人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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愚者から見た人形たち

 ギルドの地下。

 只人は立ち入れない部屋、神ウラノスによる祈祷の間。彼が祈祷を続けているからこそ、迷宮を今の形にまで抑え込んでいる。

 

 そんな場所で、三人の人影が密談を行っていた。

 ひとりは部屋の主。老爺の姿をした神であり、天導山(オリンポス)の天空神。今オラリオにいる神の中でも格別であり、原初神と呼んでいい大神、ウラノス。

 ひとりは、象面の神。群衆の主を標榜する、都市の警邏を預かる神。ガネーシャ。

 そしてもうひとり。黒いローブに身を包んだ、いかにも怪しい風体の人影。そのローブの内側にあるのは、骨。肉一つついていない骸骨である。

 彼、あるいは彼女こそ、眷属でない身でありながら神ウラノスに仕える『幽霊(ゴースト)』であり、800年以上の時を生きる、死を手放し死に見放された稀代の賢者にして愚者。名を捨て、ただ『愚者(フェルズ)』と名乗る者である。

 

 ギルドの長とその仕者、そして警邏の主。迷宮都市オラリオの秩序を正す者たちの長が顔をつきつけて(あげつら)うのは、目下彼らの悩みの種となっているとある派閥についてだった。

 

「……それではフェルズ。ピュグマリオン・ファミリアに関しては……」

 

「あぁ、未だに何も掴めないままだ。信じられないが、こと魔道具職人(アイテムクリエイター)としての実力が私に並ぶ者がいるらしい。《魔導》の熟練度は私の方が上……遥かに! ……上だが、その分、恐らく《錬金術》の分野ではあちらの方に分がある……それだけではない。神ヘルメスの件からも察せると思うが、透明なものを察知することもできるようだ」

 

「むぅ……」

 

「結界の魔導具で遠視や透視を防いでいるようだ。使い魔の視点も通らない。厄介なことだ。それに、単純に手数が違う。こちらは私ひとりだが、あちらの手はあまりに多い」

 

 フェルズの使い魔はピュグマリオン・ファミリアの拠点を偵察することはできず、透明になって監視することもままならない。常套手段を潰されたフェルズだが、だからこそ久々の実力伯仲にやや張り切っている。

 とはいえ、魔導具に関しては確かに実力伯仲かピュグマリオン・ファミリアがやや劣るが、情報収集能力で言えばピュグマリオン・ファミリアのほうが遥かに上だ。ただのハエを偵察に使っているために、使い魔を想定しているフェルズの結界魔導具をすり抜けて、この場面も偵察できているのだから。

 

「それで……『異端児(ゼノス)』たちの話だ。数年前からの『隠れ里の外での襲撃、拉致』と、ここ1年ほどで起こっている『隠れ里内での行方不明』、関連性はあると思うか?」

 

「いや……やはりそれぞれ下手人は別だろう……襲撃犯が『隠れ里』への侵入の仕方を知っているなら、もっと被害は大きくなっているはずだ」

 

 フェルズが問うとガネーシャが答え、ウラノスが頷く。

 前者は『大抗争』前から度々あったことで、恐らく『闇派閥』が何らかの形で『異端児』を利用するために攫っているのだろう。

 魔石の確保のため、『異端児』たちも遠征をする。そこを狙われるのなら、まぁ納得はできる話だ。

 問題はもう片方。近年になって唐突に発生し始めた、『隠れ里』から出ていないはずの『異端児』がいなくなる事件だ。

 しかも、『隠れ里』内に襲われた形跡がどこにもない。また、いなくなるのは人間に対し友好的、ないし中立意見だった者ばかりで、石竜(ガーゴイル)の『異端児』、グロスのような過激派はまったく手を出されていない。

 そのせいで、一時期は『隠れ里』の意見が大きく敵対派に傾いたほどだ。その際は歌人鳥(セイレーン)のレイや靄人(ガスマン)のエムブラなどの、普段は中立に身を置く穏健派による仲裁で事なきを得たのと、以後エムブラが友好派として積極的に動き始めたこともあり、現在、派閥は再び拮抗しているが、いつ崩れるか定かではない。

