人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
時間は過ぎて、『
リリルカたちはベルの帰還に先んじて、『戦争遊戯』の会場へと訪れていた。
「……ベルのやつ、遅ぇな……まさか、道中で襲われてるんじゃ……」
「いえ、それはないと思います。送迎はピュグマリオン・ファミリアの配達員が行うはずですから、万が一にも襲われることはありません。むしろ、修行相手の方々の興が乗って遅くなっていると考えた方が自然です」
「うぅ……ベルくん……」
リリルカが心配するヴェルフにそう告げるが、これが的を射ていた。
鍛えれば鍛えるほど、事前にヘスティアへ使用許可を取っていた『
それに耐えられるようにタケミカヅチも本腰を入れて技術を叩き込み始め、最初から加減する気がないヘディンとパラケルススも含め、手足が捥げるたび、意識を失うたび、あるいは重疲労になるだけでも『人魚の生き血』で回復させられ、
そしてその最後に興が乗ってしまったタケミカヅチが神威をお漏らししたことにより
まぁこちらは我先にと飛び出したオッタルとアイズ、ベート、バーチェによりウダイオスが釘付けにされ、ウダイオスの使う杭はすべてパラケルススの魔法により先んじて破壊され、余分なスパルトイはヘディンの魔法で殲滅される。そして、ガラテアに守られたタケミカヅチの監修の中、ひたすらにスパルトイ相手の組み手をさせられるという地獄の修行をベルは送らされていた。
そうして肉体的には万全の状態で、精神的にはこれ以上なく疲労した状態で送り出されたベルは、ヴェルフの発言から数分後、『戦争遊戯』の舞台へ送り届けられた。
ピュグマリオン・ファミリア配達部門の
「ベ、ベルくぅーーーーん!!」
「神様……? ベ、ベル・クラネル、ただいま帰還しました……」
「大丈夫ですかベル様!? こちら、精神的な疲労がポンと飛ぶお薬です!」
「それ本当に合法なやつかなリリ!?」
正確に言えば精神的な疲労を後回しにする薬であるため、何度も服用しなければ問題はない。
「神様、最後のステイタス更新をお願いします。修行先でタケミカヅチ様が貧血になるくらい更新しましたが、最後の更新は神様にと図らっていただきました」
「いやクラネルさん……『更新薬』はご禁制の薬なのだから、そう堂々と使ったようなことを仄めかしては……」
「大丈夫ですよ謎のナンタラ仮面様。『更新薬』は商取引での取り扱いを禁止されているからご禁制なだけで、身内で作って身内に使うだけなら特段禁止されていませんから」
「えぇ……」
そんな会話を横目に、可愛い第一眷属の成長を見ようとステイタス更新を始めたヘスティアは目眩に襲われた。
知らんうちにLv3になってるし*4。その上で何故かもう全基本アビリティSSオーバー。というか、力以外はSSSになってるし。ランクアップはできないけどLv3中堅のアポロン・ファミリア団長であるヒュアキントスとか敵じゃないレベルだし。
「では、最後に今回の作戦をお話しします」
全員の準備が整ったところで、リリルカが話し始める。広げたのは、今回の舞台である『攻城戦』の地図だ。
「リリが城壁を破壊するので、ベル様はあちらの団長を直接潰しに行ってください。他のお三方は一般団員の足止めをお願いします」
「いや、城壁の破壊つったって……」
一応、ヴェルフは魔剣を作ってきたわけだし、ベルも《
「そろそろリリにもストレス解消させてください」
『戦争遊戯』開始2分。城壁が半壊した。
理由は簡単。リリルカがピュグマリオン・ファミリアに持たされた秘密兵器その①、『
本来は弓や魔法の距離で、装填も詠唱もすることなく、数百発の榴弾が城壁へ撃ち込まれ、壁の半ばまでめり込んだところで爆発していく。
ちなみにこんなものをどこに持ち込んでいたかと言われれば、フェルズからの依頼を達成する代わりにワシリーサと共同で作らせた、空間を広げて容量を大幅にアップさせたバックパックである。なお、重量は軽減しないため現状使えるものは少ないし、使えるサポーターはさらに少ない。
