人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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食糧庫(パントリー)』の死闘

 

 ベートたちが調査隊に合流する少し前。

 18階層でパーティーに加わったパラケルススから、さらに情報が共有される。

 

「ん……『剣姫』が他と分断された。『食糧庫』に向かったのはうちの団員と、ヘルメス・ファミリアの団長を含めた団員のパーティー。『剣姫』は足止めされてる」

 

「チッ……アイズが簡単にやられるとは思えねぇ。まずはヘルメス・ファミリアを救援してからアイズの方に向かうぞ」

 

「ええっ……で、でも……」

 

「アイズさんの反応は消えていません。ダメージもほとんどないはずです」

 

 ベートの指示に渋るレフィーヤ。そもそもがアイズの救援なのだから、アイズを慕うレフィーヤがそうなるのは当然だろう。

 それに対してセレニアが、同じファミリアの仲間の生命力を探知する魔法を使い、アイズの無事を伝えて説得する。

 

「ん、『食糧庫』にいる敵、厄介。食人花とその親玉みたいなデカいやつ、少なくとも第一級冒険者並のやつ、あと『大抗争』にいた爆発兵」

 

「チッ、クソッタレの邪神め、逃げ延びてやがったか……」

 

 ベートとフィルヴィスが苦い顔をし、レフィーヤの瞳が不安げに揺れる。

 

「ん、うちの団員が、魔剣で壁を爆破して突入場所の合図をする。そこから入ってまずはそいつらを潰す」

 

「わかった。……って、早速か! おいハイエルフ、あそこでいいのか!?」

 

「ん!」

 

 『王女の指先(ナッツクラッカーズ)』の一斉射によって爆発した壁面が崩れ、赤い光が漏れ出す。だが、完全に破壊されたわけではない。

 

「レフィーヤ、いけるか?」

 

「は、はい! 【解き放つ一条の光、聖木の弓柄(ゆがら)――】」

 

 レフィーヤが詠唱を始め、装填されるのは光の矢。短文詠唱でありながら、レフィーヤ自身のスキルと魔力の高さから高出力を誇る、レフィーヤの代名詞。

 

「【汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】《アルクス・レイ》!!」

 

 放たれた光線は壁を破壊し、レフィーヤが遠目で敵の姿を捉えると、追尾するように怪しげな仮面の男へと向きを変える。

 魔法は男に命中するが、不意をついたために弾き飛ばされはしたものの無傷。それを見たベートが、弾かれるようにして駆け出す。近くにいた死兵は咄嗟にその進路を塞ごうとするが――

 

「邪魔だ」

 

 文字通り、一蹴。Lv6の膂力で蹴り飛ばされた死兵は爆弾を起爆する間もなく、その身を四散させ絶命する。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ。帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に(ちりば)む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人(ともがら)。空を渡り荒野を駆け、何物よりも()く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】」

 

 ふたつの長文詠唱が響く。それはふたつとも広い攻撃範囲を誇る大火力の魔法。さらに、それを放たんとしているのは、魔力に高い素養を持つウィーシェの森出身であり『魔力バカ』と揶揄されるほどの魔力を持つレフィーヤと、《タブラ・スマラグディナ》の魔本を常時顕界させていてもケロッとしているほど莫大な魔力量を誇るパラケルスス。

 空間を歪める魔力の奔流。竜を錯視させるほどのバケモノのような威圧感に、ヘルメス・ファミリア唯一の上級魔導師、メリル・ティアーは戦慄しながらも叫ぶ。

 

「みっ、みんな逃げてぇ!!」

 

「《ヒュゼレイド・ファラーリカ》!!」

 

「《ルミノス・ウィンド》」

 

 『食糧庫』全体に放たれた、幾条もの光線と凄まじい量の光弾は、夥しいほどに蠢いていた食人花の群れを焼き、殲滅する。

 天変地異を思わせる超広域の破壊活動。自分たちを苦しめていた敵が瞬く間に消え去ったのを見たヘルメス・ファミリア団員が、呆然とそれを見ていた。

 