 

 このふたつの事件、繋がっているようにも繋がっていないようにも見えるが、現状は2つの異なる勢力が、別々に『異端児』を攫っているとウラノスたちは考えている。

 ただし、襲撃犯の方は明らかに悪意による犯行だが、誘拐犯の方は掴みあぐねていると言っていい。ガネーシャが言った通り、『隠れ里』に侵入できる勢力が悪意を持っていれば、もっと被害は大きくなっているからだ。もちろん、『異端児』の戦力を減らしてから一気に仕留めるつもり、という可能性もある以上、油断はできない。

 

「ガネーシャの方では、何か把握していないのか?」

 

「あぁ、俺がガネーシャだ! ガネーシャなんだが、本拠地が近所と言ってもあの高い外壁だ。俺たちから中はろくに見えん!」

 

 そして、この誘拐犯を、ウラノスたちはピュグマリオン・ファミリアであると見立てている。理由は簡単、ほぼ消去法である。蜥蜴人(リザードマン)のリドたちやフェルズの目を完全に掻い潜って、それなりの大きさを持つ『異端児』を迷宮から連れ去った上で匿う――ひとまず、オラリオから出された気配がないから生きてオラリオ内にいるものと仮定するが、それならばそもそも迷宮から出された気配もないので、あくまでも希望的観測――だけの能力があり、かつそれだけの動機がありそうなのは、ピュグマリオン・ファミリアかヘルメス・ファミリアくらいだろう。

 ヘルメスは……まぁやるかやらないかで言われればやるかもしれない。同郷であるウラノスは、ヘルメスの性格をよく知っている。

 とはいえ、ヘルメス・ファミリアとピュグマリオン・ファミリアのどちらを警戒するかと聞かれれば、ピュグマリオン・ファミリアだろう。あまりにも未知数すぎる。

 

「……『怪物祭(モンスターフィリア)』のこともある。いっそ、私が直接話を聞きに行こうか。『ギルド』との関係を話さなければ、問題ないはずだ……」

 

「……それしかないか……」

 

「なに、死にはしないさ。なんてな」

 

 軽口を叩くフェルズだったが、場の空気はひどく重く感じられた。

 

 

 

「とのことです、主人(マスター)

 

「神ウラノスの使いが接触してくるか」

 

 もちろん、それもすべてハエは見ていたのだが。

 実際のところどうかと問われれば、ピュグマリオン・ファミリアは『異端児』にとって不利益な行動はとっていない。誘拐とはいうが、実際は本人との合意の上での誘致であるし、待遇も悪いものではない。

 無論、今更彼らを手放すことはできない。既に彼らは、ピュグマリオン商会にとってなくてはならない存在にまで至っている。

 

「どう対処するのがいいと思う」

 

「我々と『異端児』の関係を、認めるか認めないか、ですね……」

 

 神ウラノスたちの最終目標は『異端児』とオラリオの共存。いや、その先の、黒竜討伐を見据えて『異端児』を戦力に加えたいのだろう。

 ピュグマリオン・ファミリアとしても、『異端児』の存在を認めさせるというのは、必須ではないが望むところではある。必須ではないというのは、ピュグマリオン・ファミリアで匿っている『異端児』はそれほど数が多いわけではないので、一般人相手ならこのまま隠し通すことは可能だからだ。

 一応、世に『異端児』の存在が流れた場合の()()もとってはいるが、結実がいつになるかはわからない。

 

「認めた場合のメリットとデメリットは?」

 

「『異端児』の雇用が楽になります。『愚者』は『異端児』と友好関係を結んでいますから、口利きがあることでより効率的に雇用できるでしょう。また、こちらから条件として、今後我々のことを探らないように言い含めることも可能です。デメリットは『異端児』関連の強制依頼を受けさせられることですね」

 

「ふむ、認めない場合のメリットとデメリットは?」

 

