21:伝説の始まり
『海賊狩りの王女』が率いる商船。アラバスタ王女のネフェルタリ・ビビ王女が船長を務め、アラバスタ王家のご用達という看板が掲げられている。アラバスタ王家の支援を受けた
スポンサー様の宣伝も忘れない。王家の印籠があれば、どこの港であっても受け入れてくれる。それに、身元保証としても抜群の効果。なにより、今まで名もなき商船として、ほそぼそと海賊狩りをしていたが、ここで大きな看板を掲げる事になる。
商船の船員達がビビを受け入れるだけでなく、船長に就任する事に誰も反論しない。それどころか、大人が来たと安堵するほどだ。この商船には、常識を持つ大人が少ない為、ビビは重宝される。
「おかしいでしょ!? なんで、新米船員の私がいきなり船長なんですか。ソラさんが船長だったんでしょ」
「えぇ、昨日までは。ですが、ビビを迎え入れたので貴方が船長です。考えてみてください。この船は、巷で何て言われていると思いますか?貴方が船長でなければ、既に世界は許しません」
ブチ
ビビの額に血管が浮かび上がる。黒く染まる手でソラの首をつかみ締め上げていた。メキメキと音を立てており、ソラも鉄塊と覇気を併用して首を強化しなければへし折られそうなパワーだった。
「あの新聞。私が読んでいないとでも思ったのですか?何度記事を読み返しても、仲間でなければ知りえない情報がありました。それに、なぜソラが私の幼馴染の名前まで知っているのですか?」
「良い感じに覇気の使い方を覚えてきましたね。やはり、貴方の才能は本物だ。私は、新聞記者に知っている事実を伝えただけですよ。民衆は、真実を知る権利があります。コーザさんの名前を知っている理由は・・・内緒です。私をボコボコにできるようになったら色々と教えてあげます」
その顔をボコボコにして、知っていることを全部吐かせてやるつもりのビビ。船長就任初日で実に頼りがいのある大人の姿を見せてしまう。
「大人をあまり舐めるんじゃないわよーー!!」
「子供を舐めると、大人でも痛い目を見ますよ。ビビ、レッスン1です。自分の限界を知りましょう」
覇気とは無限の力ではない。有限であり、枯渇もする。自分がどの程度覇気を維持できるか、どの程度の出力があるか、どの程度で回復するかを管理する事は戦いにおいて当たり前だ。
バロックワークス時代に鍛えたビビの体術。それに覇気が乗る事で瞬間的な威力は、
「はぁはぁ、なんで当たらないのよ」
「覇気の維持時間は20秒程度ですか、目標は最低30分。次のステップ目指して頑張りましょう。それ以前に貴方には、足りない物がある。貴方にも手に入れてもらいますが・・・殺意が足りない。相手を殺すという確固たる意志がない。海賊相手に慈悲とか笑い話ですよ。攻撃とは、こうやるんです」
ソラの腕が黒色に染まり赤黒い雷が発生する。
おおよそ人間から発生してはならない現象を目にしたビビ。覇気に触れたからわかる。これは、自分の覇気より更に進んだステージだと。その放たれた拳がビビの眼前に迫った。死を連想させる攻撃を前に、今までの人生が走馬灯の様に流れる。
3cmほど手前で拳を止めたソラ。覇気を解いて彼女にデコピンをする。
「いたーーい」
「顔をそらさず、逃げずによく耐えました。上出来ですよ、ビビ。昼間は、私、ホタル、イーロン、ワズキャンと訓練。夜は、覇気や悪魔の実の能力の座学を行います。それと!後悔のないように!最後の海水浴を楽しんでください」
おでこを摩りながらソラの事を睨むビビ。
ここでビビは気が付いた。最後の海水浴?それが何を意味するかを。海賊でもお目にかかる事は少ない海の宝である悪魔の実。食べた者は海に嫌われてしまう。あの魚人ですら、悪魔の実を食べたらカナヅチになる。
「まさか、悪魔の実ですか!? ですが、あれを食べたら泳げなくなってしまうと」
「その通りですね。それを理解したうえでも貴方に必要な力です。我々商船が保有している最高の宝を差し上げます。私は、貴方に全てを懸けられる程に期待と信頼をしているんです。それに、仲間になる前に言ったでしょう。私なら貴方を鍛える最高の環境を提供できると」
「兄様。あの実をビビに上げるのですね。ビビ、ディナーを楽しみにしていてください。悪魔の実は吐くほど不味いですが、吐いても拾い上げて完食させますから」
・・・
・・
・
お待ちかねのディナーが運ばれてきた。ビビの前には、皿に盛られた一つの果物。それだけだ。これが彼女の夕食。毒々しい見た目の果物であり、明らかに毒があると本能で分かる。
「あの~、ソラさん。悪魔の実という貴重な物は、やはり昔からいる古参の方に食べてもらった方がいいのでは?私なんて、就任初日にして船長をなぜかやっている新米ですよ」
