ソラは、実に満足していた。
ビビという看板は、
『海賊狩りの王女』なんて異名もコケ脅しだと思われていた。どうせ誰かが倒した海賊の首だけを譲り受けた、お飾りの称号だと。実際、その通りだったから否定もできない。
新聞社の情報に踊らされた海賊達は、貯めこんでいると思われるクロコダイルの保釈金と商船の全てを奪い取る為、
ソラは仲間と共に襲ってくる海賊達を迎え撃った。時には夜襲で壊滅させ、時にはワンピースを奪い取り首を集めてこさせたり、時にはビビに単独で壊滅に向かわせたりと。容赦なく潰して回った。
しかし、海賊というのは生き汚い連中も多い。人は殺すが、自分は殺さないでくれと懇願する外道が本当に多い。だからこそ、その現実をソラはビビにも見せつける。今、ソラの前で許しを求めているのもその一人だ。
海賊のトップがズタボロにされて生死を彷徨っている仲間と一緒に命乞いをしている。たかが商船。アラバスタ王国軍の精鋭が護衛についていたとしても、海賊達は勝てると思って襲ってきていた。
「命だけは、俺には故郷に家族がいるんだ。子供が居るんだ。頼む」
「懸賞金2,800万ベリー”木枯らしペッパー”率いる海賊団。確か、主な収入源はヒューマンショップへの人売りでしたよね。故郷に家族がいる人が人売りで生計を立てているとはね~」
相手の言う事なんて全く信じていない、ソラ。
海賊も生きる為、目利きが出来るようだ。彼を囲むメンバーのうちで、僅かに同情をしている者の目を見分けた。そう、ビビだった。海賊の言う事を真に受けている訳ではない。だが、僅かにでもその可能性があるのではないかと思っている。
「ビビ。貴方の心境は理解できます。だからこそ、言いますよ。能力を使わずに、海賊達を皆殺しにしろ」
「でも、ソラさん。もしかしたら、本当に家族が・・・」
居たとしても、それがどうしたという。現に彼等は、『海賊狩りの王女』ビビの商船を襲っている。こいつらの目的は、アラバスタ王家の王女をヒューマンショップに売りさばくことだ。王女であり、見た目もよい彼女ならさぞ高い値段が付くだろう。天竜人なら金に糸目を付けない。
「はぁ~、ビビ。ちょっと、付いてきなさい。こいつら海賊が出荷前の人達に何をしていたか教えてあげるから」
「ホタル。ビビから目を離さないように。暴走するなら力づくで止めてください。被害者を巻き込まないように」
海賊団の船を制圧したソラとホタルは、この船の底の方で今も酷い目にあっている女性がいる事を感知していた。海賊団の中には、こういう争いの中で人目が減ったタイミングで商品に手を付けるバカもいる。
ルフィ達との冒険では出会う事がなかったタイプの海賊。だが、実際はその方が珍しい。この手の犯罪に手を染めている海賊の方が大多数だ。そもそも、王女が乗っている船を襲ってくるような連中だ。殺しておいた方が世のため人のためになる。
ホタルに連れられて、ビビは海賊船の奥へ奥へと向かっていた。途中、嗅いだ事がない酷い悪臭。女性の悲鳴。商品にならなかった者は、海賊の慰み者。売れない男の商品はバラバラにされて船内の家畜の餌にされる。無駄飯ぐらいを生かすなら、ヤギや羊の餌にしてやるという奴だ。
それを、女子供の前で実行する事で逃亡などを企てないように心をへし折っている。それがモーガニアと呼ばれる海賊達が行っている事だ。
「さて、ビビが戻ってくる前に少しだけ話をしようか。今月に入ってお前たちの様な海賊は3件目だ。有名税があるにしても、数が多い。どうして、私達を狙った?後、誰からこの場所にいると聞きました?」
「それは・・・」
海賊船の船長は、言葉を濁す。だが、そのような態度を許すほど甘くはない。
「イーロン、ワズキャン。生きている船員の半分を殺せ」
「なんだ、結局殺すのか。儂は、ビビにやらすと思っていたが」
「いいんじゃない。半分は残っているんだから」
生きていれば再起の目はある。だが、死ねば終わりだ。ソラの命令を遂行するイーロンとワズキャンを止められる者はいなかった。海賊達はすり潰されて海の藻屑になる。
・・・
・・
・
海賊船の暗く湿気が多い船底には、生きて囚われていた10名程の女性が居た。年齢は様々だが、10にも満たない女の子から20くらいまでの妙齢の女性たちばかりだ。全員が、ぼろ雑巾の様な服を着せられ痛々しい痣がある。