 一方のベートは、仮面の男と相対する。

 相手はLv4であるアスフィを圧倒する強者。なるほど、であれば仮面の男はLv5ほどの強さがあるのだろう。

 しかし、ベート・ローガ(Lv6)は格が違う。すさまじい怪力を持つ男をその上からねじ伏せ、目で追えないほどの速さで連撃を繰り出して圧倒する。さらにその上から、並行詠唱。長文詠唱の魔法をさえ放とうとしている。

 

「くっ……これが、Lv6……ッ!!」

 

「【その炎牙(きば)をもって平らげろ】――《ハティ》!!」

 

 魔喰の炎がベートの四肢を覆う。残っていた《ルミノス・ウィンド》の残弾を吸収し、さらに威力が膨れ上がる。

 

「くたばれ」

 

 必殺の一撃が仮面の男にクリーンヒットし、その体が壁面まで吹き飛び叩きつけられる。

 普通であれば致命の一撃。しかし、土煙の中から現れたのは、全身に傷を受けながらも、再生しながら立ち上がった男の姿だった。

 

「ば、化け物め……」

 

「ふん、彼女に愛された私のこの体が簡単に壊れるわけがないだろう」

 

 男の仮面が崩れ落ちる。その下から現れた顔に、一部の者が言葉を失った。それは例えば救出、治療を施されたアスフィであり、そして、フィルヴィスだ。

 

「貴様……貴様は、『白髪鬼(ヴェンデッタ)』!! オリヴァス・アクト!!」

 

「ありえない! あなたは27階層の悪夢で死亡が確認されているはず……!」

 

 動揺する当時の当事者たちに、男――オリヴァスはしたり顔で解説する。死の淵で拾い上げられた彼は、体に魔石を埋め込まれ、人間とモンスターの融合体である一次元上の至上の生命となったのだと。

 

「ハン、何が一次元上、至上の生命だ。テメェの脚ガクガクじゃねえか。時間稼いで回復しようとしてんのバレバレなんだよ」

 

「……確かに、受けたダメージは思いのほか多い。この身を生かそうとする彼女の力に、私の器がまだ追いついていないのだよ。だが、動けないのはあくまで私だけだ。行け、巨大花(ヴィスクム)

 

 オリヴァスが短く指示を出す。その直後、柱に巻き付いていた巨大な食人花――巨大花が動き出した。

 ゴライアスをはるかにしのぎ、アンフィス・バエナにさえ迫る巨体の鳴動に、その場にいる全員が戦慄する。

 

「ん、ねぇ、なんで悪者に『白髪鬼(ヴェンデッタ)』なんてかっこいい感じの二つ名付けるの? 『白髪(しらが)おじさん』とかじゃダメ? それとも自分で名乗ってるのかな」

 

「すみませんハイエルフ様にこういうこと言うのもアレなんですがそれ今じゃなきゃダメですか!!?」

 

 緊張感ないのもいたが。

 

 直後、壁を突き抜けて何者かが『食糧庫』へと転がってくる。それはここにいる幾人かは見覚えのある、18階層の事件の犯人である赤髪の調教師。

 

「ふん、手ひどくやられたなレヴィス。口だけか?」

 

「そちらこそ、だいぶダメージを受けているようじゃないか。あれだけ手駒がいてその程度か」

 

 そして、彼女がこちらに現れたということは。ヘルメス・ファミリアの数人と、レフィーヤが期待の目で赤髪の調教師が飛んできた方を見る。

 ロキ・ファミリアのエース。『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインがそこに立っていた。

 

「ふん、あの程度の小娘……行け、巨人花」

 

「なっ、やめろ! 『アリア』は生け捕りにするんだぞ!?」

 

「(ん……あいつらの目的はアリア……?)」

 

 パラケルススは考えを巡らせる。アリア、それがアイズの母親の名であり、恐らくは風の大精霊『エアリアル』を意味するものであることは、パラケルススにも共有されている情報だ。なぜなら、パラケルススの中にもまた、アイズから採取されたエアリアルの血が流れているのだから。

 そして、アイズの超短文詠唱による規格外の付与魔法、《エアリアル》が解放され、アイズへと向かっていた巨大花が斬り伏せられる。エルフでもない者が、超短文詠唱の、しかも付与魔法で、いともたやすく断ち切ったことに、敵も味方も驚きを隠せない。 

