人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
第二次クノッソス侵攻作戦。クノッソス内部。
大鐘楼の音が響き渡り、エイン――フィルヴィスとの戦いも終わりを迎える。フィルヴィスの隙をベートが刈り取って致命傷を負わせた。
そして、自分の手で好ましい同胞の魔石を砕いたレフィーヤの目は、まだ死んではいなかった。
「ベートさん! 周囲の警戒を! 春姫さんは私に《ウチデノコヅチ》をかけてください!!」
「ッ、なんかあるんだな!?」
「は、はい!!」
消滅していくフィルヴィスの体。何かを言い残そうとしていたその口はレフィーヤの気迫に飲まれ、目は見開かれてレフィーヤを見つめている。
そんな中、レフィーヤはここ数日で幾度となく唱えることとなった魔法を詠唱する。
「【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、
それは、同胞の力を借り受ける、本来人が持つ魔法は3つまでという制限を超える理外の魔法。《エルフ・リング》。レフィーヤが『
そして、続けて唱えるのは理外の魔法に対して新たな理とも言える魔法。あらゆる制約なく魔法を所蔵する緑色の目録。
「【偉大なる、偉大なる、偉大なる我が造物主よ。フラスコの中の私に汎ゆる知識を与え給え。12の奥義、賢者の石、叡智湛えし緑玉板をここに】」
世界最新の始祖が操る魔本。
「《タブラ・スマラグディナ》!!」
レフィーヤの手に現れる魔本。それと同時に急速に失われていく精神力を、レフィーヤは手に持った魔力ポーションの注射器を直接血管へ突き刺して回復させる。
精神力が失われる感覚と無理やり充填される感覚が混ざり合い、酩酊感と強い吐き気に襲われるが、ここでやめるわけにはいかない。
「【舞い踊れ】《ウチデノコヅチ》!!」
春姫の超越魔法、擬似的なランクアップ効果を与える規格外のバフがレフィーヤにかかり、
「【運命を編め、その心を繋ぎ留めろ。汝、狼の王に寄り添う白】《ブランカ・アルネス》!!」
続いて唱えるのは、隣りにいる『
結界を編んでの防御に敵の拘束と、その汎用性は広く用途は多岐にわたる。しかし、その真価は詠唱式の中に隠されている。
すなわちそれは、繋ぎ留める魔法。
「これ……は……」
「【終わる幻想、還る魂ーー引き裂けぬ
「そ、それは……」
革紐がフィルヴィスに巻き付く。それだけで、
まだレフィーヤは止まらない。続いて唱えるのは眼の前にいる友人の――その核とも言える魔法。フィンがパラケルススに尋ねるより前に、魔本を開く鍛錬で見つけていた分身魔法。
「「《エインセル》」」
レフィーヤの姿がブレ、そこにふたつの少女が現れる。間髪入れず、レフィーヤは互いに魔力ポーションの注射器を刺しながら、互いに向けて魔法をかける。
「「【――大きくなれ】」」
「っ! それは……!」
春姫が絶句する。
その魔法の制約のひとつ。それは、自身にはかけることができないという制限。
「「【
リビングドールには意味がない故にパラケルススは考えもせず、レフィーヤだけが見つけることのできた抜け道。
それは、分身した自分ではない自分にかけるという本来ありえない裏技。
「「【
かくして、賭けは成る。
「「《ウチデノコヅチ》!!」」
魔法をかけた瞬間、レフィーヤは分身を解く。Lv5のレフィーヤに、さらに2つ分のランクアップ。
今この瞬間、レフィーヤは確かに師を超え、オラリオ最強に並んだ。
しかし、広がりすぎた器にはヒビが入る。限界を超えて稼働する体は壊れ続けていく。口の端から血を吐きながら、その体を『人魚の生き血』と魔力ポーションで無理やり繋ぐ。
「も、もういい! これ以上はお前の体が――」
「【偽りの神よ。汝、我が身に過ぎたる力を下ろし給え】!!」
たとえその身が壊れても、レフィーヤはやると決めたそれから逃げることをしない。
意識さえ混濁を見せる中、レフィーヤは誰のものかもわからない魔法を唱える。それは、彼女の知るはずもない、魔本の本来の持ち主が知る、ある開発者の魔法。
本来リビングドールにしか効果を及ぼさないそれは、『効果はレベルに依存する』という性質とLv7まで昇華したレベルにより踏み倒され、効果を及ぼす。
「《アドベンド・デミウルゴス》!!」
