人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
『異端児』騒動より数日後、ロキ・ファミリアではクノッソス攻略に向けて、協力を承諾した『異端児』との話し合いが行われていた。
その場にいるのはロキ・ファミリアの四幹部と主神ロキ。『異端児』側はリーダーである
「やー久しぶりやなフィアたん元気しとった?」
「あ、はイ! 討論会? にいた糸目の神さまですよネ、覚えてまス!」
「リヴェリア聞いたぁ? 覚えててくれてるやんこれ脈ありやろ!」
ロキがフィアに抱き着き、胸元に頬を埋めながらリヴェリアに問う。リヴェリアも折檻しようかと思いはするものの、フィア自身に嫌がる様子がないのでどうしようか迷っているようだ。
「神ロキよ。『異端児』の多くにはセクハラという概念がない。今も恐らくフィアは単なるスキンシップだと思っている。ほどほどにしてやってくれ」
「いややわぁ、骨やからって固いこと言うてぇ……これかてスキンシップやがな! どや、フィアたん、うちの眷属にならんか? 優しゅうすんで?」
「フン、ウチノフィアヲ神ノ下僕ニナドクレテヤルモノカ」
「下僕とちゃうわ! 眷属! ファミリア! 家族やがな!」
リヴェリアから向けられるすごい目*1を意に介せずフィアをファミリアへ勧誘するロキ(顔目当て)とそれを阻止しようと威嚇するグロス。
「ロキ、話が進まないからちょっと静かにしていろ」
「はーいママ」
「誰がママだ誰が……」
リヴェリアが溜息をつき、フィンが苦笑する。その後、改めてクノッソスの攻略作戦会議が始まった。喧々諤々、様々な意見が飛び交う中、自信ありげに声を上げたのが彼女だった。
「エムブラちゃんにいい考えがある」
思えば、そう言ったときの他の『異端児』たちの顔をよく見ていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。
「ええと……君は……」
「エムブラちゃんだよ」
「エムブラ。その考えというのは……」
「スマナイ、ホントウニスマナイチョット待ッテクレナイカ。コチラデ会議ヲスル」
エムブラに水を向けようとしたフィンだったが、すごい勢いでグロスが話を遮って、『異端児』たちで円陣を組んでの会議が始まった。なんだろうか、人間には聞かせたくない、『異端児』たちの秘密に触れようとしたのかと、フィンは納得する。まぁ、まだ信用がないのは当然だろう。そう簡単に歩み寄れはしない。
「大丈夫カ!? 本当ニ大丈夫ナンダロウナ!?」
「ブラっち、これで人間の信用失うのはマジ勘弁だからな!?」
「相手は地上で一番偉い人たちでスからネ!?*2」
違う、信用ないのあの子の方だこれ。
結局、「大丈夫大丈夫」と押し切ってエムブラがフィンと相対する。妙な緊張感が漂う。いや、本当に妙な緊張感なのである。
「ということでフィン、『闇派閥』って皆殺しで大丈夫なのかな」
「大丈夫ナノカハヤッパリオ前ダ!! 何ヲ聞イテル!?」
「いやいやグロス。実際のところ、皆殺しでいいのか尋問用の生き残りを作るのかで作戦は全然違うよ。中身まで石頭なんだから黙ってて」
「グ、グヌ……」
めちゃくちゃに罵倒があったが、事実ではあるので言い返せないグロス。
「あぁ、皆殺しで構わない。ただし、味方は巻き込まないように頼む」
「それなら、本当にいい方法がある。敵も減らせて、クノッソスの罠を全滅させる策が」
そうしてエムブラがフィンに依頼したことはひとつ。把握しているクノッソスの出入り口すべてに、突撃できるように人員を割り振って監視させること。エムブラ自身は、もっとも地上に近い位置にある出入り口で準備をするから、指定の時刻になったらロキを連れて来てほしいとも。
そしてもうひとつ。これは特に、『異端児』側へ言い含めていたことだが……
「……失敗だったか?」
親指がひどく痛んだが、痛み方から察するに、悪い結果にはならない。ただ、半端なく苦労はする。そんな痛み方だったために、結局エムブラの作戦を選んだ。
内通者の可能性を考えて、どんなことをするのかは説明しないで独断で進めるというのはエムブラの談。実際、フィンは内通者の存在――というか、
「……なぁ、これうちが名指しされたんてさぁ……」
