人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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怪物祭(モンスターフィリア)

 結局のところ、ピュグマリオン商店の従業員である、元『隠れ里』在住『異端児(ゼノス)』とフェルズとの面会は無事成った。

 ガネーシャも立ち会ったことで、『異端児』に対する扱いの疑惑も、おおよそ晴れたと言っていい。途中、フェルズたちの把握していない『異端児』――ファネス、アナクサ、レウキ、ジャイミニ――の存在がフェルズに知られたが、追及はされなかったため問題はない。

 

 報告を聞いて、ピュグマリオンはポツリと呟いた。

 

「警邏のガネーシャには恩を売っておいてもいいかもな……」

 

 今回、ウラノスはギルドとは別に単独で動いているため、ウラノスに恩を売っても中々効果が現れにくい。しかし、ガネーシャはガネーシャ・ファミリアとしても動いている。全員ではないが、一部の団員は『異端児』のことを知っているようだ。

 ガネーシャ・ファミリアはオラリオの門兵も務めている。ここに恩を売れるのは大きい。

 

「『怪物祭(モンスターフィリア)』とはどんな催しだったかな」

 

「闘技場を1日貸し切り、公開調教を行うようです」

 

「『異端児』定着の足がかりとして、民間人をモンスターに慣れさせるつもりか? にしては随分悠長なやり方だな……よし、ちょうどいい、手伝ってやろう」

 

 ピュグマリオンはガラテアに聞いていた、どうせそのうちやるつもりだった計画を前倒しすることを伝える。ガラテアは、それに静かに頷いた。

 

 

 

 来たる『怪物祭』。民衆たちは新しい催しということでよくわかっていなかったが、祭りとついているからには盛り上がってもよいのだろうと考え、稼ぎ時とばかりに『怪物祭』を口実とした屋台が立ち並んだ祭り状態に変化した。

 中には前日に、ガネーシャ・ファミリアによって闘技場へ檻に入れられたモンスターが運び込まれたことを知っている者もいたのか、闘技場へ足を向ける住民たちも少なからずいたが、やはり新しい催しであるだけに、多くの民衆は屋台の方へ足を運んでおり、闘技場は人もまばらといった様子だ。

 そんなとあるメインストリートの一角で、にわかにザワザワと()()を見た人々がざわめき出す。

 

 それは有り体に言ってしまえば、モンスターの群れであった。

 大きさは成人男性の腰ほどまで体高があるだろうか。白く豊富な毛を持っているその姿は、一見すればよく知るヒツジのものにほど近い。

 しかし、ヒツジにはない特徴として、巻き角になっている部分が木のような材質で出来ていること、尻と尾の部分が花の(がく)のようになっていることから、それがただの動物ではなく、れっきとしたモンスターなのだと一目で理解できた。

 問題は、そんなモンスターが何に繋がれることもなくメインストリートを闊歩していることだ。事実、それを見てモンスターの脱走だと叫ぼうとした者もいるくらいだ。

 しかし、よく見てみればなんてことはない。そのモンスターは先導を追うようにしてゆっくりと進んでいるだけで、周りでおずおずと様子をうかがう住民に見向きもせず、先頭にいる人間に従っている。

 先頭にいるのは、どうやらハトホル・ファミリアの団員のようだ。列になって進むヒツジのモンスターの途中途中で、列からモンスターが脱走しないように、団員が武器を持って見張っているため、決してモンスターが脱走した、あるいは迷宮から出てきて自由に暴れているわけではないことがわかる。

 

 その様子に驚いている住民をよそに、二十数体にも及ぶヒツジモンスターの群れ――後日、ギルドも把握していなかった『綿羊(バロメッツ)』というモンスターなのだと明かされた。――の列は終わりを告げる。

 しかし、それだけでは終わらなかった。続いて、現れたのは3M(メドル)ほどにもなる巨大な鳥が数羽。これには民衆たちからも小さく悲鳴が上がる。しかし、こちらも同じく、先頭を行くハトホル・ファミリアの団員におとなしくついていくだけで暴れだす様子はない。

