人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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コピペミスったので一旦消しての再投稿です。
次の展開悩んでるのでとりあえず繋ぎ。


ピュグマリオンの1日

 ピュグマリオン・キプロスの朝はない。

 時間という概念はあれど時刻という概念が最近ない。とりあえず、2ヶ月ぶりほどの睡眠をとったことは覚えていた。

 

「おはようございます、主人(マスター)。食事をお摂りください」

 

「あぁ……あーと……手癖的に考えると3年前辺りに作った子だよな」

 

「3年2ヶ月前に稼働開始いたしました。まず食事をお摂りください」

 

「そうか、ありがとう。どのくらい寝ていた? それから、僕が寝ている間に誰か来たか?」

 

「まずは食事をお摂りください」

 

「いや寝てた時間……」

 

「食事をお摂りください」

 

「…………」

 

 汎用型リビングドールによって運ばれてきた食事を摂る。メニューはミルクスープとエッグサラダ、カットフルーツ。胃に優しいながらに栄養を満遍なく取れるメニューとなっている。

 スプーンでエッグサラダをすくって口へ運ぶ。口の水分が持っていかれるのを、ミルクスープで押し流した。

 

「睡眠時間は4時間19分、睡眠中の来客はいませんでした」

 

「いたことないよね。大丈夫?」

 

「いなかったことにされておりますので」

 

「大丈夫? マジで」

 

「つつがなく」

 

「回ってるかどうかじゃなくて消されたかもしれない相手の心配なんだけど」

 

 ピュグマリオンにだって心はあった。

 

「にしても4時間寝たか……汎用型1体分か」

 

「我々としては3体分ほど睡眠をとってほしいものですが」

 

 監視役のリビングドールは口をとがらせる。汎用型の彼女たちは、だからと言って人間味がないわけでも個性がないわけでもない。よく似た姉妹程度に似通っていて、よく似た姉妹程度に異なっている。

 ピュグマリオンがフルーツに手を付けたとき、工房のドアが開いた。そう、この男、当たり前のように工房内の床で寝ていたのである。

 話を戻して、工房へ入ってきて早々ピュグマリオンに後ろから抱き着いたのは、対『異端児』渉外部門長、唯一の男性型リビングドール、イブ≒アダムだ。

 

主人(パパ)おはよー」

 

「イブ≒アダム様。主人(マスター)はまだ食事中で……」

 

「いーの。主人(パパ)怒んないし」

 

 ピュグマリオンの背中に頬ずりしながら、汎用型の小言を受け流すイブ≒アダム。ちなみに、これがガラテアからの小言なら速攻で言うことを聞く。

 

「で、用事はなんだ? イブ≒アダム。あるんだろう?」

 

「ちぇ〜、ノリが雑魚……まず歓楽街の復興だけど8割方終わったよ。大体の店はもう開店してる。ピノッキオおねーさんもよろしく言っといてって」

 

「ピノッキオに、たまには顔を見せろと言っておいてくれ」

 

 先日起こった、ヘスティア・ファミリアとイシュタル・ファミリアの抗争、及びフレイヤ・ファミリアによる歓楽街への侵攻。そして、女神イシュタルの送還によって、歓楽街は大きなダメージを受け、機能不全に陥っていた。

 荒くれ者の娯楽など酒か賭博か女。歓楽街がなくなるのは、実際問題オラリオのストレスマネジメントに大きな支障を及ぼす。

 早急な復興が必要とのことで、ギルドはピュグマリオン・ファミリアに頼ってきた。確かに、今回の件は戦闘系ではなく、商業系のトップであるピュグマリオン・ファミリアに話が来るのは自然だろう。

 ウラノスではなくギルドヘ貸しを作るというのは悪い話ではないため、ピュグマリオン・ファミリアは歓楽街の復興、その後の取り仕切りを務めることとなった。また、建造物の復旧も、ゴブニュ・ファミリアと手分けして行っている。

 

