人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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 時は遡る。

 ベル・クラネルがミノタウロスを撃破する数日前、『黄昏の館』へ来客があった。

 来客は酩酊神、ディオニュソスと、その眷属である『白巫女(マイナデス)』、フィルヴィス・シャリア。ロキと同じく謎のモンスターを追っている神の一柱――ということになっている。

 いや、少なくとも彼は、心の底から事件の解決と眷属の仇討ちを願い、事件を追っているのだろう。それが、彼の葡萄酒によって、あるいは葡萄酒に酔って作られた仮初の人格であることを除けば。

 

 天界においてロキと同じく神々の間で戦争を引き起こそうとした問題児であり、騒乱と狂乱を望む狂神。それこそがディオニュソスが酩酊で隠す本性である。

 彼は『都市の破壊者(エニュオ)』を名乗り、オラリオに狂乱をもたらし、モンスターが地上を闊歩していた時代まで世界を巻き戻そうとしていた。

 

 エニュオという破滅の人格を裏に隠し、隠していることさえ忘れて善神に浸るディオニュソスは、自らが得た情報をロキに共有するために、『黄昏の館』へと訪れた。30階層で起きたモンスターの異常発生。情報の開示されない24階層。そこへウラノスが私兵を送り込み、なんらかの事件を隠蔽しようとしているのではないかと。

 しかし、実際にウラノスへ話を聞きに行き、少なくとも食人花との関係はないと己の狡知の神の直感から判断したロキは、ディオニュソスの情報に半信半疑だ。

 そうして、ディオニュソスが言外にロキの眷属を24階層の調査へけしかけようとし、ロキはそれを拒否する――と、言うことをやっている間に、アイズが24階層へ向かったと伝言の手紙が届き、ロキは頭を抱えた。

 急ぎ援軍を送ろうと選ばれたのは、Lv3、『千の妖精(サウザンド・エルフ)』、レフィーヤ・ウィリディス。Lv4、『絆綱(グレイプニル)』、セレニア・ローガ。そして、Lv6、『灰狼(フェンリス)』改め『狼主(ロード・ロボ)』、ベート・ローガ。

 

「なぁロキ。セレニアはともかくとして、レフィーヤは必要か?」

 

「なっ!!?」

 

 そして、その人選に疑問を呈したのは、もっともレベルの高いベートだった。

 

「今からオレたちはLv6(アイズ)の応援に行くわけだ。で、アイツがピンチになりうる場面ってのは、Lv3には荷が重くねえか? ってことだ。特にコイツは脚も遅いし、オレとセレニアだけの方が早く着くぞ」

 

「うっ……」

 

 反発しそうになったレフィーヤだが、ベートの冷静な指摘に押し黙る。事実、Lv6がピンチとなるような場面でレフィーヤにできることがどれだけあるだろうか。ベートは言葉を濁したが、それはつまり足手まといということだ。

 しかしそれは、応援というのを『戦闘』に限定したときの意見である。

 

「逆や逆。正直うちは、Lv6ふたりでも過剰戦力や思てんねん。せやったら小回りの利くセレニアと、手数の多いレフィーヤを連れてったほうがエエやろ?」

 

 アイズたんに足らんのは戦闘以外の部分やしなぁとロキが遠い目をすれば、その意見にはベートも納得できた。そして、()()()()()()()ロキの考えもあながち間違いではない。というか、本来はLv3も戦力として見れば十分であり、中堅ファミリアなら団長をやっていても不思議ではないのだ。

 そう、例えば隠し玉であっても。

 

「ロキ、それならば、うちのフィルヴィスも連れて行ってくれないか。彼女もLv3で、足手まといにはならないはずだ」

 

「なっ、しかしディオニュソス様、それでは貴方様の護衛が……」

 

「頼む、フィルヴィス。ロキたちを私情で巻き込んだのはこの私だ。私はただ待つのではなく、誠意を見せなければならない。何より、今はロキからの信用が欲しい」

 

 ディオニュソスの頼みに、フィルヴィスは不承不承であるが頷く。ベートはそんなフィルヴィスに対して「行くのは下層だ、無理すんじゃねぇぞ」と声をかけ、フィルヴィスは「余計なお世話だ狼人(ウェアウルフ)」と返す。