 その隙にベートがオリヴァスの確保に向かうが、赤髪の調教師――レヴィスがオリヴァスの胸に埋まっていた極彩色の魔石を引き抜き嚥下すると、オリヴァスはその場に倒れ伏し、絶命する。

 そして、魔石を摂取したレヴィスは、先ほどまでとは比べ物にならない速さでアイズに迫り、鍔迫り合いを始める。ここに至る前まで、《エアリアル》を使っていなかったアイズ相手にさえ互角以上に立ち回られていたのに、今や勢いはアイズを上回るほどだ。

 

「アイズ! 今加勢する――」

 

「産み続けろ、巨大花!! 枯れ果てるまで力を絞りつくせ!!」

 

「っ!!」

 

 アイズの劣勢とみて加勢に入ろうとしたベートだったがレヴィスが巨大花へと通した命令によって、『食糧庫』の壁にいたであろう食人花が、未完成のまま次々に羽化し、一斉に襲い掛かり始める。

 そんななか、仮面を被った何者かが、『食糧庫』の中心にあった胎児入りの魔石を持ち去ろうとする。

 

「完全ではないが十分に育った! エニュオに持っていけ!」

 

『ワカッタ』

 

 マントを翻し去ろうとする仮面の人物。ほんの一瞬、パラケルススがその仮面と対峙するも、無数の食人花に押さえられて手が出せない。

 しかし、パラケルススはその一瞬で、仮面の人物の心に楔を打ち込んだ。

 

「ん、よかったの? ()()()()()()()()

 

「……?」

 

 その場では理解できない言葉だった。しかし、仮面の人物は、彼女は後に、思い知ることとなる。

 

 百体、否、数百体にまで及ぶ絶望的なまでの戦力差。ベートの攻撃で容易く打ち砕ける程度の敵ではあるが、対個に寄った彼の能力では殲滅しきれない。そして、ヘルメス・ファミリアの面々やLv3のレフィーヤ、フィルヴィスには致命的な強度を持つ津波のような群れ。

 打開策があるとすれば、すべてを巻き込める広域殲滅魔法。しかし、並行詠唱ができないレフィーヤでは、間隙ない食人花の攻撃を躱しながら詠唱することができない。

 そして、もうひとりの広域殲滅魔法持ちは――

 

「【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪。(みそぎ)はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪。神々の喇叭(らっぱ)、精霊の竪琴(たてごと)、光の旋律、すなわち罪禍の烙印。箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる。代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】」

 

 食人花の攻撃を躱しながらの高速並行詠唱。

 その詠唱を、オリヴァスが聞いていれば引き攣った声で問い詰めただろう。何故貴様がその魔法を使っているのかと。

 実際に聞いていたアスフィもまた驚愕する。その魔法まで持っていたのかと。

 レフィーヤは自分の胸に芽生えた醜い嫉妬を抑え込み、詠唱の隙を探す。たとえ、目の前で自分の完全上位互換が行われていようとも。

 

「【哭け、聖鐘楼】」

 

 そして、彼女がその魔法を選んだ理由は、悪戯心である。

 

(加えること)

 

 レヴィスがアリアだからという理由で執拗にアイズを狙っているなら、アイズと同じく精霊の血を引く自分が《エアリアル》を使ったらどうなるかなぁという好奇心から、《エアリアル》と合わせるのに最も向いた広域魔法を選んだだけ。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 パラケルススの頭上に純白の鐘が現れる。神々しい、教会にでも飾ってありそうな荘厳な鐘に、一瞬時が止まったかのように沈黙が――あえて言い換えよう。静寂が訪れる。

 

「《ジェノス・アンジェラス=エアリアル》」

 

 詠唱の(つい)として魔法の名前が謳われると同時に鐘が揺れ、(ぜつ)*1が鐘を打つ。その瞬間、鐘から放たれた咆哮の如き轟音が風の刃となって全方位に放たれる。

 次々と切り倒されていく食人花。その中心で、堂々と立つ姿を皆が目撃する。

 その目で見たあらゆる魔法を記憶し、所蔵し、改造し、使役する。万の魔法を持つハイエルフ。

 

「『万魔所蔵図書館(アカシックレコード)』……」

 