「『ヘレティックス』の客層はオラリオ男性の5%と女性がちらほらってとこかな。男神のお客さんは結構来るよ」

 

「神は下界の人間よりモンスターに対する忌避感は弱いし、僕らの知らないなんらかの文化がある。当然の話だ」

 

「そんなもんなんだ……あ、そうそう。ヘスティア・ファミリアが『異端児』と接触したよ」

 

 イブ≒アダムの報告を聞いて、ピュグマリオンは面白そうに口元を歪める。どうやらベル・クラネルが冒険者に追われていた竜女(ヴィーヴル)の『異端児』を保護し、本拠地へと連れ帰ったとリリルカから報告があったらしい。

 

「どうする?」

 

「放置だ。僕たちが干渉する義務を持つのはあくまで従業員の『異端児』だけ。他の『異端児』のことまでは知らないよ。それに……ベル・クラネルが関わったなら、そう遠くないうちになにかが起こる。『異端児』の扱いが大きく変わるなにかが。それが、融和になるか排斥になるかは、まだわからないけどね……報告は以上かな?」

 

「うん、いじょー」

 

 イブ≒アダムが部屋を出ていくと、汎用型もピュグマリオンが食べ終えた食器類を持って、一礼して退室する。その後入れ替わるように、別の汎用型が監視役として部屋にやってきた。

 

「……君は結構古参だね。6年前くらいに作った子かな?」

 

「はい。6年4ヶ月前に稼働開始しました。この後のご予定は?」

 

「人形作りだね」

 

 短く言葉を交わして、ピュグマリオンは再び鑿と槌を握る。間もなく、また人が入ってきた。

 

主人(マスター)さんおはよーぴょん!」

 

「あぁ、芻靈。おはよう」

 

 槌を振るいながらチェレンの挨拶に応えるピュグマリオン。チェレンはピュグマリオンの隣に正座で座って、時折ピュグマリオンの顔を覗き込む。

 

「なにか報告か?」

 

「ううん、ないぴょん」

 

「そうか」

 

 ピュグマリオンも特にそれを咎めることなく、無言の時間が続く。やがて、また別のリビングドールが報告にやってきた。

 

「失礼いたします、主人(マスター)殿。クララ・ピルリパートであります。迷宮部門より報告であります」

 

「入っていいよ」

 

「失礼いたします」

 

 部屋に入ってきたのは、迷宮部門長であるクララ。クララは軍人然と敬礼をすると、立った状態で姿勢を正し、報告を始める。

 

「Lv5へのランクアップ効果もあり、深層での活動は順調であります。また、タロスはやはり、本来のレベル+1、地形や敵との相性によって、モンスター戦なら+2程度の実力があると考えてよいでありますな。元々の身体スペックが異なるのでしょう。Lv5のステイタスで、ウダイオス相手に1対1で苦戦せずに倒しております」

 

「うーん、やっぱりデカいと強いか……ということは、周回は順調ってことかな?」

 

「はい。先日のラキア出兵の際に世間への周知が終わりましたから、今後はアンフィス・バエナの相手もさせることを考えています」

 

 タロスは10M(メドル)の体躯を持つ巨人型のリビングドールだ。先日、ラキア王国がオラリオに向けて出兵した際に最前線で起用し、ラキア、オラリオ双方に大きな衝撃を与えた。

 勿論彼女に関して、主に遠慮はしても萎縮はしないロキやギルドから追及があったものの「冒険者ではないため登録していなかった」と返答すればギルドは黙り、ロキもあまり騒がず帰っていった。

 その他冒険者からも民間人からもそれほど悪い評判は出ていない。やはり大きさこそ巨大であるが、姿かたちは人間そのものであったことは大きいだろう。民間人はそもそも直接姿を見ていないのもあるが。

 むしろ、巨人(ギガース)に嫌な思い出のある神々の方が一部ビビっていたまである。

 

「報告は以上であります!」

 

