人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
「で? どうなったんだ?」
「見てなかったんですか!? あんなに騒いでたのに!?」
リリルカは何故か、18階層でピュグマリオンとお茶をしていた。何故かはわからないが、ピュグマリオンはやたらとリリルカを気に入っているところがある。
あれから色々あった。ベルのことを気に入らない冒険者がヘスティアを攫い、ベルのことをリンチにし始めたのだが、リリルカがヘスティアを救出し、ヘスティアがベルを助けるために神威を解放。
そのせいか、リヴィラの街でモンスター、しかも黒いゴライアスという特級の
「で、そのゴライアスをガラテア様が瞬殺したのが顛末です」
「いやぁ、流石はガラテアだよ。危うく完成間近だった
ピュグマリオンは自身が座っているそれを軽く叩いて笑う。それは、少女の膝であった。しかし、それは少女というには、あまりにも巨大だった。
儚げな見た目とは裏腹に身長10
「リリとしてはどうやればこの方を7日やそこらで作れるのかが疑問なんですが?」
「まぁまぁ、大陸の西で活動してる大工の神は7日でもっとすごいもの作ったって話だし」
「疑問が何も解決してない……」
具体的には、大量の素材を上から運び、パラケルススの使えるバフ系魔法を総動員してピュグマリオンの能力を底上げした結果である。
「基本的には深層でウダイオスを倒すのに協力してもらうつもりだよ。一応地上に出すすべがないでもないし。とはいえ、基本は『異端児』枠かな」
「まぁ、見た目は大きいだけで普通の人間ですし、魔法と言えば魔法ですからねぇ……」
対『異端児』渉外部門。主に『異端児』との交流、勧誘を行う部門で、魔石を取り込んだあらゆるモンスターへの変身が可能なイブ≒アダム、『異端児』の前では
そして、彼らは皆、ピュグマリオンの魔法によって生まれた存在である。であるが故に、その体の異形を「魔法によるものである」と言った場合、神による嘘感知にも引っかからない特徴があった。
タロスの巨体もそれに
「今はラキアに入っているヘルガからの情報だと、またこちらに攻めてくるようだ。そのタイミングでお披露目というのも面白いかもしれないな」
「あなたの主神様がまた胃を痛められますよ……」
その忠告はだいぶ遅い。
と、そんなことを言ったところで、フィナンシェをつまんでいたリリルカはテーブルの上、彼の手元にある手紙のようなものに気がついた。
確かそれは、彼女の主神であるソーマにも届いていた、太陽神アポロン主催の『神の宴』への招待状である。
「えーと、ピュグマリオン様、そちらの招待状は……」
「ん、あぁ。僕が出ないことは知れ渡ってるはずなんだけど、なんか送られてきてね……なにかあるのか?」
あるのである。
具体的に言えば、彼女の想い人であるベル・クラネルがおそらくは嵌められそうなのである。
つい先日、とある酒場で行った酒宴中、ベル一行は冒険者に絡まれた。ベル、もしくはヘスティアに関する露骨な挑発。そこから発展しての喧嘩。
アポロンと言えば、狙った冒険者を取り込むために執拗な工作を行うことで有名な神だ。それ以外に関しては比較的、
いや、本当に分類すれば善神なのだ。少なくともやってることはフレイヤに比べれば随分マシである。
「ふむ、なるほど。つまるところ、神アポロンは神ヘスティアに『
「だと思います。これまでの傾向から見て、『戦争遊戯』で勝てばベル様の『
「『改宗』は1年経たなければできないのでは? 話を聞く限り、彼はまだ女神ヘスティアの恩恵を受けて2ヶ月も経っていないだろう」
「入団だけさせておいて、1年経ち次第『改宗』させるつもりでしょうね……」
「で、リリルカ。君はベル・クラネルと女神ヘスティアを助けたいと?」
「……はい。そうなりますね」
ピュグマリオンは考える。リリルカの願いを聞き入れることは簡単だ。やりようはいくらでもある。
例えば、アポロン・ファミリアへピュグマリオン商会が行うあらゆるサービスの停止と警告。あるいは、ヘスティア・ファミリアが襲撃された際に反撃としてアポロン・ファミリア団員を再起不能にさせる警備員の配置。または、ヘスティア・ファミリアをピュグマリオン・ファミリア傘下に置くことで、『戦争遊戯』にピュグマリオン・ファミリアが参加できるようにするなどだ。