「良くも悪くも現状維持、でしょうか」

 

「なるほど……認める方向で行こうか。ただ、できる限りあちらからの干渉は受けないようにしたい」

 

「明かすのはあくまで『異端児』関連の事柄のみ、ということですね。かしこまりました」

 

 ピュグマリオンからの勅令を得て、ガラテアは動き始める。そこからの展開は早かった。ガラテアたちは迷宮に入り、フェルズが尾行していることを確認すると、周囲に人がいない場所を選んで声をかけた。

 

「神ウラノスの使い、『愚者』よ。いることはわかっています。まぁ、話すだけなら姿を見せる必要はありませんが。あなたの目的は知っています。『隠れ里』から消えた『異端児』は我々の拠点で雇用していますよ。現状、我々が『異端児』と敵対する気はありません」

 

「…………いやはや、想定はしていたが……いざ実際にここまで筒抜けだと言われるとクるものがあるな……」

 

 姿を現し、頭を押さえ首を振るフェルズをスルーしてガラテアは続ける。

 

「我々はあくまで『異端児』との通常の雇用関係を望んでいます。『異端児』と人間との友好には興味がないので、あなたがたの活動に積極的に協力する気はありませんが、あなたが望むなら、雇用している『異端児』からの伝言を手紙としてあなたに託すことは可能です」

 

「……我々はそちらが雇用したという『異端児』がどのような扱いを受けているのか知る術がない。そちらの証言だけでは、我々がそちらを信用する根拠にはならない」

 

「本拠地には招きませんよ。『異端児』関係以外での秘匿事項もありますし……我々からしてみれば、別にあなたがたからの信用は必要ありませんから。オラリオのことを考えれば、あなたがたは我々を排除できない。そうでしょう?」

 

 ガラテアの物言いに敵意を感じたのか、フェルズの視線が鋭くなる。だが、ガラテアの言うことは事実だ。ピュグマリオン・ファミリアを排除しようとすれば、多くの民衆、派閥が敵に回るだろう。

 

「……では、面会はどうだ。そちらの本拠地でなくてもいい。そちらには、周りに覚られず『異端児』を運搬する技術があるはずだ。でなければ、迷宮からそちらの本拠地まで『異端児』を運べないからな」

 

「我々は構いませんが、我々が雇用した『異端児』は人語を発することができないものばかりです。面会の効果は薄いのでは?」

 

「問題ない。知ってるのだろうが、私は魔導具職人でね。肉体構造上喋ることのできない『異端児』とも会話ができるよう、専用の魔導具は作ってあるよ。そちらにはないのかな?」

 

「……なるほど、いえ、今まで必要性がなかったので、考慮の外でしたね。作ろうと思えば作れるそうです」

 

「……………………そうか(遠話の魔導具で外と連絡を取ったか? 眼晶(オクルス)と違って音声に特化した通信装置か? 眼晶に比べて取り回しは良さそうだが……いや、このくらいならマイナーチェンジだマイナーチェンジ)」

 

 魔導具職人としてのプライドからかややマウントを取りにいったフェルズだが、リビングドールの念話を通信装置と勘違いし一敗。

 

「いいでしょう。場所はガネーシャ・ファミリアの本拠地で構いませんか? そこなら、『怪物祭』に向けた調教済みのモンスター置き場がありますし、モンスターを運び込んでも不自然にはならないでしょう」

 

「……『怪物祭』のこともガネーシャ・ファミリアとの関係も筒抜けか……嫌になるな……」

 

 とはいえ、フェルズとしてはピュグマリオン・ファミリアが現状とはいえ味方ならずとも敵ではないと知れただけでもひとつの収穫である。彼女たちの言ならば、攫った『異端児』に無体な真似はしていないだろう。

 まぁ事実としては排泄物を採取されて恥辱に悶えるビッグ虫はいるのだが。

 ひとまず、面会の日取りを決めて、フェルズとピュグマリオン・ファミリアの初邂逅は幕を閉じるのだった。

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