城壁正面が破壊し尽くされ、ベルが自由に入れるようになったら続いて、認識阻害の魔導具を使って姿を隠し、秘密兵器その②、飛行ゴーレムを取り出す。
人を乗せることができるほどの力もなく、ただ飛ぶだけの遠隔操作ゴーレムだが、このゴーレムには『
すなわちこれは、この世界初の『ステルス爆撃機』なのである。
軽量なミスリルを使用した魔剣とはいえそれほど多くの魔剣を装填できるわけでもなく、30発ほど撃ち込んでしまえば補給の必要があるが、上空からの爆撃などという概念が――
そうして、持ってきた魔剣をあらかた撃ち尽くしたリリルカは、最後の秘密兵器を使用する。それは僅か30分の全力駆動に深層級モンスター100体前後分の魔石を、魔石のエネルギーを貯蓄する魔晶石へとチャージしないといけない劣悪な燃費を誇る兵器。
リリルカが取り出したのは無骨な立方体をした、各辺30
そうしてリリルカの全身を覆ったのは金属鎧。ただし、それは内部のリリルカの動きをサポートし、数多の戦闘のための機能を搭載したピュグマリオン謹製の戦闘用外骨格型人形である。
背中からの魔力放射によって、Lv5に相当するだろう速度で低空を滑走し始め、わずかに残された城壁へと突撃するリリルカを見て、ガトリング砲と爆撃機を見た時点で右肩上がりだった神々のボルテージは、最高潮へと達した。
『『『鉄男のパワードスーツだコレーーーー!!!』』』*5
『あ、いやでもジェットは背中から出てるし別モンか!?』
『ヤベェー!! あれ欲しい!! 欲しすぎる!!!』
『ピュグマリオンのとこの職人あんなの作れんのかよ!!?』
『ガトリング砲と爆撃機もヤベェけどこれはマジでヤバい!! 語彙なくなるって!!』
「事前に聞かされてたから答えるが、あれはどれも受注生産。ガトリング砲は20億ヴァリスで爆撃ドローンが30億ヴァリス、パワードスーツが50億ヴァリスで、それぞれ弾薬や駆動用の魔石は別売りだそうだ」
『『『高ぇーーーー!! けど納得!!!』』』
『いや、アレが手に入るなら安い、のか……?』
『少なくともパワードスーツの浪漫になら50億かける価値がある!! うちじゃ払えんが!!』
『レンタルは!? レンタルはやってないのか!?』
阿鼻叫喚な神々の中、あんぐりと口を開けて画面を見るアポロン。その目線の先のアイアン・リリルカは、アポロン・ファミリアの団員を蹴散らしながら、巨大な戦鎚を振り回してさらに城壁を粉微塵にぶち壊している。
かと思えば、胸部のコアから魔力を装填し、目からビームを放ち城壁を焼き尽くす。
『むっ、あれはまさかブラフマーストラか!?』*6
『知っているんですか解説のガネーシャ様!?』
『あぁ、あれは……ガネーシャだ!!』*7
『うん知ってたけどちょっと黙っててください!!』
一喝されてショボンとするガネーシャ。ここで、当然ではあるがアポロンからの物言いが入る。
「ま、待て待て待て待て! あ、あんなのありか!?」
「ありだろう。見てわかるように、ガトリング砲や爆撃機はともかく、あのパワードスーツに関してはサポーターくんの体格に合わせて作られた品であり、サポーターくんにしか使えない正真正銘彼女の武装だ。それに安心しなよ、あれはあくまで周りの足止めと城壁の破壊しかしない。キミのところのヒュアキントスくんを倒すのは……あくまでベルくんの役目だ」
そう、ヘスティアが真剣な眼差しで見つめる先には、ちょうどヒュアキントスと対峙したベルの姿があった。
ヒュアキントスは恐怖すると同時に憤怒していた。
前者は目の前の冒険者の気味の悪さに。今、目の前にいるベル・クラネルという冒険者は、つい10日ほど前までその体捌きも何もかも、自分よりはるかに劣るものだった。それこそ、レベル差を加味しても蹂躙できるほどの。
しかし眼前の冒険者はなんだ? 構えに隙は無く、漂ってくる威圧感は強者のもの。決して自分に圧倒されていた相手のものではない。
そして、憤怒に関してはその目。自身に対して、一切の脅威を感じていないとでもいうかのような、据わった目つき。
「ぐぅっ……舐めるなぁ!!」
ヒュアキントスはベルに切りかかる。それほど修行してきたとして、しかしレベル差を覆せるほどではない。そう考えていた。