だが、ピュグマリオンとしてはこの件で、ベル・クラネルがどのような変化をもたらすのかが気になっていた。
「ふむ、僕個人としては、『戦争遊戯』自体は受けたほうがいいと思うね。そのうえで打倒するというのが、後のことを考えれば一番いい。アポロン・ファミリアを潰すのは簡単だが、ベル・クラネルが成長しなければ遠からず似たようなことが起こる。おそらくは、彼自身に成長を促進するスキルがあるんだろう。人形たちは皆そうだから僕としてはそう珍しくもないが、あまり類を見ないものなのだろう?」
「それは……たしかに、そうですね……」
「とにかく、ピュグマリオン・ファミリアは『戦争遊戯』になった際に支援する方向にしようか」
ピュグマリオンがそう決めた翌日。『神の宴』が開かれた。
ベルとヘスティアがアポロンによって難癖をつけられ、『戦争遊戯』を挑まれる。ヘスティアがそれを拒もうとしたとき、アポロンの眷属が慌てた様子でアポロンのもとへと走ってきた。
「アポロン様!! た、大変です!!」
「なんだ、今いいところで――」
「そう言うなアポロン。こちらとしても、無理を通して招待されてやったんだ。相応に歓待してもらおうじゃないか」
聞き慣れない声に、全員がそちらを向く。そこにいたのは、異様な存在だった。
無機質な人間をかたどった象牙の仮面に、白一色のローブ。誰も見たことのない出で立ちだが、声変わり前の少年のような声色から発せられた内容から、それがここに招待された者、すなわち神であると察せられる。
しかし、当のアポロンがその姿にも声にも心当たりがなさそうにしている。これはどういうことか。その疑問は、神一柱につきひとり随伴を許されている眷属の姿で氷解する。
その場にいた美の女神たちさえ一瞬見惚れるほどの美貌、普段フェイスベールで隠しているそれを、今日は口元しか隠していない。『
彼女が侍っているということはつまり。眼の前にいるこの正体不明の神こそ、オラリオの経済を手中に収めた大商会、ピュグマリオン商会を作った主神。
隠神、ピュグマリオン。
「「「ピュ、ピュグマリオンキターーーーーー!!」」」
超レアキャラの登場に神々が色めき立つ。そんな中、しかし幾柱かは怪訝そうな顔を彼に向けていた。
「おい、お前ホンマにピュグマリオンか? それならなんで今になって出てきよった」
疑問を投げかけたのはロキ。それに対して、ピュグマリオンではなくガラテアが答える。それは、神に嘘をつけない下界の存在であることを利用した宣誓でもある。
「こちらにおわすのは、紛れもなくピュグマリオン様です。とはいえ、中身は、ですが」
「中身ィ?」
「本来ここに来るのは憚られるのでね。作り物の体で失礼させてもらうよ」
そう言って、ピュグマリオンはローブから腕を出す。そこにあったのは、誰が見ても木製の人形とわかる、簡素な腕だった。
「僕は工芸を司る者でね。このくらいの身代わりは楽なものさ」
そう言われれば納得できないこともない。仮定、ピュグマリオンの出身である
しかし、ヘファイストスは火山の神であるという性質から、鍛冶や、工芸でも金属を扱う方面が特徴的だ。であれば、特に木工を司る神が別にいても不思議ではない。
それに、被りというのなら同じ出身のディアンケヒトとミアハだって被っている。
「ちょっとちょっと!! ピュグマリオンだかなんだか知らないけどねぇ! 急に出てきて勝手に何を言ってるんだいキミぃ!」
流れを変えられてしまったが、たまったものではないのがヘスティアだ。彼女は『戦争遊戯』を拒否しようとしていたのだから当然だろう。
しかしそこを、ピュグマリオンは適当に諭す。
「まぁまぁ、君のことはアルテミスからもデメテルからも聞いているよ。そのうえで言うが、ここで『戦争遊戯』を拒否すれば、アポロンは君たちを執拗に襲撃するだろう。今回『戦争遊戯』という形をとったのは、むしろアポロンからの温情だぞ?」
「ぐぬっ……」
そう。確かにアポロンは恋多き男神で執念深くそのうえでくっそ気持ち悪いド変態であるが、しかし前提として、
