人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか 作:仙託びゟ
ベヒーモス。それは、最高Lv9、Lv7も多くいたゼウス・ヘラ連合や、多くのファミリアが束になってようやく勝利したモンスター。
対して、ピュグマリオン・ファミリアの最高レベルがガラテアのLv7。いくら多少性能が劣化しているとはいえ、普通に考えれば敵う相手ではない。ディオニュソスもそう考えていた。
しかし、そんなもの覆す手段はいくらでもある。
「【愛しき雪。愛しき
パラケルススの背後に、
「【
怒涛の短文、超短文詠唱。しかしその短さに反し、その効能はどれもが強力無比。
「【アガリス・アルヴェシンス=エアリアル=クロックワーク・オレンジ=ラウルス・ヒルド】」
尾に装填された炎雷嵐がピュグマリオンの眷属へ向けて放たれ、高揚魔法と合わさり全員のステイタスが爆発的な補正を得る。その補正値、レベル換算で+2に迫るほど。
フレイヤ・ファミリアのヘディンが隠し持っていた*1魔法《ラウルス・ヒルド》の副作用によってすべての精神力が注ぎ込まれるが、事前に用意していたウダイオスの魔石を砕いて精神力を回収、意識を保ってさらに回復へ意識を向ける。
「【巡れ、神血。我こそは神妃を守る青銅の巨人】!!」
解呪式と共に体を縮めていたタロスの魔法が解かれ、10
ベヒーモス・オルタナティヴの放つ毒の霧は《エアリアル》の風によって吹き飛ばされるものの、体表から流れる毒汗はそうもいかない。毒自体が体に回ることこそないが腐食性は健在。青銅の体が溶かされ始める。
しかし、炎雷嵐によって腐食した青銅が赤熱し毒が分離、蒸発させながら、溶けた青銅はスキル《
「総員、構えェッ!! 撃てエェッ!!」
ベヒーモス・オルタナティヴの動きが止められたタイミングで、クララの号叫が飛ぶ。『
亜光速にまで加速したアダマンタイトの弾丸は電撃の尾を帯びながら、Lv7でも目で追えない速度でベヒーモス・オルタナティヴにまで飛来し、その強固な装甲を撃ち抜いて体内で爆発する。
悍ましい悲鳴、あるいは反撃の
毒に侵されぬ体と、恐れなき精神。彼女たちは確かに、ベヒーモス・オルタナティヴにとって、ある種の天敵と言えた。
自身の装甲を撃ち抜いた存在を脅威と見たか、ベヒーモス・オルタナティヴはその尾を振るい、砲列を薙ぎ倒しにかかる。
襲いかかる柱のような尾。その前に躍り出る影があった。
「【この身は守る為にあり】《スターディ・スタバーン》!!」
その詠唱を都度3回。重ねられた耐久補正と、総オリハルコン製*2の壁盾でもって、真正面からその攻撃を押し留める。
「いやーん!」
「いやああああああああん!!?」
――事ができるはずもなく、上方へカチ上げた尾は砲列の上を通り、上空から狙っていたメリーの方向へと飛んでいった。
メリーはなんとかその尾に手をついて、跳ね上がるように躱すが、表面の毒にやられて手が爛れ溶ける。すかさず、パラケルススから修繕魔法が飛んでくる。
「なにしてんのです!? なんで受け止められると思ったのです!?」
「いや、エンチャントが強すぎて行けるかと……」
「パラケルススの結界に任せとくのです!! これ単身でなんとかなるレベルの問題じゃねえのですよ!! 【私、メリーさん、今あなたの後ろにいるの】!!」
他の団員の背後を辿り、ベヒーモス・オルタナティヴの死角へ入り込むメリー。そこから再び空中に飛び上がり、身の丈を超える槍に奇襲による『貫通属性』を付与して、ベヒーモス・オルタナティヴの背中へと投擲する。
ベヒーモス・オルタナティヴの背に突き刺さる2本の槍。それはレールガンにも使われているサンダ・スネイクの牙で作られた投槍。
「オッケーなのです!! パラケルスス!!」
「【永伐せよ、不滅の雷将】《ヴァリアン・ヒルド》!!」
パラケルススが発動するのは、島ひとつを焼き尽くすほどの殲滅火力が出る
それはベヒーモス・オルタナティヴの体表を砕くと共に、突き刺さった槍を伝ってベヒーモス・オルタナティヴの体内を焼き焦がす。再び、獣の絶叫が響いた。
