人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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討論会

 翌日、討論会と言う名目でロキ・ファミリアが集まったのは闘技場だった。ロキ・ファミリアから参加しているのは、ロキとフィン、リヴェリア、そしてレフィーヤだ。レフィーヤは目を離すと暴走しかねないため、管理のために近くに置いておくことにした。

 どうやらこの討論会はウラノスの許可を得て神の目によってオラリオ中に中継するようで、恐らくアイズも見ることになるだろう。そのため、ケアとしてベートとガレスはアイズの様子を見るために本拠地で留守番となった。

 

「ほーん、お前も来たんか。ディオニュソス」

 

「あぁ。私もピュグマリオン・ファミリアは怪しいと感じていたんだ。ここで答えを出せるなら、出ないわけにはいかないさ」

 

 参加者にはディオニュソス、そして護衛であろうフィルヴィスの姿もあった。

 他に参加しているのは、ベル・クラネルに憎悪を向ける冒険者のファミリアがちらほら。ヘルメスやフレイヤの姿は見えず、ベル・クラネル、あるいはヘスティアを擁護する程度の仲であるヘファイストスやミアハの姿も見えない。

 しばらくすると、2台の馬車が闘技場へと入ってきた。奇妙なのは、馬車を牽く馬の片方に白い布がかけられ、頭から首までが覆い隠されていることか。

 馬車から現れたのはひとりの狐人。色合いは見慣れた白髪灰眼である。彼女はカーテシーで一礼し、挨拶を始める。

 

「お集まりの皆様、本日はこの討論会にご出席くださり、誠にありがとうございます。ワタシはピュグマリオン・ファミリアの開発部門長を務めさせていただいております、ワシリーサと申します。神の目にて御覧の皆様もよろしくお願いいたします」

 

 洗練された動き、見目麗しい容姿に、幾人かが息を呑む。その間に、ワシリーサは説明を続けた。

 

「さて、先入観と固定観念によって我々ピュグマリオン・ファミリアが皆様から見てどのような立場にあるかを決定づけられる前に、いくつかはっきりさせておきたいことがあります」

 

 ワシリーサはそこまで言って、咳払いをすると再び語り始めた。

 

「今この場には、幸いなことに神ディオニュソスという公正な善神がいらっしゃいます。彼なら、我々の話の真偽を明らかにしてくれるでしょう。もちろん、我々も自分の言葉の真実を証明する証拠を持っておりますが……」

 

「判定役をやれ、嘘はつくなってことだね。やれやれ、いいだろう、引き受けよう」

 

 ディオニュソスは神酒に酔っている。そして、神酒に酔っている間の彼は、紛れもなく善神だ。民間人からの信頼も厚い。だからワシリーサは、この役を彼に押し付けた。

 

「さて、改めてはじめに2点宣言しておきます。まずひとつ。今回の件、すなわち地上にモンスターが現れた件と、そのモンスターをベル・クラネルが庇い討伐を妨害した件につきまして、我々ピュグマリオン・ファミリアは一切関与をしておりません」

 

「……真実だね。嘘はついていない」

 

 内心これに驚くのはロキとフィンである。彼らは既に、ピュグマリオン・ファミリアと『知性あるモンスター』が関係あるものとして考えていた。だから、この真実は意外なものであった。

 

「質問あるでしょうけれど、もう少しお待ちください……もうひとつ。今回の討論会の目的は、我々の持つ情報を皆様にお渡しし、正しい判断の助けになればと考えたものであり、ベル・クラネルの行動を擁護する目的はありません。どうかご容赦ください」

 

「……真実だ」

 

 これに驚いたのは、アンチベル・クラネルの目的でやってきていた冒険者たちだ。彼らにしてみれば、ピュグマリオン・ファミリアはベル・クラネルを庇うものだと考えていたからだ。

 振り上げた拳の下ろす場所が見つからない様子の冒険者。しかし、その後すぐに改めて対峙の構図が作られる。

 

