人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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神の宴

 ガネーシャ・ファミリアの本拠地、『アイアム・ガネーシャ』にて、多くの神々が集まっている。この日は神の宴。報告会が主である『神会(デナトゥス)』とは異なり、神がどんちゃん騒ぎするだけの宴会である。

  無闇に主張の激しい門を潜り抜けると、ガネーシャ・ファミリアによって用意された料理の数々が立食形式で並んでおり、神々が談笑している。

 なお、神々の性格というのは人間から見るとおおよそ8割から9割が性悪であり、笑い声の70%は()()()に起因する嗤い声である。そこはもう文化とかそういったものの違いと考えるしかない。

 

 そして今宵もっともその嘲笑の的になっている女神こそ、天導山(オリンポス)三大処女神のひとりであり、天導山では貴重なまともな倫理観を持つ女神。炉竈(ろそう)を司る庇護と慈愛の女神、ヘスティアである。

 ただし、彼女に関してはある意味嘲笑が妥当だとも言えるだろう。まず前提として、彼女のオラリオでのカーストランクはかなり低い。

 つい先日まで眷属がひとりもいなかった超零細派閥であり、本拠地は廃墟。正確には地下の隠し部屋なのだが、事情を知らない神からすればダイダロス通りのスラムに住むホームレスと大して変わらない待遇だ。極貧で神なのに屋台でバイト、客にさえ舐められる始末。

 そして問題なのは、彼女自身のものぐさすぎる性格である。怠惰と言うには頑張る時には頑張るのだが、だらしない時はとことんだらしない。なにせ、ファミリアを構えに下界に来たのにも関わらず、まともに眷属を探そうともせず神友のもとでニート生活を数年謳歌していたのだから。

 しかも現在進行系で、周囲の神々が貴族のごとく身なりを整えている中ワンピース一枚のド普段着なうえに、料理を頬張りながらタッパーに詰めているのだ。さもしすぎて涙が出てくる。

 

「……何やってんのよ、あんたは……」

 

 そんな、腐っても神友の零落を見るヘファイストスの気持ちは如何様なものであろうか。

 そもそも炉の女神であるヘスティアと、鍛冶神であるヘファイストスは、司るものからして縁の深い存在である。ヘファイストスからすると、自身のコンプレックスである眼帯の下に小揺るぎもせず、ありのままを受け止めてくれたヘスティアは見捨てづらい相手でもある。

 

「だ、だってどうせ余るんだぜ……!? こんなに美味しいのに……」

 

「スープの素なんかは大して高くないんだから買いなさいよ……眷属できたんでしょうに……」

 

 ピュグマリオン商会によって、オラリオの料理レベルは上がった。新しい料理を開発したわけではないのだが、新たな調味料の開発や作物の品種改良、コンソメキューブやブイヨンキューブなどの即席スープに、迷宮産作物の栽培と、料理の根幹に関わる部分を底上げしたのだ。

 調味料や即席スープは一般家庭の料理を豊かにし、負けじと料理店は新たな素材で料理を作り上げる。既得権益を壊さない形で競争を促したのだ。

 と、そんな話をしていると、周囲の神々がざわつき始めた。何事かと周囲の目が集まっている方を見ると、何人かの神が集まって歩いている。

 

『見ろよ、ピュグマリオン傘下の連中だ』

 

『傘下つってもおこぼれもらってるだけのパシリみたいなもんだろ?』

 

『ハトホルにミアハにプルートスにエポナ……ニョルズは流石に呼ばれてないか』

 

『ていうか盟主は来てねぇのかよ』

 

『ソーマもいないのか。趣味神どもはこれだから』

 

 ピュグマリオン・ファミリア傘下の主神たちが会場入りしたのだ。ただし、その輪の中に盟主であるピュグマリオンと、ついでにソーマの姿もないが。

 周囲の神々はそんな傘下のファミリアに対しても、好奇と嫉妬の目を向ける。パシリという評価自体はそれほど間違っていない。牧畜、あるいは馬車の運営を牛耳っていたために買収されたハトホル、エポナ両ファミリアと、借金のために買収され好きに使われているミアハ、プルートス両ファミリアだ。

 

『ていうかいい加減ヤバくね? ピュグマリオン・ファミリア』

 

『規模がデカすぎんだろ……』

 

『俺がその気になればオラリオを潰すこともできるんだぞってことで』

 

『実際潰せそうなのが怖い』

 

『もうこれ侵略だろ』

 

