人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
「んで次が? なんやドチビかい……あー、あの白髪の子ぉな。Lv2ぃ? ちょい待ちぃ、あの子ぉお前んとこ入ってナンボほど経ってんねん」
「あー……大体1ヶ月半くらい……?」
『
冒険者のランクアップには、一定以上の基本アビリティになる程度の経験値と、偉業と言われるほどの冒険で生まれる上位経験値が必要となる。
うち、偉業に関しては文句なし。彼がLv1なのに単独でミノタウロスを打倒した話は既に都市中に知られた事実だ。問題はと言えば基本アビリティである。
ランクアップにはいずれかの基本アビリティがDまで上がっている必要があり、1ヶ月半でそこまで上げるのはまず不可能。
「まぁ……うん。じゃ、とりま二つ名つけよか」
「へ? そ、それだけかい?」
だから、絶対に突っ込まれるけどベルくんを守り抜くぞという覚悟を決めてきたヘスティアは、犬猿の仲であるロキにさえスルーされたことに驚き、弾かれたように顔を上げる。
一方のロキは微妙な顔だ。ロキの愛するアイズがLv2へランクアップするのにかけた時間は1年半。それを大幅に上回る記録を出されたのは正直に言えば不服だ。しかし、よりによってこの
「えーと……今、ランクアップの最短記録ってどないやったっけ」
「盟主殿のところの『
当時はてんやわんやで気にしなかったけど、言われてみれば。そんな雰囲気が神会の間に漂う。発表されるピュグマリオン・ファミリアのランクアップ速度も『大抗争』が終わってからは落ち着いていたため、新たな記録が出てきてようやく気に留めたのだが、異常という域さえ軽く超えている。
なにより、そんな『白鼠姫』が7年間ランクアップなしというのがあまりにも不穏すぎないか?
「……ま、そういうこっちゃ。ドチビ、上には上が居るんや……」
「あぁ……うん……」
変に追求されないのは助かるが、なんだかしょっぱい気分になるヘスティア。なにせ、その『白鼠姫』が所属するピュグマリオン・ファミリアの傘下派閥、ソーマ・ファミリアの団員が、現在愛しのベルくんとパーティーを組んでいるのだ。
しかも、ヘスティアだからわかることだがアレは完全にベルに惚れている。
「(ミアハやヘファイストス、それにベルくんのアドバイザーの子が手を回していたって知った時はびっくりしたけど……そう言われてみれば、ピュグマリオン・ファミリアってあのピュグマリオン商会の……? いや、それならミアハだってあそこの傘下だし……)」
「ま、その分精々二つ名で楽しませてもらうで〜」
「なぁッ!!?」
追求されなかったから忘れていた。まだ
「……ほんで、『
「そうね……あの子はレベルとか興味なさそうに見えたから、この間の単独遠征は驚いたわ」
嘆息するロキの呟きに、自身の眷属にレベルだけならば並ばれたフレイヤが同意する。ガラテアによる黒いアンフィス・バエナ討伐。ロキ・ファミリアのアイズが単独でのウダイオス撃破によりLv6になったばかりだから、単独での階層主撃破という発想はわからないでもない。しかし、フレイヤの言う通り、ガラテアはランクアップに強い意欲を見せていなかった。
「やっぱアレか。ベル・クラネルか」
「でしょうね……オッタルもあれから励んでいるし」
「うちの子らもや。今も遠征しに行っとるしな……」
「感謝してくれてもいいのよ?」
「隠さへんのかい」
ベルが倒したミノタウロス。そのミノタウロスを通常種から鍛え、ベルのもとへ誘導したのが、フレイヤの眷属である『
なお、当のオッタルはミノタウロスを鍛えることより、ベルと一緒にいるリリルカに手を出さないよう言い含める(というよりベルとリリルカの区別をつけさせる)ことのほうが苦労したし、ミノタウロスがリリルカを攻撃し『