 目の当たりにして改めてそのすさまじさが理解できる。特に、《エルフ・リング》という同じコピー魔法を操る身であるレフィーヤには。

 並行詠唱の有無、改造できるかどうか、対象がエルフのみであること、詠唱の要不要。様々な点で自分との違いが浮き彫りにされる。今の自分は、間違いなくただの足手まといだと、レフィーヤは歯噛みした。

 

 しかし、殲滅が早すぎたことが裏目に出る。

 

 『食糧庫』にいた食人花は殲滅できたが、『食糧庫』の外から遅れて援軍に来た食人花が、包囲殲滅ではなく一点突破の戦陣を取って、調査隊へと襲い掛かったのだ。

 さらに、《エアリアル》の魔法を使い、かつ濃厚な精霊の気配を感じさせたパラケルススに対して、アイズの剣を弾き飛ばし無手のアイズを圧倒していたレヴィスが、困惑しながらも攻撃を仕掛ける。パラケルススに近接戦の心得はなく、食人花の攻撃であればまだしも、アイズを圧倒するレヴィスの剣技の前に長文詠唱をする暇はなく、自分を強化する魔法や防御魔法でなんとか凌いでいる状態だ。

 

 再びの絶望的な状況に膝を突くレフィーヤ。そこへ襲い掛かる食人花。レフィーヤが死を覚悟したとき、炎を纏った蹴撃が、食人花を食い破った。

 

「あ……ベート、さん……」

 

「なにしてやがる……テメーがなんとかするんだろうが」

 

 ベートにかけられた言葉に、レフィーヤが呆気にとられる。

 

「あのハイエルフに敵わねえからしょぼくれてやがったか? 誰かに敵わねえなんてお前には今更なことだろうが。今、この瞬間、あのハイエルフがお前を助けてくれると思うか!?」

 

 そう言いながらも、ベートはレフィーヤに向かってくる食人花をねじ伏せている。しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。

 

「俺はアイズとハイエルフのとこへ行く。あのままじゃじり貧だ。だから、ここはお前がやるしかねえんだよ!!」

 

 レフィーヤの護衛をフィルヴィスとスイッチし、ベートは壁を蹴ってレヴィスのもとへ向かう。

 ベートの言葉がレフィーヤの胸を抉る。厳しくも優しい先達からの、力強い叱咤。レフィーヤは覚悟を決めた。

 

「ヘルメス・ファミリアの皆さん! ピュグマリオン・ファミリアの皆さん! 5分……いえ、3分だけ保たせてください!!」

 

 

 

 一方、レヴィスは混乱していた。頭の中に、あの鬱陶しい声が響いている。

 

「(アリアが、ふたり……? いや、あり得ん。それこそ、精霊が子を成したなどという世迷言よりも遥かにあり得ん。しかし、間違いなくあれは()()()()風だった。魔法をコピーしただけでは説明がつかん。間違いなくあのハイエルフは、精霊と関係する何かがある……! だとすれば、どちらがアリアだ……? いや、どちらも捕まえればいい話だ!!)」

 

 アイズには剣を拾いに行かせず、パラケルススには詠唱をさせないように立ち回るレヴィスが振るった自然武器(ネイチャーウェポン)の大剣の一撃を受け止めたのは、ベートの脚だった。

 

「ベートさん!!」

 

「ここはオレに任せろ! 早く剣拾ってこい!!」

 

 ベートの言葉に、《エアリアル》での空中機動でもって高速でその場を離脱し、剣を拾いに行くアイズ。パラケルススはベートの纏う《ハティ》の性質から援護が難しいことを覚り、レフィーヤたちの増援へ行こうとするが、食人花を使ったレヴィスの牽制により行かせてもらえない。

 

「テメェの相手はオレだ!」

 

 ベートの蹴撃がレヴィスに放たれる。自分に飛んできていた魔法を吸収した《ハティ》を纏う一撃は、《エアリアル》を纏ったアイズの一撃よりも遥かに重い。だが、それでようやく互角。

 

「勘違いするな。アリアが私と渡り合えているように見えたのは、私がアリアを殺せなかったからだ。貴様にはそれがない」

 

