一分一秒を争う時間との闘い。覚醒した能力者でも、物理的な距離や時間を超える事は・・・出来る能力者もいるが、一般的な能力者にはできない。一般的な能力者に分類されるソラとホタルは、本気で走る。六式の月歩と足に覇気を集中し、空中を飛ぶ。
そのおかげで、数時間と経たずに川で待機していたソラの船に到着した。
汗だくになった二人。流石に長時間の覇気の使用は、彼等でも厳しい。息を整えつつ、水分と栄養を補給する。対岸までは、船で移動する為、二人は回復に専念する。お風呂につかり汗を流して着替える事も忘れない。
これが体力を回復する一番の近道だ。
休憩時間にして約1時間。ソラは、休憩時間中にイーロンから朗報を聞く事が出来た。仲間の一人であるワズキャンが単独でアルバーナに向かった。アルバーナといえば、バロックワークスの先兵が潜んでおり、あの手この手で開戦を画策している。尋問を得意とする彼が居れば、怪しい奴から情報を引き出す事はできるだろう。
その時、電電虫がプルルルと呼び出し音が鳴り響く。ワズキャンから現地情報の連絡だ。
『船に着いた頃だと思ったよ。ソラが王女に興味を惹かれるとは、驚いたな。でも、僕はいいと思うよ。一人の仲間として、男として応援するよ。でも、僕の勘だと足りないかな。後、一押しが必要だ』
『そうですか。手荒な事はせず自主的に仲間になってくれるように頑張っているんですが、人心掌握とは難しいです。じゃあ、ワズキャン・・・私は何をすれば良いのですか?』
人生の先輩であるワズキャン。大人である彼も壮絶な人生を歩んでいる。だからこそ、この船にいる。そんな彼のアドバイスは非常に重要だ。
『アルバーナには、国王と王国軍がいる。バロックワークスがこの地を戦場にするならば、必ずオフィサーエージェント達が潜伏しているはずさ。だから、僕はここに来たんだよ。ソラ・・・Mr.2ってさ、便利だと思わないかい?こらこら、暴れるなって手加減間違って殺しちゃうよ』
『た、助けてーーー。あちし、殺されるぅぅ』
電話の先からMr.2の声が聞こえる。Mr.2は、マネマネの実の能力者でどんな相手にも擬態できる。その利便性の高さは、クロコダイルでも称賛する程だ。使い方次第では、国家転覆もできる。実際に、そういう使い道をクロコダイルはしている。
その朗報に、ソラはニヤリと笑みをこぼす。
「兄様。私は、兄様の道を信じております。どうぞ、お好きな道を進んでください」
「そうしよう。ビビ王女からも全てを許されている。やる事は変わらないが、それに至る方法に手を加えよう」
ソラの頭の中では、既にこれからの展望が出来上がっている。事がすべて順調にいけば、ビビ王女が率先して、仲間になる。しかも、彼女の望みをすべて叶えたうえでだ。
『ワズキャン。Mr.2を殺さず、アルバーナとカトレア中間地点まで連れてきてくれ。丁重に頼むよ。彼には大仕事が待っているんだから』
『お安い御用さ』
ソラは、ワズキャンとの通信を切断した。それから直ぐに海軍に連絡をする。相手は、ソラの大事なお客様であるスモーカー大佐が乗っていた船だ。流石に、レインディナーズから戻ってくるのに彼等は、まだかかる。
ソラは、こういう場合に備えて海兵達に酒や食事を提供して顔と恩を売っている。相手も、無理難題でなければ応えてくれるレベルには信頼を得ていた。海軍が拿捕したバロックワークスの船にあった公共の電波をジャックする装置が欲しかった。
◆◇◆◇
全世界に向けて、アルバーナから生放送が発信される。海軍経由の公共の電波だ。生放送されている場所は、アルバーナとカトレアの中間。今、まさに反乱軍がこの場に押しかけようとしていた。
その様子が放送されており、視聴者達はアラバスタ王国で内乱か!? と興味津々に見ていた。実際、この手の番組は人気がある。政府に不満を持った民衆が反旗を翻す。何年かに一度は見る事ができるのがワンピースの世界だった。
だが、本日はいつもと違う。
テレビに映るのは、黒髪のオールバック姿の長身の男。右手には黄金のフック。顔には大きな傷がある。今の時代において、彼を知らない者は少ない。そう言えるほどの知名度を誇る大海賊クロコダイル。