「では、とりあえず今回の当事者の方も加わっていただきましょう。ヘスティア・ファミリアの皆様です」

 

 馬車から降ろされたのは、ベル・クラネルを始めとしたヘスティア・ファミリアの一行。ヴェルフと命だ。何故か、リリルカと主神であるヘスティアは見つからない。

 ただ、今回集まった冒険者にとって重要なのはベルであり、リリルカやヘスティアがいないことは彼らにとって重要ではなかったためかスルーされた。ただ、ディオニュソスやロキは疑問に思っているようだった。

 

「女神ヘスティアは念の為、安全のためにこちらで保護させていただいており、ここにはいらっしゃいません」

 

 そう紹介されるベルは、こちらもこちらとして気が気でない。実は彼らは、現在地上にいる『異端児』を地下へ返すという作戦を実行する直前だった。咄嗟にリューに任せてウィーネは迷宮に繋がる孤児院へ向かわせたので、そちらは大丈夫だろう。リューはLv4でファミリア外の人間だ。疑われることもないし、疑われてもそう簡単にやられまい。

 問題は、直前まで眼晶(オクルス)で通信していた『異端児』である。あちらはあちらで、ダイダロス通りにある人工迷宮クノッソスの入り口から迷宮へと帰還するはずだ。

 ヘスティアは保護――ベルからすれば拘束にも思えるが、とにかく引き離されてしまい、冒険者からは憎しみの目を向けられる。ベルの精神状況は悪化していった。

 

「さて、これで今回ご招待した方はすべてです。これから我々の持つ情報をお話ししようと思います。まず、今回の争点となっていますベル・クラネルが庇ったとされるモンスター。そのモンスターが理性を持っていて、人間に敵対的ではないという噂が流れているようですが……これは事実です」

 

「……真実だ」

 

 この返答に、中継を見ていた者たちはざわつく。子供たちはそう主張していたが、多くの大人たちはあくまでフィクション、作り物の話であると考えていたからだ。

 一方で、現場にいるアンチベル・クラネルの冒険者は動揺はしたものの、あまり関係なさそうな様子だ。理性があろうとなかろうと、彼らにとってはモンスターは憎いものなのだろう。

 

「我々は彼らを『異端児(ゼノス)』と呼んで、独自に交流を進めてきました。もっとも、皆様との摩擦は大きいと理解していたので表に出すつもりはありませんでしたが」

 

「……おいおい、ピュグマリオン・ファミリアともあろうものが怪物趣味かよ」

 

 そう煽りを入れたのは、アンチベル・クラネル……というよりも、純粋にモンスターを憎む冒険者だったのだろう。単にベル・クラネルに憎悪を向けるだけの仲間からは、ピュグマリオン・ファミリアにまで喧嘩を売るなと窘められている。

 

「『異端児』は迷宮で生まれるエラーです。人間や神に対する先天的な敵対心を持たず、理性を持って生まれてきます。そして、迷宮内では通常のモンスターに、率先して襲われる性質を持っています」

 

「真実だね」

 

 フィンは、ティオネが買ってきた本のなかの一冊を思い出す。同族に襲われた蜥蜴人の話は事実だったのかと。

 

「中には人間から友好的に振る舞われた後裏切られた経験から、人間に敵意を向ける者もいますが、彼らは基本、迷宮内部の未踏破領域に隠れ住んでいました。では、何故そんな彼らが表に出てきたのかは、当事者であるベル・クラネルにお話していただきましょう」

 

「へぁ!? は、はい……!」

 

 突然話を振られたベル・クラネルだったが、拙くも今回の経緯を語りだす。発端はベル・クラネルによる、幼い竜女(ヴィーヴル)、ウィーネの保護。ピュグマリオン・ファミリアと縁の深いリリルカの提案で、彼女を仲間の元へ送り返したこと。

 イケロス・ファミリアによるウィーネの誘拐と、イケロス・ファミリアがこれまでも『異端児』を誘拐して好事家や怪物趣味の貴族に売ったり、面白半分に凌辱死させてきたこと。

