人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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従業員雇用(拉致)

ピュグマリオンの目の前に2体のモンスターがいる。

 片や上層の下級モンスターとしては非常にポピュラーである矮犬鬼(コボルト)。二足歩行の小柄な犬の姿をしたモンスターであり、牙や爪、俊敏さと、群れで現れたときの連携から小鬼(ゴブリン)に比べれば手強く、駆け出しの冒険者が実力を伸ばすのには最適とされており、事実、『闘国(テルスキュラ)』ではアマゾネスたちの戦いの練習台とされることも多い。ちなみに、特徴としては犬に近いモンスターではあるが、人狼(ルー・ガルー)の近縁種であると考えられているがゆえに狼扱いをされている。

 もう片方は、小人族(パルゥム)よりも小柄な人間に近い体格と、人間とは明らかに異なる緑色の肌。そして頭頂部に咲いた花冠(かかん)という特徴を持つモンスター、花夢魔(アルラウネ)である。迷宮においては上層と中層の境目辺りに出没する低級悪魔(インプ)の亜種とされており、他モンスターの治療や花粉でのデバフを行う厄介者である。

 総じて、アルラウネはレアモンスターではあるが2種とも冒険者には名の知れた一般的なモンスターだ。ただし明らかな相違点がある。それは例えば、女型モンスターの共通点として、半人半鳥(ハーピィ)竜女(ヴィーヴル)と同様に醜悪な容姿をしているはずのアルラウネの外見が限りなく普通の人間に近い――むしろ見目麗しい――ものになっていることであり、例えば警戒や敵意こそ伝わってくるものの、迷宮のモンスターに共通する憎悪のような殺意が目の前のモンスターにはないようであることだ。

 とはいえ、迷宮に潜ったことがないどころかモンスターと対面するのも初めてであるピュグマリオンには、そんなことは判別できないのだが。

 

 問題は、そんな存在が何故か迷宮を飛び出し、ピュグマリオン・ファミリアの本拠地(ホーム)であるピュグマリオンの目の前にいることだ。

 ちなみに単に「どうやって」を問うのなら、両モンスターともに小人族よりもさらに小柄な体格をしているがために、バックパックに詰めて迷宮から密輸したという極単純な方法であった。

 とはいえ、その極単純な方法さえ、様々な偶然が噛み合った結果である。まずひとつめに、このコボルトとアルラウネの存在を『愚者(フェルズ)』、ひいてはウラノスが把握していなかったこと。理由は簡単で、まず彼らが『異端児』の隠れ里から離れた上層のモンスターであり、かつ生まれてから間もなかったが故にフェルズよりも先にガラテアたちに見つかったのだ。

 そして、隠れ里の『異端児』たちと出会っていなかった若い個体であるが故に人間に対する疑心もまた芽吹いておらず、キラーアントの群れに襲われていたところを助けられたという恩に加え己の目的である「空を見る」あるいは「太陽を浴びる」という夢と、自身の常識が告げる「人間はモンスターを殺す存在」という警戒心を天秤にかけても、比較的協力的に連行されてきたのだ。

 

「ふむ、で、何故それがここに?」

 

「《人形生命(アイボリー・ハート)》の能力である同スキル所持者での念話で()()()()()に確認したところ、一度連れて帰るようにと希望がありましたので……」

 

「いやぁ、面白いですねぇ! 迷宮の常識を外れた存在! 厄介事の香りがしますよ!」

 

 そう言って2体のモンスターを舐め回すように観察するのは、ガラテアたちと同じく白髪灰眼の少女。狐人(ルナール)の特徴を持ったリビングドールであり、ピュグマリオンによって『発明家(インベンター)』の役割(ロール)を与えられた新たな眷属、ワシリーサであった。

 

「あ、いや、面白半分でお願いしたわけではないんですよ。ただ()()()()()()()だけでして」

 

「都合ですか?」

 

「えぇ。ワタシが任された『ピュグマリオン商会』の初めての主力商品として考えているのが調味料なのですが、ワタシではその発案はできても試作が難しかったのです。ホラ、我々リビングドールは()()()()()()()が薄いでしょう? 味見を必要とする調味料開発には致命的なんですよね!」

 

 ワシリーサの発言は事実であり、リビングドールは総じて一部の感覚器官が鈍い傾向にある。それは、基本鋭敏な感覚を持つ獣人をモデルとしたワシリーサも例外ではなかった。

 

「かと言って我々の秘密を漏らさないためには、簡単に開発の場へと人を雇うことはできません。なので当初は主神様(グランドマスター)の眷属を派遣していただこうと考えていたのですが、このコボルトがいれば話は変わります! 犬と言うのは人間に比べ、嗅覚はもちろんのこと味覚もはるかに発達した生き物*1です! それをベースとしたモンスターであるコボルトであれば、調味料開発にはピッタリでしょう! さらには彼ら自身が一種の禁忌(タブー)であるが故に我々の秘密を自発的に外に漏らすこともなく、外部から雇い入れるには最適だと考えます!」

 

「ボクは犬じゃなくて狼のモンスターだ!!」

 

 コボルトからの抗議は、モンスターが喋った事も含めスルーされた。なお、ガラテアたちはともかくピュグマリオンが理性あるモンスター――彼女らは知る由もないが、彼らをよく知る者からは『異端児(ゼノス)』と呼ばれる存在である彼ら――に対して忌避感や拒絶反応がないのは、そもそもピュグマリオンがモンスターと言う存在に対して嫌悪感を抱くほど触れ合ったことがなく、興味を持っていないからである。

