人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
それは地面の下からやってきた。
『
さらに言えば、地中からの奇襲という点でも、このモンスターは最大の隠密性を持っていた。なにせ、
そうして都市を混乱させ連絡網を麻痺、対応の初動を遅らせる。祭りという人々の雑踏を利用した、有効な作戦だった。
「西地区、
「あいあーい。そっちは任せるちゅん」
「東地区、正体不明発見、応援求む」
「今行くにゃ」
連絡という概念を破壊しうる存在がいなければの話だが。
街中にいる汎用型リビングドールによって襲撃場所を特定しては念話で報告、クララ・ピルリパートの魔法《ドロッセルマイヤー》を受けた配達部門員が都市内機動力を利用し、食人花を各個撃破する。
特に、屋根の上を跳び回る猫と、空中を移動できる鳥が多くの食人花を屠っていた。足りない攻撃力は『
また、『大抗争』からガネーシャ・ファミリアによって定期的に開催されるようになった避難訓練*1のお陰か、市民は素早く所定の位置――冒険者によって防衛しやすい構造になっている指定広場へと避難する。
避難民を狙うため直接広場に現れた食人花もいたが、現れる場所がわかっていれば問題はない。
「【その
付与魔法を発動させた
しかし、彼の魔法は炎の付与魔法である。魔奪の炎、『
さらに別の場所では、4人の小人族が食人花を撃破している。
「二時、地中」
「俺が行く」
「五時、子供が転んだ」
「俺が行く」
ガリバー兄弟は本来フレイヤの指示があるまで待機する予定だったが、長男アルフリッグが独断で指示を出し、市民の防衛にあたっていた。
「いいのか」
「知らん」
「叱られるのはアルフリッグだけだ」
「聞こえてるぞ!! あの方を都市の防衛もできなかった無能にするつもりか!!」
「「「それはそう」」」
「仕方ない」
「一緒に叱られてやろう」
「手のかかる愚兄だ」
一方、西区画。『豊穣の女主人』にほど近い避難広場で、黄緑の髪のエルフが木刀を振るう。しかし、打撃に強い耐性を持つ食人花を前に、木刀の一撃は効果を成さない。
「(くっ……《
食人花に囲まれながら、逆に一網打尽にせんと彼女の持つ魔法の一撃を狙う。しかし、高まる魔力に反応し、他の冒険者が足止めしていた食人花までもが彼女を狙い始めた。
だが、そのエルフは食人花の攻撃を躱しながら、途切れることなく詠唱を紡ぎ続ける。これこそが彼女の才。こと並行詠唱という高度な技術において、オラリオ最高の魔導師であり有数のLv6であるリヴェリアやヘディンをも上回り、剣の才では『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインにも迫る若き才覚。
かつて『疾風』の名を馳せたエルフ、リュー・リオンである。
「【無窮の夜天に
しかし、彼女を取り囲む龍の首のごとき蔓の包囲網は、刻一刻と狭まっていく。
そして遂に、その凶刃がリューを捉えんと襲いかかる。
「……っ
そしてそれを、間一髪で割って入った小柄な影が切り払った。
「ッ……【汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の
「おう、それでいい、詠唱だけは途切れさせんな」
現れたのは、髪を黒く染め直した小人族。手に持つのは2丁の
しかし、そんなことはあり得ない。彼女は、リューの目の前で死んだのだから。
不意に瓶の割れる音と、鼻を擽る酒香。投げ込まれた酒瓶が食人花によって割られ、中の酒が食人花に降りかかった。
「よし、やれ、アーデ」
「あぁもう!! 素直に隠れててくださいよ主神なんだから!!」
避難していた市民の中から、弾丸が放たれる。『魔力隠蔽』の
弾丸魔剣は食人花に着弾すると、炎を振りまいて炎上する。それは先に被っていた
「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも
そして、詠唱が完成する。
「《ルミノス・ウィンド》!!」
魔法の発動と同時に、次々と現れる風を纏った無数の光弾。撃ち出されたそれは食人花を蹂躙し、あっという間に殲滅せしめた。
「……いない、か」
そして、その頃にはあのハトホル・ファミリア団員もその場から立ち去っていた。
いったい何者なのか。そんな疑問を抱きつつ、彼女は自身の正義のため、民衆を守るため、一度小太刀を取りに『豊穣の女主人』へと戻るのであった。
「……久々に戻ってきたら変なのに巻き込まれるとかツイてねぇなぁ……」
「《ガーナ・アヴィムサ》!! 今だよティオナ!!」
「うん! はぁあああああ!!」
警邏を担うガネーシャ・ファミリアの眷属、団長シャクティ・ヴァルマの実妹である義腕の少女、Lv5、『
打撃の効かない相手に対して、平時故に得物である『
「【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ――】」
「ちっ……調子のんな!!」
「通さない……!」
一方で、同じく無手のLv5、『
動き回る3人の動きは、普段以上に冴え渡っている。その理由は、彼女たちと共に戦っているアーディのスキル《
パッシブで周囲のステイタスを補正し続ける規格外の範囲強化スキル。その後押しを受け、3人は必殺の一撃を持つレフィーヤの援護に徹していた。
アイズの剣はあくまでも、先の遠征でのダメージを受けメンテナンスに出している『
既に一撃食らってしまっているレフィーヤはそれでも、アイズのピンチに奮起し、苦痛で体が震える中詠唱を進めた。
「(呪文を唱えることは――仲間を信じること……!!)【吹雪け三度の厳冬――我が名はアールヴ】!!」
そして、時をも止める極寒が吹き荒れる。
正史よりも大規模に行われた、謎の植物モンスターによる襲撃事件は、しかし犠牲者を出さぬままに収まった。
「今回の件、いっちゃん怪しいのはフレイヤやったけど……あれは白やな。珍しく素ぅが出とったわ」
地下水路に向かいながら、ロキはベートへと語る。
事件の後に会ったフレイヤは第二級冒険者でも苦戦し、第一級冒険者でも無手だとキツいというモンスター群の出現を聞いてひどく動揺していた。どうやら、新しい
幸いなことに、件の冒険者は皮肉にも
「じゃあ次にどこが怪しいて言われたら、まあピュグマリオンのとこなんやけど……」
「おい、今回も事件の収束に一番貢献したのはピュグマリオン・ファミリアだろうが」
「わざとやなかったらそんくらいするやろ。例えば、モンスター牧場の裏で表には出せんもん飼っとって、それが脱走したから慌てて処理に走ったとかな。ま、それならそれがいっちゃんエエわ。事ここに及んであっこがオラリオ潰そうとするとは思えんし、単なる事故っちゅーことんなる」
そう言いながらも、狡知の神としての直感がそれを否定する。今回の事件は、何者かによって意図的に、作為的に、悪意的に仕組まれたものだと。
しかしだとするなら、あいも変わらずピュグマリオン・ファミリアの対応が早すぎる。口腔内部に魔石が露出しているという情報も、かなり早期にピュグマリオン・ファミリアの傘下であるエポナ・ファミリア団員から流れた情報だった。主犯でないにしろ、どこかしらで事前に情報を掴んでいたと考えたほうがいい。
だとすれば、なぜその情報を報告していなかったかだが……
「わっからんわぁ……趣味神の考えは」
とにかく、問い詰めるにしろ考察にしろ、そちらは後でもできる。
今は昨夜の爪痕が残っている間に調査を進めたほうがいい。そう考え、ロキは地下水路へ続く階段を降り始めた。