鬼ヶ島内部で生きている海賊達が減少していく。数刻前までは、何処を見ても百獣海賊団の者達がウロウロしており、右を見ても海賊、左を見ても海賊だった状況から変わりつつあった。
火祭りに連れてこられた芸者達も軍事同盟の者達に避難誘導され、ブルーノのドアを経由して地上に退避していった。それと同時に負傷した軍事同盟の者達の交代も行われて、惜しみなく兵力が投入され続ける。
地上にある軍事同盟司令部では、壁に貼り付けられた海賊達の手配書に×印がつけられている。ワノ国にいると思われる海賊達だ。
「参謀殿、ソラ様よりNTRの悪魔ニコ・ロビンを排除したとの報告!! そして・・・えっ!?」
「素晴らしい戦果だ。これで残るターゲットも半数以下だ。で、どうした?」
言葉に詰まる通信兵。だが、聞き間違いを疑ったが、彼は自分の聞いた事を信じて報告を続ける。
「五老星全員が鬼ヶ島に現れたとの事。現在、ソラ様達が彼等と行動を共にしており、サイボーグ・フランキー、大看板”火災のキング”を処分に向かうとの事。最後は、鬼ヶ島上部に出て”カイドウ”並びに海賊団の船長達と一線交えるとの事です」
「・・・ど、どうやってここまで? あの方たちは、聖地マリージョアから動かないのではないのか? だが、ソラ様から特別な指示がない限り、我々は当初の計画を実行し続ける。念のため、他の方たちにもその旨は連絡しておけ」
鬼ヶ島で何が起こっているか地上からはわからない。だが、それでも任務に忠実に当たる事が軍人だ。
◆◇◆◇
鬼ヶ島内部を狛犬に乗って逃げ続けるナミとお玉。
だが、この二人は一体何から逃げているのだろうか。当初、二人を追っていた海賊達は道中で軍事同盟の者達に殺されている。下手に動いて逃げるより隠れてやり過ごす方が得策ではないかと思ってしまう。
「もう、しつこいわね。何なのよ、あいつ等。私らなんかに構ってないで、百獣海賊団の方を狙いなさいよ」
ナミ達を発見した軍事同盟の軍人は、付かず離れずの距離で付けていた。そして位置情報を常に連携して、特記戦力の到着を待つ。見た目はどうあれ、数億ベリーの賞金首だ。手柄を焦って取り逃がすより、仲間の到着を待つべきだった。
軍事同盟からは逃げられない。
お得意の色仕掛けで切り抜ける事も不可能。海賊絶対殺すマンの集まりであり、女海賊を抱くくらいなら高い金を払ってお店で女を抱く方がよいという立派な軍人だ。その方が楽しい時間が過ごせるし、相手が気分を盛り上げてくれるし、何より病気の心配がない。
ウソップを葬った後、カクが猛ダッシュでナミ達に追い付いてきていた。狛犬に乗り移ったカクを見てナミの顔が青くなる。
「なんで、アンタがいるのよ!?」
「何でと言われても、海賊に攫われてた少女を助けに来ただけだ。この意味、分かるな? ウソップとやらは、最後に男を見せた。奴の思いを無駄にするな。なぜ、そんな目でワシを見る?」
ナミにとっては、理不尽だろう。
ワノ国で困っていた侍や町の人の為に、一肌脱いだ。だが、後から来た軍事同盟達が色々とかき回している。しかも、ルフィやゾロ、サンジと言った”麦わらの一味”の強い者が居ない隙を狙っての卑劣な行動。
「私達が何をしたっていうのよ!! それに、仲間は無事なのよね?」
「海賊を根絶やしにする為、動いている我々だぞ。ワシがこの場に居る時点でウソップとやらが無事だったら、ワシは何をしていたんだってなるだろう。しっかり、殺してきた。むしろ、ワシの方が聞きたい。なんで、無事だと思った?」
嘗てナミ達はソラ達と取引をしており、海賊達を生きたまま産地直送していた。そして生きたまま引き渡し、その場で殺す様子までしっかりと見ている。未だに自分たちだけは特別扱いしてくれるという考えは、どういう理屈なのだろうか。
もちろん、ソラ達にとって有益だったら話は別だろう。だが、既に関係性は破綻している。それが答えだ。ナミの立場は、過去にソラ達に売り渡した海賊と同じ状況。因果応報だ。
「それは、なんだかんだで私達が今まで無事だったし。それに、軍事同盟は私達の事を見逃してくれてたこともあったわ。だから、今回もって思ったのよ」