 元々フィルヴィスがエルフとしては標準的な排他的な性格であるのに加え、()()()()で他者に対して壁を作る性質があるため、それほどいい雰囲気とは言えないのだが、任務は任務。4人はそのまま、24階へと向かった。

 

 残されたロキとディオニュソス。ロキはそういえばと、ついでのように情報をディオニュソスへ渡す。

 

「そういえばやな。例の花のモンスター、嗾けたやつなんやけど、『都市の破壊者(エニュオ)』名乗っとるらしいわ。そっちの方の言葉やんな。なんか知らんか?」

 

「いや、確かに天導山(オリンポス)の言葉だが……かの破壊と殺戮の女神は下界には来ていないはずだから、恐らくそう名乗っているだけだと思う……」

 

 表ではディオニュソスの人格が淀みなく知らぬ存ぜぬを通しながら、その精神の奥深くにいる主人格、エニュオは、ロキの口から己の名前が出てきたことに少なからず動揺していた。

 その動揺が表に欠片も出ていないのは、彼にとって幸いと言っていいだろう。表に出ている葡萄酒での酩酊で作られた「正義の善神ディオニュソス」の人格はエニュオにとっては反吐が出るようなものだったが、少なくとも有象無象(市民)からは疑われず、勝手にしらを切ってくれるのは都合がよかった。

 

「昨日の今日でもうそこまで突き止めるとは……流石狡知の神と言ったところかい? (一体どいつが……レヴィス……いや、『白髪鬼(ヴェンデッタ)』あたりが口を滑らせたか? まぁ、名前自体はどこかで流すつもりだったんだ、都合がいい)」

 

「茶化すなや。となると……ヘルメスあたりに聞いてみるのもありやな……情報通なあいつならなんや知っとんやろ」

 

「(……………………)」

 

 ディオニュソスは自身の情報源を告げなかった。だから、ロキも同じくどこでそれを知ったか語らず、エニュオは自身の想像できる範囲でそれを補った。それは誰にとって幸いだったのだろうか。

 

 

 

 一方、ロキによって送り出された4人は、18階層、別名『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』と呼ばれる安全階層にあるリヴィラの町で、アイズの足取りを追っていた。

 しかし、そこで彼らにかけられたのは、聞くに耐えない怨嗟の声。「今更になって」「なにをチンタラしてたんだ」「何が都市最強だ」「どう償うってんだ」。そんな罵倒が降り注ぐ。

 

「言いたいことはそれだけか」

 

 そこに冷水を浴びせたのは、ベートだった。

 彼は両足を失い、泥水の末に這うようにしてまで怨嗟を重ねていた男の前にしゃがみこみ、目線を合わせる。

 

「なら、なんでてめーら冒険者なんてやってんだ。上にゃあ稼げる仕事なんざいくらでもある。生活だって、『暗黒期』に比べりゃだいぶ楽だろ。命懸ける覚悟もなしに、なんで冒険者なんざやってんだ」

 

 その格が違う威圧に、その場の雰囲気に流され罵倒を口にしていた者たちは押し黙る。そんな中で、ベートは続ける。

 そこに籠められているのは怒り。怨嗟を向けられた怒り。それはベート自身でも、ましてや()()を思い出したのか顔を青白くしているフィルヴィスを気遣ったからでもない。

 

「Lv3になって足を食われた、どうしてくれるんだ、だと? てめーよくもそんな覚悟の欠片もねえ言葉を、セレニアの前で吐けたもんだなオイ!!」

 

 ベート・ローガの伴侶、セレニア・ローガ。彼女はロキ・ファミリアに入る前、Lv2の頃に異常事態(イレギュラー)に襲われ、右脚と片目を失ったことは広く知られた事実だ。

 しかしその後、血を吐くようなリハビリと、再びベートの隣に立つ覚悟を火種に、ブランクとトラウマを乗り越えて彼女はLv4にまで上り詰めた。目の前の男性よりも遥かに若いセレニアがだ。

 

「なんだ、まさか迷宮を楽園とでも勘違いしてたのか。なら残念だったな、ここは地獄だ。個人の命なんざ風の前の羽根より軽い、腕も足も簡単に飛ぶ。自分の命ひとつ背負えねえなら、冒険者なんて名乗ってんじゃねえよ!」

