人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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新商品のための新商品

 ピュグマリオンが『工作者(クラフトマン)』を始めとした人員拡張、ワシリーサとファネスが調味料の開発、コッペリアが情報工作、アナクサが高速世代交代による品種改良と、それぞれが商会設立に向けた準備を進める中、チームガラテアはいつものように迷宮へと潜っていた。

 

 さて、疲れを感じないため休憩せずに戦い続けられるリビングドールではあるが、換金される魔石の量は他の冒険者と大差ない。その理由は容易に想像がつくだろう。自分たちで食べる分と、本拠地(ホーム)に持ち帰って迷宮へ潜っていない団員や『異端児(ゼノス)』たちに食べさせる分。こうすることで、迷宮へ潜っていない団員も経験値稼ぎが可能になる。

 

「ヒーちゃん、いま基本アビリティどのくらいなのです?」

 

「力と耐久がBに乗って、器用と敏捷がEの半ばくらい。魔力は未だ0のままだ」

 

「私メリーさんは敏捷と器用がBで、魔力がD、力と耐久がFだから、ほとんど逆のステイタスなのですね」

 

 チームガラテアは全員前衛である。戦士ガラテア、重戦士ヒガントーナ、軽戦士メリーという脳筋パーティであった。ヒガントーナは壁盾(タワーシールド)を振り回してタンクとアタッカーを兼ねており、メリーは短剣での奇襲と撹乱をメインとして行っている。

 迷宮12階層、彼女らふたりが相手にしているのは上層で出没するモンスターの中では上位の強さを持つ野猿(シルバーバック)だ。怪力と評される力任せの攻撃を前に、ヒガントーナは地面と体とで固定した壁盾を押し出して正面から受け止める。

 強化された耐久と《堅牢》に《不動》という守りに特化した発展アビリティが、そもそものスペック差を覆して強烈な一撃に耐える。

 

「【私、メリーさん。今あなたの後ろにいるの】」

 

 瞬間、メリーが魔法を使ってシルバーバックの背後を取る。完全な死角からの奇襲はスキル効果の貫通属性と発展アビリティ《奇襲》が乗って、シルバーバックのうなじを深々と抉る。

 意識外からのダメージに力が緩んだシルバーバックを、今度はヒガントーナがシールドバッシュで吹き飛ばす。当然進行方向にいたメリーが巻き込まれる形になるが、小柄な彼女はシルバーバックを足場にしてその場を難なく離脱した。

 一方吹き飛んだシルバーバックは迷宮の壁に激突。その衝撃で抉れていた首が落ち、その場に斃れ伏した。

 

「これの魔石は順番的にはヒーちゃんの取り分なのです?」

 

「そうだな、ありがたくいただこう」

 

『お姉様、近くに他の冒険者はいないよ。早く食べちゃって』

 

  メリーがシルバーバックの死体にナイフを刺し込み手際よく魔石を取り出すと、ヒガントーナをも超える巨体は瞬く間に灰と化して消えた。残されたのは、こぶし大よりやや大きな魔石だけだ。

 ヒガントーナはその魔石をメリーから受け取ると、コッペリアから念話越しに指示を受けて魔石を口に運ぶ。

 

 そう、このパーティー、実を言えば、本拠地にいるコッペリアが斥候役として偵察や索敵、マッピングを担当している。コッペリアの虫は距離の制限がない。そのため、本拠地から迷宮内にまで偵察網を伸ばすことができる。

 人間と見ればどれだけ弱者であっても我先にと襲い始めるモンスターであっても、ハエにまでわざわざ攻撃することはない。それによって、ハエが活動可能な環境であれば、斥候活動が可能だった。

 さらに言えば、彼女の偵察網は既にオラリオの要所要所へと入り込んでいた。流石にオラリオ全域となると『蟲籠人間(ネスト・ビスクドール)』で発現する発展アビリティ群をもってしても処理能力が足りないためにそれはまだ彼女のランクアップ待ちだが、いずれは本拠地にいながらオラリオ中の事象を把握する超広域情報網と化すだろう。

 彼女たちは容姿もそうだが、特に迷宮に潜るようになって判明した『疑似生命』の仕様に、「負傷しても血が流れない」「ポーションや(恐らく)治癒魔法が効かず、石膏や粘土、あるいは修復魔法で回復する」という目立つ特徴があり、おいそれと戦闘を見せるわけにはいかないため、戦闘に意識を割かれない索敵は非常に重要なのだ。

 

「ところで奥様は?」

 

『奥で小竜(インファント・ドラゴン)相手にタイマンしてるよ。取り巻きがうざったそうだから間引いてあげて』

 

「あの人もたいがい無茶苦茶だな」

 

「発展アビリティ的には指揮官タイプなのですのに……」

 

 ヒガントーナとメリーが駆けつけると、そこではガラテアがオークを踏み台にして跳ねながら、インファント・ドラゴンを相手に矛を振るっていた。

 召喚魔法《アイボリー・チゼル》によって召喚されるのは(のみ)を大きくしたような形の矛であった。ガラテアはこれを時に払い、時に突き、あるいは天井に突き刺して非生物特効を発動させることでインファント・ドラゴンや取り巻きの頭上から岩石を落とすなどして、戦いを有利に進めていた。

 そこにふたりが参戦すると、ヒガントーナはシールドバッシュによって取り巻きの小柄なインプをまとめて押し潰し、メリーは愚鈍なオークの首を貫通属性が付加されたナイフで飛ばしていき、少しずつ戦況はガラテアたちに傾いていく。

