人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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隙間(ガバガバ)産業を目指して

「……ふむ。ガラテアがそう言うからには理由があるんだろう。続けて」

 

「はい。まず1つ目に、2大派閥との戦力格差があります。ロキ・ファミリアはゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの追放以降、抗争を控えているようですが、フレイヤ・ファミリアは主神である女神フレイヤの気分次第で幹部が襲撃を起こすこともあるそうです。そのうえで、トップファミリアであることを理由にギルドも容易には手を出せないとか。幸いにも我々は主人(マスター)を含め全員が『()()()()()()()()から、内部から瓦解することはありませんが……」

 

「抗争、あるいは『戦争遊戯(ウォーゲーム)』となると拙い、か……」

 

「はい。しかし、仮にも2大派閥の一角であるので、最高戦力である『猛者(おうじゃ)』はLv6、その他幹部もLv5が複数いるようです。いくら我々が他者よりランクアップのハードルが低いと言っても、容易に追いつくことのできる数字ではありません」

 

 レベルひとつ分の格差は、子供と大人に例えられる。いくら戦力を拡充しても、渡り合えるようになるにはかなりの年数がかかるだろう。なにより、ランクが上がれば下がり調子になるとはいえ、あちらも成長するのだ。

 

「ですので、我々は戦力とは別の抑止力を持たなければなりません」

 

「それが商会……つまりは経済力か?」

 

「いえ、この場合はそれよりも、影響力をこそ抑止力とすべきでしょう。オラリオを見て回ってわかったことのひとつに、2大派閥は冒険者への影響力こそ高いものの、民間人への影響力はそれほど高くないということがあります」

 

 冒険者にとって、2大派閥とは憧れであり、絶対強者であり、目をかけられれば多大な利益を、目をつけられれば多大な不利益をもたらす、良くも悪くも大きな影響力を持つ存在である。

 しかし一方で、犯罪者でない一般的な民間人にとって彼らは『英雄の偶像(アイドル)』、悪しざまに言えば、見て楽しむ娯楽でしかない。

 何故そのような差があるのか。その主な理由は、冒険者という職業が民間人とそれほど深く関わっていないことにある。

 

 冒険者が迷宮(ダンジョン)へ赴き魔石とドロップアイテムを獲ってきたとしよう。このうち、魔石は半数ほどがオラリオ外へ輸出され、もう半数のうち一部が冒険者の武具や魔導具へ加工される。そして残った分が、民間人の使う魔石製品やその動力源として使われることになる。

 ではドロップアイテムはどうかと言えば、ほぼすべてが冒険者の武具や魔導具、あるいはポーションなどの薬品に使われ、民間人に還元されることはほぼない。例外としては、雲菓子(ハニークラウド)赤漿果(ゴードベリー)のような食用の採集品か。

 よって、純粋な冒険者によってもたらされる民間人への恩恵は、不定期な遠征の成果を聞くという娯楽と魔石、一部例外の品だけということになる。

 そのため民間人に対する2大派閥の影響力は、半公的に警邏(けいら)活動をしているガネーシャ・ファミリアや、自警団のような活動をしているアストレア・ファミリアのような、ダンジョンにはそれほど潜らないが実力はあり、直接的に民衆と関わっているファミリアはおろか、野菜に果実、穀物、一部の香辛料や砂糖に加工される甜菜などを栽培するデメテル・ファミリアや、牧畜を主な活動とするハトホル・ファミリアなど民間人にも深く関わる生産系ファミリアの影響力よりも低い。

 故に、民間人に影響を与えたいのであれば、探索系ファミリアよりも民間人と密接に関わる生産・商業系ファミリアの方が効果的だし、純粋な探索系ファミリアであっても、迷宮探索に専念するよりも何らかの形で民間人と深く関わる必要がある。

 

 では、何故そんな民間人への影響力が抑止力となり得るのかと言えば、そこには複合的な理由がある。

 まず単純に、民間人は数が多い。いくらオラリオが迷宮都市で冒険者による街であるとは言え、実際に都市を構築し、運営し、生活を営んでいる大多数は民間人だ。そして、オラリオ外の人間もまた、その大部分が恩恵を持たない一般人である。