「十中八九、神の送還をさせるためだろうね。どうやるのかはわからないが、クノッソス全体を無差別攻撃するみたいだし、『闇派閥』の神……タナトスあたりがいたら巻き込むだろうからね。しかし、それだとロキに無差別攻撃を実行させる必要がある。どうやって……?」
作戦の概要さえ知っているメンバーは、四幹部と『異端児』の代表者、そしてフェルズだけ。他のメンバーは、ただのクノッソス侵攻だとしか伝えていない。
今のところ、敵がクノッソスを出入りした形跡はないようだ。前回のように、内部で罠と共に待ち受けているのだろうか。
出入口前で、エムブラは待っていた。扉のほんの細い隙間から、管を差し込み、息を吹き入れている。靄人だけあって、その様子は近くからでも視認しにくい。
「……それが作戦かい?」
「あ、来た。一晩中やってたから、多分十分だと思うよ。じゃあ、ロキはこれ、離れたところから扉に向かって撃って」
ロキに渡されたのはクロスボウ。到底、オリハルコン製の扉に傷などつけられなさそうなものだ。それをロキに手渡し、フィンとロキ、そしてともに突入する人員を扉から離れた位置、特にできるだけ扉の正面から離れた位置へ連れていく。
もうすでに、フィンは親指とかではない嫌な予感がする。
「……ほんなら、いくで」
ロキがクロスボウを放つ。発射された
耳を劈くようなものすごい轟音を立てて扉が外側へ吹っ飛んだ。
「――は?」
その声はどの団員から出たものだっただろうか。あるいは、フィン自身かもしれない。
爆発音はどんどんクノッソスの奥へ奥へと遠ざかっていくが、なかなか止む気配はない。
「土壁出す魔法が使える人は、この出入口、ちょっと塞いでくれる?」
「え、あ、はい?」
エムブラの言葉になんとか反応したエルフの団員が、魔法で出入口を再び塞ぐ。その間、足元では幾度もの爆発と振動が響いていた。
「……これは、なにをやったんだい?」
「エムブラちゃんはね、他のモンスターの魔石を取り込んで変身できるんだ。その力を使ってクノッソスに吹き込み続けてたんだよ、一晩中」
アンフィス・バエナ。下層に現れる徘徊する
「アンフィス・バエナの息吹がどういう仕組みでできてるか知ってる?」
「あ、あぁ。体内器官で作られた体液を燃やしている。だから、魔法対策が役に立たないんだ」
「せーかーい。ついでに言うと、その体液ってすごく気化しやすいんだ。あっという間に気体になるんだけど、その状態でもめちゃくちゃ燃えやすいんだよね。しかも、空気よりは重いからどんどん下に沈んでいくんだ」
つまり、ここからその体液を吹き込み続ければ、気化した体液は気体となり、クノッソスの地下へ地下へと進んでだんだんクノッソスを満たしていく。そのうえで、そう、例えば火花か何かで着火でもしたら――
「クノッソス全体が爆発する、ということか……」
「ついでに、燃えるのにすごい勢いで空気を使うから、あっという間に息なんてできなくなるだろうね……問題もあるけど」
例えば、クノッソスが爆発に耐えきれず、オラリオ全体が地盤沈下を起こす可能性。これに関しては爆破の瞬間に本家の迷宮との繋がりが解けて崩落するようであれば、待機していたパポスによって迷宮指定し、地盤を強化することでなんとかする予定だった。
今回は
次に爆発さえ耐える相手がいた場合だが、今回の目的は罠の破壊が主だ。こちらはロキ・ファミリアの活躍に期待というところだろう。
焼夷体液は独特な臭いがするため、充満中に気づかれて逃げられることも考えていた。しかし、息吹になる前の体液を嗅ぐ機会は『闇派閥』には少なく、相手はそれを毒ガスか何かだと思ったのだろう。毒対策こそしていたものの、爆発するとは考えていなかった。
と、そんな風にエムブラが考察を話しているうちに、光の柱がクノッソスを貫いて空の彼方へと消えていった。
フィンが急いで確認を取るが、オラリオの神々は全員無事。つまりは。
「タナトスが送還されたんやろなぁ……あれ……」
「タイミング的に窒息死か自刃かな……爆発では死ねてないよね……運が良かったのか悪かったのか……」
結局、この爆破作戦によってクノッソスの罠の大部分は破壊され、突入部隊は酸素の発生を待ってからクノッソスを攻略。『ダイダロスの手記』を入手し、クノッソスの主であったバルカの死亡も確認した。
そして、突入からしばらく立った頃である。フィンの『
『クノッソスにて貧困神ペニアの身柄を保護しました! やはり、送還されかけていました!』
「よし、確定だ。総員、神ディオニュソスを捕らえろ!!」