普段から色々企んでいるフレイヤのことだから、今回の企みも隠すつもりだと思っていたのだが、案外アッサリと言ってのけたことに驚く。
「いいのよ。神相手なら
「アハハ、ざまーみろやわ」
なんとかベルの二つ名を守りきり、真っ白に燃え尽きたヘスティアは、それなりに離れているフレイヤの言葉など聞こえていない。
「これでLv7に『
「はん、こちとら『ファイブカード』や。すぐ追いついたるから精々見とけや」
「あら、オッタルがLv8になる前にお願いね? それに、『
オラリオ最強派閥が火花を散らす*2のを、周りの神々が面白そうに見る。そして、次は自分こそがと野心をあらわにする。
その日から、白髪の新人がオラリオ入りするたびに猛烈なスカウトを受けることになるのは余談である。
リリルカはベルと組んでダンジョンに潜るとき、基本的にはサポーターとしての作業に専念している。
この場合のサポーターとしての仕事というのは、魔石やドロップ品の収集と周囲への警戒である。あとは、ベルが本当に危なくなったときに『単騎駆け』で、ベルを巻き込まないように、爆破の魔剣ではなく凍結の魔剣を撃つくらいだ。
そのため、このパーティーの戦力は実質ベルひとりだけだったのだが、このたび
「えーと、リリ。こっちがヘファイストス・ファミリアの所属で、僕の専属鍛冶師をやってるヴェルフ」
「おう、ヴェルフだ。戦闘だと大剣を使う。『戦う鍛冶師』目指してるんでよろしく頼むぜ」
ヴェルフ。ベルも本人も姓を言わなかったが、リリルカは知っている。赤毛の青年である彼の名はヴェルフ・クロッゾ。魔剣の作成で名を馳せた没落貴族、クロッゾ家の末裔。
しかし、彼の持っている大剣は、少なくとも魔剣を見慣れたリリルカの目からは、魔剣ではないごく普通の大剣に見える。鍛冶師として売り込むなら*3確実に益になるであろう姓を名乗らなかったことから、彼がクロッゾ、あるいは魔剣に対して隔意を持っていることが見て取れた。
そして、新たにパーティーへ入るのはもうひとり。
「それでこっちが――」
「ナァーザ様。今日からよろしくお願いしますね」
「こちらこそ。よろしくお願いするわ、リリ」
弓を手に微笑む銀腕の
「え、あれ? 知り合いだった?」
「ベル様。リリの所属するソーマ・ファミリアと、ナァーザ様が団長を務めるミアハ・ファミリアは、どちらもピュグマリオン・ファミリアの傘下ファミリアですよ」
「それで、昔からリリはうちに手伝いに来てくれてるから……」
「ほへー……」
田舎から出てきたばかりのベルにとって、ピュグマリオン・ファミリア、及びピュグマリオン商会というのはあまり聞き慣れない名前である。
しかもヘスティア・ファミリアは極貧で、食事はじゃが丸くんが主食。主菜なし、副菜なしという有り様。
「ベル様ベル様。ピュレソースを開発したのがピュグマリオン商会、ひいてはピュグマリオン・ファミリアですよ」
「ええっ!? そ、ソースを!?」
しかしベル、ソースは知っていた。ヘスティアに勧められてじゃが丸くんにかけ、こんなに美味しくなるのかと感動した調味料である。
「ふたりとも、すごいところに所属してるんだね……!」
「いや、リリたちはソース作りには一切関わってませんけど……それより、ナァーザ様は発作は大丈夫なんですか?」
「えぇ、最近は少しずつだけど和らいできたから、リハビリも兼ねてハトホル・ファミリアのパーティーに入れてもらったりしてるの」
ナァーザは昔、モンスターに襲われて生きたまま体を貪られるという経験をしており、迷宮に入るだけでも発作で動けなくなるほどであった。
今現在、人との触れ合いの中でナァーザの心の傷は少しずつ寛解していた。それは『青の薬舗』で主神とふたりであれば起こらなかった変化である。