 やがて間もなくインファント・ドラゴンは首を斬り落とされ、ガラテアたちの勝利が決定したのだった。

 

『あ、お姉様たち、見つけたよ〜、今回の獲物!』

 

 一段落したところでコッペリアの念話が響く。そう、今回の迷宮入りにはひとつ明確な目標があった。それは『異端児(ゼノス)()()()()とあるモンスターの捕獲。

 上層から深層まで様々な種類が存在し、特に青色のそれは、味はともかく遭難時の貴重な水分として現地調達される。

 

「でも、なんでウーズなんて必要なのです?」

 

 そう、ウーズである。魔石の周りに粘性の高い水分で構成された体を持つ、わかりやすく言えばスライムだ。モンスターが死んだ際の魔石の粉を取り込み自己強化するが強化種にはならず、代わりに分裂して増えるという生態を持つ。

 無事、ウーズを3体ほど捕獲し、共食いしないように革袋に詰めてからバックパックへ入れて地上に密輸したチームガラテアは、そのまま本拠地へと帰還する。彼女たちを出迎えたのは、餌を待つ犬のように待っていたワシリーサと、女ドワーフのような姿をした新人と思われるリビングドールだった。

 

「あぁ皆さん、紹介します。うちの工作者(クラフトマン)として着任しました、ピノッキオさんです」

 

「おう、ピノッキオだ。職人と言えば職人だが、アタシは細かい細工を組み上げたり組み立てたりするのが得意だから、武具やら薬品やらは専門外だと思ってくれ」

 

「基本的にはワタシから必要なもののアイデアを伝え、それを形にしていただくのが彼女の役目になります! 今回、ウーズの捕獲に間に合って良かったですよ〜」

 

 そう言ってウーズを受け取ったワシリーサはピノッキオと、護衛としてヒガントーナを伴って作業場へ向かう。ピュグマリオンが人形を作る工房ではなく、調合などに向いた調合台だ。

 近場に置かれていたガラスの箱に、うごうごと動いているウーズを1体ずつ入れていき、そのうちひとつを台の上に置いた。

 

「これはウーズの特徴なんですが、乾燥させて殺すことで、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……何故そんなことを知ってる?」

 

「《天啓》にて!」

 

 ワシリーサのスキル《発明人形(ライフ・ゲーム)》によって発現した発展アビリティ、《天啓》。効果は『有用な知識を得る』こと。

 ただし一日に一度しか発動せず、ある程度現状の悩みや展望に沿うものではあるがどのような知識を得られるかはランダムという制約がある。

 ワシリーサはこれで、『ウーズのドロップアイテム』と『その使い道』という2種類2回分の知識が偶然噛み合ったために、こうして活用するに至った。

 

「ちなみにそれは?」

 

「魔石製品の温風乾燥機(ドライヤー)です。発案はワタシで製作はピノッキオさん。商会の商品として売り出し予定ですよ〜」

 

 ピノッキオは鼻の下を擦る。体格はドワーフだが顔立ちはエルフに近いという、ピュグマリオンが『アンバランスさの生む美しさ』をテーマに作り上げられた形がそこにあった。

 閑話休題、乾いたウーズは水分を失ったはずなのに、魔石を中心にブニブニとした厚さ1Cほどのシートになる。

 

「これは熱を加えるとこうやって柔らかくなりますが、常温まで冷やすと硬度を増します」

 

 ワシリーサはウーズシートを薄く伸ばして切り取り、コップ状に成形する。しばらく冷まされたウーズシートは薄くて軽い透明なコップになった。

 

「ガラスみたいだが……割れないのか?」

 

「見ての通りです!」

 

 ワシリーサが強く押すとコップはペコリと凹み、手を放すとポコっと少し痕がつきながらも元の形に戻る。

 ここまでで理解できた方も多いだろう。この物質の特性はプラスチック、特にポリエステル系に非常に近い。

 

「はじめは売り出す調味料の容器として、安くて大量生産できる容れ物が欲しくて《天啓》を使ったんですよ。これなら材料費は魔石、しかも割れてしまったクズ魔石を粉にして利用できますから。でも、この材質の特性を考えればむしろ、医療系ファミリアへ売り込むのもありですねぇ……」

 

 ポーションの容器と言えば、現在はガラス瓶が九割。残り一割が焼き物の容器という割合になっている。

 しかし問題はいくつもある。まず値段。ガラス瓶はひとつひとつ手作りな上に材料であるケイ砂も安くはない。そのため瓶を回収している医療系ファミリアも多いのだが、ポーションの空ビンなど持っていられないとその場に捨ててしまう冒険者は多い。捨てられた瓶はダンジョンが吸収するので汚染問題になっていないのは不幸中の幸いか。

 もうひとつが割れやすいことだ。ポーションは冒険者の生命線だ。それなのに、衝撃で瓶が割れてしまい、いざという時に使えないことも少なくない。

 その点、安価で割れにくいこの瓶は、ポーションの瓶としてかなり適しているのだ。

 

「とりあえず、最終的に作るべきものは、この素材を瓶の形に成形する道具です。できることなら魔石製品にして、一度に多数を流れ作業で成形できるようなものにしてほしいですね」

 

「なるほど……それがアタシの仕事ってわけだ」

 

「細部を詰めていきましょう! あ、ヒガントーナさんもありがとうございました! 奥様たちにも助かりましたとお伝えください!」

 

 それだけ伝えると、もはやヒガントーナなど眼中にないと言った様子で、ふたりの間で話し合いが始まる。

 オラリオへ訪れる最初の嵐が近づいていた。

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