人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
「……困ったわね」
美の女神、フレイヤは頭を悩ませる。
現在、彼女の意識は意中の
フレイヤの好む強い体と強い精神を持った勇士とは決して言えない、弱い体と軟弱な精神を持つ、駆け出しの冒険者。しかし、フレイヤの眼に視えるその魂は、どこまでも透き通っていて何物にも染められていない、無垢なる魂。
その透明さに、フレイヤは魅了されていた。
故に、その魂の輝きを見たいと、この『
モンスターの警備を担当するのは、『怪物祭』を運営するガネーシャ・ファミリア。オラリオの警邏を担う猛者ばかりとは言えど、フレイヤの『魅了』には抗えない。そのはずだった。
しかし、そのあては大きく外れることになる。何故ならば、モンスターを保管しているどの場所でも、警備にガネーシャ・ファミリアだけではなく、ピュグマリオン・ファミリアの団員が混ざっていたからだ。
幹部級はいないが、彼女たちが『
昼、ロキとの密会で告げられた言葉を思い出す。
『何企んどるかは知らんけど、「怪物祭」でなんかするのはやめといたほうがエエで。なんでか知らんけど、あの祭りはピュグマリオンのとこが一枚噛んどる。下手なことすると敵対することになる』
フレイヤ自身は、それほどピュグマリオン・ファミリアを脅威と見ていない。団員たちはダメでも主神には『魅了』に抗う術はないし、その団員たちもみな、自身の最強の札であるオッタルよりも弱いのだから。
今この時、フレイヤの瞳は目にした透明な魂の輝きに曇っていた。だからこそ、一番短絡的な方法をとったのだ。
そう、オッタルによってピュグマリオン・ファミリアの団員を制圧し、ガネーシャ・ファミリアの団員をフレイヤが魅了する。その方法を。
「オッタル」
女神の意を汲み、『
「――え」
自身の女神が
「ッッッ!!」
オッタルに手を伸ばすフレイヤ。筋肉が無理な動きをするのにも構わず、全ての動きを中止してフレイヤの元へ駆けつける。
しかし、加速するために踏み出した彼の足が地面を踏みしめることはなく、彼もまた、穴の中へと重力に引かれ落ちていく。
「〜〜〜〜ッ!!」
しかし、その程度で終わるようならば、彼はLv7たりえない。
足場はない。加速ができない。そんな前提を覆すため、彼はただ、
「が、ァッ……!?」
その瞬間、
意識が飛びそうなほどの刺激臭。主神の料理で耐性ができていなければここで意識を失っていたかもしれない。彼の知識にある、ピュグマリオン・ファミリアの『レベル貫通兵装』。
それだけではない。場内のピュグマリオン・ファミリアによる一斉射撃。放たれた弾丸はどれも雷の魔剣。ダメージこそ圧倒的な耐久に阻まれて通らないが、継続的な電流は体の動きを妨げる。
ひとりと一柱の体が完全に穴より下にくる。それでもオッタルは穴の壁を蹴って外へ向かおうと足掻くが、それよりも早く穴が塞がっていく。さらには入り口だけでなく、オッタルが通り過ぎたところさえ落下とともにどんどんと塞がっていくのだ。
獣化を使用しての攻撃で塞がった穴を破壊しようにも、破壊した端から修復されるその様子は、まるで迷宮の壁のようだ。オッタルは焦燥とともに攻撃を繰り返した。
一方、抵抗する力を持たない女神フレイヤは、何者かに抱えられて穴の底にいた。
そこは、オラリオの地下水路。地面に降ろされたフレイヤは、自身を落下から助けた相手と相対する。
「さて……最強の駒とは隔離しといたぴょん。あれはあーしらが一斉にかかっても倒せないかもしれないバケモンだし」
「……『
その瞬間、フレイヤは自身の企みの失敗を覚った。
「……で? 女神さん、なんでこんなことしたぴょん?」
「そうね……ちょっとした悪戯よ。悪意はないわ」
「はー……答える気なし、ぴょん。それで、こんなことしてオラリオのみんなが混乱するかもとか、思わなかったぴょん?」
「大丈夫よ。この都市には優秀な冒険者たちがいるもの」