それに呼応して生み出される、無数の黒い獣。ベヒーモス・オルタナティヴの子供たち。それひとつひとつが下層から深層のモンスターに匹敵する化物。
しかし、普段から深層のモンスターの群れ、ウダイオスの召喚するスパルトイを相手にしているタロスが、黒い獣を担ぎ上げて地面に、あるいはベヒーモス・オルタナティヴに叩きつけ、衝撃で魔石が砕け消滅する。
続いて、ベヒーモス・オルタナティヴが毒を含む風を圧縮し、風弾として発射する。地面を抉り、鉄を砕く高威力の風弾。しかしそれも毒そのものと異なり、魔法属性の攻撃だ。
「【
つまり、《
鳴り響く魔法と魔笛の雷鳴によって、ベヒーモス・オルタナティヴは着実に削られていく。そんな中で、ベヒーモス・オルタナティヴはついに黒い竜巻を動かし始めた。
しかし、ガラテアが鑿矛を竜巻に向かって振るうだけで、竜巻は霧散する。《非生物特攻》の能力は、何も固体だけに作用するものではないのだ。
そして、遂にその時が訪れた。
そこに、気合も、叫びも、決死もない。
ただ無言で淡々と、ガラテアが鑿矛をベヒーモス・オルタナティヴの首に突き立てる。毒の体液が噴き出し、ガラテアの体を溶かす。
しかし、自身の崩壊もベヒーモス・オルタナティヴの悲鳴も意に介さず、ガラテアは炎雷嵐を解放させながら鑿矛をさらに首へと突き入れた。
突沸した体液が弾け、爆発し、ベヒーモス・オルタナティヴの首が転がった。
ベヒーモス・オルタナティヴの体が消滅し始め、やがてドロップアイテムを残してその場から消え去った。
「業務完了。帰還しましょう」
修繕魔法を受けながらガラテアは言う。
同時に、大鐘楼の音が響いてきた。もうひとつの決着も近いようである。
「いやぁ、派手さはないがいい演目だった。ベル・クラネルの方が劇的な展開であるから、バランスは取れているのかな? オラリオに来た甲斐はあったということかな」
その様子をひとり、イチマツ・菊を護衛に観覧していたピュグマリオンが手を叩く。
「さて、僕も仕事をするとしよう。まずは三流脚本家に挨拶、かな」
「バ、カな……!?」
ベヒーモス・オルタナティヴが、ニーズホッグが、打倒された。ニーズホッグの唱えていた自爆の詠唱は止み、立ち上っていた黒い竜巻は断末魔の叫びとともに消え去った。
立ち尽くすディオニュソスに対して、ロキは勝利を告げる。半年前に現れた新生の『未知』と、8年前から何も明らかにならない古豪の『未知』。ふたつの『未知』が、ディオニュソスの企みを打ち砕いたのだと。
「クソ、クソクソクソ、クソがぁああああああああ!!」
錯乱したディオニュソスは一矢報いようと、懐から抜いた短剣を手にロキへ迫る。しかしこの場にはロキだけではなくヘルメスもいるのだ。その襲撃は不発になるはずだった。
事実、その攻撃は成功しなかった。ただし、想定外の方向で。
「往生際が悪いぴょん」
「ナグァアッ!!?」
「うわっ」
いつの間にかそこにいた、正確には最初からそこにいたチェレンが、後ろから手加減した蹴りを*3ディオニュソスの股間に放ち、ディオニュソスはちょっと浮いたあと、その場に崩れ落ちる。ヘルメスは顔を引き攣らせて股間を押さえた。
そして、そこにいたのはチェレンだけではない。
「やぁ、アポロンの酒宴以来だね、ディオニュソス」
「ピュ、ピュグマリオンんんんんん……!!」
呻きながら、眼の前に現れた木偶に対して怨嗟の声をあげながら睨めつけるディオニュソスを、ピュグマリオンはなんの感慨もなく見下ろす。
「クソッ、こんなところにまで木偶を使わなければ来られない臆病者がァ……!!」
「悪いね。本体はガラテアたちと一緒に現場にいるんだ。生のベヒーモスを見たお陰で、いいインスピレーションが得られたよ」
「なっ……!?」
なんの耐性も持たない神にとって、ベヒーモスのいる戦場など処刑台でしかない。しかし、ピュグマリオンに嘘をついている様子はない。
「な、なんなんだ貴様は!! 貴様のせいで『大抗争』でも、それ以降も!! 民は安定し、