「そうか。おいで」

 

 ピュグマリオンが背を向けたまま手招きすると、クララはティアラと軍帽が融合したような帽子を外して、いそいそとチェレンとは反対側にやってきて座る。その頭を、ピュグマリオンはわしわしと撫でた。

 

「で、では、小官はこれで失礼いたします!」

 

「んー」

 

 やや赤くなったクララが部屋を出ていく。すると、続いて入ってきたのは開発部門長であるワシリーサと、情報部門長であるコッペリアであった。ふたりは入ってくると、手に持った資料を見ながら報告を始める。

 

「報告いたしますね。ワタシからの報告は、先日のラキア国との戦争における戦後処理の報告です。敵30000のうち死者は約1700人。負傷者は20000人に上ると推定されます。一方、オラリオ側の死傷者は0です。これに関しまして、ラキア国からは賠償金の他、通常の3倍の価格でオラリオからポーションを買い取り、負傷者の治療に充てることが確約されたようです」

 

「あそこの恩恵持ちは軍人ばかりで、薬師は少ないのだったか?」

 

「ですねぇ! また、5年間の相互不可侵条約を締結しました。あちらの主神は不満そうでしたが、気持ちばかりに『人間以外への恩恵の供与』の情報をお渡ししたところ、上機嫌でお帰りになりましたよ」

 

「続けてコッペリアから主人(おにいさま)に報告よ。神アレスは帰国後、軍馬に恩恵を刻んで騎馬隊の強化を図ったけど、恩恵を刻んだ後の軍馬の制御が難航しているみたいね。軍馬を制御するために騎馬隊の兵士をランクアップさせることを優先することにしたみたいよ。今は国の付近に湧いているモンスターや盗賊の討伐で経験値を得られないか四苦八苦しているみたい」

 

 というか、理性の少なく暴走するであろう生き物に恩恵を刻むのはあまりにもリスクが高すぎる。刻んだ直後に送還されてもおかしくないのだ。などというと、アレスだけではなく赤子に恩恵刻んだアホ(アフロディーテ)にまで波及するので言及は控える。

 

「今回の戦争で、我々は賠償金3億のうち8000万ヴァリスを受け取っています」

 

「多いのか少ないのかよくわからん額だな……そうだ、コッペリア。エニュオの様子はどうだ?」

 

「いつも通りだね。こっちに分身(エイン)がバレたと聞いた時は荒れてたけど、今は元気に神ロキとか神ウラノスとかを見下してるよ」

 

「……下剤までならいいぞ」

 

「はーい! ばれないように食中毒菌にするね!」

 

 コッペリアの言葉の裏に、自分(ピュグマリオン)も見下されているんだろうなと察せるコッペリアの怒りが見えたので、ピュグマリオンは咄嗟に死なない程度の毒を盛ることを許す。食中毒菌はワンチャン死ぬのはまぁご愛敬だ。ディアンケヒト・ファミリアに間に合えば生き残れるだろう。

 

「さて、ほらチェレン。仕事に行きなさい」

 

「あぁん」

 

「あぁんじゃありません。配達物はいくらでもありますからね」

 

 ワシリーサに引きずられていくチェレン。このあたりの幹部級は、年功序列がしっかりと身についている。残されたコッペリアは前肢で一度力強くピュグマリオンを抱きしめたあと、ふたりの後を追って工房を出ていった。

 

「ん、主人(おとーさん)

 

「なんだい、スー」

 

 続いて入ってきたのは、ハイエルフ型核弾頭、パラケルススである。この娘は*1真顔で爆弾をぶっこんでくるので、さしものピュグマリオンと言えどやや緊張は否めない。

 

「ん。レフィーヤに私の魔法を教えてきた」

 

「レフィーヤ………………………………………………………………あぁ、ロキ・ファミリアの『千の妖精(サウザンド・エルフ)』か。大丈夫だったのか?」

 

「ん。5分で気絶」

 

