人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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第五章 狂乱(オルギア)
フィンの受難/『理性あるモンスター』


 フィン・ディムナは悩んでいた。ここ最近、あまりに急転が過ぎた。しかも基本、悪い方向に。

 

 『闇派閥』の拠点としてダイダロス通りにあたりを付けていたフィンは、人海戦術でダイダロス通りを探索した。その結果、ダイダロス通りの地下水路にて、最硬精製金属(オリハルコン)製の扉を発見したのだ。そして、フィンはひとつの決断を下した。罠であることを承知の上で、その扉に踏み込んだのだ。

 その結果、内部の罠で分断、各個攻撃を受け、フィンも、アイズが24階層の『食糧庫(パントリー)』で遭遇した赤髪の『怪人』、レヴィスに奇襲を受け深手を負ってしまう。更にそこに、因縁の相手であるヴァレッタの襲撃。

 フィンの代わりにベートやラウルが指揮をしたお陰で最悪は免れたものの、フィンほどうまくいくわけもなくその場しのぎにすぎない。さらに、敵の攻撃には毒や呪詛が使われたものも多く、団員は手酷い傷を負っていた。

 なんとかラウルとアナキティの機転でヴァレッタから逃れ、そのまま敗走。不幸中の幸いか()()()()()()()()()ものの、ディアンケヒト・ファミリアの用意していた解毒薬、解呪薬がなければ、どれほどの犠牲が出ていたか。

 

 その後、『闇派閥』拠点に入るための鍵を探しイシュタル・ファミリアに探りを入れようとしていた矢先の、フレイヤ・ファミリアによるイシュタル・ファミリア壊滅。吉報はと言えば、元イシュタル・ファミリアの眷属を狙っていたヴァレッタが、ベートによって討ち取られたことか。

 当のベートは既婚者にも関わらず気にせずアプローチをかけてくる、元イシュタル・ファミリアの少女と、それに触発されてかアプローチをかけるようになった治癒師(ヒーラー)の少女に辟易しているようだったが。

 

 かと思えば休む間もなくラキア王国との戦争。そして、ピュグマリオン・ファミリアの未知の戦力である、ウダイオス並の体躯を持つ少女という存在。

 敵味方関係なく唖然としている間に、腕の一振りで敵の一軍を吹き飛ばすモンスターさながらの攻撃に、ラウルなど腰を抜かしているほどだった。

 その少女に関しては、『あの姿は魔法によるもの』ということしかわからなかったし、その証言はロキによって真実であることは判明しているのだが、フィンの勘は、十中八九事実からは程遠い真実なのだろうと告げていた。

 

 そしてトドメに今回の事件。リヴィラに武装したモンスターが襲撃してきたとして討伐部隊が組まれた事件。

 『闇派閥』の仕業かと思って行ってみれば、なんとあのベル・クラネルがモンスターを庇ってこちらに攻撃まで仕掛けてきたのだ。

 モンスターは取り逃がし、現在危険因子としてベル・クラネル、及びヘスティア・ファミリアは監視下に置かれている。さらに言えば、ベル・クラネルに対する冒険者からの印象は最悪にまで落ちたと言っていい。元々嫉妬から嫌う者も多かったが、そこにモンスターを極度に嫌う者などが迎合して、中立派を巻き込み数を増やしている。そして、この手合はロキ・ファミリアの団員にも少なからずいた。

 一方、ベートやレフィーヤなどのベル・クラネルとの関わりが深かった者は事情があることを察しているようで、擁護こそしていないものの嫌悪するほどではないようだ。というか、レフィーヤに至っては監視されているヘスティア・ファミリア本拠地に乗り込んで直接事情を詰問しようとし、他のファミリアからドン引かれていた。勝手な行動はやめてほしい。

 そしてアイズ。モンスターへの憎悪が人一倍激しいアイズは、特に仲の深かったベル・クラネルがモンスターを庇う姿を見たためか酷く混乱している。レフィーヤの暴走もそれを考えればさもありなん……いややっぱ考えて行動してほしい。

 

