デービーバックファイトの第二試合は、変形バスケットだった。チームメンバーの一人がボール役になる。そのボールを相手のゴールに叩き込むだけの簡単な物だ。だが、当然、フォクシー海賊団は常勝の構えだ。
これだけの為に用意したとも言える屈強な体格を持った人材を用意する。ボール役となったのが魚人族と巨人族とのハーフ。ソラ達も見た事が無い種族だ。ここまでの人材が揃っているフォクシー海賊団は、多種多様な人材と豊富な職業が揃っているという点でいえば、新世界でも然う然ういないレベル。
だが、質が足りていない。それも圧倒的に!!
質でいえば圧倒的にゾロとサンジの二人が上なのに、それでも二人は苦戦を強いられていた。そもそも審判もフォクシー海賊団。武器禁止と言いつつ、棘タックル、殺人スパイクなど持ち出してくる連中だ。これが彼等が言う神聖なデービーバックファイトである。
この注目される一戦の裏では、既にイーロンがフォクシー海賊団の舵を破壊済み。船員の何名かを連れて、金目の物資を運び出している。船を空にするとこうなるのは当然だ。
ソラとホタルは、海賊達の首をビンゴブックと照らし合わせていた。フォクシー海賊団は、他の海賊達から優秀な人材をこのゲームで獲得していった。必ずしもイコールではないが、海賊で優秀な人材は賞金首であることが多い。
ビビの能力では原形をとどめていない事が大半だ。海軍であっても、証拠の首無しには海賊を潰した事を認めない。よって、事前に識別していく。フォクシー海賊団は人員の加入が多すぎて、海軍もその実態を把握しきれていない。
「あれが150万、そっちが80万。やはり、船長以外は微妙な懸賞金だな」
「そうですね、兄様。塵も積もればなんとやらですが・・・こう細かいと、いささか面倒ですね。質より量の海賊は、
ソラは、ビビの方を見た。無理だと首を振られた。対象選別までは出来るが、首だけを残すような器用な事は、殺人カビ”グリーン・ディ”の性質にあっていない。
「仕方ない。僕がちょっと一人、二人捕まえて口を割らせてくるよ。幸い、この騒がしいお祭りだとバレる事はない。で、どれにする?やっぱり、船長の側近で物知りがいいと思うんだけど」
「ポルチェとかいう、女がいいだろう。海賊団にいるような女だ。船員の情報は、彼女が地位を確立する上で必要不可欠のはず。そうだな、賞金首に目印を付ける代わりに
ワズキャンは、任せてよと言って人混みの中を紛れていった。ポルチェは、フォクシー海賊団のアイドル的な存在だ。だから普段から注目されているが、デービーバックファイト開催中は幾らでも狙えるタイミングがある。
デービーバックファイトの第二試合が盛り上がる中、人知れずポルチェは消息を絶つ。トイレや化粧などの時間もあるので、居なくなった事を誰も気に留めない。今頃はワズキャンの手によって、外傷を残さない丁寧な尋問を受けている。狂気を帯びた覇気を目の当たりにして、彼女は知るだろう。海賊達に対する憎悪がどれ程かを。
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20分程でワズキャンが戻ってきた。彼の手には、今しがた剥がしたと思われる女性の指の爪が10個ある。代わりにポルチェは手袋をしており、何やら指先を気にしているようだ。そして、ソラ達を見る。ソラは笑顔で手を振り返した。
これからポルチェは自分が生き残る為、仲間を売らねばならない。彼女は仲間の賞金首に、その手に持った特別なカビ入り香水をかける必要があった。制限時間はデービーバックファイトが終わるまで。任務失敗は死を意味している。
「最初からこうすればよかったな。ホタル、私は約束を守る男なので、彼女の事は・・・あぁ、彼女自身は賞金首じゃないからビビに殺されるか」
「えぇ、そうなるかと」
ソラとホタルのやり取りを遠目で見ているビビ。フォクシー海賊団がどんなに頑張って、ルフィ達に勝利してもソラ達が納得しない限り、未来は変わらない。ルフィ達の今の努力が何の意味もなさない事を彼女はよく理解していた。
第二試合の裏では、人知れず選別が行われている。必死に賞金首達をマーキングするポルチェだが、第二試合終了の笛を聞いた彼女は真っ青な顔だ。時間がなさすぎると。
最後の第三試合、ポルチェはフォクシー船長にコンバットを提案する。出来るだけ長時間いたぶる事を希望し、叶えば船長に抱かれるとまで提案する彼女は生き汚い。
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第二試合に勝利したルフィ達は、相手から奪う仲間を指名する。当然、それで指名されたのはビビだ。ここで万一にも他を指名したら、第三試合のゴングを待たずにソラ達が大暴れする。
「おかえりなさい、ビビ。私達は船長命令に従って、下拵えをして貴方を信じて待っていましたよ」
「ありがとうございます。でも、ポルチェが小声で「許してください。助けてください。何でもします」と命乞いを囁いてきました。本当に、もう少し大人しく待っていられないんですか、ソラ」
ソラ達の努力のおかげで、着々と賞金首がマーキングされている。ビビもその事を理解していた。そもそも今回の一件は彼女の不手際でもあるので、それ以上は言えない。
「まだ誰も海賊を殺していないのですから、大人しい方だったかと思いますよ。さぁ、第三試合を見学しましょうか。第三試合、万が一ルフィが敗北する場合には、実力行使しますからね」
「大丈夫ですよ、ルフィさんはお強いですから」