「ビビ、食べなさい。兄様が後生大事に抱えていた宝物を食べられるんですからね。本当なら私が食べたいほどですが、能力者は悪魔の実を二個食べる事はできません」
どのような実であっても、売れば一億ベリーはくだらない宝物だ。不思議な事に悪魔の実の能力者より、悪魔の実の方が価値が高い事が多い。能力分の価値を発揮できていない海賊は残念極まりない。
「ホタルさんも能力者だったんですか?ソラさんは、アルバーナで能力の一端を見せつけられましたが・・・お二人ともどんな実を食べたのですか?」
「チ〇チ〇の実です」
「ムラムラの実ですよ」
静まり返る食卓。ビビは、聞き間違いを信じたいと思っていた。世の中、色々な悪魔の実があるのは知っている。バロックワークスにも能力者がいたが、どれも名前が常識の範疇だった。
頭脳明晰なビビは、
「私の能力は、
「私の能力も兄様同様に
聞きたくなかったという顔をするビビ。
そんな兄弟が後生大事に抱えていた悪魔の実・・・エチエチの実とかじゃないだろうかと思ってしまう。そりゃ、彼女はスタイルに自信を持っているが、一国の王女がエチエチの実の能力者とか嫌すぎる。
「ビビ。貴方の覚悟はその程度なのですか?クロコダイルと結婚して、家族計画を立てたいのでしたら構いませんよ。父親と同じ年齢位の男性、しかも犯罪者のワンピースで子供を産む覚悟があるなら。ですが、違いますよね。クロコダイルを殺したい。ひいては、海賊達を狩りつくして平和の海を取り戻すために、この船に乗った。違いますか?」
「大丈夫ですよ、ビビ。この悪魔の実は、私達が食べたような
あの殺したい程に憎いクロコダイルと同種の
「私、食べるわ!! 吐き出しそうなら無理やり押し込んでね、ホタルさん。ところで、これは何の実なの?」
アラバスタの為にできれば、水に関する
「カビカビの実ですよ。兄様に感謝してください。これで貴方は能力だけでいえば、この世界でも上位に食い込めます」
「能力が安定するまでは、海楼石の手錠を付けさせてもらいますね。明日、落ち着いたら外しますので」
海楼石の手錠を付けられて、毒々しい果物を無理やり食わされるビビ。コブラ国王がこの光景をみたら倒れてしまうだろう。吐いても吐瀉物を拾い上げて、ひと欠片も残さず食わされる。
食べ物が不味すぎて吐いたり泣いたりする経験は、後にも先にもこれっきりにしたいと思うビビだった。
◆◇◆◇
この世のものとは思えないほど不味い果物を食わされたビビ。食い切った後に海楼石を付けられた事で精魂尽き果て眠ってしまった。彼女の傍らには、ホタルが寝ずについていた。嘔吐して窒息死しても困るし、吐き出されても困る。
目が覚めたビビ。船の揺れと昨晩食べた悪魔の実の影響で、最悪の目覚めだった。更には、海楼石のおかげで脱力感もすさまじい。動く事すらままならないほどだ。
「うっ、最悪の目覚め。私の部屋か・・・あれから、どうなったんだっけ」
「おはよう、ビビ。水を飲んだら、風に当たりに行きましょう。気分が多少マシになるわよ」
能力者にとって海楼石がどれほどの特攻兵器か身をもって学んだ彼女。海に浸かるという行為がこれと同等になると思うと、海に落ちたらまず死ぬと理解する。
風が当たるテラスの席には、ソラ達が食事をして待っていた。
「気分が悪いと思うが、許してくださいねビビ。
「許しますよ。それで、皆さんが揃ってどうしたんですか?」
ガチャリとビビに嵌めていた海楼石の手錠が外れる。
一番警戒していた瞬間だった。能力が無差別に発動する場合には、ソラ、ホタル、イーロン、ワズキャンの四人が即座に叩き潰して手錠をはめる予定で待機してた。
「・・・能力は、安定していそうですね。いえ、万が一の場合には貴方をボコボコにして再度手錠をかける算段でした。ビビ、私の持てるすべてを使い貴方を最強にしてみせます。そしてサンディ島では知りえなかった、世界の現実を見せましょう」
「覇王色の覇気を持ち、
ビビが想像していたより遥かに高い期待値を掛けられた事に彼女は内心どうしようかなと思っていた。やっぱり、ルフィ達の船に乗れば良かったかもしれないと思う彼女だった。
ソラがカビカビの実の使い方を指導するにあたり参考とするのは、この二つの予定。
・グリーン・ディ:ジョジョの奇妙な冒険 5部のスタンド
・煙:ドロヘドロに出てくるキノコの魔法使い
カビって菌みたいに治癒能力もあるみたいなので、回復としても役に立ちそう。
海賊達も商船として海にでたビビ王女を狙ってきてもいいよね。
海にでたらこっちのものだと。
金も物資も女もいるので全部そろっていると・・・彼らの欲しいものが。