絞めていたのであった。
原典アフロさん「えっ、そっちのピュグマリオン、ほぼ自力で人形に命与えてんの」
本作アフロさん「えっ、そっちのピグ、彫刻のまま食事与えて添い寝して愛囁いてんの」
二柱「こわ〜……」