『戦争遊戯』という決闘があるのにも関わらず、抗争という強硬手段が罰せられないのがその証左だ。それぞれ、一般的には神主導か眷属主導かという違いはあるが、抗争は神主導でも普通に起こせる。
アポロンはベルにこだわるなら抗争で強襲を仕掛ける方が早かった。それでも『戦争遊戯』という形をとったのは、動機こそ『その方があとからベルを懐柔しやすい』というものだが、手順を踏んでいるだけマシなのだ。
「というか、今回に関しては君の落ち度もあるだろうヘスティア」
「なっ!」
「遅かれ早かれこうなることはわかっていた。弱小の零細ファミリア主神ならば、さっさと信頼できる神を見つけて傘下に入るなりなんなりして、後ろ盾を見つけるべきだったんだ。君なりにベル・クラネルのために動いていたようだが、借金を負って武器を作ってもらうより余程有意義だと思うが? 君、上でも下でもぐうたらしすぎて、努力の仕方ってものがよく分かってないんじゃないか?」
「ぐぬぬぬぬぬ……」
そう言われれば、ヘスティアとしては言い返しようがない。いや、ヘスティアもヘスティアなりに頑張ってはいたのだ。頑張り方がド下手なだけで。
「実際僕だって、ガラテアたちという特殊な眷属たちを守るためにこうして広くオラリオに影響力を持ったんだ」
「「「(いやそれは逆だろ!!)」」」
ミアハやデメテルなどの一部神、リリルカとナァーザ、ペルセフォネなどの一部眷属の内心が一致した。神々にしてみれば商会はピュグマリオン主導だと思っているので、自身の資金稼ぎの裏にそんな思いがあったのかと考えることもまぁできる。いや、『暗黒期』からいる半数以上の古参の神々は半信半疑だが。
そして、本来の事情を知る傘下派閥からすれば、ド嘘である。ピュグマリオンとしてはヘスティアに『戦争遊戯』を受けさせるために適当言っているだけなのでその辺りはどうでもいい。そして、ヘスティアはと言えば、刺さっていた。
「そうだ! 私は慈悲深いのだ。本来であれば、他派閥の助っ人は受け入れないところだが、そうだな……オラリオの外からならひとりくらいは助っ人を呼んでもいいだろう。探せばLv3くらいはいるんじゃないか?」
調子に乗るアポロン。オラリオの外のLv3はオラリオでのLv7と同じくらい希少なのだが、勿論分かって言っている。
ヘスティアの神友であり彼の姉であるアルテミスのところの団長がLv3であり、ヘスティアに助けを求められれば喜んで力を貸すだろうことは考慮の外だった。
その後、ルール次第ではチャンスがあることに賭け、宣戦布告を受け入れたヘスティアだったが、公平に『戦争遊戯』の条件を決めるために、中立代表としてヘルメスが用意したクジによって決められた『戦争遊戯』のルールは『攻城戦』。攻めるにしろ守るにしろ、団員1人のヘスティア・ファミリアには絶望的な内容だった。
その様子を見て、ベル・クラネルはどんな反応をするかと、ピュグマリオンが釣り餌を垂らしてみることにした。
「……僕ならば、レオンに話をつけて助っ人として呼び込めるが?」
その言葉に、今度はアポロンが凍りつく。『学区』に勤めるLv7、『ナイト・オブ・ナイト』ことレオン・ヴァーデンベルク。確かにLv2に助っ人がひとりの『攻城戦』では、もはや何が起ころうと負けの目はないだろう。
しかし
「……すみません、ピュグマリオン様。それは、断らせてください」
しかし、それを拒絶したのは、当のヘスティア・ファミリア団長、ベル・クラネルだった。
「これは、僕が招いた不始末です。どんな結果になろうと、僕自身がかたをつけなければなりません」
物陰で美の女神が崩れ落ちた。シルが出ている。
「……そうか。ならば、君の修行相手をこちらでマッチングしよう。僕もそれなりに顔が広いし、広範囲に恩を売っている。受けてくれる者も多いだろう……まぁ、君ならば僕の声掛けがなくても、修行相手は集まってくるんだろうが……アポロンも、それなら構わないね?」
「あ、あぁ……レオンが来るよりはマシだ……ハハッ、『戦争遊戯』は10日後だ。いくらベルきゅんであろうと、10日でどうにかするのは難しかろう! 楽しみに待っているぞ」
アポロンがその場から去り、『神の宴』は終わりを告げる。その後、ヘスティアとベルはピュグマリオンに問いかけた。
「ピュグマリオン。何故ボクたちに手助けを? 今回のことは、君たちには関係ないだろう?」