『じゃあお前なんとかできんのかよ。ピュグマリオンがストライキしたら食料の半分と美容品と酒がなくなって馬車が止まるんだぞ』

 

『ディアンケヒトのとこもピュグマリオンと同盟組んでるから同調して値上げしてくるかも……』

 

『デメテルのとこもだろ? 流石にデメテルがそういう事するのは想像できんけど』

 

『くぅ〜、気になることは山程あるけど色々怖くて詮索できねぇ!』

 

 ピュグマリオン・ファミリアの商品のほとんどは必需品ではない。そのため、なくなったからといって即座に都市機能が麻痺するというわけでもない。

 だが、贅沢を覚えた者はそこから引き返すことができない。それが分かっているから、神々もここまで規模が大きくなってさえ顔を出さないピュグマリオンを、もはや詮索することができないでいる。

 

「なんかミアハも遠くに行っちゃったなぁ……」

 

「いや、実際仕事の付き合いでつるんでるだけだからミアハの方はあんまり変わってないし、それで遠くっていうなら、あんたと私も割と遠いんだけど」

 

 ヘファイストス・ファミリアは鍛冶系2大派閥の一角なのだからさもありなん。

 

「あら、ピュグマリオンは貴方の神友であるアルテミスとも交友があるって聞いたけれど?」

 

「わっ……ふ、フレイヤ……」

 

 ヘファイストスの陰から現れたのは、オラリオ探索系ファミリアの2大派閥が片翼の主神、美の女神フレイヤである。

 ヘスティアはこの美の女神に苦手意識を抱いていた。美の女神というのは基本的には淫蕩の女神であり、一方のヘスティアは(性的には)清廉な処女神である。反りが会うはずがない。

 

「それだって、アフロディーテの繋がりだって話じゃないか。アフロディーテはアルテミス相手ほど僕には突っかかってこなかったし、僕はピュグマリオンとは面識はないよ」

 

「あら、デメテルとも神友だったと聞いているけど、そっちから紹介はされてないの?」

 

「ムッ……されてないよ。そっちだってされてないだろう?」

 

 ヘスティアに詮索をしてみたフレイヤだったが、思わぬ反撃に微笑みが固まる。図星であった。

 

「こら一本取られたなぁ? フレイヤ」

 

「……ロキ」

 

 フレイヤに声をかけながら、パンツスーツスタイルで現れたのは、フレイヤ・ファミリアと並ぶオラリオのトップファミリアの主神、ロキである。

 

「よぉファイたんおひさ~。ほんでドチビも昨日ぶりやな」

 

「ロキ……フン、ベルくんは赦したようだったけど僕はまだ赦してないからね」

 

「わーっとるがな。うちかてあんなんでケジメつけた思っとらんわ」

 

「あら、珍しいわね。あんたたち、どこかで会ってたの?」

 

「あー……まぁ色々あってな?」

 

 ヘファイストスが、それこそ珍しいものを見たという表情で問いかける。彼女の知る限り、自分より背が低いくせに胸がでかいヘスティアのことをロキは毛嫌いしており、事あるごとに突っかかってはバカにしてくるロキのことをヘスティアも嫌っている、言わば犬猿の仲だったはずだ。

 実際、ロキも先日までは今日ドレスも着てこられていないヘスティアを煽るために、滅多に着ない――そして似合わない――ドレスを着る気満々だったのだ。

 

 しかし、つい昨日起こったミノタウロスの上層侵出という異常事態(イレギュラー)、その原因がロキ・ファミリアにあり、ヘスティア唯一の眷属であるベル・クラネルがそれに巻き込まれていたということもあり、下手(したて)に出ざるを得なくなったのである。

 ヘスティア・ファミリアの拠点である廃教会へは本人たちの立候補によりベート・ローガとアイズ・ヴァレンシュタインがロキとともに赴いており、ベートに睨まれながらでは謝る立場で煽ることもできず、ヘスティアに熱を疑われる程度にはちゃんと謝罪をしたのだった。

 そこで決まった取り決めはベートの提案で、アイズがベルへと稽古をつけることだった。ベートとしては自身が訓練をつけてもよかったのだが、ベートは幹部であり、かつ団員にも指導をしているため自由に時間をとることも難しく、立場的にもよろしくない。

 しかし、アイズならばロキのお気に入りでありエースではあるものの幹部入りはしていない。指導にこそ向いていないものの、Lv1であるベルからすればLv5のアイズと訓練するだけで得るものは多いだろう。アイズにとっては、苦手な加減の練習にもなる。