 ウィーネを救出するために『異端児』がリヴィラの街に襲撃を仕掛けたこと。イケロス・ファミリア団長、ディックスの呪詛(カース)により、地上まで連れてこられたウィーネが暴走させられたこと。それを助けるために起こしたのが今回の事件だったこと。

 最後に、ディオニュソスの真偽判定でそれが真実であることが認められ、事情の追及は済んだ。

 

「ちなみに、イケロス・ファミリアは『闇派閥』として処断。主神イケロスはオラリオを追放されていますのであしからず」

 

「! 真実だね……」

 

「お、おい! おかしいだろ!! なんでモンスターを捕まえたり殺したりしただけで『闇派閥』扱いされなきゃなんねぇんだよ!!」

 

「『闇派閥』と繋がっていたからですが」

 

「……真実だ」

 

「…………!! ……ッ!」

 

 ワシリーサに食ってかかったのは、アンチベル・クラネルとしてここにいるセト・ファミリアの冒険者、犬人(シアンスロープ)のバイツである。

 ちなみに、セト・ファミリアはかつてはゼウス、ヘラ・ファミリアとバリバリにやりあっていたファミリアであったが、膝にケラウノスを受けてしまったために現在は弱小ファミリアのひとつとして細々と活動している。Lv2である女冒険者、『暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)』ことセティ・セルティが所属するファミリアと言えば皆様への通りはよいだろうか。

 そんなバイツであったが、にべもないワシリーサの返答に反論できず沈黙する。

 イケロス・ファミリアが『闇派閥』と繋がっていたのは、イケロス・ファミリア()()()()()()()()()()から聞き取りができていた。

 ワシリーサはまるで『異端児』を害したために罰せられたかのように言ったが、実のところは『闇派閥』との意図的な繋がりが認められたが故の処断である。

 

「……ここまでの君たちの主張を聞くと、君たちは『異端児』を擁護する立場に聞こえるけど、気のせいかな?」

 

「そうですね……我々はベル・クラネルの行いを擁護する気はありませんし、皆様が『異端児』をどう思おうと、正直に言えば()()()()()()のです。嫌いなものは嫌い、憎いものは憎い、結構。我々はそれを強制する権利を持ちません」

 

「うん、真実だ」

 

 ベル・クラネルも、バイツを始めとするアンチベル・クラネルの面々も、そしてフィンたちロキ・ファミリアも、この態度には驚いた。それまでのワシリーサの言説は、『異端児』を擁護するものだった。

 しかし、ワシリーサはそれを否定し、ディオニュソスもその否定が真実だと告げる。

 

「我々が『異端児』を擁護しているように聞こえるのは、我々が『異端児』の情報を語るたびに皆様の中のモンスターへのイメージが改善されてしまっているからでしょうが、我々にしてみれば正しい情報をお教えし、判断材料にしてもらう以上の意識を持ちません。我々の情報を得たあと皆様がどう判断しようと、それに干渉することはできないのですよ」

 

「……うん、これも真実だ」

 

「あー……そちらが嘘をつく気がないというのはわかった。テンポが悪くなるから、神ディオニュソスは以後、嘘をついた時にそれを指摘する、という方向でお願いしたいのだが……」

 

「では、そのように……さて、話を戻しますが、オラリオにモンスターを殺してはいけないという法はありません。ですので、『異端児』を殺すのは自由。捕まえて売るのも咎められません」

 

 ですが、と、ワシリーサはそこで一度言葉を切る。

 

「我々、ピュグマリオン商会はその上で共生できると判断し、『異端児』を雇用し続けてきました。ですので、ピュグマリオン商会に所属する『異端児』を害するようであれば、従業員を守る義務として抵抗させていただきます。従業員でない『異端児』は知りませんが」

 

「チッ……結局のところ、自分らの利益が大事なだけかよ」

 

「利益に関してはそれほど重要視していません。当面の利益は確保していますので。我々はあくまで、従業員として雇用している『異端児』からの信頼のため、そして皆様のために、従業員を守っています」

