人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
歓楽街を進む足音。それは、イシュタル・ファミリアへの攻勢をしかけるフレイヤ・ファミリアの足音だ。襲い掛かってくる『
常日頃から、イシュタルという神はフレイヤを酷く敵視していた。それは劣等感であり、嫉妬であり、元々イシュタルというのはそういう神ではあったのだが、一方でフレイヤの方はイシュタルを特段意識はしていなかった。歯牙にもかけていなかったと言っていい。
最近はなにやら企んで、水面下でいろいろとやっているようだが、オッタルを倒すことはできまい。そんな風に軽く考えてさえいた。
しかし、イシュタルはフレイヤの逆鱗に触れた。
嫌がらせだろう。イシュタルはフレイヤからベル・クラネルを寝取ろうとしてきやがったのである。寝てから言え色ボケ女神。
そういうわけで、もしもベルが魅了などされていようものなら目を覚まさせるためにイシュタルを送還。そうでなくともケジメのために送還させるつもりで、イシュタル・ファミリアを殲滅しながら侵攻である。
さて、この侵攻で最も苛立っているのは誰だろうか、という話をすれば、それはこの侵攻に限らず、現在このオラリオで最上級に苛立っている男がいる。
フレイヤ・ファミリア副団長、Lv6『
凶暴性においてフレイヤ・ファミリアではトップ。普段からトラブルが絶えない男ではあったが、ここ数年は特に様子がおかしい。
理由はいろいろある。自分をあっという間に追い抜いて行ったピュグマリオン・ファミリアの『
そして、なにより苛つくのは『
足手まといの存在を傍に置いたまま自分に並んだ男。自分が選ばなかった、選べなかった選択をしたにも関わらず、自分を超える成長速度で駆け上ってきた者。
「クソがっ……」
手に持った槍を握りしめ、血が滴るのも気にせずに振るう。その一撃はただの殴打であり、狙うのはイシュタル・ファミリアの壊滅ではあるが、それはイシュタルの送還による瓦解であり、できる限り死者は出さない方針であるが故だ。
逆に言えば、その程度の加減が容易にできるほどに、歯応えがない。
「クソがぁっ」
苛立ちが募る。この程度の戦力で、自分たちを、あの方をどうにかしようとしていたのか。
舐められている。そう考えるだけで、怒りで血反吐を吐きそうだった。
「クソがぁッッッ!!」
苛立ち混じりに建物を攻撃し、計3棟を倒壊させる。
アレン・フローメルは、苛立っている。
「駄猫め……」
そう吐き捨てるように侮蔑するのは、『
フレイヤ・ファミリア副団長でありながら、フレイヤを第一とせず、ただ強さを求める男。それは数年前にこのファミリアを出ていった、アレンの妹が関係しているのだろう。
確かにアレンと『狼主』とは鏡合わせのような存在だと、ヘディンも感じている。なんとも皮肉なものだろう、自分が切り捨てたものを見せ続けられているというのは。
だからヘディンも、それがフレイヤの迷惑にならない限りは咎めないことにしている。それと同時に、女神を第一に思わないからこそ教えないでいるのだ。お前は、アーニャがいなくなる前よりも弱くなったと。
まったくもって腑抜けてしまったアレンに対し、ヘディンは副団長を譲るのではなかったと溜息をつくのだった。
一方で、ヘディンが考えているのはベル・クラネルのことである。崇拝する主神フレイヤと、敬愛する王族、パラケルススからの命で修行をつけてやった駆け出しの冒険者であり、フレイヤがここ最近執着している相手でもある。
遠くから見ている間は不満だったが、実際に触れ合ってみればなるほどと思う。要領が悪く甘ったれたところは確かにあるが、それでもとにかく諦めず、目的のために死に物狂いになって足を進める姿はヘディンの眼鏡にかなうものだった。
『責務に苦しまぬ者に王を名乗る資格はない』『無能こそあがいて生き急ぐべき』というのが、ヘディンの掲げる持論である。であるからこそ、ベル・クラネルという人間の生き方にそれを見た。
「(確かに、アレがフレイヤ・ファミリアに入ってくるというのは悪くない)」
それは、ヘディンのことを知る人間が聞けば驚愕するような、彼にとって最上級の賛美だった。
ガリバー兄弟の長兄、アルフリッグは思い悩んでいた。
彼は、いや、彼を含む兄弟全員が、フレイヤに対して犯してしまった大罪に苦しんでいる。
はるか昔、虐げられていた彼らを解放するために、フレイヤは彼らの元主と言える相手に、自身の身体を捧げたのだ。女神を穢してしまった。そのことへの罪悪感は、今もアルフリッグたちを縛り付けている。
なお、フレイヤはこのことに関してはマジでなんも気にしていない。天界で何人と寝てると思ってんだ。人間の尺度で神を測るな。妊娠もしないし、マーモットの金玉いじってたら出しちゃったくらいの感覚である。
そしてそれを、ガリバー兄弟も理解している。だから、次男以下の3人は普段、アルフリッグよりもそれに悩むことは少ない。
アルフリッグが悩んでいる理由は、フレイヤの望む姿こそが、本当はあの
神としての価値観があるからこそ、フレイヤは傷ついていない。しかし、彼女がなりたがっている町娘としての価値観ならどうだ? 好いているどころか嫌悪しているような相手に抱かれて、傷つかない町娘がいるか?