そして、第三試合が始まる。船長同士の戦いで雌雄を付ける「コンバット」。この殴り合いにおいて、ゴムゴムの実であるルフィは打撃を無効化出来る為、優位に思われた。だが、そんなことはフォクシー船長も分かっている。悪魔の実の使い方に関しては、残念ながらフォクシー船長に軍配が上がる。
ビビは、ルフィを応援しながらもフォクシー船長の能力をよく観察していた。
「ノロノロビームって、ソラさんやホタルさんのビームと似ていますよね」
「さぁ、偶然じゃないですか。
前世の記憶と原作知識という秘密は明かせない為、嘘が嫌いなソラは答えをはぐらかす事にした。実際は、フォクシーの能力を参考にしている。
「ノロノロビームソードって、これもそうですよね。もしかして、ソラさん達はフォクシー海賊団と因縁があったり?昔、彼等にひどい目にあわされて海賊狩りを始めたとか」
「
「ビビ、人の過去を詮索すると嫌われますよ。兄様が話さない限り、私も言いませんから」
ソラの商船にいる連中は、大体傷持ちだ。過去を詮索されていい気分などしない。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
「えぇ、分かっています。ですが、ビビは、もう少しこの戦いを観察した方がいいです。あのフォクシー船長は、ルフィと比較しても全てにおいて格下。ですが、苦戦を強いられています。自分ならどのように戦うかよく考えて観察してください。特に、ノロノロ対策は・・・貴方の安眠に直結しますから」
自分の能力の特性を理解し、場を整えて戦う。今のビビにとって、フォクシー船長の戦い方は参考になっていた。格上を倒すには、どうすればよいか理解している。人間性などは腐っていても能力の使い方だけは評価できる、とビビは思っていた。
そして、当然の結果と言うべくルフィが勝ち抜けた。相手の能力を鏡で反射するという事でのギリギリの勝利だ。ノロノロビームが鏡で反射できる事にビビは驚いてソラとホタルの顔を見る。
ホタルはニヤリと笑顔で答えた。
「希望を持つのは自由ですよ。ぜひ、試してみてください、ビビ。さて、仕事の時間ですよ。選別は終わっていますね」
「ホタル、気が早いですよ。ルフィ達を先に海に送り出してからです。船長の能力を彼等に教えるのはまだ早い」
「はい、兄様」と素直に従うホタルを見たビビは、本当に仲が良い兄妹だと思った。訓練では鬼のように怖いのに、ソラが絡むと尻尾の幻覚が見える程に従順になる。
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ルフィ達から代金を受け取ったソラ。黄金も買い取りしてくれないかと言われたが、鑑定することが難しいのでお断りする。
「じゃあ、俺らは先に行っているぞ~。ビビ、また今度な!!」
「えぇ、ルフィさん。皆さんもお元気で。また直ぐに会えると思いますが、それまでお別れです」
ビビがルフィ達に手を振って別れを告げる。彼等は一足先に進む。『海賊狩りの王女』と”麦わらの一味”が仲良く次の島へ行っては怪しまれる。それに、本職の仕事がこれから始まる。
ルフィ達の船が水平線に隠れる頃、ソラ達も動く。
フォクシー海賊団の皆様は、デービーバックファイトの後片付け中だ。客席まで設置しての大掛かりであり、準備もそうだが片付けも船員全員が協力している。
「フォクシー海賊団の船長。少し話があるのだがいいかな?」
「なんだお前達は、まだいたのか。デービーバックファイトなら受けてやらんぞ。負けが続いているからな。いや、待てよ・・・お前等、商船は宝の山じゃないか。フェッフェッフェッ、俺たちは海賊よ!! もう、麦わらも近くにはいねー。つまり、チャンスってことじゃねーか」
今回の負け分を補填する為、海賊達が目を付けたのが目の前の商船だ。金も積み荷も乗員も全部巻き上げればいいんだと気が付いた。
事のヤバさに気が付いたポルチェが泣きながら、ソラの足にすがってくる。彼女は、ソラの立場を直感で理解した。
「仕事はちゃんとしたわ。だから、殺さないで!!」
「当たり前じゃないか。私は、嘘が嫌いだからね。例え海賊との約束でも守る男だよ」
女の武器を惜しみなく使いソラに縋りつく様子に、ホタルはゴミを見るような目で彼女を見ていた。大業物アマノムラムラ雲の居合切りで彼女を両断する。地面が切断され、ズルリとポルチェの半身が床に大きな血の後を残す。
「兄様に汚い体で触れるな。ビビ、マーカー以外は全員殺しなさい。残りは、首を落とすわ」
「ホタルさんを怒らすから。では、さようなら・・・”腐界降臨”」
これが実現できる事で、ビビはカビ由来の物に融合し、カビの中を移動する事が可能になった。そのうえで殺人カビ”グリーン・ディ”を撒き散らす事で、相手にスリップダメージも与えられる。
ビビが両手を合わせると彼女を中心にカビが周囲を一瞬で汚染していく。そのカビに触れた者達は殺人カビ”グリーン・ディ”に感染する。死体が更に汚染を広げてどんどん拡大する悪魔の領域となる。
地面から栄養を吸い上げ大きく巨大なキノコが無数に現れる。そして、謎の胞子をバラまく。それを吸った生命は、肺を犯され、いずれ死に至る。驚異の生物兵器。
「『海賊狩りの王女』は、
「フォクシー船長は、自分が生かされた認識はありませんでしたか。ビビの能力は強力すぎて、殺しすぎてしまうんです。懸賞金を受け取るには、誰の顔だか判別できないといけませんからね。ほら、そこの大きなキノコの苗床になっているのは、第二試合に出ていたハーフ君ですよ」
これが、海賊狩りを初めて二か月しか経たない王女の実力だ。海賊達が王の存在を正しく認識する日は近い。
この日、ロングリングロングランド周辺を根城にしていた海賊が滅びる。かの地に巨大なキノコの楽園が誕生した。