「そんなところだろうな。だが、もう終わりじゃ。眠っているとはいえ子供の前だ・・・せめて、その部屋の中で終わらせてやる」
カクは近場の部屋を指さした。
年貢の納め時。海賊が大嫌いだったナミ。だが、結局流れで海賊になっていた。どうしてこうなったんだろうか。ルフィ達との旅は楽しかったな~と思い出に浸る。
「最後にお願いがあるんだけど、私が死んだら船にあるミカンの木を一緒に植えてくれない?」
「無理じゃぞ。既にお前さんたちが乗船してきた船は、海の藻屑にしておいた。誰一人逃がさず、ここで殺すからな。帰りの船は不要だろう。最後に興味本位で聞くんじゃが・・・ココヤシ村の一件があったのに、どうしてお主は海賊をやっとる?アーロンを解き放った元凶であるジンベエまで加入させて、理解できん」
当初のナミが持っていた憎しみレベルならば、ソラ達の手を取っても不思議ではないとカクは思っていた。それなのに、海賊と仲良く航海している。当時は、軍事同盟のような海賊絶対殺す組織がなかった事もあるが、その前身であるソラ達がすぐそばに居た。
恨みの総量から考えれば、ソラ達の手を取ることだって彼女には出来たはずだ。優れた航海士の腕前と海賊への憎しみ。ソラが実に好みそうなタイプだ。
「さぁ、何でだろうね。ルフィ達が真っ先に助けてくれた。助けてくれたのが海賊だったから。海賊なんて世界一大嫌いだったのに、なんでだろうね。私もわからないわよ」
「そうか、境遇がソラ達と似ていると思ってな。ココヤシ村でソラ達に付いて行っていれば、お前さんはこちら側に居たかもな。まぁ、それも過去の話だ・・・」
ナミが子供の前で死ぬ事を避ける。万が一目が覚めてトラウマになっても困るので、大人としての配慮だ。そして、部屋のふすまに片手をかけた瞬間・・・カクが動いた。
「”嵐脚白雷”」
部屋の中に入ってから一か八かの賭けをするつもりだったナミに対して、カクは片手を使えないタイミングで先手を打った。跳ね飛ばした首が地面に転がり、胴体部分はそのまま別室に倒れこんだ。
カクは電伝虫を手に取り、ターゲットの抹殺報告と要救助者の発見報告を入れる。そして、火をつける。遺体確認を困難にする為と仲間の生存をいつまでも”麦わらの一味”に信じさせるための作戦だ。
嘗て、CP9時代にあれほど苦労して誰も倒せなかった”麦わらの一味”をこうも簡単に追い詰められるとは、何が違うのかと考えたが答えは出なかった。
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仲間との連絡が次々と途絶え、状況把握が出来ていない”麦わらの一味”。サンジは、”火災のキング”との戦いで重傷を負ったロロノア・ゾロを担ぎ上げて鬼ヶ島内部を走っていた。早く、チョッパーに治療を任せて、ナミやロビンを救いに行きたいと考えている。
彼女たちもそうだが、鬼ヶ島に連れてこられている芸者達の安全も守ってあげたいと考えていた。カイドウとの激戦が行われる最中、確実に鬼ヶ島は地上に近づいてきている。いつ落下するかもわからない。
鍛えた者なら何とか耐えるだろうが、一般人がこの落下に巻き込まれたらペシャンコだ。
「おぅおぅ、ありゃ軍事同盟の連中か。しっかり、芸者達を避難させてるな。侍たちの治療もやっているのか、だったらこいつを預けて俺はナミさんたちの所にいけるな。お~い、そこの軍人。悪いが、こいつの治療も頼むわ」
この時、軍事同盟の現場の者達は考えた。
股間に手を当てて、苦しそうな顔。更には、下半身の大事なところから真っ赤な血が流れている”黒足のサンジ”なら勝てるんじゃないかと言う錯覚。ロロノア・ゾロに至っては、全身包帯でぐるぐる巻きにされて、文字通り身動き取れない状態だ。
だが、いかなる状況であっても億超えの大海賊だ。負傷した状態でも強者であることは間違いない。ならば、取る道は決まっている。快く、ロロノア・ゾロを引き取って治療せず放置。そして、サンジの監視に一人を付け、司令部に連絡して仲間を待つだけだ。
傷ついた海賊を軍事同盟に預けるサンジ・・・いくら仲が悪いとは言え、鬼の所業である。
狙撃手、医師、考古学者、航海士、操舵手・・・船大工とコックと剣士と侍と船長とまだ多いな。