 さて、ではフィン自身はどうかというと、おそらくは()()()()()()()()()()()()()()と言っていい。

 モンスターの不可解な行動や、ベル・クラネルの態度。ギルドの妙な対応。ウラノスが直接出てきたこと。様々な要素を考えれば自然と導き出せた答え。つまり、「ウラノスとベル・クラネル、ひいてはヘスティア・ファミリアは、理性のあるモンスターと接触していた」という答えだ。

 恐らく、これは事実に一番近いだろうとフィンは予測する。ロキも同意見だった。であれば、フィンの前にはふたつの選択肢がある。

 ひとつはウラノスやベル・クラネルに迎合し、仲間や他の冒険者、市民を説得して『理性のあるモンスター』との友好を築くこと。これの利点は、恐らくウラノスも同じ狙いなのだろう。『理性のあるモンスター』という戦力の入手だ。

 特に討伐隊を一蹴したミノタウロスの強化種や、武装した蜥蜴人(リザードマン)は第一級冒険者と比較しても勝るとも劣らないものだ。『闇派閥』との決戦が控えている今、彼らが味方として助力してくれれば申し分ない戦力になる。

 また、彼らが本当に『理性あるモンスター』であり、かつ人間との友好を望んでいるのなら……『モンスターである』という種族一点のみでの拒絶は個人的に思うところがあった。

 

 しかしこれは、ハッキリ言ってあまりに困難な選択だ。冒険者にはモンスターに大怪我を負わされたもの、仲間を殺された者、さらには故郷を滅ぼされた者も多く、モンスターへの憎悪もまた深い。

 これはベートもそのはずだ。それをベル・クラネルへの信頼という一点だけで「なにか事情がある。様子を見よう」と思えるのは、流石に肩入れし過ぎではないか?

 まぁつまり説得は困難。それどころか、ベル・クラネルへ向かっている憎悪がこちらに向かう可能性を考えれば、小人族の復興を目指す『勇者(ブレイバー)』には、おいそれと選べる選択肢ではない。

 今まで自身の行動で小人族への意識改善を目指してきたフィンは、逆に自分の行動次第で小人族の地位はどこまでも落ちるだろうということも理解していた。

 

 だから、本来フィンが選ぶべきは拒絶。『理性あるモンスター』を討伐し、なし崩し的に元の雰囲気へ戻すこと。

 本来なら迷うはずもない。迷ってもすぐに切り捨てられる選択のはずだったのだが、フィンは冷静にオラリオを見つめ、妙なことになっていることに気づいた。

 

 それはここまで言及してこなかった、民間人の反応。何故か、ベル・クラネルを擁護する者が、予想よりもだいぶ多いのだ。

 それは例えば子供。いや、既に探索系ファミリアに入っているような16歳くらいまでの若者が、『理性あるモンスター』の存在に言及し、ベル・クラネルの行動に理解を示しているのだ。

 そのような新人もまた、ロキ・ファミリアにもいた。2軍の中核メンバーであるナルヴィ・ロールをはじめ、サポーターのルーニー、『闇派閥』との戦いで手酷いダメージを受け本当にギリギリで生還したレミリアなどもそのひとりだった。

 さらには孤児院の子供など、声を揃えて「竜女(ヴィーヴル)に助けられた」と主張し、ベル・クラネルを赦すように呼びかけているらしい。竜女と言えばあの時ベル・クラネルが庇っていたモンスターであり、恐らくそれは真実なのだろうと見て取れる。

 

 フィンは考える。『理性あるモンスター』を擁護する少年冒険者と、そうでない少年冒険者の違い。あるいは、擁護する少年冒険者の共通点……

 

「オラリオ育ちの少年冒険者、か」

 

 彼らの共通点は、オラリオで生まれ育った。あるいは、幼少の頃にオラリオにやってきて、年少の頃をオラリオで育ったことだ。例外はアイズくらいか。

 つまりオラリオのどこかに、『理性あるモンスター』と民間人の子供が接触できる、あるいはその存在を知ることのできる何かがある。そして年齢から逆算して、その何かができたのはここ7〜8年ほど。

 ちょうどその頃に、子供たちが一箇所に()()される出来事があった。それが始まりだと考えれば辻褄は合う。

 