そんなマフィアのボスみたいな男が迫る30万人の反乱軍を前に佇んでいる。葉巻を吸いながら彼は、一言こういった。
『この戦争を 終わらせに来た!!』
惚れ惚れする程にカッコいいセリフ。だが、テレビカメラに映らない場所からソラがプラカードを持って、セリフを指示していた。その傍らには、ホタルが逃げたり、しくじれば殺すと刀を構えている。
このマフィア風の男・・・クロコダイル(笑)をさせられているMr.2だった。彼は、ワズキャンに捕まった事が運のつきだ。クロコダイルに変装してテレビに映るだけの仕事で解放すると言われて嫌々従っている。
『俺は、王女と三つの約束をした。仲間を救う事、国を救う事、故人に会わせる事。それをすべて達成した時、俺の手を取ると誓った。俺なら、ビビ王女を幸せにできる』
ソラからのセリフの指示に思わず力が入ってしまうMr.2。男として、惚れた女のために立ち向かうという雰囲気が出ており、実に臨場感がある。だが、Mr.2はこれが本物のクロコダイルにバレた時に殺される可能性を失念している。
『俺のスナスナの実の能力は、砂を操るだけじゃない。水分も吸収できる。だが、俺は大事なビビ王女の・・・アラバスタの国民の血で大地を汚す気はない。これが、スナスナの実の真骨頂!! 男の"エナジードレイン"だ』
その瞬間、ソラとワズキャンが全力で覇気を使う。そのパワーを使い砂漠の砂を空高く巻き上げた。テレビ中継を一時的に切断し、ソラとホタルが威力控えめ広く浅く長持ちするようにビームを放った。
「”チ〇チ〇ビーーーム!!”」
「”ムラムラビーーーム!!”」
30万の軍勢にソラとホタルのビームが直撃する。その瞬間から、息子が操作不能レベルになり思考力はどんどん低下する。今まで一緒の窯で飯を食べていた仲間がハンコックレベルの美人に見えてしまう。しまいには、そんな美人が襲い掛かってくる。男としてこれ以上に最高の事はない・・・現実を知らなければ。
地獄の窯が開いた。
砂埃が落ち着き、遮断されていた全世界放送が開始される。そこに映るは、クロコダイル(笑)が起こした放送事故だ。人の尊厳を崩壊させてしまう。食事中に見せられたら賠償問題だ。
『俺こそ、アラバスタの白き平和の象徴クロコダイル。ビビ王女との約束だ、死人は最小限にしてやる』
世界政府により通信が切断された。
・・・
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当然、その様子は、アルバーナで反乱軍を待ち受ける王国軍も視聴していた。英雄クロコダイルが、ビビ王女の為、単独で反乱軍を止めたと。勿論、止め方には色々と問題がある。
だが、事実上、最小の被害だ。これ以上の成果を求めるのは酷だというもの。
王国軍は、それでもクロコダイルを称える。反乱軍とは言え、アラバスタの国民への被害を最小限に抑え、ビビ王女に敬意を払っている。全世界に向けて愛の告白みたいな事まですれば、ビビ王女とクロコダイルの結婚は国民達が支持し始める。
クロコダイルという武力と人徳があれば、王家も安泰。見た目はマフィアだが、良き男だと言う誤解が広まる。周辺の海域から海賊がいなくなり、王家と英雄が婚姻する事で未来も安泰。物語ような出来事だ。
ビビ王女は、この放送を後から見た時、『王の資質』の一端を見せる。全世界に放送されてしまった事で、彼女に残された道は一つしかない事を知った怒りで。
アラバスタに残れば、国民の総意でクロコダイルと結婚する事になる。クロコダイルが死なない限り、国民達は彼の恩赦を望みそれに応えざるを得ない。そして、クロコダイルとの新婚生活が待っている。
そうなると国を出るしかない。ほとぼりが落ち着くまで・・・だが、どうやって国を出るかだ。
候補はルフィ達か、ソラ達になる。
海賊についていくか、商人という名の海賊狩りについていくか。王女の立場を持つ彼女は、国、国民、家族のため、選べる道は決まっている。