「……じゃ、それでうちとガネーシャ・ファミリアの信用が下がるかもとかは……ハァ、反省の色とかなさそうぴょん」
フレイヤは事ここに至っても、オッタルの救援を信じていた。それは自身がいるのが、普通に移動のできる地下水路であり、オッタルも同じく水路のどこかにいると考えているのだろう。オッタルがいるのは、地下水路に通じていないただの落とし穴の中なのだが。
「不変の神を相手に性根を叩き直すとか無理だし、その他の派閥のことは知ったこっちゃないって考えは矯正できないだろうけど、そのうえで今後、オラリオに被害が出るような身勝手や、ピュグマリオン・ファミリアに影響が出るようなことはやめてくんないかぴょん? 別に、迷宮で
「あら、それで私になんの得があるのかしら」
フレイヤはまだ、ピュグマリオン・ファミリアを脅威に思っていない。有り体に言えば、舐めていたのだ。
「じゃあベル・クラネルを殺すぴょん」
こいつらは、イカれているのに。
「……え」
「今、上にいる団員全員に、ベル・クラネルを殺すように指示を出したぴょん」
神だからこそ、その言葉に嘘がないことがわかる。わかってしまう。
流石のフレイヤも焦る。自分を牽制するために巻き込まれただけの子供を殺すなど、想定していなかった。
「ちょ、ちょっと待って――」
「神威出しても魅了出しても無駄ぴょん。てか、ちょっと考えればわかるぴょん。今後出るかもしれない被害と木っ端零細ファミリアの駆け出し冒険者を天秤にかけたら、前者を選ぶに決まってるぴょん」
オッタルはいない。いてもこの状況を知らない。当然上にいる眷属たちも、ベル・クラネルが狙われていることを知らない。
「べ、ベルが死んだらあなたたちに抗争を――」
「しかけてる間にベル・クラネルの魂は天界でお前の知らない神に好きなようにされるだろうぴょん? いいのかぴょん? あの魂が生前も死後も手に入らなくて。女神イシュタルあたりなんか、ベル・クラネルをお前が気に入っていたって知れば、自分から天界に帰って寝取りにいくだろうぴょん」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
脳が破壊される音が聞こえる。いや寝てから言え。
「詰んでるのがわからないなら交渉なんかしようとすんなぴょん。お前『魅了』と眷属でゴリ押ししてるから暗躍が上手くいってるだけで、神ロキとか神ヘルメスに比べて頭脳派ってわけじゃないんだから」
「ゔっ」
「だいたい、お前のとこの団員がやってること、『
フレイヤがその場に膝をつく。大物女神ぶってはいるが、もともとチヤホヤされ続けてきた箱入り娘である。なにせ
「……
「
「ゔぅ……あるもん……」
ちょっとシルが出ている。
「で、言い分がそれだけならもう殺っちゃっていいぴょん? ベル・クラネル見つけたらしいし」
「ま、待って! わかった、わかったから!!」
「じゃあ自神の名に誓うぴょん。もうオラリオの民に迷惑かけませんって」
「誓う! 誓うから! フレイヤの名に誓って、オラリオの生活を脅かすようなことはしないわよ!」
「あーしらに迷惑も?」
「かけない!!」
もはや余裕綽々の美神の面影はない。チェレンとしても、普通にベルを殺す気はあったが、殺したいわけではなかったので、ひとまずそこで振り上げた拳を下ろすことにした。
「はぁ、はぁ……『煽り兎』、恐ろしい子……!!」
「言っとくけど、かなーり譲歩してんだぴょんこっちは。事を起こす前に止めてやったし、ベル・クラネルにちょっかいかけること自体は止めてないんだから……そもそもこうやって隔離した後に
普段の女神モードのフレイヤなら報復を考えただろうが、本性の町娘モードにされてしまったためにそこまで考えることもできず、フレイヤは認識阻害で姿を消したチェレンによって、酸欠で昏倒したオッタルと共に、本拠地である『
しかし、もうひとつの騒乱は、ピュグマリオン・ファミリアすら認知できないところで進んでいたのだ。
フレイヤの本性はシルらしいので、これでもキャラ崩壊ではないはず。