血の涙もない戦い方に海賊達の心は折れそうになっていた。軍事同盟が海賊を目の敵にしている噂話は聞いていたが、ここまでやるかという次元を超えている。同じ人間だとは思っていないような残虐性。ここまで人間とは非道になれるのかというレベルでの攻め方をしていた。
海賊達とは反面。軍事同盟の者達は、心が晴れ晴れしていた。それはこの大空の青のように澄み切っている。思わず踊りだしたくなるほど、気分爽快。
三日目の朝を迎え、一部海賊達が本気で仲間の生首を携えて海に逃げてくる事件が20件ほどあった。そんな連中は、魚人の兵士たちが20km以上離れた軍艦まで安全に連れてきていた。
ソラが連れてこられた海賊を見て、大人の対応をする。
「また、溺死しています。これは困りました。安全に海中を20km程潜水してきただけなのに。ですが、約束を違える事は私の信条に反します。溺死していても海軍に引き渡し、インペルダウン送りにします。立場ある大人が、宣言した事を守らずしてどうします。海賊達も約束通り首を持ってきたのですから、それ相応の対応は当然です」
「流石、ビビ。私や兄様では、ここまで思いつきませんでした。素晴らしいわ。結果的に何一つ嘘を言わずに、海賊達の戦力を減らすなんて、完璧な王女ね。性癖以外は・・・」
命のやり取りで子孫を残そうと本能が動くのは、なにも海賊だけではなかった。ビビ王女も例にもれず、いつもの事をやっていた。四皇との戦いの最中に隠れてヤるのは王女の専売特許となっている。
戦いの最中、ソラを連れて突然いなくなる事が多く。全員が察しており、誰も何も知らないと取り繕う優しさがそこにはあった。
「私のコンディションがこのオペレーション・アマテラスの命運を左右するんです。少し位ハメを外してもいいじゃないですか。それに、誘ってくるソラが悪いんですからね」
「やめろください、ビビ。時と場所を弁えないと、頭天竜人と言われますよ。それより、海賊の心をへし折る次の一手を打ちます。艦砲射撃のインターバルを短くします。”黒ひげ”の能力限界も近い事はわかっていますから、ここらへんで絶望を与えましょう」
軍事同盟の手元には、1つ3億ベリーもする爆弾をこの日の為、20個ほど持参してきた。その爆弾のセッティングがようやく終わったところだ。ばれない様に海流に乗せて流れ着く自然な形を装っており、誰もあんな小さな島に10発もの爆弾があるとは思っていない。
海賊島の直径は5kmも無いため、規模だけでいえば10回は島を滅ぼせる程の爆弾がある事になる。それを同時に起爆する事で島など原形も残らなくなる。
「ソラ、後で話がありますからね。私が頭天竜人じゃないって分からせますから。・・・で、いくら何でも海賊島ハチノス相手にあの爆弾を10個も同時起爆したら原形も残らないじゃないですか。それより、もうちょっと苦しめましょう。私にいい考えがあるわ」
ビビの良い考えに、軍事同盟のトップ陣営は不安に思った。
これがアラバスタの帝王学を学んだビビ王女が考えた「ちょっと苦しめる」方法だと言うのかと。同じアラバスタ人であるペルは、必死で首を横に振って一緒にしないでくれと訴えていた。
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ビビの考えは、こうだ。"黒ひげ"や船長達にも生き残るチャンスを見せる事でより状況を混沌とさせる。
海賊島ハチノスに再度、軍事同盟から通達がなされる。
『黒ひげ海賊団の偉い人よりクレームがあり、軍事同盟はそれを真摯に受け止めました。その為、四皇”黒ひげ”については、配下の船長全員の首を献上する事で天竜人の名の元に一年間の奉仕活動をする事で手打ちにします。船長各位については、四皇”黒ひげ”の首を献上する事で天竜人の名の元に一年間の奉仕活動をする事で手打ちにします。頑張ってください。制限時間は、明日の夜明けまでです』
軍事同盟側としては、どちらに転んでも正直何も問題はない。その奉仕活動とは、ベガパンクによるサイボーグ手術を受ける事だ。ロボトミー手術を行う事で海賊を更生させられるかの社会的実験だ。
”麦わらの一味”みたいな信頼関係で成り立っている海賊以外には、非常にエグイ作戦だ。今まではモブ海賊だけが助かる道があったが、船長クラスや四皇にも生き残る道が出来てしまう。
「ビビ。後で、コブラ国王と一緒に道徳の講義を受けましょうね。流石に、子供達の教育を任せるのが心配になってきました。コブラ国王とも真剣に話し合いたいです」
「万が一の場合は、子供達を連れて、兄様と一緒に聖地マリージョアに引き籠りますよ」
会議に参加していた元・CP9達もアラバスタの教育って怖いなと内心思っていた。将来、アラバスタに住む事になる彼等だが、今から少し不安が募る。
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海賊島ハチノスを支える黒ひげ海賊団の船長達。彼等が疑心暗鬼になれば、崩壊は近い。
艦砲射撃は徐々に激しくなり、”黒ひげ”の能力酷使は止まらない。それどころか、体力も気力の限界で迎撃が出来なかった砲弾が出始めた。だが、それが限界ゆえの迎撃失敗なのか意図的な物なのかは本人にしかわからない。
一発の砲弾が偶然船長の近くに着弾する事もある。そして、ドクQが砲弾のうち漏らしによって、重傷を負ってしまう。