「知らないよ。僕はただ人形を作り、人形を愛でていたいだけだ。それ以外のことなんて知ったことじゃあないんだ。君が勝手に意識して勝手に地団駄を踏んでいるだけじゃないか」
流れ弾が飛んできて崩れ落ちるヘルメスを無視して、ピュグマリオンはロキへと話しかける。
「やぁ神ロキ。こいつの処遇は僕が任されていいかな? あぁ、何発か殴りたいなら好きにしていいから」
「はぁ? ……まぁ、お前にそう言われてダメ言えるわけないやん。どんだけ功績ある思っとんねん……」
言いながらも、ゲシゲシという効果音では足りない程度の強さでディオニュソスの顔面を蹴るロキ。チェレンに拘束されてもはや抜け出せないディオニュソスは、無様に喚きながら切り捨ててきた者たちへ助けを求める。
しかし、その叫びがフィルヴィスへのものに変わった時、フィルヴィスから分裂したエインとしてのフィルヴィスが、消えかけの死に体として入ってきて、ディオニュソスに縋り付いた。
ディオニュソスはそんなフィルヴィスにDV彼氏さながらの暴言と愛を囁くので、ピュグマリオンが連れてきたとある神がすごい顔をしている。
しかし、ディオニュソスが「天界に行こうとも逃さない」的なことを言った時だ。フィルヴィスが困惑したような、申し訳ないような顔で告げる。
「それが……レフィーヤが使った謎の魔法で、本体の私が怪人でもなくなった状態で延命されてしまい……」
「なっ、バカな!? 恩恵の繋がりは失せているんだぞ!?」
「えっ、なんそれ知らん、怖っ……」
動揺するディオニュソス。またしても何も知らないロキ。ロキはピュグマリオンの連れてきた面子に視線を向けるが、一斉に目を逸らした。
「また貴様かぁ!! ピュグマリオンンンンン!!」
「それじゃ処置しちゃおうか」
消えていくフィルヴィス(エイン)をよそにピュグマリオンへ憎しみを叫ぶディオニュソス。それを無視して、ピュグマリオンは連れてきていた神々に声をかけた。
「うむ、あまりこういうことはしたくないのだが……相手は外道故にな……」
「ディオニュソス、お前の酒は味わわせてもらった。できるなら、酒について語り合いたかったよ」
ピュグマリオンの従属神、ミアハとソーマが共に懐から何かを取り出し、ディオニュソスに飲ませ始める。
「な、これは……!?」
「お前と同じ、デメテルの作物を使って作った、
「く、クソッ!!」
「私のはそう珍しいものではないさ。ただの催眠剤だ。お前が流していた麻薬に近いが、より暗示にかかりやすくなるものだよ」
準備は整った。最後の詰めが現れる。
「さて、真打ち登場ね! 美神、アフロディーテがあなたに判決を与えるわ!!」
「……! お、おい、まさか……!!」
「えぇ、命令よ。『あなたの意識は深く沈む。今この時から、神酒によって歪められた善なる人格こそがあなたの主人格。邪悪なる酩酊神よ。あなたは善神の心の裏に永遠に封印され、意識を保ちながら何もできず、ただ安寧と平穏を尊び護る己の姿を退屈に眺めていなさい』!!」
「あ、あ、い、嫌だあああああああああああああああああああ!!!!」
ディオニュソスの断末魔の叫び。
「さて、気分はどうかな? ディオニュソス」
「最悪な気分だよ……償いきれない罪を、一体私はどうすればいいんだ……」
「なら、善行を積むといい。慰めではなく、それが間違いなく君にとっての罰になる。やかましい同居人にもね」
「ははは、これから先のことを考えて泣き喚いているのが聞こえるよ。確かにこれは、スッとする」
こうして、黒幕が消え去る形でオラリオに潜んでいた闇は晴れた。表向きにはディオニュソスは黒幕エニュオを追っていた最中に入れ替わられていたことになった。
ペニアの眷属に
ディオニュソスは諸問題からロキ・ファミリアの傘下に入ることとなった。その理由は明かされなかったが、フィルヴィスの恩恵に関することであり、これはロキ・ファミリアの中でもごく一部の人間にのみ明かされることとなった。
こうして、オラリオに根付いてきた闇は晴れたものの、結果的に数多の神の胃にダメージを与える結末を迎えるのだった。