人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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怪人との対峙

 迷宮には『食糧庫(パントリー)』と呼ばれるエリアが存在する。

 1、2階層を除くすべての階層の奥地にあるエリアで、液体が滲みだす石英が生えている。この液体がモンスターの栄養源となっているのである。

 この日のクララ・ピルリパートの目的は、この液体の収集である。モンスター牧場で飼育しているモンスターの餌とするためにこの液体が必要なのだが、石英をそのまま持って帰っても液体は滲出せず、パポスが調整しようとすると相応の材料が必要になるため、研究中の今はまだひとまず採取して済ませているのだ。

 

 月に数度、適当な『食糧庫』へ回収に向かうのだが、その日はそんな『食糧庫』のうち、偶然立ち寄った24階層の『食糧庫』に異変が起こっていた。

 

「……デカいのであります」

 

 なんか、デカい緑色の肉壁で『食糧庫』へ続く道が埋まっていたのである。

 肉壁は固くて打撃は通じず、斬撃もすぐに再生が始まる。『胡桃割り(ナッツクラッカー)』を使えば多少は有効打になったようだが、やはり再生するし費用対効果が薄い。また、ではその間にコッペリアのハエを送り込んだのだが、中に充満している人体には影響がない程度の微毒がハエには致命的だったようで、偵察は難しい。

 そのため、大規模魔法を使えるパラケルススに連絡を取り、来てもらう間待機していた時だった。*1

 

「おや、『剣姫』殿にヘルメス・ファミリアの皆様方、こちらに何か御用ですかな?」

 

「……『白鼠姫(コマンダー・プリンセス)』」

 

 現れたのは、アイズ・ヴァレンシュタインと、団長である『万能者(ペルセウス)』、アスフィ・アル・アンドロメダ率いるヘルメス・ファミリアの面々だった。

 クララの方はその接近はおろか、目的まで含めてコッペリアからの報告で知っていたが、あちらはクララたちのことを露骨に警戒している。

 

「何故あなた方がここに?」

 

「『食糧庫』に用事があったのでありますよ。他の『食糧庫』にも行って、次はここに寄ろうとしたところでコレに行き当たりましてな……退けと言うなら退くでありますが?」

 

 言われて、アスフィは考えを巡らせる。クララはLv4でも最上位の冒険者。そして、彼女を取り巻いているサポーターも、彼女の魔法の効果で同じだけの基本アビリティを持っている。

 主神であるヘルメスからは、ピュグマリオン・ファミリアを特に警戒するように言われている。であれば、ここで別れて目を離してしまうよりも、同行させて見張っていたほうがいいかもしれない。彼女はそう判断した。

 

「いえ……では、この先に用事があるということでよろしいのですか? それでしたら、目的地が同じということで、ぜひ同行していただきたいのですが……」

 

「構いませぬが……この先では小官らは事情により偵察の目が潰れてしまうようです。故に、基本は援護に回らせていただいても?」

 

「はい、大丈夫です。Lv4の援護は心強いですし、こちらには、アイズさんがいますから」

 

 話しているうちに、ヘルメス・ファミリアの小人族の上級魔導師、メリル・ティアーによる長文詠唱魔法が緑壁に穴を開ける。

 全員が素早く穴の向こうへと入り込むと、ややもしないうちに壁は再生し穴は塞がってしまった。

 

「……仲間から通信が来ました。今こちらに、我が団のパラケルスス・T・ヒータル・アールヴと、ロキ・ファミリアのベート・ローガを含む、第一級冒険者ふたり、第二級冒険者3人のパーティーが援軍に向かっているようであります」

 

「ベートさんが……?」

 

「「パラケルスス様が!?」」

 

 クララの報告に反応するアイズと、もっと強い反応を見せるヘルメス・ファミリアのエルフふたり。

 

「出発前に伝言を任せたから……それで来たのかも」

 

「……まぁ、ともあれ心強いですよ……ッ、上!!」

 

 アスフィが叫ぶのと同時に、天井から何匹もの食人花が現れ、鋭い牙と人間のような歯を持つ悍ましい口を大きく開いて襲いかかってくる。

 アスフィは各自スリーマンセルを組んで迎撃するよう指示を出し、唯一食人花との交戦経験があるアイズが特徴を叫ぶ。

 

「魔法はダメ! 打撃は効かない、剣で戦って!」

 

「ルルネ! 確認します、魔石は口の中ですね?」

 

「そーだよ! そーです!! だからなんとかして〜!!」

 

 次の瞬間、いくつもの爆発が起こる。ひとつは、アスフィが放った手投げ弾、都市外は大陸北部の火口付近に発芽する『火山花(オビアフレア)』を原料に生成された、瓶詰めの液体爆薬、『爆炸薬(バーストオイル)』。

 そして他にも多数。リリルカの『単騎駆け(クシャトリヤ)』と同様に魔力隠蔽の纏化(スペリオライゼーション)を付与した『胡桃割り』から放たれた爆発魔剣。

 それらが食人花の口内にある魔石を砕き、消滅させていく。

 