「なに、可愛い傘下の眷属から頼まれてね……3日後の朝には迎えに行く。『戦争遊戯』までダンジョンで修行だ。準備をしておくといい」
その後、修行開始までの間に、ヘファイストスを説得したヴェルフ・クロッゾがヘスティア・ファミリアに改宗。1年間の期限付きで、主神に、あるいは主神と盟主に許可を得たヤマト・命とリリルカが同じくヘスティア・ファミリアに改宗した。また、ヘルメスとシルから助力を頼まれたリュー・リオンが、都市外からの助っ人として参加することとなったのだった。
「んで? うちに頼みっちゅうのは、ドチビんとこの子の修行相手か? ……ええわ。行きたい言うとんのがおるし、付きおうたるわ。その代わり、アイズたんに傷負わせて帰したら送還させたるからな」
「……確かに、あなたの口車に乗ったという体で、あの子に堂々試練を与えるチャンスかもね……いいわ、乗ってあげる」
「あぁ、俺にも異存はない。『
「んー……まぁ、お前らのとこの『人魚の生き血』には世話になってるからのぅ……どうせどいつもこいつも腑抜けてしもうたし、ひとりくらい貸してやってもよいか」
そして3日後。ベル・クラネルはガラテアによって修行場所へと連行された。しかし、連行された先で、盛大に顔を引き攣らせることになる。
なにせ、彼が担がれて連れて行かれた場所は深層の入り口37階層。『
本来であれば階層主ウダイオスと、その配下であるスパルトイが現れるそこは、今は
そこに集ったのは、ベル・クラネルの修行相手となる面々。
「では、
ピュグマリオン・ファミリア団長、Lv7『隠神の白妃』ガラテア。
「ん。まぁ、頑張れ」
ピュグマリオン・ファミリア幹部、Lv6『
「……ベル、行くよ」
ロキ・ファミリア、Lv6『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。
「テメェが弱者じゃねえって証明してみせろ。期待してんぜ、ベル」
ロキ・ファミリア幹部、Lv6『
「来い、ベル・クラネル。あの方の期待に応えてみせろ」
フレイヤ・ファミリア団長、Lv7『
「ふん、あの方とパラケルスス様の命だ。殺す気で鍛える、死ぬ気でやれ、ベル・クラネル」
フレイヤ・ファミリア幹部、Lv6『
「俺に教えられるのは技だけだ。だが、この数億年の研鑽、できる限り君に叩き込もう」
タケミカヅチ・ファミリア主神、『武神』タケミカヅチ。
「お前がティオナの言っていた……そう、なら、試させてもらう」
カーリー・ファミリア副団長、Lv6、バーチェ・カリフ。
ひとりでも国を滅ぼせる面子の中、ベル・クラネルは五体満足で『戦争遊戯』を迎えることができるのだろうか。
いっけなーい! ベルくんとゴライアス(黒)の戦い削っちゃった! 埋め合わせしなきゃ!
前回のあとがきでリリーフィアの魔法の隠し要素を『ギミック』と表現してしまったために、コンボとかそういう方向の考察が多くなってしまったことに謝罪申し上げます。
作者の想定は以下の通りです。
『クロックワーク・オレンジ』
・効果内容が『ヘル・フィネガス』、つまりフィアナの魔眼と同じ。
・『機械仕掛けのオレンジ』は暴力的な狂気に蝕まれた少年が主人公であり、小説版のラストではすべてが若気の至りであり、暴力的な生活の果てに倦怠感を覚えている描写がある。
・一番リリルカに縁深い魔法であるため、詠唱式はリリルカの魔法の詠唱式の捩り。
『ヒドゥンワーク・レモン』
・元ネタは梶井基次郎の『檸檬』
・作中主人公が爆弾に見立てて丸善に置いてきたレモンと、シンデレラが落としたガラスの靴をモチーフにした、実質キラークイーン魔法。付与したものそのものが爆弾になるわけではなく、付与した箇所が爆発する。
『ファイヤワークス・パイナップル』
・元ネタはパイナップルと呼ばれたマークⅡ手榴弾
・結界魔法だが、結界の破片を爆破で飛ばすことで傷つける手榴弾的な魔法
・詠唱式は手榴弾の破片によって脚を負傷する描写と、グリム版シンデレラにて、義姉たちがガラスの靴を履くために足を削ぎサイズを合わせる描写から
・オレンジ、レモン、パイナップルの果汁を混ぜたノンアルコールカクテルの名称が『シンデレラ』
ってことで正解出てましたね。だいぶ最初の方で。すげー。