 そのうち、その様子に興味をひかれたのか、ひとりの子供が団員になにやら話しかけると、団員は子供の体を持って、その鳥の胴体部分へと飛び乗った。周りからは大丈夫なのかとざわめきがあがるが、乗られた鳥のモンスター――タレポ――は首を捻って自分に乗ってきた二本足を確認すると、また何事もなかったかのように進み始める。子供は、普段より遥かに高い視点にはしゃいでいるようだ。いつの間にかいなくなっていた子供がモンスターに乗っていた、親と思われる男性は気が気でない様子で列と並走していたが。

 そんなモンスターの行列はメインストリートをゆっくりと練り歩き、オラリオ中心部に位置するバベルを横切って、まっすぐ正面のメインストリートへと入っていく。そのまましばらく進んでいれば、闘技場へと辿り着くことになるだろう。

 これも闘技場で調教されるモンスターで、このパレードは『怪物祭』の一環なのかと民衆たちは納得しかけていたが、モンスターたちは闘技場を通り過ぎ、外壁にほど近い、ついこの間まで空き地になっていた場所へと辿り着いた。

 そこは今は完全に整備された鉄柵で覆われており、生半可な攻撃ではびくともしないだろうことが見て取れる。バロメッツとタレポはそれぞれ別の区画へと収容されていき、脱走しないように鉄柵の扉が閉じられると、各々が地面をついばんだり草を食んだりと寛ぎ始めた。

 

 そこまで来て、ようやく民衆たちは覚った。これはハトホル・ファミリアによるモンスター牧場であるのだと。

 鉄柵に共通語(コイネー)やそのほか主要な種族言語で書かれた注意書きが掲示される。そこには、収容されているモンスターはダンジョン外で繁殖していたモンスターを調教によりおとなしくさせたものであり、繁殖の過程でダンジョン内のモンスターよりも遥かに弱体化していることと、これらのモンスターはハトホル・ファミリアの管理下に置かれ、権利はハトホル・ファミリアとピュグマリオン・ファミリアに帰属することが書かれていた。

 モンスターの牧場。つまり、迷宮の外、オラリオの都市内でモンスターを牧畜するということに、顔をしかめる者もいる。その多くはモンスターの危険性をよく知っている冒険者であり、一方の一般人はピュグマリオンの名が出てきたこともありやや楽観的と言える。

 すると、まだ公開調教まで時間があると踏んだハトホル・ファミリアの団員が、バロメッツの柵の中に入る。その手に持っているのは武器ではなく、バリカンだ。

 まるで普通のヒツジを相手にするかのような装備でモンスターに挑むハトホル・ファミリア団員に息をのむ観客。一方のハトホル団員の方も、額には脂汗が滲んでいる。羊飼いの家出身の彼自身、このおとなしいモンスターのことを聞かされたのは今朝のこと。事前に対面してはいたのだが、実際に毛刈りをするとなると不安が先に来る。

 しかし、そんな彼らの不安もよそに、団員に抱えられてしまったバロメッツは、ぐでんと力を抜いて動かない。

 

 ここでネタばらしをしよう。このモンスターたちは『異端児』……ではない。

 このモンスターたちはピュグマリオン・ファミリアの人造迷宮人形、パポスによって造られたモンスターたちである。

 迷宮のモンスターは冒険者や神を憎悪し、だからこそ目に入った瞬間に襲い掛かる。その理由は、迷宮(ダンジョン)自体が神を、あるいは冒険者を憎み、恨み、敵視しているからだ。

 では、神も冒険者も憎んでいない迷宮であるパポスが生んだモンスターはどうか。答えがこれだ。単純な動物的本能のみを持つ、憎悪なきモンスターが生まれたのだ。

 これらのモンスターをパポスの意思で制御することはできないが、通常の動物と同様に調教すれば相応の反応をする。

 これらのモンスターを作るにはヘルガの時とは異なり、モンスター相応の魔石が必要となる。より小さな魔石を使用してモンスターを作ることもできるが、モンスター自身のスペックが大幅に落ちるのと同時に、倒したときアイテムをドロップする確率が大きく下がるのだ。

 本家迷宮産のモンスターから素材をむしり取る牧場とは別に、ハトホル・ファミリアに委託する形でこのパポス産モンスター牧場を運営することになったことで、オラリオの民間人はよりモンスターとの距離が近くなるだろう。「モンスターとは怖いもの」という意識が離れてしまうのは問題があるが、それこそ『怪物祭』の公開調教に任せればいい。