「(……! あれがピュグマリオン・ファミリアの『魔笛』……聞いてはいましたけど、実際に見てみると、凄まじいですね……一撃一撃が爆炸薬並の魔剣を()()()()して複数人で運用……脅威的です)」

 

 戦闘が一段落し、考察しながらも進んでいく調査隊一行は、やがて分かれ道に辿り着く。どちらへ進むのか、あるいは二手に分かれるのか、そう議論している間に、その両方から、再び食人花が現れる。

 さらには、後ろからも現れた食人花による挟撃に対処するうち、アスフィたちは天井から降りてきた太い柱のような、あるいは蛇の肉体のような植物の蔓によって、アイズと完全に分断された。

 

「っ! 『剣姫』!!? おい返事しろっ!!」

 

 先日18階層でアイズに助けられた、ヘルメス・ファミリアの犬人(シアンスロープ)の斥候、ルルネが壁を殴りながら叫ぶ。

 それを隙と見てか本能からかルルネを標的にした食人花を、熊人(ベアズ)の大剣士、ファルガーが切り裂き、間一髪で救った。

 

「総員傾聴! 道を確保しました!! 今のうちに『食糧庫』へ急ぐであります!!」

 

「なっ、『剣姫』を置いてくのかよ!!」

 

「見たでしょ!? 何があったって死にゃしないわよ! 悔しいけど! 私たちが心配できるような相手じゃないのよ、あの戦姫は!!」

 

 クララの指示に反発するルルネだったが、ドワーフのエリリーが吐き捨てた言葉を聞いて、悔しながらも指示に従う。

 全員が『食糧庫』へと走り出してしばらくすると、後ろから生き残りの食人花が追いかけてくる。それを迎撃しようとしたのは最後尾で殿を務めていたアスフィだったが、それを遮るように躍り出た『王女の指先(ナッツクラッカーズ)』が、一斉に魔剣を発射する。

 爆破の魔剣ではない、爆破が効きにくい相手と相対した時に使用される凍結弾の魔剣。それによって凍りついた食人花が壁となり、後列の食人花もまた追いかけてこられなくなった。

 

「やった!」

 

「やってねぇ! 前からも来てんぞ!!」

 

 前から来る食人花を切り払うヘルメス・ファミリア。脱落者こそいないが、じわじわと削られるようにダメージが蓄積していく。

 食人花が打ち止めとなったのは、『食糧庫』の石英が発しているであろう赤い光が見えてきた頃。ようやくここで、小休止がとれた。

 

「? なんだいそれは」

 

「我々は無傷でありますからな。このくらいはせねば」

 

 クララが半球状の魔石製品から飛び出した紐を引くと、駆動音と共に飛び出した管が回り始め、霧のように液体が噴霧し始めた。

 その霧に触れたヘルメス・ファミリア団員の傷が癒え、体力も徐々に回復していく。

 

「お、おいこりゃあ……」

 

「ポーション・スプリンクラーであります。複数人の回復なら、それなりに効果的かと」

 

「効果的ってレベルじゃないわよ……武器の消耗はあるけど、ほとんど全回復じゃない……」

 

 エリリーが驚き半分呆れ半分で呟くが当たり前である。これはリビング・ドールには効果がない救助専用器具であり、セットされているのも人魚の生き血だ。

 稀少性は暴落しようと効果は据え置き。調査隊は万全の状況で『食糧庫』へと挑むことになる。

 

 通路より広くなっている空間。その中央に、巨大な石英の柱が突き立っている。

 そしてその柱に、あたかも寄生するかのように絡みつく、植物のモンスター。そのモンスターを中心に、食人花が限りなく生み出されている。

 ルルネが指さして叫ぶ。その先にあったのは彼女が18階層で受け取ったという、中に胎児のような何かが入った奇怪な魔石。

 そして、覆面をした白装束の、多数の人間だった。

 

「愚かな侵入者どもに死を!!」

 

「死を!!」

 

「死を!!」

 

 集団の雄叫びに、素早くそれぞれの役割を伝え臨戦態勢を整えるアスフィ。一方、クララは念話で指示を出し、その場から『王女の指先』による一斉射が放たれた。

 対人であれば長文魔法くらいでしかありえない明らかな超遠距離(スーパーロングレンジ)からの詠唱も何もない攻撃に、恩恵を得ただけの一般人という死兵(捨て駒)が反応できるはずもなく、榴弾に巻き込まれては自爆用の火炎石に誘爆し、次々と周りを巻き込んで爆発していく。

 瞬く間に三分の一程度にまで減った不審者集団の頭数に、敵も味方も呆気にとられて、しばらく沈黙が落ちる。

 

「お、おおおおおおおおお!!!?」

 

「嘘だっ!! 嘘だぁあああ!!?」

 

「クソッ!! 血も涙もねぇのかっ!!?」

 