虫がたかっている腐ったようなパンやハエが浮かんでいる水。
極めつけは、今まさに海賊の一人が女性を使っているのをビビは見せつけられてしまった。女性の方は、死んだような目で全てを受け入れている。目に生気がなく、死んでいるも同然だった。
誰も彼女を救えない。救いは来ない。
今まで綺麗な世界しか知らなかったビビ。ピースメインの海賊ではなく、モーガニアの海賊でも政治犯ではなく愉快犯がどのような連中かをその目で知った。これが、
「お願い、妹を助けて」
片目が潰され、首には絞められた跡が残る女性。その彼女が、妹と指を差したのが、海賊の慰み者にされていた女の子だった。
「ビビ。兄様の言葉をもう一度伝えるわ。海賊達を皆殺しにしなさい」
ホタルとビビに気が付いた海賊が言った。
「ちっ、船長が負けたのか。これで俺達もゲームオーバーか」
邪悪。ここまでの事をしておいて、ゲームオーバーという海賊のおぞましさにビビは、胃の中の物が逆流してきた。同じ人間とは、もはや思えない。
この時、ビビの中で何かが切れた。人間であっても人間じゃない存在がこの世に居る。人知れず、消えてしまっている命が世界には数多くある。それが自然災害なら諦めもつく。だが、人の悪意によって消えてしまう命は、別だ。
ソラ達が平和な海を望む理由がビビにも理解できた。
「お前達なんか、人間じゃないわ。”グリーン・ディ”」
「へぇ、対象を選別できるようになったのね。いい成長よビビ」
カビカビの実の能力者ビビ。彼女は、能力開発においてソラが徹底的に教育した。そして、最初に開発させた能力が”グリーン・ディ”という殺人カビを感染させるものだ。一度、制御に失敗して無人島の半分を殺人カビで埋め尽くした。覇気を持たぬ生命が生きられない環境を作ってしまった程だ。無人島は、増殖したカビにより全ての生命が死に絶え死の島となった。
ビビは、現実を見せられホタルの胸を借りて泣いていた。年下の子供に胸を借りるなど恥も外聞もなく。ただ、この悲惨な現実に彼女は涙した。
◇◆◇◆
助け出された者達は、商船の船員達が治療とケアに務める。何度も同じような事をしており、皆が慣れた手つきで行動していた。ビビは、今回初めての事で、手伝うにしても邪魔になってしまうので見学している。
「ソラさん、今日の海賊にあの女性たちがいる事を事前に知っていましたよね」
「えぇ、これでも覚醒した能力者ですから、チ〇チ〇レーダーで男性の位置は分かります。船底で一人がナニをしていたかも見当はついていました」
ビビが真剣に話しているのに、バカみたいな能力のせいで雰囲気が台無しになる。
「だから、能力を使わずにって言ったんですね。無差別な能力では、彼女達も巻き込んでいました」
「それもあります。ですが、貴方の手で海賊を殺す経験をして欲しかった。人の命を奪う。能力ではなく、その手で。次の海賊では、その手を真っ赤に染める覚悟をしてください。人の命は尊いですが、人でない物の命は安い・・・今日の惨状を見たビビなら理解できたはず」
ソラにとっては、うれしい誤算だった。正直、その手で海賊を殺すと思っていたが、能力が更に進化して無差別の殺人カビの対象選別が可能になるという成果を得た。これは大きい。成長速度がルフィ達に匹敵する。
「覚悟しておきます。それと、今日助けた人達はどうするんですか?アラバスタに掛け合って保護しましょうか?」
「あぁ、ビビは今回のケースは初めてでしたね。海賊達の首を換金して、彼女達の治療費と生活費、あと商船の運用費用になります。彼女たちが第二の人生を歩むのに必要な出費です。志を同じくするなら商船で受け入れて、希望しなければ次の港で降ろしています」
思ったよりガチ目の対応だった事にビビは驚いた。チ〇チ〇ビームとかムラムラビームとか夜な夜な海賊に撃ち込む頭のおかしい双子の活動がここまで真剣な物だったのかと。申し訳ない誤解をしていた彼女は、船長として恥ずかしいと反省した。
その日からビビは訓練にいつも以上に気合を入れて取り組んだ。ルフィ達が空島から帰ってくる頃には、ビビも彼等に負けないくらいに成長を遂げる。
ロングリングロングランドでルフィ達と再会予定。
空島で成長を遂げたルフィ達。
ビビは、ルフィ達の中でもあるからね。そこら辺の配慮は忘れない。
明日から平日なので投稿速度はおそくなります。
執筆したけど、時間がない><