 

「……僕らのため?」

 

 フィンは、その言葉の意味をなんとなく察した。

 

「えぇ。試算ですが、ソーマ・ファミリアによると、酒造に関わっている『異端児』がいなくなれば、酒類の流通量が現在の数十分の一に減少します。その分、酒の希少性も上がるので、値上がりもするでしょうね」

 

「な、なんやて〜!!!?」

 

 悲鳴を上げたのは酒飲みのロキだけではない。他の酒飲みどもが、一斉に悲鳴を上げていた。

 

「また、ディアンケヒト・ファミリアの試算によると、製薬の素材を提供している『異端児』がいなくなると、一部薬品の生産不可と100%から50%程度の値上げ。ヘファイストス・ファミリアの試算によると、鍛冶の素材を提供している『異端児』がいなくなると、一部武具の生産、及び整備の難化と70%から30%程度の値上げ。また、食品開発に携わる『異端児』がいなくなることで、新商品の開発難化などが挙げられますね。冒険者の皆様も、『異端児』が提供した素材を使った武具で戦い、『異端児』が提供した素材を使った薬品で生命を拾ってきた方も多いのでは?」

 

 ここまで言われてしまえば、ベル・クラネルへの嫉妬で動いていた冒険者は黙るしかなかった。会場にいない、神の目で様子を見ている冒険者も、ベル・クラネルへの嫉妬や嫌悪、自分の常識との違いから来る拒絶感で動いていた者は、自分に降りかかる不利益と天秤にかけざるを得ない。

 もっと顕著なのは民間人だ。もはや、昔の凝り固まった価値観――これを非難する気はない。連綿と受け継がれてきた危機回避の術であるからだ――を持つ年配の者以外は、もはや『異端児』に対して、少なくとも過度な敵意は持っていない。

 自分から関わろうとはしない、あるいは関わりを避けるくらいはするかもしれないが、逆に言えばその程度に収まっていた。

 

「(……流れは完全に共生に傾いた。これなら、僕らが共生を叫んでも問題ないかもしれない)」

 

 フィンも、その流れを敏感に感じ取っていた。どのタイミングで宣言しようか。そう考えているうちに、不意に、かなり悪い形でそれはやってきた。

 

「『異端児』と人間を分けるのは魔石の有無、容姿、身体構造、生育環境の4点のみと言えます。このうち、身体構造や生育環境は人間の間でも種族でかなり異なりますし、容姿は言わずもがなでしょう。例えば……ウィリディス様」

 

「わ、私ですか!?」

 

「えぇ、あなたはウィーシェの森の出身で、他種族への理解は他のエルフより寛容であると認識していましたが、容姿や育ちを理由に差別しますか?」

 

「し、しませんよそんなこと!!」

 

「では、魔石があるか否か? 魔石があるというだけで、人の心を持つ者とは共に生きられないと考えますか?」

 

「そんなの――」

 

「答えるなレフィーヤ!!」

 

 レフィーヤの声を遮り、フィンは声を張り上げていた。

 親指がこれ以上ないほどに痛む。レフィーヤに、この問いを答えさせてはいけない。答えさせれば、これ以上ない破綻が訪れると、フィンの勘が強く告げていた。

 

「……やってくれたね?」

 

「……何の話でしょうか? ウィリディス様の答え如何で我々、ピュグマリオン・ファミリアとその傘下、及び協力者、関係者が、ウィリディス様及びロキ・ファミリア、民間人、冒険者、神々に対して不利益をもたらす行動を起こすことはないのですが……」

 

 フィンはロキを見るが、ロキは身振りで嘘はないことを告げる。では、今のはなんだったのか? レフィーヤが『異端児』を拒絶することで、レフィーヤの身に何かが起こるのか?