前衛にヴェルフ、中衛はベルで、後衛にナァーザ。サポーターとしてリリルカという陣営。そのうちベルとナァーザはLv2であり、リリルカもLv1とはいえ迷宮での経験は一日の長がある。
順調に進んでいたが、ナァーザのすぐ近くにモンスターが生まれてしまい、ナァーザがそれに怯んでしまうピンチがあった。咄嗟にリリルカが『単騎駆け』でフォローし、ナァーザが落ち着くまで休憩となったのだが、ヴェルフがリリルカを、正確には『単騎駆け』を複雑そうな顔で眺めていた。
「……やはり、魔剣はお嫌いですか」
「!! 気づいてたか」
ヴェルフは苦々しくそう口にして、自身の武器に対するスタンスを語る。
武器とは持ち主とともにあり、命を預け、命を預かる相棒であるというのが、ヴェルフの持論であった。朽ち果てるまで使われて、その先で砕けるならばよし。しかし、持ち主に分不相応な力を与え、そのうち簡単に砕け散る魔剣のことを、ヴェルフは認められなかった。
だからこそ、魔剣を主武装としているリリルカにも、複雑なものがあるのだろう。しかし、リリルカにしてみればお門違いで傍迷惑な話であった。
「あの、ヴェルフ様。リリが言うのもなんですが、それは少しばかり視野が狭すぎやしませんか?」
「なに?」
「武器にも色々あるでしょう。これは魔剣と言われてはいますが……もっと正確に言えば『魔笛』と神々に名付けられた武器ですが、その役割は弓やクロスボウに近いものです。放たれる魔剣や放つための魔剣は矢弾やボルトであり消耗品。そりゃ剣やら槍やらがポンポン壊されていたら穏やかじゃいられないのかもしれませんが、少なくともヴェルフ様のおっしゃる魔剣とは別物かと。そもそも、この銃身自体は頑丈に作られていて付与もされていますが、基本的にはただの筒ですし」
そうでなくとも、魔剣以外でも使い捨てが前提とされる武器など少なくない。投擲武器はほとんどがそうだし、それはそういう役割として作られた武器だというのなら、魔剣だってそうである。
「ベル様はあなたに魔剣作りを強要していませんし、リリの魔剣はピュグマリオン・ファミリアで作られたもの……というか、鍛冶師が打ってさえいませんよ、これ」
「ハァ!?」
「別に秘密にしていないらしいから言いますけど、『魔笛』の弾丸と火種はどちらも、魔石製品を使った大量生産で1日に数百個作られます。鋳造した鉄の塊に、魔石製品で効果を付与するだけですからね。これが世に放たれれば、並の魔剣鍛冶師なんてあっという間に廃れるんじゃないですか?」
リリルカがそう言うと、ヴェルフは暫くの間呆気にとられたように惚けていたが、そのうち大笑いし始め、最後にはまた複雑そうな顔で、リリルカに謝った。
その後、順調に階層を降りていたベルたちであったが、13階層、中層へと足を踏み入れてしばらく、『
その弾みで15階層まで落ちたベルたちは、ナァーザの発作のこともあり1階層まで上がるのは無理だと判断する。
「ぶっちゃけ、迷宮には結構な数のピュグマリオン・ファミリア団員がいるので、救助要請は行っているはずです」
「はぁ!? なんだよそりゃ!!」
「いや、本当なんですよ。ホラ」
リリルカが虚空に向かって手を振ると、スゥッと浮かび上がってきた白髪灰眼の少女が応えるように手を振って、また消えていった。
それを見て、驚愕の表情で固まるベルとヴェルフ。
「まぁ、あの人達は隠密に特化しているので戦闘はできませんし、戦力にはならないんですが、ピュグマリオン・ファミリア同士は特殊な通信技術もあるらしいので、地上には連絡も行っているはずです」
「いやいやいやいや待てよ!! マジで!? 幽霊とかじゃなくて!?」
「ピュグマリオン・ファミリア、すごいんだなぁ……」
「とにかく、安全階層である18階層まで降りて、そこで救助を待ったほうが生き残る目はあります。なので、下に行きましょう。ここからは、リリも全力で援護します」
こうして、ベル一行は『