「5分保ったのか。そりゃ流石だな」

 

 忘れてはいけない。確かにパラケルススの魔法《タブラ・スマラグディナ》は破格の力を持った魔法だ。しかしその代償として、魔本の発動時には常に大量の精神力を消費する。それこそ、『魔力バカ』と呼ばれるレフィーヤであっても、5分もあれば枯渇するほどの精神力が。

 それを支えているのはひとえに、Lv6で限界突破した魔力と超高位の《精癒》を持ち、さらに魔力を超域補正するスキルと常に周囲の魔素を吸収することで精神力を回復するスキルがあるからなのである。

 仮に今のペースでレフィーヤが成長したとして、《タブラ・スマラグディナ》を発動させるための《エルフ・リング》の消費精神力と、《タブラ・スマラグディナ》でコピーする魔法の消費精神力まで考えると、実用に耐えるのはいつになるのだろうか。

 

「ん。それで、所蔵されてる魔法、()()()()()

 

「……なるほど、召喚魔法であるが故かな」

 

 パラケルススによると、レフィーヤが呼び出した魔本は、既に()()()()()()()()()()()()()が所蔵された状態で出現したらしい。これが、《エルフ・リング》でコピーしたが故の作用なのか、それとも《タブラ・スマラグディナ》に所蔵された魔法は受け継がれるのかは不明だが、探究者がいるとすればリヴェリアぐらいなので、少なくともここにそのあたりを深く解き明かそうとする者はいなかった。

 話し終えると、パラケルススはグイとピュグマリオンの左手を取って自身の頭にぐりぐりこすりつけ、満足すると部屋を去っていった。

 

「主、パラケルスス様、どこ!?」

 

「さっき出てった」

 

 しばらく人が途絶え、やってきた菊は一言パラケルススの行方を聞いて去っていく。何事だと思っていたピュグマリオンだったが、答えはすぐに訪れた。申し訳なさそうに、ヒガントーナが部屋にやってきたのだ。

 

「申し訳ありません主人(マスター)。帰還が遅くなりました。ベートとガレス殿に酒場を梯子させられまして……」

 

「遅いのか」

 

「午前1時ですよ?」

 

 なるほどとピュグマリオンは思う。稼働年数こそまだ一桁だが、見た目は完全に大人なパラケルスス。しかし、情緒面はなぜかあまり成長せずどこか子供っぽいがゆえに、保護者っぽくなってしまった菊はパラケルススの夜遊びを禁止している。

 パラケルススは抜け出したのだろう。というか、チェレンはあれから仕事だったのかと、ピュグマリオンは仕事に連れ出されていたチェレンを思う。なお、睡眠を必要としないリビングドールにとって、そのあたりはあまり関係ない。

 

「で、報告ですが、女神デメテルが神ディオニュソスの裏に感づき始めており相談を受けたため、それ以上の詮索を制止したうえでデメテル・ファミリアの警備を強化することにしました。まだ神ディオニュソスが女神デメテルの動きに気付いた様子はないとのことですが、念のため。そして、デメテル・ファミリアが改めて、我々の傘下という形での庇護を得たいそうです」

 

「ふむ、デメテル様か。昔は戦力はともかく規模は向こうの方が上だったが、今はどちらもこちらの方が上になったからね。とはいえ、こちらから指示することも今はほとんどないし、関係は変わらないだろうけど。ほぼ身内ってことでいろいろ教えてたし」

 

「私からの報告は以上です。では、失礼いたします」

 

 ヒガントーナが部屋を出る。パポスが天井から吊り下がり、じーっとピュグマリオンの手元を見ている。

 

 夜が明けたころ、部屋にいたメリーが出て行く。ピュグマリオンの1日は、まだこれからである。

*1
親に似て。




追記
タロスのレベル補正について微修正。
曰く「同レベルの時、スキルなしで獣化オッタルに迫る」スペックと考えていいです。そこにスキル魔法が乗ります。
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