「信じられねぇ!! ひどすぎるっ!!」

 

 不審者集団からあがる悲鳴。しかし、クララは冷静に所感をアスフィへと伝える。

 

「『大抗争』で『闇派閥』が使用していた自爆死兵でありますね。どうやら、彼奴(きゃつ)らは『闇派閥』であるようであります。皆々様、お気をつけください」

 

「え、えぇ……いえ、感謝します。総員、死兵に注意して!! 一撃でも貰えば致命傷です!!」

 

 アスフィからの指示に、撃鉄装置を操作する腕や手を落とし、自爆できないように制圧していくヘルメス・ファミリア。

 その様子を見て、モンスターの頭蓋骨の面を被った白髪の男が、飛んでくる『魔笛』の弾丸を食人花を盾にして躱しながら、不愉快そうに舌打ちをした。

 

「チッ、役立たずめ。所詮、屑は屑か……食人花(ヴィオラス)!!」

 

 男が指示を出すと、無数の食人花がヘルメス・ファミリアに向かって、いや、死兵相手にも見境なく襲いかかる。

 数が減ろうと、死兵は未だ脅威。そこに食人花の援護が加わり、『王女の指先』の射撃は食人花に遮られて上手く届かない。

 

「(このままじゃ、戦況は悪化する一方……私が指揮官(あたま)を潰して……流れを変える……!)」

 

 アスフィが覚悟を決め、死兵を指揮するローブの男と、調教師(テイマー)と思しき仮面の男を倒すために吶喊する。

 短剣の一太刀でローブの男の頚を切り裂き、そのままの勢いで調教師へと向かうアスフィに向けて、調教師は食人花をけしかける。

 ギリギリでそれを躱し、調教師との距離を詰めるアスフィ。だが、眼の前の地面から現れた食人花が、牙を(ぬめ)らせアスフィを喰らおうと口を開いた。

 

「――【タラリア】」

 

 万事休すか。そう思われた時、アスフィの口から短文詠唱(ワンワード)が紡がれる。瞬間、アスフィの靴から二翼一対、左右四枚の翼が現れ、アスフィの体が空中へと翻った。

 これこそがアスフィ・アル・アンドロメダの切り札。その天外の能力から秘匿され続けてきた神秘の結晶である。

 

飛翔靴(これ)まで使わせたんです。完璧に仕留めさせてもらいます」

 

 アスフィは空中から爆炸薬をばら撒き、食人花を一網打尽に壊滅させると、その爆発を煙幕代わりに調教師の背後を取り、ダガーを腰部へと突き出す。

 

「――なっ……!?」

 

 しかし、Lv4の膂力で放たれたダガーによる刺突は、片手で掴まれたただそれだけで動かすことさえできなくなる。一瞬の動揺。その隙をついて調教師はアスフィの胸倉を掴み腕一本で投げ、背中から叩きつけた。

 とんでもない怪力。投げられた勢いでアスフィは距離を取ろうとするが、一瞬目を離した隙に調教師はアスフィの背後に回り込んで、奪い取っていたダガーをアスフィの腹部に後ろから突き刺した。

 

「……冒険者のしぶとさは身に沁みている……この程度では簡単に治るだろうな……」

 

 調教師はダガーを持ったまま、そのダガー一本でアスフィの体を持ち上げる。アスフィの体内にダガーが食い込み、アスフィの口から悲痛な絶叫が漏れた。

 ヘルメス・ファミリアの仲間がアスフィを助けようとするも、食人花の妨害によって近づけない。『王女の指先』が放った弾丸はその多くが、明後日の方向へ飛んでいき壁へと着弾したが、そのうちの一発が調教師の腕を弾き、アスフィが地面に投げ出される。

 アスフィに向かってポーションを投げようとした男が食人花に貫かれ倒れ伏す。追撃からは間一髪で救助されたがポーションはアスフィに届かず、調教師はアスフィにトドメを刺そうと迫る。

 

「――《アルクス・レイ》!!」

 

 その瞬間、壁の外から放たれた光線が、男の体を弾き飛ばした。

 アスフィの周りから、一時的に敵がいなくなる。その隙に『王女の指先』のひとりがアスフィを回収し、人魚の生き血を処方する。

 クララは光線が放たれた方を見て息をつく。そこには杖を構え魔法を撃ち終えたレフィーヤ、そして、ベートとパラケルススを始めとした応援の姿があった。

 

「間に合ったようでありますな……しかし……」

 

 魔剣と《アルクス・レイ》を食らって、調教師の男は無傷。

 いったいどんな耐久をしているのか。慣れない、情報のない相手との戦いを前に、クララは『胡桃割り』を構え、次の敵に標的を変えた。

*1
他の階層に行かなかった理由は特にない。しいて言うなら負けた気がしたから。




 クララはいわゆる周回パーティなので、強敵相手だとそこまで強いわけではないのである。
 レベル抑えてるしね。
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