 いや、それは置いておこう。状況は決定された。今のフィンがどう見えたのだろうか。『異端児』の共生へ傾いている世論が、『異端児』を拒絶しようとしたレフィーヤを止めたフィンをどう見るだろうか。

 『勇者(ブレイバー)』、それは、ある種族への蔑視をなくすために尽力してきたことへの称号だ。それが今、モンスターという種族を理由に拒絶されようとしているところに声を上げた。これがどう見られるか。

 今ここで声明を出すことはしない。どちらにしろ、団員だけでも説得する必要がある。しかし、フィンは共生派として動かざるを得ないことと、そのことにどこかホッとしている自分を感じていた。

 

「……正気かよ、お前ら」

 

 ポツリと呟いたのは、バイツだった。

 彼も迷宮でモンスターに手酷い傷を負わされ、モンスターを憎む者のひとりだ。だからこそ気に食わないのだろう。モンスターを簡単に受け入れようとしている者たちが。

 

「モンスターだぞ!? 今までどれだけの人間を殺してきたと思ってる!? それが今さら隣人面して、なんで受け入れられるんだ!?」

 

「では何故、あなたはそこにいる人間を殺さないんですか? 多くのオラリオ民を殺してきた『闇派閥』と同じ、恩恵を持っている人間ですよ?」

 

 その言葉は、『黄昏の館』で見ていたアイズの胸にも刺さった。

 『大抗争』でリヴェリアに投げかけた疑問。なぜ人間なのに。ワシリーサの言葉がそんな疑問と重なった。

 

「そ、そんなの……」

 

「同じ人間だからですか? では、どこからどこまでが人間ですか? 体躯が異なる小人族、獣の特徴を持つ獣人、3倍以上の時を生きるエルフ、女性しか存在せず同族しか生まないアマゾネス、それらすべての特徴を持ちえないヒューマン。ドワーフは……まぁいいとして、それらすべてを人間として認めている、その理由は? 『異端児』を人間と認めない理由は?」

 

「お、お前は認めるのかよ!?」

 

「どうでもいいです。人間であろうがなかろうが、対話可能で共生可能、友好的ならばそのように対処します。人間であろうが『闇派閥』のように我々を害するのならば排除するだけです」

 

「くっ……」

 

「とはいえ、そう簡単に受け入れることもできないでしょうし、再三申し上げますが、受け入れろとも言ってないんですよ。我々はただ、あなたがたの判断の基準を公平にしようとしているだけです。あなたがたの未来のために……とはいえ、どれだけワタシが言葉を尽くしても、最後は自分の目で見なければわからない……という方もいるでしょう。ですので、実際にご覧いただきましょう」

 

 そう言って、ワシリーサはもう一台の馬車の扉を開く。そこから降りてきたのは、数人の少女。そして、一匹のモンスター。

 1人目はピュグマリオン・ファミリアの特徴を持つサイドテールの少女で、スカート部が大きく広がった飾り気のないワンピースを着ている。

 2人目はフィンたちには見覚えがある。ラキア王国との戦争に出てきた、あの巨大化する少女だ。しかし、戦争に赴かなかった一般人や他の冒険者は、正確な姿かたちは知らないだろう。

 3人目は、こちらは普通の冒険者にも知られているだろう。アフロディーテ・ファミリアからの出稼ぎでオラリオにやってきた、Lv2の上級冒険者、サカトケ・伊吹。4人目はフィンたちも見知らぬ茶髪の、ロキが反応するほどの美少女で、マントで体を覆っている。

 そして最後に出てきたのは、一匹のアルミラージだ。いや、最後ではない。本当に最後、馬に被せられていた布が剥がされ、その下から出てきたのは、馬の体から少女の上半身が生えた、見たことのない異形。さながら、アラクネの馬版と言おうか。しかし、少女の部分だけを見れば、確かに茶髪の少女である。

 

「では、このなかで皆様は、どなたを拒絶し、どなたとならともに生きられると考えますか?」

 

 その問いに、冒険者たちはたじろぐ。しかし、自身の感情を否定され続けたように感じて頭に血が上っている者は、多くの者が頭ごなしにアルミラージと馬の少女を指して、そのモンスターを殺させろと騒ぐ。