まぁ、ぶっちゃけてしまえばいくら本性が町娘っぽいからと言って、価値観は早々変わるものじゃないし、あくまでも町娘っぽい神様であるため、それでも傷ついたりはしないのだが、流石にそこまではアルフリッグも理解できていなかった。
さらにアルフリッグの価値観を揺るがしていたのが、彼の飲み友達である同族の少女、ピュグマリオン・ファミリアの副団長、メリーであった。
波長があったからか、メリーがLv3,アルフリッグがLv4の頃から交流があったふたりであるが、アルフリッグはメリーの普段の狂信者ぶりに対する自身の主神の扱いにひどく疑問があった。
同じ狂信者ファミリアとされているフレイヤ・ファミリアとピュグマリオン・ファミリアだが、その主神へのスタンスには違いがある。
どちらも主神の言うことが絶対で心酔している者がほとんどであるファミリアなのだが、ピュグマリオン・ファミリアは主神の扱いがこう、雑なのである。普通に愚痴を言うしやたらと距離が近い。
その点に疑問を感じて、本人に酒の勢いで聞いてみたことがある。
「なぁメリー。君たちは僕たちと同じく主神に対して崇拝に近い感情を抱いていると思っているんだが……どうしてそうも粗雑に扱えるんだ?」
「あ〜……それは単純に感情の種類の違いなのです。そちらが主神に向ける感情は、王に臣下が抱く崇拝。完璧なものを求める感情なのです。私メリーさんたちにとって、
「……なるほど、僕たちのファミリアはフレイヤ様を頂点とした国で、君たちのファミリアは主神を家長とした家族。だからこそ距離が近いと……」
ファミリアの雰囲気はロキ・ファミリアに近く、団員の雰囲気が自分たちに近いのだろう。あるいは、フレイヤが求めているのもこういう扱いなのかもしれない。
「(だがそれでいいのか? 自らフレイヤ様を零落させるような真似……いや、傷つけたくないというのも僕のエゴなのか……? 自分の罪を見たくないから……? 不幸を与えないことと幸福を与えること、どちらが本当にフレイヤ様のためなんだ……?)」
自分たちはフレイヤの絶対的な味方となる。それを胸に生きてきた。だからこそ彼は思い悩む。そして、そんな長兄を見ているからこそ、弟たちもまた励む。
そもそも、ひとりだけLv6に上がった事自体許しがたい。今までそんな抜け駆けなかったのに、一体どこで……まぁ、彼らのそんな感情も理解できる。むしろ、その蟠りで連携が乱れていないのが彼らのすごいところとさえ言えるだろう。
この日、イシュタル・ファミリアという大派閥がひとつ消えた。フレイヤとその眷属たちの胸に、何ひとつとして残さずに。
イシュタルナレ死です。
特に盛り上がるところもないので、フレイヤ・ファミリアで特に原作から変更点ある人たちの掘り下げをしました。
オッタルも若干Lv8への意欲が高くなってますが、そのくらいですね。
ヘグニは殆ど変わってないです。