 

 至近距離で胸倉を掴まれ、怒鳴られた男は崩れ落ち、泣き崩れる。ベートの言葉が届いたのかそうでないのか、それでも続く言葉はどこまでも恨み言だった。

 

「……そうだよ……俺たちは一山あてることしか頭になかったバカ野郎だよ……でもな! お前らが、ロキ・ファミリア(お前ら)みたいなのがいるから! 夢を見ちまうんだろ!!」

 

 誰もが男を悲痛な顔で見る。愚者であり弱者。彼らにとっては、強者であるベートの言葉より、何度間違いを重ねていても、男の言葉の方が共感できるものがあるのだろう。それでも、ベートの言葉が遥かに正しいとわかっているから、黙る。それ以上は何も言わず、男を介抱している。

 その様子を、セレニアもレフィーヤも気まずげに一瞥し、ベートは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「……それでいいの?」

 

 そこに、場違いなほどに澄んだ声が飛び込んできた。

 不意を突かれたように、皆が店の入り口を見る。そこに立っていたのは、白と翠のツートーンが目を引く、荒くれの街には到底相応しくない美少女。しかし彼女は間違いなく、この場ではベートと並ぶほどの実力者。

 

 ピュグマリオン・ファミリアのLv6、『万魔所蔵図書館(アカシックレコード)』の2つ名を持つ、都市のもうひとりのハイエルフ。パラケルスス・T・ヒータル・アールヴ。

 

「それで、いいの?」

 

 パラケルススは抽象的な質問を繰り返す。その意味が分からず、問いを投げかけられた男はただ呆けたように彼女を見た。

 

「貴方には今、何もない。自分でそう言った。脚を失い、仲間を失い……それなのに、命を懸けた理由さえ他人に押し付けたら、本当に何もかも失う」

 

「あ……あぁ……」

 

「せめて、冒険者でいたくはない? 自分の意志で命を懸けて冒険に挑んだ、果敢な人間でいたくはない? その唯一残った尊厳さえ投げ捨てて、何もかも人のせいにして、それで、いいの?」

 

 男は本当に、もう何も言えない。ただ項垂れるだけだ。

 パラケルススとしては、煽り兎()の真似をしてみたかっただけで、ちょうどいい場面を見つけたから首を突っ込んだのだが、えげつないほどに刺さってしまったらしい。

 

「? ん、じゃあね」

 

「おいおいおいちょっと待ておい」

 

 言いたいことを言ってその場を離れようとしたパラケルススを引き留めるベート。ピュグマリオン・ファミリアの団員がリヴィラの街にいるのは非常に珍しい。というか、恐ろしいことに休んでいるところさえ見たことがないという噂すらある。

 肩を掴んで引き留めたベートに対して、パラケルススはそれを気にもせず振り返って首を傾げる。

 

「お、おいパラケルスス様に何をやっている狼人!」

 

「そうですよベートさん、ハイエルフ様ですよ!?」

 

「コイツは自分でそういう扱いすんなって言ってたんだろうが! 従わねえほうが不敬じゃねぇのか?」

 

 ビタリと固まったエルフどもを無視して、ベートはパラケルススへ問いかける。

 

「で、お前なんでいんだよ。お前らってあんまここに来ねえじゃねえか」

 

「ん、来たことなかったから、探検」

 

「ガキかよ……」

 

 少なくとも『大抗争』以前からいるはずなのだが成長しなさすぎではないか? と考えつつも、ハイエルフだからかと考えを改めるベート。

 

「ん、あと、24階でクララが緑の植物みたいなメチャデカい壁見つけたから、焼き払いに行くところ」

 

「ぜってぇそっちだろ先言えや!!」

 

 ベートはパラケルススに水晶飴(クリスタルドロップ)を与えると、他の3人に声をかけてその場所へ向かう。

 パラケルススは行く場所が同じならと、それにこっそりとついていくのであった。

 

「……あ、合流したっぽい」

 

「あ゛ぁ!?」




【追記】
ベートに掃除の時「ローガ棒だ」ってしたり顔してほしいよね。
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