 だからこそ、世界はオラリオ内の民間人への対応を見てその冒険者の人格への印象を決めるし、オラリオに住む民間人による評価は世界からの評価の(有意なサンプル)になりうる。

 故に、大派閥ほど民間人を蔑ろに出来ない。冒険者たち(かれら)が人々に寄り添う(都合のいい)『英雄』であるために。

 

 そしてその最たるものこそが『ギルド』である。なにせ、彼らの主神であるウラノスは中立であることを宣言するために、その職員に恩恵を与えていない。つまり、冒険者たちを取り纏める彼らこそが最も民間人に近いのだから。ある意味では、冒険者に対して最も権力を持つ民間人と言える。

 『ギルド』は冒険者に規律を敷くのと同時に民間人と冒険者の折衝の役割もある。そして基本的に単なる立場として見れば、民間人と冒険者とでは冒険者の方が立場は上である。だから『ギルド』は民間人と冒険者の間に立った時、中立であるためにこそ基本的に立場の弱い民間人に寄る。

 民間人からの批判だけなら、あるいはフレイヤ・ファミリアのような民間人からの評価を気にしない性格のファミリアはそれほど影響しないだろう。しかし、民間人が『ギルド』を通して批判したなら、冒険者同士、あるいは派閥同士だけの問題であればイザコザや抗争と言い張って有耶無耶にする『ギルド』も「手を出せない」などと言っていられないし、それで警告される、あるいは何らかの処罰を下されるとなれば、派閥としては『ギルド』の警告に従わざるを得ない。

 さらに言えば冒険者は多くの場合、無辜の民に手を出せない。何故なら『神の恩恵(ファルナ)』を持つ彼らにとって、民間人はあまりにも()()()()から。レベルがひとつ違えば子供と大人ほどに差がある。それこそ、大人が加減を間違えれば、子供は容易に死にかねないのだ。そして罪のない民間人を殺してしまえば、その先にあるのは『闇派閥(イヴィルス)』扱いだ。そうでなくとも「民間人に手を出す」というレッテルが貼られた瞬間、民間人からの評価は暴落する。

 

「故に『民間人から味方される』というのは抑止力になり得るわけです」

 

「なるほど。だが、それには『大派閥を相手にしてでも味方したい』と思われる程度には、民間人に対して利益を与えなければならないだろう? 目処は立っているのか?」

 

「はい。オラリオにおける商業を見て回ってきた結果ですが、おおよその特徴が掴めました。オラリオは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。迷宮都市としては自然なことですが、生活必需品や食料、迷宮探索に必要な武具や道具の生産、流通が優先されているようです。例外と言えば娯楽用品でしょうか。ですので、我々が主戦力とすべきは『必須ではないけどあれば生活レベルを上げられる』品です。人間は、一度上げてしまった生活レベルを下げることに強い抵抗を覚えるものです。『日常のちょっとした贅沢』を少しずつ『生活のお供』に格上げし、民間人に広く定着、依存させます」

 

「言い方が麻薬のそれだが方向性としては納得だな。それで、僕は何をすればいい」

 

主人(マスター)には必要な人員を作っていただきたく。特に必要になるのは発明家(インベンター)工作者(クラフトマン)ですね。店員などの単純労働力に使う人員は簡便的なもので大丈夫ですが、この2つの役割については2級品質(ヒガントーナ・メリー並)をお願いしたく思います。それとは別に、主人(マスター)の護衛として番犬型を数体作るべきかと。我々は今後、拠点の確保と、迷宮の視察を行いたいと思います」

 

 かなりの発注量ではあるが、ピュグマリオンにとってはそれも趣味の範囲内であるし、外見の美しさにしかこだわりはないため、役割の方向性(お題)をある程度注文(リクエスト)されるのはむしろ望むところでもあった。

 こうして、ガラテアたちは『アイアム・ガネーシャ』の近隣にピュグマリオン・ファミリアの本拠地(ホーム)となる『象牙座工房(グラン・ギニョール)』を手に入れ、ピュグマリオンはそこで日々思うがままに人形作りを、ガラテアたちは迷宮に潜る日々を送ることになった。

 

 そしてそれから1ヶ月後、番犬型リビングドール8体と『発明家(インベンター)』が完成したある日、再び大きな変化が起こる。

 

主人(マスター)、報告です。迷宮にて()()()()()()()()()()()()()()()()()

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