他にもクザンの氷をほぼ攻略したビビの殺人カビ”グリーン・ディ”も汚染域を拡大させる。覇気で防げる者達はまだ救いがあるが、長時間防げる事が出来る人物は少ない。これにより、モブ海賊達は選択を迫られる。
殺人カビ”グリーン・ディ”に汚染される前に生首を集めて海に飛び込むべきか。それとも、船長クラスと協力して四皇”黒ひげ”の首を上げるべきか。
「クザンさん、早くカビを止めてくれ!! もう、アンタしかいないんだ・・・俺たちみんな死んじまう」
「いや、無理だよこれ。成長速度が馬鹿にならん。本格的に進退を考えなきゃいけないね~。ティーチも俺も能力の使い過ぎで限界近い。古き良き戦い方は、時代遅れってか。ビビ王女達。アンタら、海賊なら今頃海賊王になっていたかもな。やり方えげつねーもん」
クザンの素直な賞賛だ。
嫌な予感がしたクザンが周りを見渡してみると、ヴァン・オーガー、ラフィットが揃っていた。”黒ひげ”の首をとってもインペルダウン送り。インペルダウンの実情を知るクザンにとっては、寿命が少し伸びる程度の意味しかない。
ラフィットは、”黒ひげ”信者だ。ラフィットは軍事同盟からの通達を聞き、いち早く仲間を連れてクザンの監視に来た。
「裏切るつもりは、なさそうですね。安心しましたよ。貴方に敵に回られるのが一番厄介でしたから。このままではジリ貧。何か打開策を考える必要があります」
「でも、どうするんだ。俺の能力でも次の島までは渡れねーぞ」
早ければ、明日の朝。遅くても数日以内に海賊島ハチノスでの生存者は0になる。その予想図は船長クラス以上なら誰でも予想できた。
船長達が頭を悩ましていると一人のモブ海賊が彼等の元にやってきた。
「よかった!! 皆様が一緒にいらっしゃって・・・ティーチ提督が皆様をお呼びしています。なんでも、この状況を打開する方法が見つかったとか」
「「「あっ」」」
この時、クザン、ヴァン・オーガー、ラフィットの三名は何が起こるか察した。そして、念のため、クザンが確認をする。
「そういえば、ドクQの奴はどうなった?確か、砲弾受けて重症だって話だったよな?」
「ドクQさんなら、ティーチ提督自らお見舞いに行っておりました。うち漏らした結果、このような事態になって、すまなかったと言いたいとかで」
その話を聞いて無言で見つめあう三人の船長達。判断が早い海賊は生き残れる。その典型が”黒ひげ”だ。
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ゴミはゴミ同士殺しあえ。平然と一般人が暮らす世界に現れるな、と言う事を思っているソラ達にとって、この状況は最高に素晴らしい物だった。その状況をリアルタイムで観戦するため、ソラ達はゲストで呼んでいる海軍大将緑牛と海軍中将ガープも船に招待していた。
今、ハチノス上空ではペルが映像電伝虫をもって撮影している。
緑牛は、軍事同盟の徹底した海賊を滅ぼすスタイルが大好きだった。話が分かるソラとホタルにも非常に好意的だ。野に蔓延る海賊達を殺すなら名前を好きに使ってもよいという程だ。
「全く、軍事同盟のやり方はすげーな。海軍も見習うべきだな。で、俺もそろそろ上陸して海賊どもを皆殺しにしたいんだが、出番はいつなんだ? せっかくここまで来ておいて出番なしとか勘弁してくれよ~。ソラ、ホタル」
「緑牛さんの能力は、今の海賊島ハチノスにとって便利に使われる可能性があります。お仕事もちゃんと用意しますので安心してください。弱り切った海賊を一方的に虐殺するのはお好きでしょう?私は好きですよ」
バシバシとソラの背中をたたく緑牛。
こういう上司が欲しかったんだと言わんばかりの態度だ。元・CP9達もその気持ちがよく分かった。くだらない命令はしないし、ある程度の自由行動もさせてくれるし、責任も取ってくれるし、給料と休暇も配慮してくれるし・・・全ての天竜人がこうなら、もっと楽なのにと思うほどだ。
その時、海賊島ハチノスを監視しているイーロンから連絡が入る。
『こちら、イーロン。聞こえているな? どうやら、早速殺し合いが勃発したぞ。”黒ひげ”と船長達の生存競争だ・・・わしらはどうする?どちらかに加勢に向かうか?』
『こちらは、ソラ。思ったよりつまらない展開になりましたね。では、例の爆弾を一斉起爆しますので、兵士の皆さんは5分で離れてください。今から爆発確認後、全力の艦砲射撃を行います。海域封鎖は継続ですから、逃げ出すものが居れば頼みましたよ』
ソラは、電伝虫を切った。
「最後は誰が生き残っているでしょうかね。ガープ中将・・・無断で飛び出ないでくださいね。弟子のクザンさんなら
「まるで、儂が命令無視の独断行動するみたいじゃないか。・・・クザンは、儂が殴って連れ帰る。生きていたら海軍預かりじゃ、いいな!?」
ソラは「勿論です」と答える。そして海賊島ハチノスで総額30億ベリー相当になる花火を一斉に起爆させた。島を囲むように設置された戦術核にも相当する兵器・・・これが新時代の海賊狩りの戦い方だ。
爆発と同時に始まる艦砲射撃。黒ひげ海賊団が生きていようと死んでいようと関係ない。徹底して磨り潰す。万が一、"黒ひげ"が船長達を全員殺したとしても、朝日が昇る頃には満身創痍で、いつ死んでもおかしくない状態だろう。その逆もしかり。どちらに転んでも軍事同盟にとっては変わらない。