その効果は、自らが望む発展アビリティの一時発現。宿す発展アビリティは、《錬金術》《神秘》、そして《人形》。
気が遠くなる。眼の前が霞む。しかし、ここまで来た。
春姫も、リューも、ベートも、フィルヴィスさえも絶句している。あとは、画竜点睛だけだ。
「な――にを……」
「――【右手には槌、左手に鑿、命宿るまで放さぬことを誓おう】」
レフィーヤがフィルヴィスの体に手を触れる。《錬金術》を通して、その体の
それをまた《錬金術》と《神秘》を通して変えていく。失われた
「【象牙の体、祈りの心、魂降りるまで動かぬことを誓おう】」
「ッ、やってやれ、レフィーヤ!!」
目が霞み、手が震える。手が離せないレフィーヤに代わり、ベートが魔力ポーションの注射器をレフィーヤの首筋に刺した。
この魔法が誰のものなのかなど知らない。有り得ていいものなのかさえわからない。本来は、知ったならすぐに団長であるフィンか、主神のロキに報告すべきだ。
しかし、レフィーヤはこの瞬間のためにすべてを秘匿し、ただ詠唱を暗記してきた。
「【女神の真名に女神の似姿、愛届くまで終わらぬことを誓おう】」
それは奇跡。
「【命あれ】!」
それは願い。
「【命あれ】!」
それは祈り。
「【命あれ】ぇ!!」
蘇生魔法でさえ取り戻せぬ生命を繋ぎ止めるため、レフィーヤはその魔法を唱える。
告げる終句。それは本心。
「【時よ動け、お前は美しい】……!」
過去の地獄で時を止め、自らを穢れていると信じ続けた気高き同胞への――嘘偽りなき本心。
かくして、人形の偽神とその伴侶の名の下に、稚き妖精の願いは叶えられ、奇跡は起こる。
「【ディア・ガラテア】」
「――ああ、お前は、酷いやつだ……」
時は遡り、地上。
オラリオを見渡せるバベルの塔の一角で、すべての黒幕であるエニュオことディオニュソスと、ロキ、そしてヘルメスが対峙していた。
「お前の負けや、ディオニュソス。精霊の分身ももうじきに倒される」
「……ククク、ハハハハハ!! 下に降りてきて、狡知が鈍ったんじゃないか? ロキ……私が
「なんやと?」
その直後に、ロキの『
『ロキ、大変だ! 精霊の分身に、7匹目がいた!!』
「なッ!!」
「ハーハハハハハ!!! そうだ、それこそが本命! 冒険者を殲滅するために用意した竜の精霊の分身、名を、ニーズホッグ!!」
ディオニュソスが見下すように哄笑する。そして、とある方角を見て、続ける。
「――それだけじゃあない」
その方角に突如立ち上った、黒い竜巻。
「――なんや、アレ」
「……教えてやろう。あれが地上から、このオラリオを破壊するモンスター。蘇りし厄災」
その方角にあるのは、黒い砂漠。
「名付けるならそうだな……ベヒーモス・オルタナティヴというのはどうかな?」
絶望が、再誕する。
「ハハハハハハハハハ!! かつてアレを打倒したゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアはもういない!! ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアは地の底だ!! 誰もオラリオを助けはしない!! さぁ、
「……まさか、ここまでとはなぁ……」
ポツリと呟かれたロキの一言に、ディオニュソスは悦に入りながら聞き返す。
「んん? なんだ? 神ロキとあろうものが諦めたのか? まぁそれも仕方ないだろう。アレは――」
「ちゃうわアホ」
それをロキが否定した直後。竜巻のひとつが霧散し、悍ましい悲鳴が響き渡る。
まるで、何者かがその竜巻の主に一撃を与えたかのように。
「ッ、なんだ、なにが――」
「まさか、
クノッソス侵攻への直接的な出兵を断られた時はこんな時にまでと思わなくもなかったが、これを見据えていたと言うなら、認めよう。
その先を見据える能力は、ここにいるどの神よりも上回った。
「情けないけど、頼むで、ピュグマリオン……!!」
黒の砂漠。黒の竜巻。黒の怪物。
相対するは、対照的な、白装束の娘たち。
「総員、配置につきなさい」
見通していたなど、大層なことではない。ただ、広くを知っていただけ。
「本日の業務は、
酷く個人的な理由で、彼女たちは世界の危機に挑む。
「それでは、業務を開始します」
レヴィス「アリアァ!! 結局あのハイエルフはなんだったんだァ!!」
アイズ「私も知らない……!!」
そんな会話があったとかなかったとか。