 その場にいない、神の目越しの冒険者や民間人も、多くがそのふたつの選択肢を選んでいた。

 

「そうですかそうですか……では、確認させていただきましょう。まず……あなたはモンスターですか?」

 

 ワシリーサは馬の少女に問う。馬の少女はそれに、首を振って答えた。

 

「いいえ。僕はモンスターではない。人間だ」

 

 その言葉に、その場の神は目を見合わせる。すぐに、ディオニュソスから「嘘ではない」と判定が入り、彼女を殺そうとしていた冒険者は狼狽えた。

 

「僕の種族はセントール。遥か昔、僕の先祖は数多の英雄に様々な教えを説いたという。今は北方の少数民族として、ほんの少ししか残っていないけど、認められている立派な人間種だよ」

 

「ということで、彼女は人間です。アフロディーテ・ファミリアより、ヒュロノメさんにお越しいただきました。では次は、こちらのお二方に確認を取りましょう。あなたがたは、モンスターですか? 人間ですか?」

 

 ワシリーサが水を向けたのは、サイドテールの少女とアルミラージである。すると、アルミラージはワシリーサから1枚のマントを受け取り体に巻いて、少女と頷きあった。

 

「【響く、十二時のお告げ】」

「【切れる、繰る意思の(ほつ)れ】」

 

 そして、二つの解呪式が響いた。

 

 同時に、彼女たちは変身を開始する。アルミラージはマントの中で姿を変えて一人の少女に。サイドテールの少女は、下半身が膨れ上がるように巨大化していく。

 あとに残ったのは、マントに身を包んだ元ソーマ・ファミリア副団長、現ヘスティア・ファミリア所属のサポーター、リリルカ・アーデと、1体のアラクネだった。

 

「リリもモンスターではありません」

 

「わたしは……うん、見ての通り」

 

「というわけで、こちらはリリルカで小人族の人間です。こちらはピュグマリオン・ファミリア所属のコッペリアですね」

 

 突然に現れた下層のモンスターに、レベルの低い冒険者は腰を抜かす者もいる。しかし、ロキ・ファミリアは動かない。もはや、動く気もない。

 

「では次はあなたですね。あなたは何者でしょうか?」

 

「はイ! 地上の皆様、はじめましテ。半人半鳥(ハーピー)の『異端児』、フィアと申しまス!」

 

 茶髪の少女がマントを脱いだ下から出てきたのは、間違いなくハーピーの体。ベルなどは、いつの間にかいなくなっていたリリルカの登場から間を置かずのフィアの登場に、完全に目を白黒させている。赤いのに。

 

「次はあなたですよ。タロス」

 

 また、ワシリーサが声をかける。もはや何が起こるのかと戦々恐々とする冒険者たち。その目の前で、声をかけられた少女、タロスの体積が膨れ上がった。

 瞬く間に周囲の建造物の高さを追い抜き、闘技場の最上段付近までその体躯を巨大化させた少女は、先ほどよりも数を増やした腰を抜かした冒険者たちに向かって名乗る。

 

「ぴ、ピュグマリオン・ファミリア迷宮部門員、タロス。み、見ての通り、人間です……!」

 

「な、あぁ……?」

 

「はい、彼女は人間ですよ、魔石もありません。よかったですね、当たって」

 

 よくない。先ほどまでは間違いなく彼女を人間だと思っていた冒険者たちだったが、10M(メドル)の巨体を見てしまっては人間だと思えはしなかった。しかし、神がそれを真実だと告げる。彼らの頭は完全にぐちゃぐちゃになっていた。

 そして最後、唯一、多くの者が素性を知っていた、サカトケ・伊吹に目が向けられる。

 

「さぁ、最後です伊吹様。あなたは、人間ですか? モンスターですか?」

 

「……さぁ、どうなんだろうね」

 