 主神どもはふたりきりでの訓練と聞いて拒否反応を起こしていたが、本人たちがそれを望んでいることもあってベートのひと睨みで黙らされていた。

 

「ま、子供同士のことやったんやけど、だからこそちゃんと親が面倒見てやらんとな……」

 

「フン、甚だ遺憾だけど、それには同意してあげるよ」

 

「あら、ついこの間まで、『僕のファミリアに入らないなんて、子供たちは見る目がなーい』なんて言ってたくせに」

 

「ゔっ」

 

「なんやドチビ、自分のぐうたらの責任を子供に転嫁するんは流石のうちでも純粋に引くわ」

 

「う、うるさい! ロキだって散々子供に迷惑かけてるくせに!」

 

「ゔっ」

 

「ハァ……あんたたちってホント……ヘスティア、あんたその調子でバカやって、ようやく入ってくれた眷属に愛想尽かされないようにね」

 

「なんやったら貰ったってもエエで〜? 白髪赤眼でウサギみたいにかあいらしかったしなぁ!」

 

「べ、ベルくんは僕の眷属だぞぉ! ロキなんかに渡すもんかぁ!! そっちこそ、ヴァレン某がベルくんを誑かさないようにしっかり見張っとけよ!」

 

「アイズたんをドチビんとこの眷属なんかにやるわけないやろ!!」

 

 そんな風にロキとヘスティアがじゃれあっていると、フレイヤがグラスをテーブルに置き、口を開いた。

 

「じゃ、私はこの辺りで失礼させてもらうわ」

 

「あらもう? あなた、なにか用事があったんじゃないの?」

 

「もういいの、確認したかったことは聞けたし。それに……この辺りの男神はみんな食べ飽きちゃったから」

 

 怪訝な顔をするヘファイストスとロキを無視して、フレイヤは最後にヘスティアを(からか)う言葉をかけて去っていく。それを見送ったヘスティアはげんなりした顔をして呟いた。

 

「……やっぱり僕、フレイヤのこと苦手だよ……って、そうだ! ヘファイストス、僕、君にお願いがあったんだ!」

 

「……あんたねぇ……下界に来てこの方、あんたの口からお願い以外を聞いた覚えがないんだけど?」

 

「うっ、そ、それはそうだけど……で、でも今回はお金の無心とかじゃないから……」

 

「じゃ、なに?」

 

 ヘファイストスの態度が露骨に厳しくなる。神友ではあるものの、事あるごとにヘファイストスの期待を裏切ってきたヘスティアに対するヘファイストスの信用は、既に地の底であった。

 それを察したヘスティアはおずおずと伏し目がちに、自身の要望を口にする。

 

「その……僕の眷属に、武器を作って欲しいんだ」

 

「……帰るわ」

 

「あー! ちょっと待って、お願いだよぉ!!」

 

 踵を返したヘファイストスの腰にヘスティアが抱きつき、ズリズリと引き摺られる。

 

「お金が武器に変わっただけで結局()()()じゃない」

 

「くれって言ってるんじゃないよー! ちゃんとお金は払う! 出世払いで!」

 

「じゃあ結局借金の無心じゃない。払うあてのない無心より先に、少しでもニート時代の生活費を返そうとか思わないの?」

 

「あー……せやったらうちから出すわ、その代金」

 

 そんなヘスティアに助け舟を出したのは、意外なことにロキであった。

 

「ろ、ロキ! クッ、だけど君の施しは受けない!!」

 

「ダアホ! 誰が施すかい!! 無利子無担保で貸したる言うとんのや。本人たちは納得しとったけど、結局賠償の内容があれじゃうちが払ったもんは大してないし、ケジメとしては不十分やからな」

 

 等と言いながらロキとしてはヘスティアに情をかけたわけではなく、ヘファイストスではなぁなぁになりそうな借金を自分が受けることで督促してやろうというディアンケヒトのような考えからである。

 しかし、それを見抜いたヘファイストスは、結局こうなるのかと溜め息をつく。

 

「ハァ……ロキ、金は貸さないでいいわ。信用だけ貸しなさい」

 

「ええんか?」

 

「えぇ。ヘスティア、ロキに免じてあんたがちゃんと代金を支払うと信用してあげる。注文を言いなさい」

 

 そうして、ヘスティアとヘファイストスの共同作品であるナイフは、少し早めに製作が決定するのだった。

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