しかし、ベルはヒュアキントスの踏み込みに対して容易に合わせ、一瞬で懐に潜り込んでその首筋にナイフを這わす。
「これであなたは一度死にました」
「なっ……ぐっ……」
「今のは酒場での分です。あとから、舐めていて本気を出せなかったなどと言われては困りますから、今のでわかったのなら、真剣にかかってきてください。そのうえで、僕はあなたを打倒します」
格下であるはずのベルにそう言われ、頭が茹で上がるかのように熱くなるヒュアキントス。太陽のフランベルジュを構え、再びベルへと切りかかる。
しかし、そのすべてがナイフによって弾かれ、受け流される。鍔迫り合いに持ち込んで力任せに叩き切ろうとしてみれば、逆に押されて弾き飛ばされる。ステイタスが格下な相手に何故!? と驚愕するヒュアキントス。だが当然な話だ。あらゆるステイタスにおいて、現在のベルはヒュアキントスを既に追い抜いているのだから。
「な、なんだ!? 何をした!? どんなイカサマを使った、ベル・クラネル!!」
「……『剣姫』と『
ベルの呟きの内容がなんなのか、わからず眉を顰めるヒュアキントス。しかし、ベルの呟きはさらに続く。
「『
「な、にを……」
「この10日間、僕に修行をつけた人たちだ」
その発言に、ヒュアキントスだけではなく神々もまた驚いた。なにせ、ピュグマリオン・ファミリアだけではない。オラリオの二大派閥の最高級戦力がこぞってベル・クラネルの支援をしたということだ。さらには単純な技量ならば第一級冒険者さえ上回る《武神》と、『闘国』のアマゾネス。
ヒュアキントスには理解できない。何故この男にそれほどの者たちが集まるのか。何故敬愛する主神はこの男に寵愛を向けたのか。何故自分は敗北しそうになっているのか。
ベルは思い出す。『武神』の教えを。
『いいかベル。まずは君に基本的な体捌きを教える……しかしある意味では、これが秘奥であり究極だ。心して覚えろ』
ベルは思い出す。『狼主』の教えを。
『体術は戦いの中核だ。武器を弾かれたから戦えませんじゃ話にならねぇ』
ベルは思い出す。『
『這いつくばったままでも聞け
ベルは思い出――
『あ――ごめん、脚斬っちゃった』
『来いベル・クラネル。何度でも。何度でも潰してやる。這い上がってこい』
『(
『ん。次、12本斉射行くよ』
『死んでいませんね。なら次です。疲労も傷も消えたでしょう。構えなさい』
精神的に血を吐いた。
「半分以上は教えるっていうか単に叩きのめすだけでしたけどねぇっ!!」
「ガアアアアアアアッ!!!」
ヒュアキントスの腹部を蹴りつけ、壁面まで吹き飛ばしたベルは、それでも油断なくヒュアキントスのほうを警戒する。
すると案の定、ヒュアキントスの方から詠唱が聞こえてきた。魔法だ。そして、ヒュアキントスの持つ魔法の情報は事前にリリルカから教わっている。真正面からそれを潰すために、ベルも《英雄願望》のチャージを始める。
ベルがここまで真正面から、すべてを叩き潰すような戦い方をしているのには理由があった。なんてことはない、彼ははじめから怒っていたのだ。
「【放つ火輪の一投! 来たれ、西方の風!】《アロ・ゼフュロス》!!」
不正を疑われたことでも、正面からねじ伏せられたことでも、理不尽な『戦争遊戯』を仕掛けられたことでも、その結果深層でバカみたいな修行して死にかけたことでもない。
ただ、己の
「《ファイアボルト》ォ!!!」
ベルの放った爆炎はヒュアキントスの火輪を飲み込み、僅かに上方へ軌道をズラされて飛んでいく。
ヒュアキントスの頭がある位置よりやや右上をギリギリ掠めた火矢はそのまま部屋の壁と天井を破壊し、城の上空まで昇ってようやく四散する。
ヒュアキントスはそのまま戦意を失ったかのように項垂れるが、ベルが近づいた瞬間、懐のナイフで襲いかかる。
しかし、ベルはそれを容易くいなし、逆に顎を殴って気絶させた。
こうして、ベル・クラネルが、そしてピュグマリオン・ファミリアがさらなる注目を得ることとなる『戦争遊戯』は幕を閉じた。
その後、アポロンと彼の派閥になにがおこったかは、皆さんの知る通りである。