 つまり、殺す気で攻撃できる。

 大剣での連撃。ベートは自慢のスピードで紙一重で躱していくも、そのうちのいくらかはその体に傷をつけ、血が噴き出る。そして、その血が燃え盛り、さらに《ハティ》へ熱を与える。

 

「その炎、魔力だけでなく己の傷も食うのか……ッ!!」

 

「いいだろ、やらねえぞ」

 

 ベートが牙を剥いて嗤い、叩きつけた蹴りは大剣の刃にヒビを入れる。

 

「チッ……こんだけ食らわせてヒビかよッ……!」

 

「いい加減、鬱陶しい!!」

 

 

 

 眼下では、レフィーヤの詠唱時間を稼ぐため、調査隊が奮闘していた。

 

「【運命を編め、その心を繋ぎ留めろ。汝、狼の王に寄り添う白】《ブランカ・アルネス》!!」

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】《ディオ・グレイル》!!」

 

 革紐のような光条網はセレニアの魔法。短文で拘束にも守りにも使える、使い勝手の良い特殊な結界魔法。そこに、どこか青褪めたフィルヴィスの超短文な割に強固な防御魔法が合わさり、レフィーヤに向かう攻撃を受け止めきる。

 

「ッ、ホセ!!」

 

 食人花に、ヘルメス・ファミリアの男性が襲われる。ルルネをはじめとした数名が助けに動こうとするも、当の本人がそれを拒否。陣形を崩し、食人花に食い破られることをよしとしなかったのだ。

 

「『絆綱(グレイプニル)』!! 受け止め任せたであります!!」

 

 そこへ放たれた、「王女の指先」による一斉射撃。爆破による攻撃はホセごと食人花を焼いたように見えて、その中に紛れていた『人魚の生き血』を強化ウーズ膜に充填した特殊弾が命中し、ホセは片足を失いながらも一命をとりとめ、セレニアの紐状の結界に受け止められる。

 

「あ、ありがとう、『白鼠姫(コマンダー・プリンセス)』『絆綱』……無事帰ったら、一篇詠わせてくれ……」

 

「ここを切り抜けてから言うのであります!!」

 

「レフィーヤッ!! まだ終わらないのか!?」

 

 この時、レフィーヤの詠唱終了まであと2分30秒。『王女の指先』は半数が攻撃弾切れ、少数の補助弾と回復弾で援護に回り、それもなくなった者から抜剣、直接攻撃に移ることになる。

 調査団の持ってきていたポーションは残り少ない。あくまで救助者用だった『人魚の生き血』ももうなくなり、ここから先は負傷が増えるばかり。ここに及んで、パラケルススはレヴィスからの妨害を受けながらも離脱することを諦め、詠唱が容易い超短文の治癒魔法を、ヘルメス・ファミリアへ飛ばし始めた。

 

「くッ……そ痛ェ……防具買い替えてなきゃ腕取れてたぞこりゃあ……」

 

「ポック、大丈夫!?」

 

「あぁ、多分折れただけ――ってそっちが大丈夫か!?」

 

 額の怪我は派手に血が出る*2。瓦礫か何かで切ったのだろう、額からダラダラと血を流す姉の姿に、後少しでも下を怪我していたらと、小人族の青年ポックはゾッとする。

 

「大丈夫だよこれくらい。サイン、貰いに行くんでしょ」

 

「……そうだな」

 

 なけなしのポーションを腕にかけ、姉のポットの額に布を巻いて止血して、ふたりの小人族は再び食人花へと立ち向かう。多くのLv3とわずかなLv2が数を占めるヘルメス・ファミリアの奮闘は、まさに獅子奮迅と言えた。

 そして、その時が訪れる。

 

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 レフィーヤの、エルフの魔法を受け継ぎ、使用する召喚魔法《エルフ・リング》。その詠唱が、召喚先の魔法詠唱の最終段階へと突入する。残り30秒。

 しかし、ろくな理性もないはずである食人花は、その魔法が完成すれば自分たちの命はないと察したのであろうか、あまたの食人花が寄り集まり、さながら一匹の巨大な蛇のようにうねりながらレフィーヤへ迫る。