「団長、買ってきました。神経が太いのか、普通に売ってましたよ」

 

 部屋に入ってきて、呆れ顔で買ってきたものを差し出したのはティオネだ。彼女は妹のティオナが『理性あるモンスター』理解派――というよりベル・クラネル擁護派、あるいは親友のアーディが『理性あるモンスター』に肩入れしていたと思われるガネーシャ・ファミリア団員なのでその擁護派――なため、若干肩身の狭い思いをしている。

 ティオネが買ってきたのは数冊の本だ。それも、子供が読むような絵本や短編小説。

 

 仲間から迫害され、正体を隠しながら人間の中に生きて英雄になった蜥蜴人の絵本。

 美しい容姿から人間に売られ、歌声で人々を虜にし、歌劇の国で歌姫になった半人半鳥(ハーピー)の絵本。

 人魚(マーメイド)の少女と冒険者の少年との、困難溢れる中で花開く恋愛小説。

 そしてついこの間出版された、生まれ変わり、自身を倒した冒険者との再戦を夢想するミノタウロスの英雄譚。

 

「こうしてみると壮観ですね。関係してないなんて信じられない」

 

「まぁ、これなくとも疑っとったけど、確定やな」

 

 ウラノス――つまりギルドとガネーシャ・ファミリアが関わるモンスターの出来事と言えば、5年前から始まった『怪物祭(モンスターフィリア)』。冗談でロキが「モンスターとの友好のため」などと茶化して創業の動機を口にしていたが、今考えてみれば間違いなくそれが答えだろう。

 であれば、同時期にモンスターが市民の目に触れやすくなる事業を興した組織が、もうひとつ存在する。

 

「ピュグマリオン・ファミリア。ほぼ決定だね。彼らも知っていた側の人間だ」

 

 となると拙い。『理性あるモンスター』を否定し、ピュグマリオン・ファミリアがへそを曲げたらどうなるか。十中八九、その先に訪れるのはオラリオの崩壊だ。

 なにせ、オラリオの農業、漁業、牧畜、運送で頂点に立つファミリアがこぞって傘下についており、ついこの間そこに歓楽街も追加された。そして当のピュグマリオン・ファミリア自体も、商業のトップファミリアだ。さらに言えば、医療系の最大派閥であるディアンケヒト・ファミリアと同盟を結んでいる。

 ピュグマリオン・ファミリアが傘下を連れてオラリオからいなくなれば、オラリオの生活基盤がスッポリとなくなるのだ。

 

「しかしだとすれば、何故ピュグマリオンはこの騒動をここまで放っておいたんだ……?」

 

 ピュグマリオン・ファミリアには独自の情報網と、至る所に干渉できるだけの人員がいる。であれば、騒ぎが広まる前に事態を沈静化し、隠蔽することだってできたのだ。

 であれば、ピュグマリオン・ファミリアはギルドやガネーシャ・ファミリアから依頼されてやっていただけで、そこまで『理性あるモンスター』に執着はないのか?

 だが危険性が高い以上予断は許されない。

 

「……話を聞きに行くしかないか」

 

 流石に拒否はしまい。そう考えたフィンは、ロキを伴ってピュグマリオン・ファミリアの本拠地、『象牙座工房(グラン・ギニョール)』へと向かう。

 そしてそこで、フィンは自身の人生を大きく変える出来事への誘いを示されることとなった。

 

 

 

「明日、我々から情報を提示する討論会を行います。ロキ・ファミリアの皆様も、ぜひご参加ください」

 

 

 

 

 

 なお、ベル・クラネルを擁護する者には年齢関係なく男性が一定数交ざっていたこと。ラウルもそのひとりだったことは、彼らの名誉のためにここに付記するに留めることとする。




 ここまでの物語を見れば分かる通り、当小説ではピュが関わらない展開部分は容赦なくカット、あるいはダイジェストしています。原作を読んでほしいからです。嘘です、原作読んだほうが絶対面白いからです。あしからず。

 てことで第一次クノッソス侵攻は全カットしました。まぁ原作と違うのは死者なしというとこですね。逆になんでアストレア・ファミリアだけしっかり死んでんだよ。必要があったからです。残念だったね。
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