 ピュグマリオンにとってモンスターは森の村に住んでいたときに出会っていた狼や猪と同じ()()でしかなく、それらが自分の利益になる行動を取るならば監視はしながらもそれを容認し、理性がありコミュニケーションを取れることはプラスの要素でしかないのだ。

 

「アルラウネについては?」

 

「元々は、コボルトくんがアルラウネくんを守っていたことから、引き離してしまっては友好的な交渉ができないと考えて一緒につれてきてもらったんですが、考えてみれば都合がいいです。アルラウネの本来のドロップアイテムは高品質なポーションの材料になりますし、アルラウネの蜜は治癒効果があることも有名です。まぁ、死んだら消えるので主にその蜜の恩恵に与るのはモンスターなのですが……流石に殺すわけにはいかないのでドロップアイテムとは参りませんが、生え変わりを採取するだけでもコンスタントに素材を手に入れることができますし、定期的に流通させられるなら医療系ファミリアに対する手札になります」

 

 オラリオにおいて、医療系ファミリアとは生命線である。治癒魔法の使い手は希少で絶対的に数が足りていない。それを補っているのが、医療系ファミリアが生産・販売するポーション類で、これらへの依存度は治癒師(ヒーラー)を抱える大派閥であっても大きなものだ。

 そしてこのポーションは需要がかなり高いのに対して、信頼できる派閥のポーションほど原価率もまた高い傾向にある。故に、ポーションの素材を安定供給――材料費の軽減に協力出来ればそれは医療系ファミリアへの貸しになる。

 アルラウネの花弁は通常のポーションの調合途中に粉末として混ぜ込むことで品質を上昇させる効果がある。それこそ、中品質のポーションがハイポーション並の効能になるほどに。

 例えば取引の際、こちらの取り分を減らす代わりに、アルラウネの花弁によってできる上品質ポーションの値段を下げるように交渉することもできる。そうすれば、医療系ファミリアからすれば本来は中品質ポーションをハイポーション並の値段で売れるところを値下げしなければならないのだが、それでも増える利幅からすれば十分なものになるし、冒険者からすれば安く高品質なポーションが手に入る。

 捕らぬ狸の皮算用ではあるが、成功すれば大きくオラリオへの影響力を増すことができるのである。

 

「それに加えて、アルラウネくんに魔石を与えて強化種にすれば、植物の成長を促進する能力に目覚めるかもしれません。そうすれば狭い範囲で野菜や果実の品種を改良し、苗をデメテル・ファミリアに提供することで横の繋がりを増やすことも可能です。仮定に仮定を重ねてはいますが、影響力を増すという目的にはそぐうでしょう?」

 

「なるほど、確かに……しかし、我々は特に忌避感なく接しているが、オラリオの住人からすればかなり大きな爆弾なのでは? 彼らの願いはどちらとも空が見える場所に身を晒す必要があるが」

 

「幸いなことに、この『象牙座工房(ホーム)』を囲う塀は高く中を覗くのは困難ですし、また侵入者が入りにくい構造になっています。それに、初日にバベルから視線を感じたという理由で、ここはバベルからは遮蔽があって直接は見えない位置になっているでしょう?」

 

「えぇ。外から見えないという点にはじめは渋られましたが、ガネーシャ・ファミリアが近隣にあることを告げてなんとか承諾して貰いました」

 

「万が一バレてしまっても、彼らに理性があることさえ隠し通せれば、どちらも上層のモンスターで危険度は低いと思われていますから、嘘を吐かないように誤魔化しながらテイムモンスターとして押し切ることはできます。ワタシとしましてはリスクをリターンが上回ると思うのですが、いかがでしょう?」

 

 侃々諤々あったが、最終的にこのコボルトとアルラウネたちは『ピュグマリオン商会』の秘密従業員として雇うことが決定された。なお、彼らに拒否権はなかったが、好条件での雇用ではあるので文句は出ないだろう。

 それと同時に、彼らと同じ理性あるモンスターの中で、交渉ができかつ有用な技能を持つモンスターを捜索することも、ガラテアたちの活動方針に加えられた。

 

「つきましては主人(マスター)! 理性あるモンスター捜索と周囲からの情報隠蔽をこなすために、『情報兵(インヴェスティゲーター)』の施工をお願いいたします!」

 

「次から次へ増えるね。まぁいいさ、彼らのおかげで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 こうして、ピュグマリオン・ファミリアは状況に応じて進路を修正しながらも、ピュグマリオンの人形作りに最適な環境構築という目的に向かって歩き続ける。

 なお、ピュグマリオンの()()()()()()()()()()()()によって生まれた『情報兵(インヴェスティゲーター)』を見せられた上に、このコボルトとアルラウネに恩恵を授けられないか聞かれたアフロディーテの胃の被害は考慮しないものとする。

*1
味蕾の数は人間に劣るので間違った情報であるが、間違った情報が主流の時代でありその情報をもとに作られたモンスターであるためコボルトも味覚が鋭い。




追記:ランクアップの跳ね上がり方を無礼()めていたので修正しました。
でもピュグマリオンが強いのは解釈違いなので、スキルにクソデメリットをつけてランクアップの跳ね上がりを抑制しました。
これからもピュグマリオンはレベルの高いだけの雑魚でお願いします。
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