『眼晶』でのフィンの呼び掛けに対応して、ディオニュソスをその場で拘束する団員たち。ディオニュソスはしばらく白を切って抵抗していたが、フィンが合流するとやがて観念したのか笑い始める。
「ハハハッ、どこで気づいた?」
「討論会でレフィーヤに向けて、ワシリーサが質問した時、親指が酷く痛んだんだ。その理由を考えていた」
あの時、ワシリーサはレフィーヤの答えでピュグマリオン関係者が行動を起こすことはないと言っていた。
であれば『異端児』か他のファミリアが暴れるのか? いや、それであれば親指は疼きこそするものの、あそこまでの痛みになることは経験上ない。
「そう考えていって気づいたんだ。ワシリーサが言っていたのは『異端児』ではなく『体に魔石がある者』との友好の可否であることを」
そして、そこから導き出されるのは、レフィーヤが既にそうと気づかず、『体に魔石がある人間』、すなわち『怪人』と友好を築いており、それが破綻することでレフィーヤに精神的なダメージが入るという可能性。
そして、レフィーヤの交友関係はロキ・ファミリア内部を除けば意外に狭い。その中で、今怪しい者に近い相手はと考えれば、ちょうどそれらしすぎる人物が浮かび上がった。
レフィーヤが交友を結び、ダンジョン内で死にかけ、怪しいディオニュソスに近い人間。すなわち、フィルヴィス・シャリアである。
「そこで、あなたがこの作戦に同行すると言った時、何をしようとするのか考え、神の送還を偽るのではないかと考えついた。だから、女団員のハニートラップであなたの眷属を引っ掛けて背中を見せてもらったよ。ロックが掛かっていても、どの神の恩恵かは刻印でわかるからね。案の定、そこにあったのは神ペニアのエンブレムだったよ」
「ふん、役立たずめ……まぁいい、どちらにしろ表舞台からは降りる予定だった。お前たちの足掻きと来る
「総員警戒!!」
フィルヴィスが怪人であると考えてから、次に考えたのは怪人エインとの関係である。
オリヴァス・アクトは顔を隠していた。彼は死人だから、『闇派閥』と関わる上で素性を隠したかったのだろう。対して同じ怪人であるレヴィスは顔を隠していない。
であれば、仮面を着けているエインは顔を隠す必要がある人物であり、フィルヴィスと関係があるのではないかと考察することができた。
そこでフィンは、ピュグマリオン・ファミリアのパラケルススに接触。エインと邂逅した際に《タブラ・スマラグディナ》に魔法が所蔵されなかったかを確認した。
レフィーヤに頼んで所蔵魔法を総ざらいしても良かったのだが、流石にフィルヴィスが黒であることを確かめるような作業をやらせるのは、レフィーヤの精神的な負荷が強すぎるという理由で避けた。
幸い、パラケルススは特に気にすることもなく教えてくれた。《エインセル》という分身魔法の存在を。
『団長っ!! フィルヴィスさんが怪人に!!』
「来るぞっ!!」
レフィーヤからの通信。エインが分身を消してやってくることを察し、フィンが叫ぶ。
ひとつだけ、フィンにとって誤算だったのは、今までの怪人とエインの本当の実力との差だろう。これまでエインはあまり戦う姿を見せてこなかった。
また、レヴィスもオリヴァスも、Lv6であるアイズやベートで実力伯仲、あるいは上回ることができていた。だから、Lv6である自分とリヴェリアがいるここであれば、エインが来ても対応できると考えていたのだ。
瞬間、ディオニュソスを拘束していた者の頭が弾けた。
「――なッ!?」
眼の前に現れたエインは、瞬く間にディオニュソスを連れ去りその場を離脱する。そしてその速度を見て、フィンは驚愕した。
「(見誤ったっ!! あれは、Lv7相当のステイタスだ!!)」
「フィン!! どうする、追うか!?」
「いや、やめておこう。神ディオニュソスがエニュオだと確信が取れれば、ディオニュソス自身ができることはほとんどない。それに、エインと戦うなら、もっと戦力を整えてからの方が良い……リヴェリアも見ただろう」
「……あぁ。あれはLv7に届くだろうな……」
逃げ去るディオニュソスとエインを見送りながら、フィンは現れた新たな壁に思考を巡らせる。
そして、クノッソスの探索を経て、エニュオの目的が古の魔法『精霊の六円環』によるオラリオの破壊であることが明らかになり、舞台はオラリオによる総力戦へ移り変わっていくのであった。