 

 牧場へ注目する民衆の前にひとりの神が姿を現す。牧場の主であり、ピュグマリオン・ファミリア傘下であるハトホル・ファミリアの主神、ハトホルだ。

 ハトホルは拡声器を使って民衆に呼びかける。

 

「みんなやっほー。ハトホルだー。えーと、大体ここに書いてある通りなんだけど、見えてない人もいるかもしれないから説明するとー、今日から、ここにモンスター牧場をオープンするよー」

 

 ハトホルの宣言に、前の人だかりで注意書きが読めていなかった者からざわめきが上がった。それが一通り収まってからハトホルは続ける。

 

「このモンスターは、見ての通りちゃんと調教されてておとなしいし、えーと、まぁなんやかんやあって弱いんだよ」

 

「なんやかんやってなんだー!」

 

「ちゃんと説明責任を果たせー!」

 

「がやがうっさい!! 神だろ今のー! ゴホン。そういうわけだから、モンスターの世話は私たちハトホル・ファミリアが、脱走しないように監視するのはピュグマリオン・ファミリアが担当して、市民の皆さんには危険が行かないように運営する予定です。で、ここからはそれが皆さんの生活にどう繋がるかって話ねー」

 

 民衆が再びハトホルに注目する。普段、モンスターの素材が民間に影響することは珍しい。だからこそ予想していなかった言葉に、一気に意識が集まったのだろう。

 今まで、モンスターによって民にもたらされる恩恵は、それこそ魔石製品のための燃料しかなかった。それだって「魔石」とだけ言われて渡されれば、それを落とすモンスターのことにまで意識はいかないだろう。

 しかし、こうして素材自体が民間に出回ることで、どんなモンスターがどのような素材を落としてどんな商品になるのかという形で、民衆がモンスターのことを知るきっかけになる。

 

「まずこっちのヒツジ、バロメッツっていうモンスターなんだけど、ヒツジに見えるけど植物のモンスターなんだよねー。それで、もちろん見ての通り毛が採れるわけだけど、この毛は羊毛というより綿に近い性質を持ってるんだ。だから夏涼しくて冬あったかいっていう服の素材になる。デメテル・ファミリアとも相談して、向こうの綿花の生産を減らして、少しずつこっちに切り替えていく予定だよー。綿より元手はかからないし、綿と違って一年通して採れるから、今より綿の洋服が安くなるんじゃないかなー」

 

 服が安くなるとの言葉に、民衆から期待の声が上がる。既に被服系ファミリアとも契約が結ばれており、デメテル・ファミリアは空いた分の耕地で違う作物を育てればいい。

 

「それで、こっちの鳥はタレポっていうんだけど、採れるのは羽根で布団の材料になるんだ。冬ふかふかの布団で寝たいよねー?」

 

 ハトホルの言葉に歓声が上がる。やはり、布団の魅力には抗いがたいようだ。

 

「今見せられるのはこれだけだけど、もう他のモンスターの牧畜にも手を出してるし、そっちもそのうち見せられるようになると思うよー。それで将来的には、牧畜してるモンスターを安全に見ることができる、大モンスター牧場をオープンする予定だから、その時にまた説明するねー。それじゃあ、この後はガネーシャ・ファミリアによる公開調教があるから、みんなぜひ闘技場の方に見に行ってみてねー」

 

 ハトホルは台本を読み終わりその場を後にする。ハトホルが内容を知らされたのは、ほんの数日前である。とはいえ、モンスターの出どころは(それ自体が問題ではあるが)はっきりしているし、安全である根拠は示されている。神相手にもろくに敵意をよこさないモンスターなのだから、まぁ安全なのだろう。

 ハトホル・ファミリアの方で手に入るマージンも大きい。少なくとも胃痛分の元は取れるだろう。次の『神会(デナトゥス)』あたりでは問い詰められそうだけど。ピュグマリオン(盟主)は出てこないし。

 

 一方、初回だからそう多くは来ないだろうと踏んでいたガネーシャ・ファミリアは、ハトホルの宣伝によって観覧客が増えたことでちょっとした修羅場になるのだが、まぁ話すほどのことでもないだろう。

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