 セレニアとフィルヴィスが防御魔法で凌ごうとするが、数匹の食人花が間を抜けてレフィーヤへと向かってしまった。もはや詠唱は止められず、避けることも叶わない。絶体絶命、そうレフィーヤが目を瞑ったときだった。

 

「ヘルメス・ファミリア、舐めんじゃないわよおおおおおおおおおおお!!」

 

 レフィーヤの前に躍り出た影が、二枚の巨盾の底面に据えられたピックを地面に突き刺し固定して、食人花の攻撃を正面から受け止める。ヘルメス・ファミリアの女ドワーフ、エリリーだ。

 

「まったく、こんな数打ちの盾にまで『不壊属性(デュランダル)』がつくなんて、纏化(スペリオライゼーション)様様だわね……ッ、がああああああああ!!」

 

「エリリー!!」

 

 盾が壊れなかったおかげか、エリリーの体へ直接攻撃は通らなかったものの、その衝撃をもろに受けた左腕はあらぬ方向へ折れ曲がる。弾かれた食人花は軌道を修正し、再びレフィーヤへと迫る。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!!」

 

 しかし、それで十分だった。

 

「《レア・ラーヴァテイン》!!!!」

 

 それは、彼女の師であるハイエルフの持つ広域殲滅魔法。

 魔法円に『探知』の能力が備わっており、レーダーのごとく敵を見つけ出し、無数の火柱を叩き込む。なによりも、『食糧庫』全域を巻き込むその大火力は、『食糧庫』内の食人花はおろか、『食糧庫』外で奇襲のために待機していた食人花をも巻き込んで焼失させた。

 

「なんだとっ!?」

 

 

 巨大花ごと殲滅された食人花に動揺したレヴィスの一瞬の隙を見逃さず、ベートが大剣を叩き落す。咄嗟にレヴィスが反撃を行ったため、ベートもその場から吹き飛ばされたが、それで十分だった。

 

「やっちまえ、アイズ」

 

 その瞬間、剣を携えたアイズが(エアリアル)を纏って飛来する。ガードは間に合わない。アイズの放った剣閃はレヴィスの胸元を深く切り裂き、そのままの勢いで吹き飛ばす。

 だが、レヴィスは形勢が悪くなったことを覚ると、『食糧庫』の天井を支える巨大な柱を破壊することで天井を崩落させ、調査隊はその場から撤退せざるを得なくなった。

 

「アリアよ、59階層に来い」

 

「なに……?」

 

「お前の知りたいことも、そこでわかる。否定していても、お前の体に流れている血のことには気づいているはずだ。お前から来てくれるのなら、ちょうどいい」

 

 そこで、()()()が反応すればよし。しなければあのハイエルフに標的を切り替えるだけだ。そうレヴィスは内心で呟き、崩落する瓦礫の中へと姿を消した。

 調査団は奇跡的に死者0での生還を見せた。被害自体は大きかったが、命あっての物種である。

 

 アイズが聞いた59階層、エニュオという言葉はロキとフィンに共有され、ロキ・ファミリアによる59階層への大遠征が組まれることとなる。

 その途中で目撃された新たな英雄譚は、59階層での苦境で彼らを助けることとなる。

 

 

 

 オラリオの人気(ひとけ)のない路地裏。

 

『クソッ、ソウイウコトカッ!!』

 

 仮面の人物はひとり毒づく。

 彼女の脳裏にこびりついた、ハイエルフの言葉を反芻する。表の彼女はすぐに気づき青褪めていたその事実を。

 

『見タ魔法ヲ模倣デキルナラ、ワタシガ()ナノカ知ラレタ……!!』

 

 《エインセル》。彼女――エインの名の由来でもあり、存在の根幹をなす魔法。彼女の存在を肯定する魔法。

 

『コウナレバ、表ノヤツニハ絶対ニソノ魔法ヲ使エルトばれナイヨウニサセナケレバ……』

 

 エインはひとり闇に消えゆく。その姿を、ハエは見ていた。

*1
鐘を打ち鳴らす内側の分銅部分。

*2
ハゲが言ってた。




他作品執筆初期僕「うおおおおおお!」毎日更新

他作品執筆中期僕「いや毎日更新とか正気の沙汰じゃない」

本作品執筆僕「うおおおおおおお!」毎日更新



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