 ワシリーサの質問に対して、伊吹は深くため息をつきながらそう零し、仮面を取った。

 そして、そこから現れた二本の角に、冒険者たちが息を飲む。もちろんそれは、スキルであればあり得る範囲内だ。角がある獣人も珍しくはない。しかし、伊吹ははっきりと自分の生まれを告げる。

 

「アタシはサカトケ・伊吹。アマゾネスの母がスキルを使って大鬼(オーガ)の子を孕み生まれた、アマゾネスとモンスターのハーフさ」

 

 今度こそ、誰も声も出せなかった。人間とモンスターのハーフ、それもまた、神さえ知らない下界の未知だ。

 

「ちなみに魔石もあるよ。ただし、モンスターみたいに命の核ってわけじゃなくて、一定の大きさまで育つとポロっと取れる、爪みたいなもんだけどね」

 

「さて、人間でもありモンスターでもある彼女が、仁義に篤く誰より人らしい性格をしているのは皆さん知っての通りです。このような方もいらっしゃるということを念頭にいれて、もう一度考えてください。『異端児』は排斥すべきか否か。もちろん、それで皆様がどう感じようと我々はどうにもできません。ただ、皆様がこの状況を考える一助になれば幸いです」

 

 フィンは苦笑する。まったく、何が強制しないだ。思考誘導と同調圧力、そして一種の脅迫で、しっかり強制しているじゃないかと。しかし、それを口に出すことはしない。お陰で『異端児』との共生ルートはやりやすくなり、彼らの力も借りられるだろう。言い負かされた冒険者は気の毒だが――と、フィンがそこまで考えた時だった。

 

「……皆様、緊急事態です。『異端児』の一団がギルドへ向かっています」

 

 ワシリーサが告げる。

 

「皆様知っての通り、この討論会についてお教えしたのは、参加者の方は昨日、そうでない皆様傍聴者の方は今朝なのですが、今朝以前に迷宮へ潜り、『異端児』と独断で接触した者が唆したそうです。『ベル・クラネルの零落はお前らのせいだ。お前らが悪を演じて、ベル・クラネルに殺されることで彼の信用を戻せ』と」

 

 多くの者が絶句した。『異端児』排斥派だった者までもだ。

 そして、神の目はベル・クラネルを映す。映像越しでもわかるほど、ベル・クラネルの表情は悲痛に歪んでいた。

 彼のことを知る人間なら、彼が芝居に向いていないことはわかる。だからこそ、これが本心からの絶望であり、彼がこの件に関して何も知らないであろうことは、むしろ彼に嫉妬し、その性格をよく知ってなお嫌っている者ほどよく理解できてしまった。

 

「……その『異端児』の説得は彼にしかできないでしょう。ディムナ様」

 

「あぁ、わかった。ロキ・ファミリア団長として僕が責任を持つ。今ここで、ベル・クラネルを一時的に自由にする。行くといい」

 

 フィンが促す。ベル・クラネルの行動を監視するためという名目で、ベル・クラネルに私刑がいかないよう統率していたのはフィンおよびロキ・ファミリアだ。

 だから、彼の許可があればひとまずそれは可能となる。

 

 ベル・クラネルは弾かれたように走り始める。人とモンスター、その両方を助けるために。その背中を、多くの冒険者が見つめていた。




 フィンは前回と今回を見ればわかるように、個人的には共生賛成派です。モンスターに対して思うところはあれど、『異端児』の特殊性を鑑みてそれを飲み込めます。ただ、組織の長として簡単には認められなかっただけです。
 レフィーヤは聞かれたから思わず本音が出かけましたが、まだ『異端児』をよく知らないだけなので、ちゃんと人となりを深く知れば肯定派に回ります。

 ヘルメスに関してはやろうとしたこととその理由はわからんでもないがそれはそれとして性格悪いよなって印象。

 セントール、つまりケンタウロスは独自設定ですが、この種族がモンスターとして出てくるとは到底思えないのでこの形で出しました。
 だっていちばん有名なケンタウロスはゼウスの兄弟だぜ?
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